大腸原発性Linitis plastica癌―3例報告と文献的考察
著者:
渡辺騏七郎
,
武川昭男
,
磨伊正義
,
浅井伴衛
,
高松脩
ページ範囲:P.243 - P.252
“Linits plastica”癌という用語は,長い間胃に限って考えられ,使用されてきたが,1931年Coe1)の記載により,腸のlinitis plastica癌が注目され始めた.すなわち,彼は胃のlinitis plastica癌の転移による左右結腸曲と直腸のsecondaryのlinitis plastica癌の1例を報告し,腸におけるこのような症例の記載はこれまで教科書やレ線関係文献にないとした.しかし,1936年Dixonら2)は,1つあるいはそれ以上の腸を侵すlinitis plastica癌をCoe以前の報告も含め37例引用し,自験症例6例と合わせ43例記載した.David(1931)3)の胃の状態に関する言及がない直腸の1例,および自験症例1例の胃空腸吻合術後11年経ても生存中の幽門および十二指腸第2部に病変があった症例(組織検査非施行)も含めているが,Dixonらはこれらはすべて胃癌の転移によるものと考えた.その後,今日まで約100例の大腸のsecondaryのlinitis plastica癌の報告をみているが,そのほとんどが胃癌,すなわち胃のlinitis plastica癌の転移によるものであり4),ごくまれに乳癌5),胆囊癌6)からの転移によるものが知られている.大腸原発性のlinitis plastica癌が初めて提起され,記載されたのは1951年のLaufman and Saphir7)の4例報告に始まる.その後,ごく最近まで29例の大腸原発性のlinitis plastica癌の報告をみるにすぎず(次頁Table 1),きわめてまれである.Fahlら8)によれば,1930年から1953年までの間にMayo Clinicで剔出された大腸癌12,000例のうち,11/例がlinitis plastica typeであったとしている.ただし,彼らはそれらに関して,大腸原発性である根拠は何も言及していない.また,Pineda and Bacon9)によれば,1,778例の大腸癌のうち3例がlinitis plastica癌で,そのうち1例は胃に悪性変化はなかったと記載している.primaryのものは勿論のことsecondaryのものもきわめてまれといえる.
著者らは大腸原発性のlinitis plastica癌の3例を経験したので報告し,これまで報告された症例と合わせ,大腸原発性のlinitis plastica癌の臨床病理学的特微を検討した(剖検がなされていず,胃の状態に何ら言及がなされていない症例はprimaryの収載から除外した).