研究
長期生存率からみた早期胃癌の予後と生存率算出法
著者:
高杉敏彦
,
森山紀之
,
光島徹
,
中野元
,
岡崎正敏
,
知念哲三
,
池田俊夫
,
木村徹
,
牛尾恭輔
,
松江寛人
,
笹川道三
,
山田達哉
,
市川平三郎
,
北岡久三
,
広田映五
ページ範囲:P.933 - P.940
1962年の第4回日本内視鏡学会において,早期胃癌の定義と肉眼分類が提唱されて以来既に15年が経過した.この間,胃に関する診断学の進歩1)~3),胃集団検診の普及などにより早期胃癌が数多く発見されるようになった.それに伴い,早期胃癌について,診断をはじめいろいろな面から非常に多くの研究報告がなされてきた.早期胃癌の術前診断をより正しく行なうためには,個々の手術症例を長期観察し,その予後を詳細に把握しておくことが極めて重要である.しかしながら従来発表されている早期胃癌の予後については,そのほとんどが5年生存率についてのみの検討しか行なわれておらず,それ以上長期の予後に関する研究は少ない.5年生存率についてその成績をみると,最近のもの4)~14)では,深達度mの早期胃癌では100%もしくはそれに近い値の報告が多く,また,深達度smの早期胃癌では90%前後との報告がほとんどである.ごく最近では,早期胃癌の長期観察例に関する報告も多くなりはじめ,その中には術後5年以上経過した症例の癌再発死亡例も報告されるようになった15).このような観点からわれわれは,早期胃癌の予後について,長期生存率から見た検討を行ない,昨年(1976年)秋の第18回日本消化器病学会秋季大会(第1報)および本年(1977年)5月の第19回日本消化器内視鏡学会(第2報)において報告した.ここでは昨秋の報告をもとに,さらに症例数を加え,予後追跡調査をより一層詳細に行ない,他病死と癌再発死(死亡の原因が原発癌に由来するものを本文では癌再発死と呼ぶことにした)とを厳密に区別し,早期胃癌の予後について詳しく検討した.特に,消息および死因の解明に当っては,徹底的な反復調査を多面的に行ない,精度の向上に努めた.この結果,消息判明率は98.50%,死因不明は1例(Table 2,No.4)にとどめることができた.
早期胃癌の正しい予後を知ることにより,診断学上,着目すべき要点が明らかとなり,予後の推定を含めた診断学の向上が望めるであろうと考えた.