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雑誌目次

雑誌文献

胃と腸10巻12号

1975年12月発行

雑誌目次

今月の主題 全身性疾患と消化管 主題

心身症と消化管

著者: 大沢仁 ,   石川中

ページ範囲:P.1569 - P.1574

 精神身体医学,PSM(Psychosomatic medicine)の概念が日本に紹介されて,すでに十数年を経ている.

 心身症,PSD(Psychosomatic disease)とは,日本精神身体医学会の「心身症の治療指針」によれば,「身体症状を主とするが,その診断や治療に,心理的因子についての配慮がとくに重要な意味をもつ病態」とされていて,その立場から,心身症として,同じ治療指針では表1のような疾患あるいは症状を列挙している.これらの疾患をもつ患者のすべてが心身症というのではなく,その中のある患者は心身症としてアプローチすることが必要であるのだと理解されたい.

心臓疾患,動脈硬化と消化管

著者: 三島好雄 ,   堀江良秋

ページ範囲:P.1575 - P.1582

 消化管に阻血症状をきたす血管病変として,小腸領域では腸管壁小血管の閉塞,急性腸間膜血管閉塞,腸間膜血行不全,腹腔動脈起始部症候群,慢性腸間膜動脈閉塞などが,大腸領域では可逆性ならびに非可逆性の阻血性病変,新生児の壊死性腸炎,大腸癌に合併する局所性腸炎などが報告されているが1),ここでは主題にしたがって心臓疾患と動脈硬化に伴う消化管の血行障害について述べる.

血液疾患と消化管

著者: 福地創太郎 ,   望月孝規

ページ範囲:P.1583 - P.1592

 血液疾患と消化管は密接な関連を有することが少くない.その中には,血液疾患の合併症として,消化器病変を伴うもののほか消化器の病変が血液疾患を惹き起こす主要な病因となる場合とがある.前者は,種々の出血性病因に基づく消化管の出血,血液凝固性の亢進や血管病変に基づく血栓形成やそれに続発する消化管壁の病変,悪性淋巴腫や多発性骨髄腫などにおける消化管の腫瘍性浸潤などがあげられる.

 後者の消化器病変に続発して血液異常を呈する例としては,消化管の潰瘍や悪性腫瘍に続発する失血性貧血,blind loop症候群や吸収不良症候群などに伴う巨赤芽球性貧血などがある.

Behçet病における腸管障害,とくに腸管型Behçet病(Entero-Behçet病)の研究

著者: 清水保 ,   荻野鉄人

ページ範囲:P.1593 - P.1600

 Behçet病(Behçet症候群)は,周知のように口腔粘膜アフタ,ブドウ膜炎を主とする眼病変,外陰部潰瘍と結節性紅斑様皮疹や皮下血栓性静脈炎などの皮膚症状を4主症状(4 major symptoms)とする他に,関節,消化管,血管系,中枢神経系などに広く全身的に多彩な症状を発現する慢性の炎症性疾患である.

 本症がとくに近年本邦において屈指の難病とされる所以は,第2次大戦以後わが国に急増多発傾向を示し,その難治性と眼障害の予後の不良性のために,本邦においてこれに基因する失明者がとくに1959年以後急増傾向を示している点にある1).一方,本邦におけるBehçet病の観察症例の増加するに伴い,本症の臨床症候学的知見が急速に充実され,その全身病としての臨床像が明らかにされて来た.とくに注目される点は,高い失明率(約40~50%)の他に,生命の予後の不良化に直結する症状として,血管系,中枢神経系の侵襲と消化管とくに腸管病変の発現である.前2者の症状を主景とする病型は,それぞれvasculo-Behçet,neuro-Behçet症候群とされ,とくに男子患者に好発する(罹患男女比約8:1).腸管病変の発現については,すでにJ. Bφeら(1958)2)により指摘されているが,本邦では塚田ら(1964)3)によりIntestinal Behçet's Syndromeとして記載された.以来,Behçet病における消化管とくに腸管病変についての知見は,多数の観察症例に接する機会の多い本邦の研究者により報告されており4)~10),その腸管粘膜に発現する潰瘍形成の病理発生機序と,臨床的には潰瘍の穿孔による予後の重篤性が強調されている11)12)

内分泌,代謝性疾患と消化管

著者: 大根田昭 ,   丸浜喜亮

ページ範囲:P.1601 - P.1607

 今世紀の初めに内分泌という概念が生れてから3/4世紀を経たが,最近20年間におけるこの領域の進歩は著しい.すなわち,従来知られていたホルモンのほかに新しいホルモンの同定が行なわれるとともに,体液中に微量に存在する各種ホルモンの測定が可能となり,血中におけるホルモンの動態が漸次明らかにされている.一方,近年における生化学の進歩に伴い,種々の代謝異常の病態生理が解明されている.各種内分泌異常は終局において代謝異常とともに体内の組織における代謝上の障害を惹き起こすが,消化管も例外ではない.

 これらの代謝の障害は消化管の機能的な異常を生じ,さらに進むと器質的な変化を招来することになり,これに対応する消化管症状を呈するので,この問題は重要なテーマである.

肝硬変と消化管

著者: 田中弘道 ,   福本四郎 ,   佐久本健 ,   三浦邦彦 ,   三好洋二 ,   周防武昭 ,   吉田勝彦 ,   渡部和彦 ,   山西康仁 ,   堀江裕 ,   岡本英樹 ,   古城治彦

ページ範囲:P.1609 - P.1615

 肝硬変症にみられる消化管疾患としては食道静脈瘤をはじめ,消化性潰瘍の多発やびらん・出血などが知られているが,下部消化管についてはほとんど知られていないといっても過言ではない.本稿では,肝硬変症における食道病変および胃粘膜所見と消化性潰瘍について述べると同時に,下部消化管との関連について考察する.

脳卒中と胃病変

著者: 常岡健二 ,   小野正浩 ,   会田大義 ,   石原開 ,   大関正知 ,   浜中捷彦 ,   大橋和夫 ,   斉藤靖

ページ範囲:P.1617 - P.1622

 日常の臨床において脳卒中発作後,その経過中,突然に吐血あるいは下血を見ることは必ずしも少なくないし,またこれが脳卒中死因上大きな役割を占めたと考えられる場合もある.出血の原因は急性の胃または十二指腸の出血性ビラン,急性潰瘍,慢性潰瘍の急性増悪によるものである.このような中枢性の疾患と胃腸病変の関連性については,Rokitansky(1861年)が初めて報告して以来,動物実験によってその発生機序についての研究が行なわれてきた.従来,脳卒中自体が重篤な疾患であり,急激な経過をとるため胃・十二指腸の病変についての研究報告は主に剖検例に限られていた.近年,胃内視鏡の進歩に伴い,生前にこれらの検討が可能となり,この種の病変の早期診断,ひいては早期治療にもある程度の期待がもたれる.

 著者らは脳卒中134例の経過中,吐血・下血を来たした胃・十二指腸潰瘍4例を経験し,いずれも出血巣を内視鏡的に観察し,かつ経過を追求しえた.これら症例について概要を報告するとともに,脳卒中,その他脳疾患と胃・十二指腸病変との関連について若干の文献的考察を加えてみたい.

症例

肝硬変症と大きな胃潰瘍を合併した1症例

著者: 久満董樹 ,   大坪千秋 ,   本池洋二 ,   竹本忠良

ページ範囲:P.1623 - P.1627

 今号の主題に関連して,肝硬変症と胃潰瘍を合併した症例の詳細を提示し,若干の考察を加える.

Behçet病における小腸多発潰瘍

著者: 三好洋二 ,   田村矩章 ,   佐久本健 ,   福本四郎 ,   田中弘道 ,   五明田学

ページ範囲:P.1629 - P.1633

 1937年,H. Behçetが口腔粘膜・眼部および外陰部の再発性アフタ性潰瘍の3主徴を呈す疾患をBehçet病として発表して以来,今日では本疾患は多彩な臨床症状を呈する全身性疾患として認識されるようになってきたが,その症状の中でも,腸潰瘍は神経症状と並んで重篤な合併症として知られている1)2)

 著者らも,不全型のBehçet病患者において回腸の多発潰瘍をX線的及び内視鏡的に診断し,手術により治癒した症例を経験したので報告する.

胃癌,胃迷入膵,胆石症に合併した胃脂肪腫の1例と文献的考察

著者: 北島政樹 ,   竹下利夫 ,   米川甫 ,   伊藤三千郎 ,   奈良圭司 ,   植松義和 ,   浅野芳雄

ページ範囲:P.1637 - P.1642

 胃良性腫瘍のなかで脂肪腫は本邦および欧米の文献からみてもその報告は稀である.最近,著者は胃癌,胆石症,迷入膵に合併した胃脂肪腫を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

多彩な病変を伴う10多発胃癌の1症例

著者: 西村伸治 ,   鹿岳研 ,   岩佐昇 ,   西谷定一 ,   三好正人 ,   藤井浩 ,   稲富五十雄 ,   井辻勇 ,   中島徳郎

ページ範囲:P.1643 - P.1649

 胃疾患診断技術の進歩と詳細な病理組織学的検討とが相まって,多発胃癌の報告例も次第にふえてきている.ことに最近では,多発早期胃癌症例の報告に接する機会がしばしばである.著者らは切除胃の病理組織学的検討により,1個の進行癌と9個の早期癌,2個の異型上皮,副膵およびびらんを同一胃内に確認した興味ある1症例を経験したので報告する.

十二指腸球部に脱出した胃巨大囊胞の1例

著者: 小堀迪夫 ,   伊藤慈秀 ,   水島睦枝 ,   坂本武司 ,   木原彊 ,   佐藤公康 ,   平田弘昭 ,   茎田祥三 ,   石原健二 ,   吉岡一由 ,   佐野開三 ,   遠藤正三郎 ,   西下創一

ページ範囲:P.1651 - P.1657

 心窩部痛,悪心,嘔吐を主訴として来院し,レ線および内視鏡的に幽門前庭部に存在する胃粘膜下囊胞の十二指腸脱出と診断し,病理学的にはいわゆる迷入膵に由来する囊胞であった症例を報告する.

回腸末端部原発の細網肉腫による慢性腸重積症の1例

著者: 三宅祥三 ,   桐生恭好 ,   鈴木修 ,   安楽岡滋 ,   荒井正夫 ,   栗田和夫 ,   柏田欣一 ,   波多野録雄

ページ範囲:P.1659 - P.1663

症 例

 患 者:44歳 主婦

 主 訴:腹部膨満感および腹痛

 既応歴:若い頃,胸膜炎.15歳頃よりケロイド体質といわれ,某医科大学で治療をうけたことがある.

 現病歴:1973年12月中旬,右下腹部痛があり某外科医を訪れ,急性虫垂炎の診断のもとに12月17日,虫垂切除術を受け,23日退院した.退院後4日ほどしてから虫垂切除術術創瘢痕のやや上方で臍の右側が痛むようになり,同外科医の診察をうけたが異常はないといわれた.しかし腹痛は持続するので,別の外科医を訪れたところ,癒着のためかもしれないから精査するようすすめられ,1974年1月23日,本院を受診した.内科外来受診時の現症では,臍の右側に小手拳大の弾力性のある腫瘤を触知し,やや可動性を認めた.また腸のグル音はやや亢進していた.腸腫瘍ないし腸閉塞を疑ってただちに腹部単純X線写真を撮ったが腸閉塞を疑わせるガス像はなく,臨床症状でも腸閉塞を思わす症状に乏しかった.患者は元来便秘がちであるが,右下腹部痛が始まって以来ことに便秘が強く,4~7日に一度下痢様の柔らかい便が出る程度であった.食欲はあり,腹痛は食事とは無関係であった.腹痛は腹部膨満感から始まり,次第に右下腹部より膀の右側に拡がり,しばらくしてからゴロゴロと腹鳴を伴って腸が動くような感じがして腹痛は楽になるということであった.

内視鏡的に経過観察しえた直腸潰瘍の1例

著者: 多田正大 ,   竹田彬一 ,   加藤三郎 ,   仁木弘典 ,   中木高夫 ,   郡大裕

ページ範囲:P.1665 - P.1668

 大腸の炎症性疾患のうち非特異性大腸炎の範疇に包括されている潰瘍性大腸炎,Crohn氏病,単純性潰瘍(いわゆる非特異性結腸潰瘍),孤立性直腸潰瘍などの病態については今日なお議論が多く,臨床的にも病理学的にも鑑別診断は難しいことが多い1)

 著者らも最近,直腸に発生した非特異性の潰瘍の1例を経験したので,その臨床像,色素撒布法を併用した内視鏡所見,および生検組織の検討から他の類似非特異性大腸炎との鑑別を試み,同時に内視鏡的経過観察から興味ある知見を得たので併せて報告する.

胃と腸ノート

疣状胃炎に合併した早期胃癌のX線診断(1)

著者: 村島義男 ,   八百坂透

ページ範囲:P.1608 - P.1608

 胃癌の発生母地としては,従来より胃潰瘍,ポリープ,異型上皮および慢性胃炎(特に化生性胃炎)であったが,最近慢性胃炎の1型としての疣状胃炎の癌化が問題となっている.

 〔症例1〕A. Y. 44歳 男

 図1のX線像で胃角には低い隆起を示す輪郭像と,その中に小さなニッシェ様の突出を認める.その他胃角から幽門にかけて粗大なアレヤ様の隆起が見られた.図2では角上の潰瘍瘢痕と,胃角にニッシェ様の突出を認めたが,周辺の隆起は図1に比べ不明瞭となっている.以上のX線像より潰瘍性びらん性胃炎と診断したが,胃角の病変はⅡa+Ⅱc型の早期胃癌を疑った.

腎不全と血中ガストリン

著者: 三輪剛 ,   谷礼夫 ,   阿部薫

ページ範囲:P.1622 - P.1622

 腎不全の患者に何らかの抗潰瘍治療を行なわなければならないことは,いまや周知のことである.ClendinnenやNewtonらがガストリンが破壊される主要臓器は腎であろうと提唱してから腎不全患者における血中ガストリンレベルや胃酸分泌や消化性潰瘍に関する興味が高まった.

 Kormanらは血漿クレアチニン3.0mg/dl以上の重症腎不全患者において空腹時血中ガストリンレベルが著明に高値を示し,腎機能と胃機能との関係を十分に示唆したのである.腎不全のために透析を行なっている患者についてはその前後の血中ガストリンレベルに著変はなく恐らく透析膜をガストリンは通過しないのであろうと推定した.そして,重症腎不全例においては,その原疾患とかかわりあいもなく空腹時血中ガストリンレベルは高いという結論に達した.

Fundal gastritis

著者: 高瀬靖広 ,   竹本忠良

ページ範囲:P.1628 - P.1628

 慢性胃炎の分類は,その研究の発展過程において,解剖学的立場,臨床的立場などさまざまの立場から分類がなされており,われわれも慢性胃炎の各種病型分類について考察を加えてきた1).現在,広く一般的に使用されている慢性胃炎の分類はSchindler2)による胃鏡的立場からの分類であるが,この分類は,当時の内視鏡器種の器械的制約により,主に胃底腺領域を対象としたもので,antral gastritisに対するfundal gastritisの分類に属するものであった.しかし今日,内視鏡器種の改良およびそれに伴う検査技術の進歩などにより,Schindlerの分類は幽門洞に対しても拡大されて適用されるようになり,さらに慢性胃炎の研究が進められてきた結果,fundal gastritisという表現にも自ら変化が生じているように思われる.

 本来,fundal gastritisという表現は胃底腺領域の慢性胃炎という意味であるが,胃炎をKorpusgastritis,Antrumgastritisとする局所解剖学的分類から出発しているようである.しかしながら,これまで“体部胃炎”は稀であることが知られており3),さらに慢性胃炎の主体的変化と考えられている萎縮性胃炎については,胃全域からのいわばin vivoの組織診断といえる直視下生検による検索などから,幽門腺組織(偽幽門腺を含む)が口側に拡がる“Antralization”4)であるという考え方が支配的になってきたので,fundal gastritisという表現は次第に意味を失いつつあるといえる.しかし,萎縮性胃炎を“Antralization”と理解すると,幽門洞に萎縮性胃炎が認められる場合でも,認められない場合でも胃底腺領域に幽門腺組織が認められれば,ともに“Antralization”の範疇に入ることになるが,両者が慢性胃炎の病態の上でどういう位置にあるかは不明である.

印象記

第17回日本消化器病学会 第13回日本消化器内視鏡学会 第13回日本胃集団検診学会 合同秋季大会印象記

著者: 竹本忠良

ページ範囲:P.1634 - P.1635

 消化器系学会の秋季大会は総会開催地をさけ地方大学都市で行なうというのが第1回からの慣行である.そこでどうしても秋季大会は観光にもかなりのウエイトをおいたかたちになりやすい.もっとも,これまでも秋季大会から観光色をとりのぞいて学問的に充実した学会にしたいという努力が傾けられている.例えば新潟大学市田文弘教授が会長をされた昭和47年の合同秋季大会などその代表的なもので,最終日最後のシンポジウムまで会員は会場に釘づけされ盛会であった.

 本年の合同秋季大会は第17回日本消化器病学会,第13回日本消化器内視学会および第13回日本胃集団検診学会の合同で長崎市で開催された.第1回の消化器の秋季大会から出席しつづけている私など第17回ときいただけでいささかくたびれてきたかなと思うくらい秋季大会は学会行事としてすでに定着し,毎年毎年開催地の地方色をくりかえし楽しませてもらっている.

一冊の本

Advances in Gastrointestinal Endoscopy

著者: 竹本忠良

ページ範囲:P.1650 - P.1650

 1970年の7月,学会の直前までさんざん参加者をやきもきさせ,ついに異例にも,RomeとCopenhagenとでわかれて開催された第2回の世界消化器内視鏡学会のproceedingsがこの本である.

 しみじみと,国際学会のトラブルの多いことを感じさせた学会だったことを本を手にしたとたんに想いおこしたが,Proceedingsのほうは約930ページの大著となってよくまとまっていることにまず感心した.Italyで印刷された本などめったにみることはないので,黄色いカバーを早速めくりとってみたが,本の背は赤に黒を配し,金文字をおおきく,なかなかすっきりできあがっている.使われている紙質もよく,内視鏡写真もほとんど白黒写真であるが,これでもかなり十分所見が理解できるであろう.

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欧文目次

ページ範囲:P.1567 - P.1568

書評「肝障害―アルコール・薬物障害例とその病像」

著者: 武内重五郎

ページ範囲:P.1633 - P.1633

 近年,アルコール消費量の急速な増加とともに,わが国においてもアルコールに由来する肝障害が臨床上の大きな問題となってきた.また,多くの新薬の登場により,それと平行して薬物による肝障害症例もしばしば遭遇されるところであり,現在肝疾患患者に接したとき,詳細なアルコール摂取歴と薬剤使用の有無に関する病歴聴取は不可欠のこととなっている.

 このように,アルコールおよび薬物による肝障害に対する関心が高まっているとき,千葉大学伊藤進博士により本書が刊行されたことは,きわめて意義深いことと思われる.伊藤博士はこれらの問題の重要性に早くから注目し,多数の症例について精細な観察をつづけ,すぐれた業績を発表してこられた方であるからである.

書評「クリストファー外科学」

著者: 水戸廸郎

ページ範囲:P.1658 - P.1658

 約十年前,私は米国でのResearch fellowの生活を終えて帰国し,間もなく外科学各論を担当することになった.私にとっては正に大任,新たなことに対する期待と不安といわれるが,不安を通りこし,空おそろしさすら感じた.そんな私を支えてくれた本が,“Christopher's Textbook of Surgery”第8版であった.幸い学部3年生の70%以上がすでに書架に飾ってあることを知り,予定される講義の個所を読んでくることを要求した.講義では各項毎の大略と補充的な説明を行ない,重要な文章の部にunderlineをひかせた.その上,視覚教育と称してNetterの画をカラースライドで投影解説し,自験例などをそえて責を果した.私にはChristopherは救いの神であり,飯の糧ともなった.

 なぜChristopherを選んだか? それは今日の世界の外科をリードしている米国の外科医を,育てそはぐくむ書であったからである.留学時代,Conferenceで頭から爪先まで,正確な数値をあげて,まさにたて板に水式に討論に加わる学生,Residentを目の当りに見て,私の学生時代と比較し,驚異を感じた.その秘密のひとつは彼等がHarrisonとChristopherを各章毎に分冊にして持ち歩き,その各頁がunderlineで読めないほどに染まって,その染まりが彼等の脳裏に焼きついていることであった.まさにBible的存在であった.ただし,不変のBibleとは異なり,本書は版を重ねる毎に章の追加,あるいは執筆者がその時代のtop levelの専門家となり,up-to-dateの知見が加えられる.しかし奇をてらったものではなく,基調は臨床医にとって必須の解剖,生理,病態,治療について理論から実際までを簡明に記載していることである.いわゆる,外科総論の項も臨床に直結した記述が行なわれ,従来の教科書のように,理論だけの無味乾燥さがなく,誠にアメリカ的,pragmaticalな教科書である.したがって,学生時代ばかりでなく,臨床医の座右の書として愛用されている所以もここにあると考えられる.かといって,日本人で本書の一頁から最終頁まで通読された方は稀であろう.その理由は英文であること,また時折り難解な文に出会うからであり,直接的に必要な部分以外は邦文の本で事をすませることによるのであろう.

書評「大腸の癌・ポリープのX線診断と病理」

著者: 陣内伝之助

ページ範囲:P.1664 - P.1664

 本書を手にとってみて,今を去る十数年前,胃の早期癌が発見されはじめた頃,胃の微細な美しい粘膜像が放射線診断の先達たちの手によって示され,次々と微小な胃癌が発見された当時のことを感慨深く思い出す.胃癌の診断治療では,世界に卓越した成績を残しているにもかかわらず,わが国の大腸病変,とくに大腸癌の診断では欧米先進国に一歩遅れているような感じさえするのを,かねがね残念に思っていたのは私一人ではなかったであろう.

 大腸の早期癌は胃癌のような扁平型や陥凹型は極めて稀で,大部分が隆起型とくにポリープ型である.ところが,このポリープ状病変を発見することは比較的容易であっても,このポリープが良性であるか悪性であるかを判別することは,極めて難問題である.

編集後記

著者: 田中弘道

ページ範囲:P.1669 - P.1669

 全身疾患の治療中に突如として消化管出血をきたし,これが致命的となる症例は決して稀ではないが,時には消化管病変の発見が系統的疾患の診断の手懸りとなる場合さえ経験されるのである.このように全身疾患と消化管とは極めて密接な関連があり,日常臨床にとって等閑視できない問題の1つである.

 本号では「全身性疾患と消化管」が主題として取り上げられ,心身症,心疾患及び動脈硬化症,血液疾患,結合織疾患,内分泌・代謝疾患,肝硬変症,脳卒中における消化管の病態に関する論文が集約された.

基本情報

胃と腸

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1219

印刷版ISSN 0536-2180

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