胃潰瘍の癌化について―臨床的follow upを中心に
著者:
原義雄
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小越和栄
,
飛田祐吉
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丹羽正之
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斉藤征史
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栗田雄三
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筒井一哉
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佐藤正之
,
千原明
,
木滑孝三
,
堀川紘三
,
村川英三
ページ範囲:P.565 - P.572
潰瘍からの癌化の可能性の有無につき論じた研究は数多い.しかし,これを論ずる方法には,①切除された胃について,組織学的に検討する方法(主として,外科医,病理学者の行っている研究の方法)1)~6)と,②潰瘍患者の長い経過を追って検討する方法(主として,内科医の行っている研究の方法)7)~13)16)とに大別できる.そして後者,すなわち潰瘍患者を長い経過を追って検討する場合にも,さらに(a)灘治性潰瘍をずっと追跡する方法と,(b)搬痕治癒した潰瘍患者を追跡する方法とがある.しかし,(a)灘治性良性潰瘍と思って追跡しているうちに癌であった場合,果してその潰瘍が最初から悪性でなかったとの完全な証拠はない.というのは,生検,細胞診がひろく行われるようになってきた今日でも,生検が陰性であったからといって,その潰瘍が悪性でなかったとの断定は完全に正しいとはいえない.そのうえ,難治性潰瘍は多くが早晩手術されてしまい,長い経過を追求することが難しい.また,(b)瘢痕治癒した潰瘍の瘢痕部から癌が発生するか否かを検討する潰瘍治癒後のfollow up studyについても村上ら14),岡部ら15),その他により,悪性サイクルなる事実が実証されて以来,療痕治癒したその部から癌が発生したとして,それが良性潰瘍瘢痕からの癌化とはいえなくなった.したがって,このような事実をふまえて,なお潰瘍の癌化を証明するためには,瘢痕化したさい,その部の完全な生検を行うことが必要である.そして陰性だったことを確認し,そのような多くの症例が後に癌にならなかったか,あるいはかなりの率で癌になったかを判定すればよい.しかし私共は,せっかく治した潰瘍患者の療痕部を生検して,再び潰瘍をつくることに良心的に賛同できず,これは行わなかった.勿論,悪性サイクル症例が疑われる場合,発赤など,周囲粘膜との色調の変化を呈する揚合,凹凸の強いものなどには必らず生検を行った.
いずれにせよ,潰瘍から癌化した瞬間,1つの細胞が癌化したとき,それを目撃する方法がない今日,本当にそれが潰瘍搬痕からの癌化であったという断定は誰にもできないのであって,多数例につき検討してその趨勢を知り,その上に仮説を立てることしか,現在とるべき道はないと考える.そこで,私共は昭和36年4月より,新潟がんセンターにおいて取扱った胃潰瘍患者のうち,治癒した症例をできる限りその後も忠実に追跡して,その中で潰瘍と思っていたものが胃癌となったというものについて,検討した結果をこれまでも報告したが16)ここに更に詳しく報告してみたい.