icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

胃と腸10巻5号

1975年05月発行

雑誌目次

今月の主題 消化管カルチノイド 主題

カルチノイドをめぐる最近の諸問題について

著者: 佐野量造

ページ範囲:P.581 - P.583

 Carcinoidに関する臨床,生化学及び病理学的知見は,ここ数十年の間にめざましく進歩したが,それにつれてまた新たな問題が提起され,種々の面で混乱を生じている.その主なるものはCarcinoidの定義,組織発生,症候群発現機序をめぐる諸問題であろう.以上の点にっいて,その概略をのべてみることにする.

胃カルチノイドの臨床診断

著者: 小黒八七郎 ,   下田忠和 ,   佐野量造

ページ範囲:P.585 - P.595

 1907年,Oberndorferは小腸腫瘍のうちで,組織学的には癌ににているが,臨床的には良性の経過をとる病変を観察し,これをカルチノイド,carcinoidと呼んだ.その後の報告によると,カルチノイドは虫垂に最も頻度が高く,次いで小腸,直腸や胃にもみられているが,全体としては比較的,稀な疾患である.近年,カルチノイドはセロトニン(5-HT)を始めとして,ヒスタミンやカリクレインなどを産生する一種のfunctioning tumorであることが明らかとなって,病態生理学的にも注目されてきている.これらの物質の影響によって,臨床的にはいわゆるカルチノイド症候群,即ち,顔面及び四肢などの紅潮,即ちflush発作,下痢及び気管支喘息などがあげられており,臨床生化学的には血中5-HTの上昇,尿中5-HIAA(5-Hydroxy indole acetic acid)の増加を証明するとされているが,概して,胃カルチノイドにおいてはこれらの認められる頻度は少ないようである.病理組織化学的には銀親和性反応argentaffin reactionもしくは好銀性反応argentphilic reactionを認めることによっても診断される.

 近年,胃生検法の進歩によって,次第に手術前に胃カルチノイドの確診の得られた例が報告されてきている.胃カルチノイドの多くは緩徐の経過をとるものの,一部では肝転移を来して,予後の不良のこともあるので,臨床診断は慎重でなければならない.

直腸カルチノイドの診断

著者: 舟田彰 ,   丸山雅一 ,   佐々木喬敏 ,   竹腰隆男 ,   坂本穆彦 ,   中村恭一

ページ範囲:P.597 - P.607

 カルチノイド腫瘍の歴史は古く,19世紀中ばにはその本態が明らかにされ,Kultschitzky細胞由来説がとなえられたのは今世紀もはじめの頃であった.そしてこの腫瘍から大量のserotoninが抽出され,これがいわゆるカルチノイド症候群の本態であることが判ってからはfunctioning tumorとして新しい分野での展開がなされるようになり,現在に至っている.

 カルチノイド腫瘍は,主として消化管に発生し,まれに気管支,膵臓,卵巣,前立腺などにも発生する.腸管のカルチノイドについて発生学的にながめた場合,後腸から発生する直腸のカルチノイドは他の腸管のそれに比べて悪性度が低いといわれている.

消化管カルチノイド―機能面から

著者: 佐藤辰男

ページ範囲:P.609 - P.614

 カルチノイド腫瘍は,既に前世紀の初めからその存在が知られていたが,1907年Oberndorferにより通常の癌腫とは異なる性質を有するところから,カルチノイドなる名称が附された.その後,カルチノイド症候群と呼ばれる特徴的な症状を伴うことが知られ,それが本腫瘍の作るセロトニンとの関連において検討された.さらに本腫瘍は消化管のみならず,肺,胸腺,甲状腺,膵,卵巣および睾丸などからも生じ,かつセロトニン以外にも種々の活性物質を産生,放出することがわかって来た.

 以下,本稿においては,カルチノイド腫瘍が作る活性物質の生化学的,薬理学的性質に焦点をしぼり,本症の臨床像にふれつつ2,3の問題点を述べることにする.

消化管カルチノイドの病理組織学

著者: 遠城寺宗知 ,   渡辺英伸

ページ範囲:P.615 - P.624

 1907年Oberndorferが異型性の低い組織像で発育が緩慢な小腸腫瘍に通常の癌腫とは異なるものとして,“カルチノイド腫瘍”なる名称を与えた.以降この腫瘍細胞に銀親和性(還元性)(argentaffinity)が指摘され,Kultschitzky細胞由来が説かれた.生化学的には腫瘍が5-hydroxytryptamine(5-HT),すなわち,セロトニンを産生し,一部の例でカルチノイド症候群を惹起することがわかり,カルチノイドの全貌が判明したかにみえた.しかるにその後上記カルチノイドとは異なった症状を呈し,ヒスタミンと5-hydroxytryptophan(5-HTP)を分泌し,好銀性(argyrophilia)のある胃カルチノイドが報告された.1963年にはWilliamsらによりカルチノイドの胎生学的発生部位を基盤にした斬新的分類が試みられ,前腸,中腸,後腸から発生するカルチノイドの差異が指摘された.これは多彩で複雑なカルチノイドを極めて明解に分類した卓見であった.この分類の大局的正当性は,のちにBlackらによって電顕的に,曾我らの人カルチノイド多数例の組織学的,組織化学的分析によって実証されている.

 一方,胃腸管には5~10種の形態学的に内分泌機能を有するとみられる細胞があり,ガストリン産生のG細胞はgastrinomaの,セロトニンを分泌する銀還元性(argentaffin)細胞は中腸系カルチノイドの母細胞とされるが,これら各細胞と産生物質やカルチノイドとの関係はいまだ充分に解明されていない.また,カルチノイドには腺管構造や粘液産生が見られることがまれでなく,2種以上の特殊分泌顆粒や分泌物質の存在することより,今日では母細胞として分化細胞よりむしろ未熟細胞を想定する傾向が強い.

消化管カルチノイド―組織発生の面から

著者: 曽我淳

ページ範囲:P.625 - P.633

 カルチノイドの組織発生に関する問題は,広く腫瘍化の研究分野で癌の組織発生とも関連して興味深いと同時に重要な問題でもあるが,むしろこれからの課題で現状では定説はなく,いまだ仮説の段階と言える.この問題に関連し,解決の糸口になりそうな興味ある現象が文献上でも近年急速に増加している.これらの現象や著者らの経験をとりあげながら,この種の腫瘍群の組織発生の問題を2,3の方向から探ってみたいと思う.

症例

十二指腸カルチノイドの1例

著者: 佐々木英制 ,   尾崎鉄也 ,   栗林弘 ,   黒田清隆

ページ範囲:P.637 - P.641

 本邦における消化管カルチノイドの報告例はしだいに増加しつつあるが,十二指腸カルチノイドは,平林ら(1973)の集計によればまだ15例にすぎない.われわれも最近十二指腸カルチノイドの1例を経験したのでその他の報告例をあわせ,本症の病態と臨床像に関して検討を加える.

種々の発育相を呈した多発性胃カルチノイドの1例

著者: 森田信人 ,   山崎信 ,   中泉治雄 ,   小西二三男

ページ範囲:P.643 - P.650

 胃生検により診断し,病理組織学的に興味深い胃カルチノイドの多発症例を経験したので報告する.

直腸カルチノイドの1例

著者: 樋上駿 ,   池永達雄 ,   中島哲二 ,   三田村忠行 ,   望月孝規

ページ範囲:P.651 - P.656

 注腸X線と内視鏡検査で粘膜下腫瘍を疑い,生検光顕および電顕組織像で直腸カルチノイドと術前診断し,経肛門的に局所切除した1例を報告し,文献的考察を加えた.

胃カルチノイドの4症例

著者: 陳宝輝 ,   蕭泉豹 ,   魏忠夫 ,   林光洋 ,   王朝欣 ,   張峯鳴 ,   徐光輝 ,   杯賢忠 ,   廖応隆 ,   黄徳修 ,   陳定堯 ,   丸山正隆 ,   竹本忠良

ページ範囲:P.657 - P.662

 カルチノイド腫瘍の組織学的な最初の記述は,1808年Merlingによる虫垂と小腸の嗜銀性腫瘍に関するものであるといわれる.その後1888年にLebarschはこの腫瘍がLieberkühn腺の腺窩から生ずることを指摘し,さらに,1897年Kultschitzkyによりクローム親和性細胞(Kultschitzky細胞)に由来する腫瘍であることを示した.GossettとMassonはこの細胞中に多数の嗜銀性顆粒がふくまれているという特徴を示し,嗜銀性細胞(argentaffin cell)と称し,それ故,カルチノイド腫瘍はargentaffinomaともいわれた.

 カルチノイドという言葉は1907年Oberndorferによるもので,癌類似の組織像を有しているが性格的にはむしろ良性のものであることから命名されたものである.さらにこれが内分泌性のホルモン産生性腫瘍であることに光をあてたのは,1952年ErspamerとLembeckで,Kultschitzky細胞からセロトニンが分泌されることを示したときにはじまり,Page,Corcoran,Udenfriendらはセロトニンの代謝産物である5-hydroxy-3-indole acetsic acid(5-HIAA)の尿中濃度の上昇が,この腫瘍の存在のよい指標となることを示した.

経過を観察しえた胃カルチノイドの1例

著者: 谷口春生 ,   和田富雄 ,   岩永剛 ,   中井昭子 ,   達家威 ,   伊藤忠男 ,   奥田茂 ,   近藤慶一 ,   田村宏

ページ範囲:P.663 - P.669

 術前に胃生検によりカルチノイドと診断され,生化学的・細胞学的・組織学的ならびに電顕的に検討し得た1例につき,retrospectiveに手術の約1年半前の内視鏡フィルムを観察する機会が得られたので報告する.

十二指腸に腺腫と副膵の合併した1例

著者: 間山素行 ,   西沢護 ,   小林茂雄 ,   中野喜久男 ,   西村明 ,   鈴木和夫

ページ範囲:P.671 - P.675

 十二指腸良性腫瘍は比較的まれな疾患である.本邦では161例の報告があり,上皮性腫瘍72例,非上皮性腫瘍89例で,そのうち腺腫は11例を数えるのみである.われわれは最近胃X線検査の際,十二指腸下行部に透亮像を認め,種々の検査後手術施行し,腺腫と副膵を合併した1例を経験したのでここに報告する.

研究

進行胃癌における血管侵襲の臨床病理学的解析―予後に関連した血管侵襲の判定規準を中心として

著者: 長尾孝一 ,   松嵜理 ,   井出源四郎 ,   小野田昌一 ,   磯野可一 ,   佐藤博 ,  

ページ範囲:P.677 - P.685

 進行胃癌の予後を考える上には,種々の因子があるが,そのなかでも癌細胞による血管変化は血行性転移の観点から大きな意義をもっている.この癌細胞による血管変化の臨床病理学的な検索には,血行性転移が実証できる剖検例から得られた種々の結果を手術材料に応用し,予後との関係を調べることが良いと考えられる.

 胃癌の血行性肝転移が大循環系臓器転移の一部としてみられることはむしろ稀で,門脈系血行性転移が大部分である.したがって,胃癌原発巣の癌細胞による血管変化を,血行性肝転移の有無により2つのグループに分けて検索した.さらに,その剖検で得られた血管変化を中心に摘出胃癌について予後および予後を決定すると考えられる諸因子との関係を調べた.また,「胃癌取扱規約」に述べられている血管侵襲に関する記載は必ずしも明確でないため,血管侵襲の意義を明らかにし,その判定規準を明らかにすることも本研究の大きな目的の1つとした.

一冊の本

Carcinoids of the Gastrointestinal Tract

著者: 竹本忠良

ページ範囲:P.584 - P.584

 とにかく,たいへん楽しく読める本である.たった133頁のうすい本であるせいもあるが,消化管のcarcinoidsという,ともすれば敬遠したくなる領域の本でも,平易な文章にたすけられて,たいした時間もかけないで読み通した.

 こういう内科医にも外科医にもまた基礎の研究者にもたっぷり栄養になるモノグラフが,どんどん出版されている外国の事情はかなりうらやましい気がする.医学生でもすこし熱心な学生なら興味をもってよむだろうと思っている.

胃と腸ノート

Gastritis erosiva及びGastritis verrucosaのX線像(1)

著者: 佐田博

ページ範囲:P.596 - P.596

 中心に陥凹,その周りに周堤のある“いわゆるタコイボ型びらん性胃炎”は,Gastritis erosiva(消失型,急性の滲出性病変)とGastritis verrucosa(存続型または疣状胃炎,慢性の増殖性病変)の二種類に分類される.

 Abelは,1954年の論文“Die Röntgen Diagnose der Gastritis erosiva”の中で次のように述べている.即ち,“消えるもの(Gastritis erosiva)”と“消えずに存続するもの(Gastritis verrucosa)”とのX線学的鑑別には,圧迫撮影が大きな武器になり,Gastritis erosivaは圧迫の程度を少し強めると隆起が見えなくなるもので,隆起内容が軟らかいためである.一方,Gastritis verrucosaは少し強い圧迫を加えても消えないWarzige Schleimhaut Erhebungenとして表現されるもので隆起内容はHyperplasieであると.以上のAbelのX線的観察の鋭さには,現在でも我々の舌をまくものがある.しかし,実際には彼のいうごとき圧迫撮影所見のみからでは,両者の鑑別は困難なことが多いことも事実であり,これは高度の技術を要求する圧迫撮影法自体のもつ困難な本質に起因すること大と言えよう.本欄では,6回にわたり,Gastritis erosiva及びGastritis verrucosaのX線像につき各型の症例を供覧する.さて本シリーズを始めるに当り,はじめに本病変の鑑別診断上,臨床的に問題になる点をまとめると表1のようになる.鑑別診断に当り,原則的な攻め方としては,

興味ある胃病変の病理解説(5)

著者: 下田忠和 ,   佐野量造

ページ範囲:P.608 - P.608

 3号で潰瘍型の悪性リンパ腫は進行癌との鑑別が必要であることを述べた.今回はこの両者について症例を呈示し,2,3の鑑別診断について述べる.

 症例5.26歳 女(O-6455)

腹部単純撮影でとらえられる腹腔内病変(3)―Positive densityの読み

著者: 片山仁

ページ範囲:P.642 - P.642

 1.腹水貯溜の場合

 び漫性の陰影増強があり腹部実質臓器の輪郭が不鮮明となる.その他,腸係蹄の解離像(腸係蹄の間に腹水がたまるため),背臥位における肝楔状陰影の消失,側腹壁の外方膨隆,側腹線(properitoneal fat line)の消失,側腹線と腸管の異常解離などがある.これらはascites signとして一括される.骨盤腔内に腹水が貯溜すると骨盤腔内に満月様,半月様,三日月様陰影を呈する.またretrovesical fossa(男性),retrouterine fossa(女性)に腹水が貯溜した場合,膀胱上外側に陽性陰影がみられ,その形よりdog ear signといわれる場合がある.腹水が腹腔内に全体的に貯溜した場合,背臥位像で腸管ガス像のcentralization(腸管が腹水中に浮いて中央に集る)があり,massによる腸管の圧排(lateralization)と対比される.また,単純撮影ではないが,腹腔動脈造影のhepatogram phaseで濃染された肝実質陰影と側腹壁の間の距離が腹水貯溜のため開くことはしばしば経験するところである(lateral liver border sign).

膵癌の血管造影の意義とX線所見(2)

著者: 有山襄 ,   池延東男 ,   河合信太郎

ページ範囲:P.670 - P.670

 悪性腫瘍の血管造影所見として

 ①腫瘍の血管への浸潤像または閉塞像(encasement,occlusion),

 ②腫瘍による血管の圧排(displacement),

 ③腫瘍内の血管新生(neovascularity),

 ④腫瘍内壊死巣への造影剤流入(pooling),

 ⑤腫瘍濃染(tumor stain),

 ⑥動静脈短絡(A-V shunting)

十二指腸ファイバースコープの食道内反転嵌入

著者: 大井至 ,   土岐文武 ,   竹本忠良

ページ範囲:P.676 - P.676

 内視鏡の抜去時に,スコープが反転していてその先端部がU字型に噴門に,あるいは食道にまで嵌入してしまって,引っかかり抜けなくなるという偶発事故が,一昔前内視鏡では稀にはあった.このことは,すでに「胃内視鏡の抜去困難例」として,ある本にも自らの経験例もふくめて書いたことがある.もちろんこのような偶発事故は,幸いごく稀にしかおこらない.最近の海外の報告では,Endoscopy(Thieme)にWiendlがGTF-Aで反転したときに,先端が食道に嵌入してしまって手術により抜去した例が目についただけである.

 以前のアングルのないファイバースコープでかなり無理して反転させたり,硬い胃カメラなどでは,このような偶発事故もおこりうるであろうが,今日の優秀なファイバースコープでこのようなことがそうおこるとはおもわれない.ところが,現実にその事態がおこったのである.あらためて注意をうながす意味で述べておこう.

--------------------

欧文目次

ページ範囲:P.579 - P.579

書評「新臨床内科学」

著者: 山村雄一

ページ範囲:P.583 - P.583

 近年における内科学の進歩はめざましく,その包括する範囲はますます大きくなっている.かつては2冊もしくは3冊の部厚い本におさまった内科学という学問は,簡略に記載しても4冊以上のボリュームとなり近い将来には5冊にも6冊にもしないと教科書として完壁を期することができなくなっている.

 このことは内科を専門とする者に大きな負担となっているのみではなく,内科学では何からはじめて何を要領よく学んでゆくかということが重要な課題となっている.まして,いわんや卒後の研修に励む医師や,在学中の医学生にとっては,内科学はその巨大さにおいて,まず圧倒される思いのする学問のように感じられることだろう.

書評「Gastric Intrinsic Factor and Other Vitamin B12 Binders」

著者: 奥田邦雄

ページ範囲:P.624 - P.624

 胃液内因子,ならびにその他のビタミンB12結合蛋白の研究は,約120年前にAddison,Biermerらによって悪性貧血の症例が記載されて以来,1926年Minotによる肝臓療法の有効性とそれに続くビタミンB12の発見,さらにCastleの胃液内因子の発見という歴史を経て現在に至っている.臨床的に悪性貧血は現在その名前と裏腹に,貧血の内でも良性に属しているが,一方,生命の追求という研究的側面から見ると,ビタミンB12の吸収とそれに関与する因子,生体内の輸送,貯蔵の様式,更に造血に対する関与形式等の面で未だに解決されていない多くの問題を含み,ホルモン等,他の物質と同様にその研究は生体の多方面に亘り多くの神秘さを提供してくれる.

 さて,本書は以上のような多くの面のうちで,特に胃液内因子を中心としビタミンB12結合蛋白を綜説的にまとめたものである.序に記されているように,1970年Glass(N.Y.医科大学消化器研究室所長)がGlycoproteinと称される書物の内の胃液内因子,ならびにビタミンB12結合蛋白の項のために書き始めた近刊で,文献はup-to-dateである.本著の目的は今までに発表された情報を提供するということであり,そのために165頁中45頁が参考文献でしめられている.しかし,内容はこのような本にありがちな統一性に欠けるところがないのは著者Glassの実力を示すものであろう.また,参考文献がこのように多いことは専門家にとって有難いだけでなく,初心者に研究の緒を与えてもくれる.

書評「免疫学からみた肝臓疾患―臨床免疫学叢書 5」

著者: 上野幸久

ページ範囲:P.650 - P.650

 肝臓病と免疫については,わが国において,かなり以前から石井・山本教授,長島教授らによって研究されて来たものの,本格的にこれと取り組んでいた研究者は少なかった.肝炎の持続あるいは進展の機序として,PopperあるいはMackayらによって自己免疫の関与が提唱されて注目を集めたものの,体液性抗体だけで肝炎の慢性化を説明するには無理があった.

 HB抗原(オーストラリア抗)原の発見により,肝疾患患者における肝炎ウイルスの長期持続感染という事実が明らかとなってから,自己免疫説は一時影が薄くなったかにみえた.ところが細胞性免疫とその異常が諸種疾病の成立に重要なかかわりあいをもつことが認識されるに到って,これが肝臓病の研究領域にも導入されるようになり,HB抗原の病的意義も,個体の免疫異常との関係において論議されるようになった.最近の肝臓病関係の諸学会,研究会では各施設からこの方面の発表が相次ぎ,T-Cell,B-Cell,MIFといった名前が多くの研究者の口から機関銃弾のように放たれ,肝臓病,とくに慢性肝疾患を論じるには細胞性免疫を中心とした免疫学的検索を行なっていないと相手にされ難いのが現状となっている.

海外文献紹介「大腸癌研究のためのrat model,腫瘍形成に関するcholostyramineの効果」/他

著者: 酒井義浩 ,   丸茂圭子 ,   小林世美

ページ範囲:P.634 - P.636

A Rat Model for Studying Colonic Cancer: Effect of Cholestyramine on Induced Tumors: Norman G. Nigro, Nagalingappa Bhadrachari and Chairat Chomchai (Dis. Col. Rect. 16: 438,1973)

 体重100~150gのSprague-Dawley種オスratを用いて2実験を施行.第1実験は3群に分け1,2-dime thyl hydrazine(以下DMHと略)15mg/kg週1回皮下投与群,azoxymethane(以下AMと略)8mg/kg週1回皮下投与群,対照群とし,それぞれ24匹.全ratに普通飼料を与う.9カ月で屠殺し剖検.

編集後記

著者: 佐野量造

ページ範囲:P.686 - P.686

 大分以前に「胃と腸」編集会議に於てカルチノイド特集号の企画が提案されたが,稀有な腫瘍として本邦例は少なく,時期尚早であるとのことでみおくられたことがある.しかし,ここ2~3年間にカルチノイドの症例報告が急激に増加していることは確かである.その原因は臨床諸氏のこの腫瘍に対する関心のたかまったことにもよるが,それ以上に胃生検によって術前にカルチノイドの診断が可能となったことが大きく貢献しているものと思う.

 本号では臨床診断,機能,病理及び実験面から綜合的にカルチノイドの実体を詳述しているので,これによって読者はカルチノイドの何であるかを知ることが出来るものと考えている.

基本情報

胃と腸

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1219

印刷版ISSN 0536-2180

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?