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雑誌目次

雑誌文献

胃と腸1巻8号

1966年11月発行

雑誌目次

今月の主題 ポリープ〔2〕 綜説

胃ポリープと集団検診について

著者: 草加芳郎 ,   木原彊 ,   荒滝令資 ,   青地一郎 ,   辻宰 ,   谷川高 ,   石原陽一 ,   太田淳久 ,   小川智之 ,   小坂久史

ページ範囲:P.777 - P.782

Ⅰ.はじめに

 胃ポリープの最初の報告はOtto(1824)で,初めてX線で確定診断をしたのはHeinz(1914)であり,また最初に胃鏡で診断した人はSchindler(1922)である.わが国においても明治37年久保1)の報告以来,数多くの報告がみられ,最近,レントゲンおよび内視鏡の診断技術の向上,並びに胃集団検診の普及と共に多くの胃ポリープが発見されるようになってきた.その成因については,Borrmann9)の先天性説,Konjetzny10)らの後天性説があり,また現在もっとも注目され,かつ重要視されている癌性変化の問題についても,Paul1)(1947),Carey12)13)(1950)の反対意見もあったが,久留14)がポリープを前癌状態として重要性を強調して以来,急に注目されるようになってきた.その悪性化については,村上15)その他16)~22)の高率な悪性変化率が発表されている.いずれも今までの発表例の多くは,何らかの愁訴をもって病院を訪れた人を対象にしているわけで,われわれは無自覚な健康一般住民を対象に胃の集団検診を実施しているので,この観点から胃ポリープの発見頻度並びに胃集検で発見されたポリープの悪性変化率について報告したい.

胃ポリープの内視鏡所見と病理

著者: 古沢元之助 ,   肥山孝俊

ページ範囲:P.783 - P.792

Ⅰ.はじめに

 胃ポリープとは胃粘膜の局所的異常増殖により,胃内腔へ突出した周囲胃粘膜から判然と識別し得る腫瘤であって,明らかに癌と区別し得るものをいうといわれ1)2),また,これには上皮性のポリープと,表面を粘膜がおおってはいるが実質は非上皮性のポリープとがあるともいわれており3),その定義をめぐって,種々討議されているが,こういった胃内腔へ突出した病変をすべて胃隆起性病変と呼ぶことをすすめている人もある4).しかし,ここではあくまでも組織学的に腺腫性ポリープと判明したものだけを対象とし,それらの内視鏡所見,癌との鑑別診断,臨床病理についてふれてみよう.以下,単にポリープと記載した場合は腺腫性胃ポリープを指している.

胃ポリープの診断能

著者: 坪井晟 ,   風戸計民 ,   倉俣英夫 ,   幡谷健 ,   宇南山史朗

ページ範囲:P.793 - P.800

Ⅰ.緒言

 第3回日本胃集団検診学会秋季大会および第3回日本内視鏡学会秋季大会の合同シンポジウムで,著者らは「胃ポリープについて,発見頻度と診断」というテーマを与えられ,さて,胃ポリープの定義をいかにしたらよいか,という問題に頭を悩ましたものです.胃ポリープの定義,病理,歴史などについては,村上1),中村2)3),参木4),らの詳細な研究報告がございます.しかし,実際に臨床の外来でポリープあるいはポリープ様隆起を診断,記載,分類する際には何か割り切れないものがありました.X線検査とか,内視鏡検査で発見された胃ポリープあるいはポリープ様隆起をどこまでをいわゆる胃ポリープとして取扱うか,どういうものをいわゆる胃ポリープから除外するかという問題はむずかしいものです.またこれによって,本症の発見頻度,診断能も異ってくるわけです.ところが著者らと丁度同じシンポジウムの席で,山田らの胃隆起性病変という表現の提案に接し5)これが臨床的に大変便利な表現,分類法であるのに感心した次第です.その後本誌の1巻2号で再び同氏らの胃隆起性病変の報告6)を読みさらにこの感を深くしたものです.ここでは山田らの胃隆起性病変に従って「いわゆる胃ポリープ」を拡大解釈して話をすすめてまいります.

展望

消化管の寄生虫性肉芽腫の臨床とその本態について

著者: 吉村裕之

ページ範囲:P.803 - P.811

はじめに

 消化管に限局性の肉芽組織ことに好酸球性肉芽腫または腸蜂窩炎の形であらわれる疾患群の文献的記載は古く,これらのカテゴリーにはいわゆるクローン氏病(Crohn' disease)や終末回腸炎(Ileitis terminalis)の如き非特異性腸炎やアレルギー性腸炎のある種のものもふくまれて議論されている.同時にまたしばしばこの様な病巣部にはある種の寄生虫(殊に蛔虫など線虫類)の組織内迷入が病理組織学的にも証明されたとする報告例は必ずしもすくなくない.然るに近年上述の腸管壁のみならず,胃壁においても同様の高度な好酸球浸潤を特徴とする限局性肉芽腫例が次々と報告され,Venek(1949)はGastric granuloma with eosinophilic infiltrationと呼称しその成因をアレルギーに求め,我が国においてもこの様な症例報告が次々になされている.ところが最近この課題は新しい観点から1つの解決が与えられつつある.それは胃および腸管壁に見られる好酸球性肉芽腫を原因するものの1つとしてある特定の種の寄生虫の穿入(または迷入)が関与するものであろうことが明らかにされて来た.その主たるものは人消化管に見られる新しい疾患,アニサキス症(anisakiasis)である.その本態はアニサキス(Anisakis)と呼称される海産哺乳動物(クジラ,イルカ,アザラシなど)の胃に頭部を穿入して寄生する蛔虫の幼虫期のものが,ある種の海産魚類を介して(中間寄主?)―それらは日頃私共が食用に供するサバ,アジ,ニシン,タラ,カツオ,イカなど―人体内に侵入し胃や腸壁に穿入して起病性を発現することが知られて来た.これらの多くは胃腸壁粘膜下組織の著るしい浮腫と好酸球浸潤(蜂窩織炎または膿瘍)を組織学的特徴とし,かつその病巣部に本種幼虫の断面が認められている.これをアニサキス様幼虫(Anisakis-like larva)といい,それに起因する疾患をアニサキス幼虫移行症(human larval anisakiasis)と呼称している.特にアニサキス様(Anisakis-like or Anisakis-type)とことわったのは上述の海産魚類に寄生する幼線虫の寄生虫学的仔細(形態,分類,発育史など)が未だ詳しくは明かにされておらず近縁の種の多い点から人体への起病体としていかなる種が最も重要であるかなどについては今後の研究にまたねばならないからである.ともあれ本課題は寄生虫学の分野のみならず臨床殊に消化器疾患の鑑別診断に際して重要な新しい疾患として内外の注目をひくに至っていることは見逃しえない.本課題についての歴史的背景や我が国における症例の総括的な解説あるいは文献的考証についてはすでに大鶴正満教授ら(1965)および筆者ら(1966)の報告があるのでここでは重複をさけることにしこれらを御参考願いたい.

 本稿では表題にかかげたその主たる起病体がアニサキス様幼虫であることは勿論であるが,さらに加えてここ数年間において筆者の経験したアニサキス様幼虫以外の寄生虫迷入による人消化管の好酸球性肉芽腫症例を紹介し,かかる臨床例の病理学的ならびに寄生虫学的診断に際しでその手がかりとなりうる資料を参考まで提供したい.最近人畜共通の寄生虫すなわちこれまで家畜に寄生する各種のもの(ことに幼虫期のもの)が人体内に侵入した場合種々なる病害を発現し時にその寄生部位(眼球,脳,肝,肺,心など)により重篤な臨症症状を原因することが知られ“Zoonosis”と呼称される新しい概念の理解が寄生虫学の大きな命題となっており,ここにとりあげた消化管の炎症性腫瘍の原因体についても,将来さらにつけ加えられるものがあるかもしれない.臨床医の方々の協力をえて検討し,今後注意していきたい.早速本論に入ることにする.

症例

隆起型早期胃癌の1例

著者: 山形敞一 ,   増田久之 ,   大柴三郎 ,   石岡国春 ,   上野恒太郎 ,   山岸悟郎 ,   五味朝男 ,   望月福治 ,   武田鉄太郎 ,   北川正伸 ,   鮎沢甞次郎 ,   千葉寛 ,   狩野敦 ,   須田雍夫

ページ範囲:P.813 - P.816

 症例:76歳,女子,無職

 家族歴:父は肺結核,母は子宮癌で死亡している.同胞は4人中,患者を除いて,いずれも高令で,それぞれ肺癌,胆のう癌および胃癌で死亡している.また,子供に腸チフスで死亡しているものがある.

早期胃癌症例

著者: 幡谷健 ,   倉俣英夫 ,   宇南山史郎 ,   坪井晟 ,   風戸計民 ,   須賀井忠男 ,   松岡規男

ページ範囲:P.819 - P.823

Ⅰ.まえがき

 私どもは胃集団検診により要精検となった患者に,幽門前庭部の前壁には胃潰瘍瘢痕,後壁には粘膜ひだの集中断裂があるⅡc型病変があり,おそらくはKissingにあった潰瘍の一方が癌化したと思われる症例を経験したので,ここに報告する.

早期胃癌と寄生虫による肉芽腫の共存せる1例

著者: 原義雄 ,   沢田豊 ,   角田弘 ,   飛田祐吉

ページ範囲:P.825 - P.827

 今日では,各地で多数の早期胃癌が発見報告されるに至り,珍らしいものではなくなった.殊にこの症例の様なⅢ+Ⅱcは数が多い.ただ,これを報告する理由は,1)昭和39.9より手術した40.11.19まで経過を追うことが出来た点,2)面白い内視鏡像を得た点,3)寄生虫による肉芽が共存した点からである.

胃の衝突腫瘍

著者: 長洲光太郎 ,   石河利隆 ,   井磧進

ページ範囲:P.829 - P.833

1.重複癌と衝突癌

 一般に癌は単発性であって,所々に同じ癌があらわれたものは転移と考えるのが普通である.稀に重複癌を見るが,広い統計からみてその頻度は全癌の2%以下と考えられる(第1表).ただ2%といえども,癌は外科で取扱う症例の中でもきわめて数の多い疾患であるから,いわゆる重複癌の経験は多くの外科医はいくつか持っているのは当然である.ごく最近私は明らかな三重癌(子宮の扁平上皮癌,胃の神経鞘肉腫と腺癌)の手術治験例を経験した.

 重複癌については一次的と二次的の二つを区別する.Billrothはすでに1889年にprimäre Multiplizitätについて正しい認識をもっていた.この一次的な多発重複癌では,同一人に,同時にあるいは極めて短時日の間にちがった構造の癌を見ることが必要な条件である.しかし,ある組織を基礎として癌が発生するときは,転移でなくても似た構造を示すであろうことは推定にかたくない.例えば胃癌の大部分が腺癌の多少修飾された形であるのは当然である.

研究

新しいファイバーガストロスコープについて

著者: 竹本忠良 ,   常岡健二 ,   近藤台五郎

ページ範囲:P.841 - P.848

Ⅰ.緒言

 ファイバースコープの改良にあたってもっとも大切な点は像の鮮明度を損なうことなしに,より使いやすいものにしてゆくことである.便利な機構がそなわっても,イメージファイバーの質などを落さなければならないのでは完全な胃内視鏡の改良とはいいがたい.実際にはファイバースコープの径,先端部構造などに大きな制約があるので良いイメージファイバーを入れ,しかもいろいろな機構を組込むことは技術的に大いへん困難なことである.

 しかし,より一層優秀でしかも使用に便利なファイバーガストロスコープ(Fibergastroscope以下FGS)をつくろうとする意欲と,これまで多種類のFGSを手がけてきたことによって蓄積された高度の技術とが結合し,このたび町田製作所の新らしいFGSが完成したので,それらの構造,性能の概略についてのべる.

座談会

胃潰瘍(4)―内視鏡

著者: 市川平三郎 ,   崎田隆夫 ,   佐野量造 ,   五ノ井哲朗 ,   平山次郎 ,   外園久芳 ,   春日井達造 ,   川井啓市 ,   城所仂 ,   小西義男 ,   熊倉賢二 ,   増田久之 ,   三須正夫 ,   村上忠重 ,   中島義麿 ,   西沢護 ,   岡部治弥 ,   高橋淳 ,   竹本忠良 ,   田中弘道 ,   藤間弘行 ,   内海胖 ,   渡辺豊

ページ範囲:P.849 - P.860

 司会(崎田) では,始めさせていただきます.いま,レントゲンの立場でいろんなお話がございまして,大体,それでもう尽きているかもしれないと思いますが,内視鏡の立場でものを考えるというような行き方にしたいと思います.

 最初に,春日井さん,竹本さん,城所さんに,5分ずつぐらい,たとえば,前号で1番あとに出ました良悪性の問題,それから増悪期の像治癒期の像というようなことと,深さの問題,もし時間がございましたら,治癒の仕方,場所の問題,形の問題,多発性潰瘍の問題,瘢痕の問題,そういうふうになると思いますが,とりあえず良悪性の問題,それから増悪治癒期の問題,深さの問題そういったようなことで,5分ぐらいずつ,皮切りにお話していただきたいと思います.簡単に全部でもいいし,一つでも結構です.

技術解説

胃細胞診(その2)―胃直視下細胞診

著者: 信田重光 ,   沢田好明 ,   滝田照二 ,   高村達

ページ範囲:P.861 - P.866

まえがき

 胃内腔より癌細胞や癌組織を検出して胃癌を診断しようとする考え方は,すでに19世紀中頃よりRosenbach(1882),Boas(1896)など,20世紀に入りMarini(1909)により報告されていた.しかし単一の遊離細胞の形態のみから癌を診断することが危険視されて,また胃内から直接癌組織をとり出すことが困難であったため,この分野の研究は,1940年頃まではほとんど不問に附されていた.1941年にPapanicolaouおよびTrautにより子宮癌の細胞学的診断法が確立され,さらにこの方法が胃癌の診断に応用されて以来,胃癌の細胞学的診断法は急速な進歩をみ,細胞採取の方法も,初期の空腹時胃液吸引法より,生食水洗滌法,蛋白融解酵素洗滌法,Abrasive Balloon法などが考案された.一方,胃内視鏡法(軟性,および硬性胃鏡法)の進歩に伴い,Kenamore(1940),Benedict(1948)によりそれぞれ直視下生検用胃鏡が考案され,またわが国でも常岡,川島,稲葉,信田らによりそれぞれ生検用の軟性・硬性胃鏡が発表されている.

 1958年HirschowitzによりGastroduodenalfiberscopeが発表されて以来,胃内視鏡学は著しい進歩をみた.すなわち従来の軟性・硬性胃鏡に比して可撓性に豊むために,胃内観察における盲点が非常に少なくなり,また患者に対する苦痛が著しく減少し,したがって胃内視鏡検査の適応が著しく拡大された.

先輩訪問

胃癌の変遷―久留 勝先生を訪ねて

著者: 佐野量造

ページ範囲:P.868 - P.877

胃潰瘍の“型”が変った

 佐野 どうも調子が出ませんね(笑).先生にはいつも…….

 それでは,先づ胃潰瘍のことからお伺いします.昔と今の胃潰瘍では,ずいぶん形が変わってきたように思うのですが,先生がごらんになっていたときの胃潰瘍は,ずいぶん深くって大きいのが多いようでしたが,わたしたちがみている潰瘍は浅いものが多い様に思います.

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編集後記

著者: 青山大三

ページ範囲:P.887 - P.887

 今までの多くの臨床雑誌の中で,胃腸の診断に関して,わが意をえたりと膝をたたくようなものはなかったが,本誌「胃と腸」はほんとにかゆいところに手がとどいた感がある.

 ひるがえって本誌発刊には諸先生,関係各位の方々の涙ぐましい努力があったことはその内容外観をみればおのずからわかることである.ここに改めて多数の人々の懇願が一つの結晶として出現したことを喜ぶと共に,その美しい結晶から放つ輝かしい暖い光によって,多くの胃腸専門医師に幸福と希望と活気とがもたらされ,さらに,多数の胃腸患者により多くの福祉がもたらされんことを衷心より願うものの一人である.

基本情報

胃と腸

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1219

印刷版ISSN 0536-2180

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