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文献詳細

雑誌文献

胃と腸12巻9号

1977年09月発行

文献概要

胃と腸ノート

「アニサキス症」を「ヘテロケイルス症」と総称することの疑問/アニサキス症様症例に対する病名の問題

著者: 浅石和昭1 早坂滉1 影井昇2

所属機関: 1札幌医科大学第1外科 2国立公衆衛生院衛生微生物学部衛生昆虫寄生虫室

ページ範囲:P.1256 - P.1259

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 最近,急性胃アニサキス症(Anisakiasis)が北海道を中心として日本全国で多数報告され,一般の関心も高まっている.本症の名称に対し1973年,長野らはヘテロケイルス症(Heterocheilidiasis)と称することを提案し,以後臨床医家の間でこの名称に関する混乱がみられるようである1)~4).われわれは従来どうりアニサキス症の名称が妥当であると考えており5)~7),以下その根拠についてのべる.

 アニサキス属はYork and Maplestoneの分類によれば,Nemathelminthes(線形動物門),Nematoda(線虫綱),Eunematoda(真線虫目),Ascaridea(回虫上科)に属し8),ヒト回虫とはFamily(科)で分けられ,アニサキス属はHeterocheilidae(ヘテロケイルス科),ヒト回虫はAscaridae(回虫科)に含まれる.このHeterocheilidaeは,Heterocheilinae(ヘテロケイルス亜科)やAnisakinae(アニサキス亜科)等に分けられ,このAnisakinaeの中に,Anisakis,Terranova,Contracaecum等が含まれる.このアニサキス幼虫によって起こされた疾病に対し,Anisakiasis(アニサキス症)の名称が一般に用いられた.その後,テラノーバ幼虫による同様疾患が報告され,Terranoviasis(テラノーバ症)または,テラノーバ幼虫による広義のアニサキス症,さらには長野らはヘテロケイルス症と総称することを再提唱した.この新しい名称のきっかけは,Schaum und Mù
llerが1967年Dtsch. Med. Wochr.9)に発表した論文である.それによると26歳の患者が虫垂炎で開腹され,バウヒン弁より30cmの部位に2コのソラマメ大の肉芽腫が認められ,細織学的には変性虫体と好酸球の著明な浸潤を認めたというものである.しかもその虫体の断面よりContracaecum osculatumと同定したがこれらHeterocheilidaeに属する幼虫による疾患をヘテロケイルス症と総称することを提唱した.彼等は,当時俗称的に用いられていたHeringwurmkrankheit10),すなわち「ニシンの寄生虫に起因する病気」というような名称は適切でないからHeterocheilidiasisと命名すべきと提唱したものである.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1219

印刷版ISSN:0536-2180

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