⑤胃と十二指腸に併存潰瘍の経過観察が明らかな症例
著者:
岡田利邦
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志賀俊明
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山田和彦
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竹川博之
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東龍司
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佐藤文生
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山田耕三
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細井董三
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上野正己
,
野本一夫
,
西沢護
ページ範囲:P.1370 - P.1373
1972年10月から1977年3月までの胃集検受診者(150,828名)と外来受診者(7,309名)の総数158,137名の中,男39,441名,女118,696名で男女比1対3,胃潰瘍4,976名,十二指腸潰瘍2,197名,胃十二指腸併存潰瘍155名であった.この併存潰瘍は男90名,女65名であるが上記の受診者男女比で補正すると男女比は4対1になる.受診者総数に対する胃十二指腸併存潰瘍の比率は約0.1%4)である.また胃潰瘍の中で十二指腸潰瘍併存例の比率は約3%である.胃十二指腸併存潰瘍の瘢痕期の動態(治癒傾向)を年齢階層別,男女別にみたのがTable 1である.検査回数は2~17回,平均検査回数は胃4.8回,十二指腸3.7回,平均検査問隔は2.8カ月,平均観察期間は13.5ヵ月である.ある年齢階層のscarring stageを示した検査回数を,scarring stageとactive stageとの検査回数の和で除した比率(瘢痕化率)は,その世代の治癒傾向を示唆する1つの指標と考え,Table 1のscarring ratioを計算した.厳密には,各世代間の検査条件(期間・聞隔・XP or endoscopy etc.)を一定にしないかぎりscarring ratio各パーセント間に有意差があるか否か統計的に検定できないが,一応の治癒傾向の目安として上記のratioをあげた.胃潰瘍のscarring ratioは,世代別にみると0.4~0.5程度で著明な差はないようであるが,男女別にみると女性のscarrlng ratioの方が高く出ている.また,十二指腸潰瘍のscarring ratioは,世代別にみると,60歳以上(0.75)の方が50歳台以下(0.55前後)より明らかな高値を示し,このことは,十二指腸潰瘍は高齢化につれて自然治癒の傾向が出現してくることを示唆していると推定される.また,男女別にみて,十二指腸潰瘍のscarring ratioに差はない.
患者:46歳 女性.1975年10月14日胃集検で胃体中部と球部にnicheを指摘され,空腹時心窩部痛を主訴として当センターを受診した.
家族歴・既往歴:とくになし,また血液生化学などの検査で特記事項を認めない.