文献詳細
今月の主題 腸結核(1)―小腸を主として
主題
文献概要
実態を知る難しさ
化学療法が出現する以前には,肺結核患者では腸に結核性変化がみられるのはふつうのことと考えられていたが,腸の結核性病変は化学療法にきわめて良く反応し,症状も短期間に消失するので,最近の日常診療では腸結核のことはあまり念頭におかずに診療が進められている場合が少なくない.また実際に腸結核の診断はなかなか困難である.特有の症状がなく,客観的な診断が難しい場合には,腸結核になっていても,本人が気づかずに受診しない場合も多いし,受診したとしても医師のほうが腸結核のことは考えに入れていないため必要な検査が実施されず,そのために発見されない症例もあるであろう.またたとえ検査をしたとしても,発見されない場合があることも考えられる.最近の文献をみると,手術や剖検で初めて腸結核と診断された例の報告が目立っているが,このことも腸結核の減少,それに伴う関心の低下,および腸結核を診断することの難しさを示している.
最近の腸結核について検討する対照として,まず化学療法が出現する以前の腸結核について,手短かに触れておこう.結核の初感染が腸に起こるのは例外的にみられるだけで,腸結核のほとんどすべては肺や気管支の結核性病巣から,結核菌が管内性に転移を起こして,まずリンパ濾胞につき,そこからさらに病変が進展するものと理解されている.肺結核と腸結核の病変を対比させて研究した代表的なものの1つとして,黒丸1)の研究成績を紹介してみよう.この研究は肺結核患者352例の病理解剖を行ない,腸結核についても詳しく観察し,肺と腸の病変の重さの相関をみたもので,成績をTable 1に要約してある.軽度の病変まで含めると,肺結核患者の全例に腸結核が認められている.腸結核病変が重いものは46%で,肺病変が重い場合に腸の病変も重いものが多くなっている.肺病変の病型別にみると滲出型結核では腸結核の重いものが55%で,増殖型の37%よりかなり高い.この成績が示しているように,化学療法が出現する以前には,肺に結核菌の排菌源となるような病巣があれば腸に結核性病変がまずあると考えてよかった.ただしこれは病理解剖で得られた所見なので,これらの例のすべてが臨床的に腸結核の症状を示し,検査の結果腸結核があると診断されていたわけではない.しかし臨床医としては,たえず腸結核の存在を念頭において診療していたことは確かなことである.
化学療法が出現する以前には,肺結核患者では腸に結核性変化がみられるのはふつうのことと考えられていたが,腸の結核性病変は化学療法にきわめて良く反応し,症状も短期間に消失するので,最近の日常診療では腸結核のことはあまり念頭におかずに診療が進められている場合が少なくない.また実際に腸結核の診断はなかなか困難である.特有の症状がなく,客観的な診断が難しい場合には,腸結核になっていても,本人が気づかずに受診しない場合も多いし,受診したとしても医師のほうが腸結核のことは考えに入れていないため必要な検査が実施されず,そのために発見されない症例もあるであろう.またたとえ検査をしたとしても,発見されない場合があることも考えられる.最近の文献をみると,手術や剖検で初めて腸結核と診断された例の報告が目立っているが,このことも腸結核の減少,それに伴う関心の低下,および腸結核を診断することの難しさを示している.
最近の腸結核について検討する対照として,まず化学療法が出現する以前の腸結核について,手短かに触れておこう.結核の初感染が腸に起こるのは例外的にみられるだけで,腸結核のほとんどすべては肺や気管支の結核性病巣から,結核菌が管内性に転移を起こして,まずリンパ濾胞につき,そこからさらに病変が進展するものと理解されている.肺結核と腸結核の病変を対比させて研究した代表的なものの1つとして,黒丸1)の研究成績を紹介してみよう.この研究は肺結核患者352例の病理解剖を行ない,腸結核についても詳しく観察し,肺と腸の病変の重さの相関をみたもので,成績をTable 1に要約してある.軽度の病変まで含めると,肺結核患者の全例に腸結核が認められている.腸結核病変が重いものは46%で,肺病変が重い場合に腸の病変も重いものが多くなっている.肺病変の病型別にみると滲出型結核では腸結核の重いものが55%で,増殖型の37%よりかなり高い.この成績が示しているように,化学療法が出現する以前には,肺に結核菌の排菌源となるような病巣があれば腸に結核性病変がまずあると考えてよかった.ただしこれは病理解剖で得られた所見なので,これらの例のすべてが臨床的に腸結核の症状を示し,検査の結果腸結核があると診断されていたわけではない.しかし臨床医としては,たえず腸結核の存在を念頭において診療していたことは確かなことである.
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