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雑誌目次

雑誌文献

胃と腸12巻11号

1977年11月発行

雑誌目次

今月の主題 腸結核(1)―小腸を主として 巻頭対談

腸結核―鑑別診断をめぐって

著者: 岡治道 ,   望月孝規

ページ範囲:P.1449 - P.1453

 望月 本日先生をおたつね申し上げましたのは,腸結核のお話をうかがうためでございます.この十数年の間,胃の疾患にっいてはわが国では診断の方法が普及し,また正確な診断が下せるようになりました.それと同じように腸の疾患にっいてもしっかりした診断を下さねばならないとおもっていますので…….

 岡 だけれども,いま腸結核はないでしょう.

 望月 はい.しかし,それ以外にいろいろな腸の非腫瘍性の病気があります.潰瘍性大腸炎とかべ一チェット病の潰瘍や,Crohn病などもそうです.

 岡 Crohn病の名前だけ知っているけれども,見たことはないです.

主題

腸結核のX線検査理論

著者: 白壁彦夫

ページ範囲:P.1455 - P.1466

 腸結核性病変の諸型を黒丸は8型に分けた(1932).1,2,3型は点である.6,7型は点が大きくなって面を作りっつあると考える.4型は帯状(横行の線状の要素があると考える)で,5型は縦走するものである.8型は横走と縦走の両要素をもった面である.点,線,面の考え方,線状とその方向,それに多発,などの組合せの要素を考えて診断に対処することになる.

 臨床の実際では,点だけの病変で症状を訴え検査にまわってくることはない.これらは,合併病変として診断的興味の対象となるだけである.また,診断の限界を調べ,他疾患の診断に転用することに意義がある.

腸結核の小腸X線像の分析

著者: 八尾恒良 ,   小川清 ,   下田悠一郎 ,   渡辺英伸

ページ範囲:P.1467 - P.1480

 近年,抗結核療法の進歩,普及に伴い,病理学的には腸結核が非特異性炎症の像を示すにとどまる症例が数多くみられるようになり1)~3),クローン病との異同が問題にされてきた4)~6).欧米,とくに米国においては,腸結核に関しては散発的な報告をみるのみで,稀な疾患として片付けられ,十分な臨床的病理学的研究がなされていない.しかし,本邦においては,腸結核は決して稀な疾患ではなく,臨床の場では,最近散見されるクローン病との鑑別に苦慮することが少なくない.

 そこでわれわれは,腸結核の診断をより正確なものにするために,病理学的に腸結核と確診された10例の小腸X線像の分析を試みた.

腸結核の病理

著者: 渡辺英伸 ,   遠城寺宗知 ,   八尾恒良

ページ範囲:P.1481 - P.1496

 腸結核はほとんどが人型結核菌に原因しており,従来肺結核の合併症として問題にされてきた.すなわち,抗結核剤が使用される前には,剖検例の肺結核症患者のうち,28%から90%に腸結核の合併があり2)9)14)17),X線検査で肺結核を有する患者には6.3%から38%に腸結核が見られている7)11.しかも腸結核の出現率は肺結核の進行程度に比例し11),滲出型,空洞性また崩壊型の肺結核のときに高い2)9).これは喀痰中の結核菌が嚥下され,管腔性に腸病変を形成するからである.腸結核の発生はこの管腔性経路がほとんどで,血行性やリンパ行性によることはごくまれである8)9)13)

 一方,結核症が肺にない「原発性腸結核」例も古くから報告されている.それは剖検例腸結核の中で,4.8%ないし5.1%とされていた17).しかるにHoonら(1950)は55例中9例(15.5%)に,Wigら(1961)は67例中37例(55.2%)に,さらに近年,丸山ら(1975)は12例中10例に原発性腸結核を見ている.

全割による再構築からみた小腸結核のX線像―瘢痕を中心として

著者: 政信太郎 ,   入佐俊昭 ,   西俣寛人 ,   徳留一博 ,   西俣嘉人

ページ範囲:P.1497 - P.1509

 腸の検査法が進歩し,潰瘍性病変の発見も容易になってきて,従来わが国に少ないとされていた潰瘍性大腸炎,クローン病に対する関心も高まってきた.当然ここでわが国に多い腸結核がこれらの炎症性疾患との鑑別の対象として,大きくクローズアップされてきている.腸結核のX線診断に関する外国文献は数多いが,今日これらに基づいてX線診断に臨んでみても確診に至らない症例が少なくない.

 それは従来の診断学が総括的な所見だけで,肉眼所見の裏づけに乏しいこと,もう1つは腸結核自体が化学療法によってその様相が変わってきており,今日われわれが対象とするものには,黒丸の分類にみられるopen ulcerが少なく,瘢痕が大部分を占めるようになったためであろう.

腸結核の現況

著者: 島尾忠男

ページ範囲:P.1511 - P.1518

実態を知る難しさ

 化学療法が出現する以前には,肺結核患者では腸に結核性変化がみられるのはふつうのことと考えられていたが,腸の結核性病変は化学療法にきわめて良く反応し,症状も短期間に消失するので,最近の日常診療では腸結核のことはあまり念頭におかずに診療が進められている場合が少なくない.また実際に腸結核の診断はなかなか困難である.特有の症状がなく,客観的な診断が難しい場合には,腸結核になっていても,本人が気づかずに受診しない場合も多いし,受診したとしても医師のほうが腸結核のことは考えに入れていないため必要な検査が実施されず,そのために発見されない症例もあるであろう.またたとえ検査をしたとしても,発見されない場合があることも考えられる.最近の文献をみると,手術や剖検で初めて腸結核と診断された例の報告が目立っているが,このことも腸結核の減少,それに伴う関心の低下,および腸結核を診断することの難しさを示している.

 最近の腸結核について検討する対照として,まず化学療法が出現する以前の腸結核について,手短かに触れておこう.結核の初感染が腸に起こるのは例外的にみられるだけで,腸結核のほとんどすべては肺や気管支の結核性病巣から,結核菌が管内性に転移を起こして,まずリンパ濾胞につき,そこからさらに病変が進展するものと理解されている.肺結核と腸結核の病変を対比させて研究した代表的なものの1つとして,黒丸1)の研究成績を紹介してみよう.この研究は肺結核患者352例の病理解剖を行ない,腸結核についても詳しく観察し,肺と腸の病変の重さの相関をみたもので,成績をTable 1に要約してある.軽度の病変まで含めると,肺結核患者の全例に腸結核が認められている.腸結核病変が重いものは46%で,肺病変が重い場合に腸の病変も重いものが多くなっている.肺病変の病型別にみると滲出型結核では腸結核の重いものが55%で,増殖型の37%よりかなり高い.この成績が示しているように,化学療法が出現する以前には,肺に結核菌の排菌源となるような病巣があれば腸に結核性病変がまずあると考えてよかった.ただしこれは病理解剖で得られた所見なので,これらの例のすべてが臨床的に腸結核の症状を示し,検査の結果腸結核があると診断されていたわけではない.しかし臨床医としては,たえず腸結核の存在を念頭において診療していたことは確かなことである.

症例

小腸に多彩な潰瘍を認めた腸結核の1例

著者: 武田儀之 ,   中山卓 ,   下田悠一郎 ,   北川晋二 ,   西原春實 ,   松井正典 ,   松浦啓一 ,   渡辺英伸

ページ範囲:P.1519 - P.1525

 クローン病の鑑別すべき疾患として,腸結核が再び問題にされるようになった.抗結核剤の開発に伴い,結核の症例は少なくなったとはいえ,本邦においては,腸の潰瘍性病変をきたす疾患のうち腸結核が占める比率はまだ少なくない.われわれは,最近,腸閉塞をきたしたため手術を施行し,病理学的検索を行なうことができた腸結核の1例を経験し,小腸の病変についてX線学的に検討したので報告する.

症例

 患 者:M. M. 56歳 男性

 主 訴:腹部膨満感,下腹部痛

 前病歴・家族歴:特記すべきことなし

 現病歴:1975年10月末より食欲不振,便秘をきたすようになり,その後,腹部膨満感および下腹部痛を伴うようになった.1976年1月5日,某医受診し,経口腸および注腸X線検査を受け,小腸および大腸に異常を指摘されて,1976年2月10日,精査のため当科へ入院した.なお,1975年10月より入院時までに約8kgの体重減少をきたしていた.

胃の平滑筋芽細胞腫(Leiomyoblastoma)の3例

著者: 柏崎修 ,   鈴木博昭 ,   藤巻延吉 ,   岩淵秀一 ,   山下広

ページ範囲:P.1527 - P.1532

 1960年,Martinら1)が,核を取り囲む透明帯が存在する特異な細胞形態をとる胃の平滑筋肉腫をmyoid tumorと初めて記載し,さらに,1962年にStout2)は,いわゆる胃筋腫とは異なり,筋原線維を有せず,円形または多角形の細胞からなり,核周囲透明帯が存在する胃腫瘍を変型平滑筋芽細胞腫(bizarre leiomyoblastoma)と名付けることを提唱した.

 本邦においては,1965年に久保ら3)が3例の本腫瘍を報告して以来,胃のleiomyoblastomaの報告は8例を数えるのみである.

直腸の広範なVillous tumor

著者: 猪口嘉三 ,   弓削静彦 ,   山川良精 ,   足達剛 ,   福嶋博愛 ,   工藤殷弘

ページ範囲:P.1533 - P.1538

 大腸の隆起性病変の中でもvillous tumorは本邦では比較的稀なもの1)とされ,その特異な臨床像と組織学的特徴は興味あるものである.

 われわれは最近,直腸に広範に発生し一部で筋層にまで浸潤したvillous tumorの1例を経験したので以下,その大要を報告し,あわせて若干の文献的考察を加えておきたいと思う.

双生児にみられた家族性大腸ポリープ症の2例

著者: 加藤清 ,   赤井貞彦 ,   島田寛治 ,   小林晋一 ,   鈴木正武

ページ範囲:P.1539 - P.1546

 家族性大腸ポリープ症は大腸全域にびまん性に無数の腺腫性ポリープを発生し,放置すれば高率に癌化を来す家族性発生が濃厚な疾患である.1882年Cripps1)の兄妹2例の報告以来,その発生機序および癌化の点で興味ある疾患として注目され,最近諸家の報告も散見されるようになった.諸外国,とくに英米両国においては長年月にわたる観察例を有し,本邦においても宇都宮ら2)が394例余の全国集計例を報告している.

 著者らは27歳,一卵性双生児の男子2例に本症の発生をみ,明らかな癌性変化を認めたが,術後3年余経過した現在再発なく正常に社会復帰している症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

研究

いわゆる家族性大腸ポリポージスの上部消化管病変

著者: 牛尾恭輔 ,   阿部荘一 ,   光島徹 ,   木村徹 ,   森山紀之 ,   高杉敏彦 ,   岡崎正敏 ,   松江寛人 ,   笹川道三 ,   山田達哉 ,   小黒八七郎 ,   小平進 ,   北條慶一 ,   小山靖夫 ,   板橋正幸 ,   広田映五 ,   市川平三郎

ページ範囲:P.1547 - P.1557

 われわれは,皮膚や体表などに著変なく,家族性大腸ポリポージスと診断されていた患者について全身の検索を行ないその結果,胃,骨,顎骨,歯牙,軟部組織その他の部位に腫瘍性病変を高頻度に認め,家族性大腸ポリポージスとGardner症候群は同一疾患に属するものであろうと主張してきた1)~3).今回はその蓋然性について,上部消化管病変,特に十二指腸病変の観点から追求し,さらにこの上部消化管病変の特徴について新しい知見を得たので報告する.

検索対象

 対象は,Table 1,2に示すように全例家族性の発生をみた14家系に属する30症例(男性22症例,女性8症例)である.年齢は7歳から57歳で,10歳未満2症例,10歳台8症例.20歳台8症例,30歳台7症例,40歳以上5症例である.

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欧文目次

ページ範囲:P.1447 - P.1447

第2回「胃と腸」賞贈呈さる

ページ範囲:P.1453 - P.1453

 第2回「胃と腸」賞の贈呈式は9月21日(水),早期胃癌研究会の例会会場で行なわれた.本賞は「胃と腸」誌創刊10周年を記念して設けられ毎年「胃と腸」に掲載された論文の中から優秀論文を選び贈呈される.

 今回の入賞論文は小林茂雄・西沢護氏共著「小腸二重造影法」(「胃と腸」第11巻2号157~165頁).

書評「消化管出血と緊急内視鏡検査」

著者: 相馬智

ページ範囲:P.1480 - P.1480

 Urgent endoscopyという概念は,最近では単なる新しい言葉としてではなく,多くの施設で実際にroutine workとして行われるようになりつつある.一時代前までは消化管からの大量出血時には,その疾患の診断はおろか,その出血部位が食道なのか,胃か十二指腸からなのか,部位の決定さえおぼつかなく,私達外科医はshockの治療に追われるだけで,何を目標に手術の計画をたてるべきか,手をこまねくことも稀ではなかったのである.

 しかし最近では,この本の編者である竹本教授や鈴木助教授を中心とする進歩的な研究者の勇気と辛苦により,緊急内視鏡検査も確立されてきた.大量出血時でも内視鏡検査が行なわれ,診断が確定されて外科に送られたり,あるいは一時的にせよ内視鏡的止血により状態が改善されてelectiveに外科的処置が行なえるようになった.一時代前からみると雲泥の差である.

書評「大腸疾患―その診かたと対策」

著者: 岡部治弥

ページ範囲:P.1496 - P.1496

 本書は松永名誉教授が弘前大学における現職時代の昭和25年頃から,その後約四分の一世紀にわたり,当時本邦においては関心の薄かった大腸疾患に焦点をあわせ,教室をあげてコツコツと進めて来た臨床研究を中心としてまとめ大腸に関する最新の知識を盛った綜合的な一書である.

 たとえば当時本邦においては稀であるとして興味を全くひかれていなかった潰瘍性大腸炎の研究もその1つであるが,本症は現在難病特定疾患の1つとして本邦でも広く研究されるにいたっている.また現在大腸疾患の診断に不可欠であり広く世界で使用され初めているColonofiberscopeも,その開発は松永教室においてSigmoidoscopeの研究にひきつづいて行なわれたものであり,現在ほぼ完成を見ているその診断技術の確立も,この教室において熱心に研究された成果であることは,またよく知られているところである.

書評「〈パーマー〉消化器病学のポイント」

著者: 亀田治男

ページ範囲:P.1510 - P.1510

 書物には,それなりの目的と特徴とが明らかにされていること,そして読む人にとって,他書とは違った収穫のあることが必要である.本書はこのような特質を備えた良書の1つであるといえる.

 この書は,Palmer教授が元来New Jersey大学の学生・卒業生の消化器病学(胃腸管・肝・胆道・膵)教育のテキストとしてまとめたもので,記載は簡にして要を得ており,内容は理解しやすく覚えやすい.

書評「急性代謝障害の経静脈栄養法」

著者: 武藤輝一

ページ範囲:P.1532 - P.1532

 すでにAllenとLeeによる著書“A Clinical Guide to Intravenous Nutrition”が内藤良一,谷川十三生,須山忠和の3氏により邦訳され『完全静注栄養』の表題で出版(医学書院)されたことがある.当時この3氏の研究心も含め経静脈栄養に寄せられる熱意に感心したものである.今回,関西医科大学外科の山本政勝教授を中心に前述の内藤氏に代って森末新一氏が加り5氏によりParenteral Nutritionin Acute Metabolic Illnessが邦訳され『急性代謝障害時の経静脈栄養法』の表題で出版されることになった.編集者のLeeをはじめJohnston. Wilkinson,Wretlindその他の欧州の研究者により執筆されているが,この執筆者の中には栄養とくに経静脈栄養について数多くの業績を発表している人が少なくない,それだけに分かり易く,詳細に記述されている.

 第1編では経静脈栄養を中心とした歴史が,第2編では経静脈栄養を実施するに当って必要な基礎的知識が,第3編では経静脈栄養が必要とされる外傷や手術侵襲時の代謝面からみた病態生理が述べられている.第4編では経静脈栄養の臨床でのあり方,第5編では経静脈栄養の実際の施行方法が記載されている.つまり第2,第3編は基礎で第4,第5編が臨床応用ということになる.そして第6編では耐容性および毒性研究について触れており編集者の本書作製に当っての慎重な配慮が窺われる.

編集後記

著者: 武藤徹一郎

ページ範囲:P.1558 - P.1558

 「胃と腸」の「腸」文字を大きくすることによって,腸病変への取り組みを従前に増して強めることにした編集方針に沿って,“腸疾患の特集シリーズ”を企画中であるが,そのシリーズ第1号をお届けする.

 最初の主題は腸結核が選ばれた.腸結核は過去の疾患と思いきや,Crohn病などの炎症性疾患が注目されはじめるに従って,決して稀な疾患ではないことが認識されるようになった.岡先生が巻頭対談の中で,いみじくも指摘されているように,“いまの若い人々は結核を知らない”.この短い対談の中に,岡先生の数々の貴重な経験と観察が語られていて,まことに教えられるところが多く,温故知新ということをつくづく感じさせられた.先人の研究報告をもう一度熟読玩味しなければと思う.

基本情報

胃と腸

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1219

印刷版ISSN 0536-2180

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