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文献詳細

雑誌文献

胃と腸11巻5号

1976年05月発行

胃と腸ノート

胃・十二指腸潰瘍の局所療法のコツ(2)―ステロイドホルモンの用い方

著者: 中川健一1 並木正義1

所属機関: 1北海道大学医学部第3内科

ページ範囲:P.647 - P.647

文献概要

 局所注射療法のコツは,それぞれの患者について,その病態を的確に把握し,潰瘍の病期stageに応じて薬剤を選択し,薬用量を考慮することであると前回述べたが,薬剤の面では,とくにベーターメサゾンの用い方が一番のポイントである.潰瘍をつくるとさえいわれ,また本症には一般に禁忌とされているステロイドホルモンを,胃潰瘍の治療にあえて用いたのには,それだけの考えと裏づけがあってのことである.治りづらい潰瘍というものは,その治癒過程において歪が生じ,ことに潰瘍辺縁に過剰な結合織の増生,つまり線維化fibrosisがおこり,硬くなり,それがひいては潰瘍自体の縮小をさまたげる大きな原因になっていると考えた.潰瘍の辺縁が非常に硬ければ,いくら潰瘍治療剤を服用したとて縮小しようにも縮小できないのではなかろうか.それではこの辺縁の強い線維化をとり除き,柔らかくしてやれば,縮小への方向に向うであろうと考えた.いいかえれば,旧い潰瘍は治りにくいが,新しい潰瘍は治りやすい,それなら旧い潰瘍をいったん新しい潰瘍にしてやれば,治りやすくなるのではなかろうかと思い,この目的にステロイドホルモンを用いたわけである.もちろんステロイドホルモンの効果としてこれがもつ抗炎症作用に期待するところも大であった,そして数あるステロイドホルモンの中からとくにべ一ターメサゾンを選んだのは,その強い抗炎症,抗アレルギー作用についての期待もさることながら,水溶性で速効的である点,好都合であったからである.このような作用を有するステロイドをどのstageで用い,どこで中止し,またどういった時に再度追加するかが用い方のポイントであり,本療法のコツでもある.それは個々の例によって違うが,基本的には辺縁の硬い潰瘍が柔らかくなり,内視鏡的に新鮮潰瘍の顔付きをしたところでステロイドの使用をいったん中止し,アラントイン単独注射にする.ステロイドホルモンはやはりむやみに打ち続けてはいけない.下手をすると潰瘍を増大させる可能性があるからだ.

 一週に一度のアラントインの局注によって,やがてそのまま治癒してしまえばよいが,もし潰瘍がぐっと縮小しながらも,あるところまできて治癒傾向がストップしてしまったような場合は,その時点でいま一度,潰瘍底に少量のステロイド(ベーターメサゾン0.8~1.2mgを1~2回)を注射してみる.そうすると,それを契機に治癒に向うことがしばしばある.またベーターメサゾンの注入のコツは1カ所に多量注入するのではなく,少量(0.8~1.2mg)を数ヵ所に分注するのがよい.十二指腸潰瘍にはステロイドホルモンは用いていない.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1219

印刷版ISSN:0536-2180

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