今月の主題 消化管カルチノイド
主題
胃カルチノイドの臨床診断
著者:
小黒八七郎1
下田忠和2
佐野量造2
所属機関:
1国立がんセンター内科
2国立がんセンター病理部
ページ範囲:P.585 - P.595
文献購入ページに移動
1907年,Oberndorferは小腸腫瘍のうちで,組織学的には癌ににているが,臨床的には良性の経過をとる病変を観察し,これをカルチノイド,carcinoidと呼んだ.その後の報告によると,カルチノイドは虫垂に最も頻度が高く,次いで小腸,直腸や胃にもみられているが,全体としては比較的,稀な疾患である.近年,カルチノイドはセロトニン(5-HT)を始めとして,ヒスタミンやカリクレインなどを産生する一種のfunctioning tumorであることが明らかとなって,病態生理学的にも注目されてきている.これらの物質の影響によって,臨床的にはいわゆるカルチノイド症候群,即ち,顔面及び四肢などの紅潮,即ちflush発作,下痢及び気管支喘息などがあげられており,臨床生化学的には血中5-HTの上昇,尿中5-HIAA(5-Hydroxy indole acetic acid)の増加を証明するとされているが,概して,胃カルチノイドにおいてはこれらの認められる頻度は少ないようである.病理組織化学的には銀親和性反応argentaffin reactionもしくは好銀性反応argentphilic reactionを認めることによっても診断される.
近年,胃生検法の進歩によって,次第に手術前に胃カルチノイドの確診の得られた例が報告されてきている.胃カルチノイドの多くは緩徐の経過をとるものの,一部では肝転移を来して,予後の不良のこともあるので,臨床診断は慎重でなければならない.