(2)胃癌の大きさと時間との関係―いわゆる胃癌の成長曲線
著者:
中村恭一
,
芦沢真六
,
高田洋
,
小黒八七郎
,
福本四郎
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星島説夫
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田中弘道
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山本貞寿
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三好洋二
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古城治彦
,
阿部政道
,
斉藤利彦
,
久道茂
,
白根昭男
,
竹添和英
,
高木国夫
,
加藤洋
,
郡大裕
,
竹田彬一
,
酉家進
,
奥田茂
,
今西清
ページ範囲:P.89 - P.93
「胃癌はそれが発生してから一般的に発見される大きさになるまで,どれ位の時間を経過しているのであろうか?」という問題があります.この問題に関して,結果的に逆追跡が可能であった症例については個々に知られていますが,胃癌の大きさと時間の関係はまだあまり一般化されていません.一方,「胃癌は時間の経過とともに大きくなって行く」という,われわれが常日頃経験している事実があります.つまり,癌の大きさ(S)と経過時間(t)とは比例関係にあるということです(S∝t).ここで,このことを前提として,胃癌の大きさと時間の関係の一般化を試みてみます.
1.胃癌の成長曲線を求める試み
一般化を試みるにあたって,まず第一に問題となることは,癌の大きさと時間との間にどのような関数を採用すべきかということです.癌の大きさと時間の関係を,癌細胞分裂という細胞水準から出発して考えますと,その関係は指数関数ということになります(2n-1).確かに,癌が大きくなるのは癌細胞分裂に原因するものです.しかしながら,人癌発生が細胞1コからはじまるのか,あるいは数コの細胞からはじまるのかは,未解決の問題です.また,癌が大きくなって行く過程には癌細胞の壊死,そして癌塊のびらん化,潰瘍化による癌の部分的脱落もあります.さらには,われわれは日常,癌の大きさを肉眼水準での面積あるいは体積で表現しています.したがって,癌の大きさと時間の関係を求める場合には,思考の出発点を細胞分裂という細胞水準におく指数関数を考慮する必要もないと思われます.思考の出発点を,肉眼水準での癌の大きさに置くのがより実際的であると思います.こうすれば,「正確とは,いたずらに尺度を細かくすることではなく目的とするものに基準をそろえることである」ということをも満足することになります.