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文献詳細

雑誌文献

胃と腸11巻7号

1976年07月発行

文献概要

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書評「胃―その形態と機能―」

著者: 岡部治弥1

所属機関: 1北里大学

ページ範囲:P.846 - P.846

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 本書のユニークさについてはすでに藤田晢也教授による序,編者川井教授による自序により,きわめて簡潔明快にしめされている.それをここにしめせば,さらに書評の駄文は必要とせぬが,年来の畏友川井教授より是非と依頼されたので,敢えて駄足を加えてみたい.この10年来,胃診断学に関する新刊書はまさに踵を接して出版されてきたと申しても誇張ではあるまい.その幾つかはそれぞれX線,内視鏡,病理学の分野で名著としての確固たる地位を斯界に誇っている.それらは高度なレベルにある胃診断技術の良き指導書として数多くの消化器病の臨床にたづさわる医師を育成してきた.本書の編者やその同門の執筆者もその多くは,またこの胃診断学の発展に大いに寄与しかつ彼等自身で新しい診断技術を開発して来た人達である.これらの人々によって成った本書の特徴は,そのすぐれた診断技術と知識を基盤として,しかし焦点を形態学的異常と機能との関連性にしぼり,その焦点に広い角度から分析を加えている点であろう.従来,このような視点から1冊にまとめられた本はない.本邦の消化器病学はその形態学的診断学は他国の追随を許さぬが,その病態生理学的研究のレベルは欧米の後塵を拝しているといわれ,かつ痛感して久しい.確実かつ早期の診断即現時点における唯一無二の治療である胃癌に関しては形態学的診断学の進歩は不可欠であり,本邦におけるその業績は輝やかしい.しかしその底辺に膨大な数をしめている消化管の機能異常を主とする,または伴う疾患については,その形態学的異常と共に病態生理,病態生化学の理解なくしては最良の治療は行なえるものではない.その機能面の追究は診断学よりもむしろ治療学に密接につながるものであろう.医学における最終の目的は予防をふくめて治療学の完成である.形態と機能の相関に焦点をあてた本書の存在意義はこの点からも大変大きい.その内容は川井教授がかつて属していた伝統ある消化器教室の中で先輩,同僚および後輩の共同研究者と共につみ重ねて来た研究の成績が随所に紹介されており,前々から,この観点にたった研究をすすめてきたことがよくわかる.そのテーマの正鵠を得ていることに敬意を表し,それを見事に開花させている多くの研究者のチームワークに心から祝福を送りたい.このユニークな本書の一読を推める所以である.新しい教室を開いた川井教授の発展と共に本書がますます完成されてゆくことを心から期待している.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1219

印刷版ISSN:0536-2180

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