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文献詳細

雑誌文献

胃と腸11巻5号

1976年05月発行

今月の主題 胃潰瘍癌の考え方

主題

胃潰瘍の癌化について

著者: 大原毅1

所属機関: 1東京大学医学部第3外科

ページ範囲:P.591 - P.598

文献概要

 慢性胃潰瘍が癌化するか否か,即ち胃潰瘍癌が存在するか否かの問題は,Hauser1)がその基準を示し,Newcomb11)が更に詳細にその基準を設定して以来,論議の対象となってきた.そして,その頻度も3.5~100%の差を示している11).わが国でも,久留4),村上6)7),太田12),長与10)らの研究により,胃潰瘍癌は比較的多いとされていた時期があった(32~79%)13).しかるに近年,中村ら8)9)の微小胃癌の研究によって,一転,胃潰瘍癌は殆んど存在しないという説にかたむいている.その後は,臨床的および病理組織学的な胃潰瘍癌の研究は現われておらず,わずかに,大原16),斎藤17),白井ら20)による実験的な胃潰瘍癌発生の検討がなされているのみである.このように胃潰瘍癌の頻度が大きくゆれ動いたのは,検索材料による差もさることながら,①慢性胃潰瘍からの癌化といっても,潰瘍を覆うべき未熟な再生上皮からの発癌であるか,あるいは,潰瘍辺縁の胃炎性の変化からの発癌か,それとも単に潰瘍と癌とが重なっていることだけを考えたのか,それが論じられることが少なかったこと,②潰瘍癌とする病理組織学的な判定基準が,きわめてあいまいであったこと

―すなわち潰瘍先行と考えられた粘膜筋板と固有筋層との融合の所見が11)12),事実であるかどうかの点,③臨床的な経過観察により,慢性胃潰瘍から癌化したと思われる症例がきわめて少なく,一方内視鏡的経過観察の結果,悪性サイクル5)7)という概念が明らかになってきたこと―などによると思われる.

 したがって,胃潰瘍癌は,すべての面から再検討されるべきものであり,本稿では,はたしてそれが存在するか否かの原点にたち帰って検討し,次に,存在するとすれば,どのような組織病理学的な特徴を有するかを考えてみたい.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1219

印刷版ISSN:0536-2180

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