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雑誌目次

雑誌文献

胃と腸13巻5号

1978年05月発行

雑誌目次

今月の主題 消化管粘膜拡大観察と病態生理 主題

胃粘膜の拡大内視と病態生理

著者: 岡崎幸紀 ,   榊信広 ,   竹本忠良

ページ範囲:P.605 - P.614

 生きた胃粘膜の状態をより微細に観察したいという願いは,すでに胃鏡時代からあった.例えばK. GutzeitとH. Teitge1)の「Die Gastroskopie」にかかれている胃体部後壁の胃小窩までみた胃小区像の画は,その切なる願いを生々と伝えてくれる(Fig.1).この願いがわれわれ内視鏡家にとって明らかな現実性を帯びてきたのは,ファイバースコープの出現であり,これによる近接拡大観察の利点は竹本ら2)が早くも強調したところであった.とくに,光源がライトガイド方式化されたことによって,豊富な光量が自由に得られるようになってから,まだまだ不完全とはいえ,ある程度の拡大内視鏡観察は誰の手にも届くところになってきたように思われた.一方では,実体顕微鏡が駆使されるようになって,切除胃標本,生検材料による胃粘膜の胃小区単位の拡大観察の成果の素晴しさは,拡大内視鏡観察に対して強烈な刺激効果があった.さらに,走査電子顕微鏡の急速な進歩も,超拡大の世界のもつ無限な新しい情報がわれわれを魅了しつくした.

 そして,ごく最近になって,内視鏡も臨床的,実用的に応用可能な拡大内視鏡が完成し,胃粘膜の拡大観察が確実にできるようになってきた.これによって,実体顕微鏡像と同程度の拡大内視鏡所見を対比検討ができるようになってきたが,なお,この方面での業績は少なく個々の微細所見について,暗号にも似た情報を解読し,手さぐりで整理しつつある現状である.

十二指腸・小腸の粘膜拡大観察と病態生理

著者: 平塚秀雄 ,   後町浩二 ,   田中三千雄 ,   堤京子 ,   鈴木茂

ページ範囲:P.615 - P.624

 小腸粘膜拡大観察法(ここでは粘膜断面の拡大ではなく,粘膜表面からの拡大を指す)としては,現在次の手段が考えられる.すなわち内視鏡による生体下の観察,生検材料,手術剔出標本,剖検例の材料を用いた実体顕微鏡あるいは走査電子顕微鏡による観察,そして造影剤で描写したX線写真によるものである.

 ヒト小腸(十二指腸,空腸,回腸)粘膜を対象とした拡大観察に関しては,歴史的には実体顕微鏡による方法がもっとも早く(1960)1),走査電子顕微鏡による方法はかなり後である(1969)2)3).内視鏡による拡大観察は,小腸の中で最初に内視鏡検査の対象となった十二指腸においてまず始められた.当初は色素撒布による絨毛の観察が試みられているが(1968)4),具体的な粘膜拡大率については言及されていない.さらに胃と十二指腸球部まで観察可能な拡大内視鏡が開発され,“微細観察”との表現のもとに約15倍に拡大された十二指腸絨毛像が観察されている(1972)5).またこれに少し遅れて,十二指腸主乳頭の微細観察(拡大率約2倍の内視鏡観察と同時に実体顕微鏡観察)についても報告がある(1975)6).さらに下部の小腸においては,まず色素撒布による絨毛形態の観察が行われ(1975)7),拡大率は考慮されていない),さらに専用の拡大内視鏡も開発されるに至って(1977)8),小腸粘膜の内視鏡による拡大観察は飛躍的な進歩をとげることとなった.なおX線による小腸粘膜の拡大観察については,まだ本格的なアプローチはない.

大腸隆起性病変の拡大観察とその病態

著者: 多田正大 ,   川井啓市 ,   赤坂裕三 ,   宮岡孝幸 ,   青池晟 ,   下野道広 ,   本井重博 ,   須藤洋昌 ,   仁木弘典 ,   服部隆則 ,   藤田哲也

ページ範囲:P.625 - P.636

 最近の大腸内視鏡検査法の進歩は目覚しく,器種の改良と挿入手技の工夫によって,全大腸の内視鏡観察と生検が容易に成し得るようになってきている.殊に大腸隆起性病変の診断のために内視鏡検査の果たす役割は大きく,内視鏡的ポリペクトミーとあわせて,診断と治療を兼ねた手技が広く普及している.

 同時に早期胃癌の診断技術・理論の大腸検査法への導入によって,大腸診断学においてもより微細所見の診断やより微小な病変の発見のためのさまざまな努力が試みられている1).すなわちX線検査では二重造影法による大腸小区像(いわゆるfine network pattern)の描出2)や微小ポリープ,微小癌の診断3),さらに拡大X線撮影装置による大腸粘膜の拡大撮影4)であり,内視鏡診断の分野においては,色素内視鏡検査法(dye spraying method)5)~10)と拡大大腸fiberscope(magnifying colonoscope)11)12)による微細病変の観察のための試みがなされている.殊に内視鏡検査の分野におけるこれらの新しい試みは,近年著しい進歩をみせており,かつ次第にルーチンの検査法となりつつある13)~19)

大腸粘膜の拡大観察―とくに潰瘍性大腸炎の寛解像について

著者: 西沢護 ,   小林茂雄 ,   狩谷淳 ,   間山素行

ページ範囲:P.637 - P.643

 新しい検査法ができ,それが実際に用いられるようになっても,はじめから臨床的に有用なものばかりとは限らない.

 新しい知見として得られるということと,それが臨床上にどれ位応用できるかということとは別の問題である.

座談会

拡大観察で何がわかるか

著者: 中村恭一 ,   福地創太郎 ,   白壁彦夫 ,   小野時雄 ,   佐野元哉 ,   小林茂雄 ,   竹本忠良 ,   望月孝規

ページ範囲:P.644 - P.656

 竹本(司会) 最近,X線検査では,消化管だけでなく,むしろ,肝臓,膵臓のほうで,拡大X線撮影が流行しだしました.また最近になって消化管の内視鏡も,まともな拡大観察ができる機器ができたと思います.

 そういう拡大内視鏡の背景もございまして,昨年の秋(1977年10月),奈良の第15回日本消化器内視鏡学会の秋季大会のシンポジウムに「消化管粘膜の拡大観察と病態生理」というテーマが取り上げられました.このシンポジウムは京都府立医大の川井教授と私が司会しましたが,ひいき目かもしれませんが,よいシンポジウムであったと思います.また消化管の内視鏡的拡大観察という点においては,どうやら日本は欧米に一歩先んじたと思ったわけです.

研究

胃粘膜の拡大観察―癌病巣の血管像を中心に

著者: 大石雅巳 ,   洲崎剛 ,   三宅健夫

ページ範囲:P.657 - P.662

 われわれは,胃粘膜を拡大観察することにより,病変の診断をより正確に行い,かつ微細病変の診断能を向上させることができないものかとの考えで,研究を続けている.まず切除胃粘膜表面の実体顕微鏡による観察を行い,各種疾患での表面像を検討した.それと同時に,拡大内視鏡の試作開発を行い,実体顕微鏡による基礎的研究が,臨床例でどのように応用できるかについても検討している.

 切除胃粘膜を拡大観察して,病変を診断するためには,その表面微細構造(腺口およびその周囲の実質部)と,表面微細血管像とを詳細に知ることが必要である.前者に対しては,メチレンブルーその他の色素により染色して観察することが必要であり,後者に対しては,できるだけ切除直後に,血液の流出を防ぎながら,染色などの操作を行わずに観察することが必要である.

大腸粘膜のX線拡大撮影

著者: 下田悠一郎 ,   松浦啓一 ,   武田儀之 ,   中山卓 ,   北川晋二 ,   西原春實 ,   中田新一郎 ,   石橋龍人 ,   古賀充 ,   清成秀康 ,   稲倉正孝

ページ範囲:P.663 - P.674

 大腸粘膜表面に解剖学上無名の溝(innominate grooves)があることを指摘し,それがX線像上にnetwork pattern,spiculationおよびdotted patternとして現われることがあるのを最初に報告したのはWilliams1)である.しかし事実の指摘に終わり診断的意味づけは行われていない.ついで狩谷ら2)3)は実体顕微鏡,切除大腸の二重造影像にてこのnetwork patternがX線像における表現可能な最小単位で大腸二重造影像の基本像であり,炎症性疾患,ことに潰瘍性大腸炎のX線所見による治癒判定には欠くことのできぬものであることを指摘した.われわれはより微細なX線像を得ることを目的にして1972年より微小管球を用いて切除大腸の拡大撮影を行い,このnetwork patternの微細構造の詳細な検討を行い報告してきた4)5).またこれと並行して拡大撮影の臨床への応用も行ってきた6).本稿では臨床の場における拡大撮影による大腸粘膜の微細診断の意義について述べる.

研究方法および目的

 大腸X線拡大撮影に使用した装置は主として目立メディコ製日立TRD-VI-E(Fig. 1)である.天板を支える腕をバランスの許す限り長くしてある.二管球方式であり拡大撮影に切り替えると微小焦点管球が透視時の焦点と入れかわりながら自動的に天板焦点問の距離を縮め拡大率をあげるようになっている.

症例

sm浸潤部に著明なリンパ組織の増生をみたⅡc型早期胃癌の1例

著者: 佐藤英典 ,   五十嵐勤 ,   角田俊平 ,   安斉幸夫 ,   児玉健夫 ,   荒井清一 ,   植木洋司 ,   坂本輝明 ,   栗原陽一 ,   三浦憲二 ,   渡部重雄 ,   佐藤澤也 ,   飯塚鉄郎

ページ範囲:P.675 - P.680

症例

 患 者:K. H. 60歳 男

 主 訴:心窩部不快感

 家族歴・既往歴:特記することなし

 X線所見:深達度smのⅡc型早期胃癌

 肉眼所見:深達度mのⅡc型早期胃癌,粘膜凹部の大きさ14mm×13mm

 組織所見:深達度sm,組織型poorly differentiated adenocarcinoma,Ul-Ⅱの瘢痕と粘膜下層に限局したLymphoid hyperplasiaを伴う.

 切除胃肉眼所見(Fig. 1,2)切除胃は大彎やや後壁寄りで切り開いてある.病変は幽門より8cm噴門側の前壁にあり,粘膜陥凹の大きさは,14×13mmである.比較的境界明瞭な地図状の粘膜陥凹,集中する粘膜ひだ先端のヤセおよび中断などから,Ⅱcの診断は容易である.粘膜陥凹中心部のやや噴門側大彎寄りに粘膜ひだが集中し,そこに潰瘍瘢痕が存在することを示している.そして,粘膜ひだ集中中心部には小結節状の所見が認められる.

Ⅱc+Ⅱa型早期胃癌の1例

著者: 肥田野等 ,   中沢三郎 ,   梶川学 ,   塚本純久 ,   川口新平 ,   早川礼介

ページ範囲:P.681 - P.686

 最近の胃癌診断学の進歩は著しいものがあるが,比較的平坦で広範な早期胃癌の診断は微小癌の見つけ出し診断とともに,いまだなかなか難しいものである.広い胃癌の正確な診断は手術に際しても重要な問題であるが,今回われわれは術前にほぼ満足のゆく診断の得られた広範Ⅱc+Ⅱa型早期胃癌の1例を経験したので報告する.

症例

 患 者:吉○ 資 76歳 男性

 主 訴:なし

 既往歴・家族歴:特記事項なし

 現病歴:約15年来ほぼ毎年自宅近くの病院で胃X線検査を自発的にうけていたが,昨年までは異常を指摘されたことはなかった.1977年5月同様に胃X線検査をうけたところ異常を指摘され,自分から精査を希望してわれわれのところに来院した.

 理学的検査,血液生化学検査等に異常所見なし.

自然寛解したと思われる巨大皺襞を呈した蛋白漏出性胃症の1例

著者: 野浪一道 ,   坂口潮 ,   笹原寅夫 ,   内田満国 ,   横山育三 ,   田上正昭

ページ範囲:P.687 - P.693

 われわれは低蛋白血症を伴う巨大皺襞症と診断した患者を経過観察中,巨大皺襞が消失し,低蛋白血症も改善した症例を経験したので報告する.

症例

 患 者:64歳 男性

 主 訴:両下腿部の浮腫

 家族歴・既往歴:ともに特記すべきことはなかった.

 現病歴:生来健康であったが,1973年12月20日頃,両下腿部の浮腫および腹部膨満感に気づき,某医を受診したところ,胃癌の疑いで1974年2月4日当科に入院した.この間,体重減少は認めなかった.

 入院時理学的所見:身長153.5cm,体重48.0kg,栄養状態中等度,眼瞼結膜に貧血は認めなかった.腹部はやや膨満し,軽度の波動を認め,両側下腿部に浮腫を認めた.

化生上皮をもつ胆囊にみられたびまん性papillomatous cholesterosisの1例

著者: 波多江康剛 ,   菊池昌弘 ,   瀬川勝 ,   星野弘弼 ,   梅野寿実

ページ範囲:P.695 - P.700

 われわれは,化生上皮をもつ胆囊にみられた,びまん性papillomatous cholesterosisの1例を経験し,組織化学的ならびに電顕的観察を行い2,3の興味ある成績を得たので若干の考察を加え報告する.

症例

 患 者:54歳 女性

 現病歴:1965年頃より時折右季肋部痛があった.1976年8月以来とう痛が激しくなり,嘔気,嘔吐を伴うようになったため当院第1内科受診,DIC,EPCG等の諸検査の結果,胆石症が疑われ,1977年1月19日当院第1外科に入院した.

Ⅰ型早期胃癌に併存した十二指腸乳頭状腺腫の1例

著者: 安徳恭演 ,   石橋大海 ,   三宅勝 ,   坂田利家 ,   沢江義郎 ,   古川研一郎 ,   川上克彦 ,   古賀淳 ,   渡辺英伸

ページ範囲:P.701 - P.706

 最近,十二指腸の良性腫瘍については,診断技術の進歩によって,その報告例が増加してきたが,絨毛状構造をもつ乳頭状腺腫は比較的稀である.著者らは幽門輪上に発生した早期胃癌と十二指腸球部に絨毛状構造をもつ乳頭状腺腫が併存した症例を経験したので報告し,若干の文献的考察を加える.

症例

 患 者:70歳 女性 家婦

 主 訴:特になし

 家族歴・生活歴:特記することなし

 既往歴:61歳の時,上腹部腫瘤にて入院精査したが,胃・十二指腸のX線検査でとくに異常は指摘されなかった.

 現病歴:約2年前にたまたま健康診断の目的で胃・十二指腸X線検査をうけ,十二指腸球部に腫瘤陰影があることを指摘された.内視鏡検査で悪性所見は認められず,生検でも組織学的に正常粘膜と診断されたため,放置していた.その後,とくに自覚症状はなかったが,1976年6月に胃検診で再び十二指腸球部の異常を指摘され,精査のため九大第1内科に入院した.

胃と腸ノート

膵管奇形と慢性膵炎

著者: 木津稔 ,   川井啓市

ページ範囲:P.694 - P.694

 慢性膵炎の病因のなかで,栄養障害やアルコール多飲,あるいは胆石症などの明らかな成因を検索しえない症例は数%から数十%と報告されている.この従来原因不明とされてきた慢性膵炎の一部に,膵の胎生期における膵管系の発育異常に基づく慢性膵障害が含まれていると思われる.膵は胎生6~7週に2つの膵原基-腹側膵ventral pancreasと背側膵dorsal pancreasの融合によって完成される.この腹側膵は最初左右2コの原基として発生するが,発育途上において左腹側膵原基は萎縮消失し,右側のみ十二指腸の軸回転により背側膵の後方に移動しこれと融合する.この両側腹側膵原基が遺残し,右側原基のみ軸回転した場合,輪状膵annular pancreasが生じると考えられている.輪状膵は稀な奇形ではあるが,比較的popularな疾患である.そして,本症に急性あるいは慢性膵炎を併発した場合,十二指腸閉塞による高位のイレウス症状を呈し,その診断は決して困難ではない.輪状膵に併発した膵炎の成因は明らかでないが,十二指腸狭窄に伴う膵液排液排出障害が推定される.

 前述の腹側膵と背側膵の合一の後,腹側膵管と背側膵管は融合し,通常の主膵管と副膵管(Santorini管)を形成する.しかし,両膵管系に交通が生じなかった場合,腹側膵は十二指腸乳頭口を介して,また背側膵は副乳頭ロを介して膵液を排出することになる.この膵管融合不全malfusionは欧米ではERCP施行数の3~4%に認められ,必ずしも稀な奇形ではない.しかし,この膵管奇形が,膵炎,とくに従来原因不明とされてきた慢性膵炎の1病因であるとして,最近その重要性が指摘されてきた.1976年までに,ロンドン・ミドルセックス病院消化器科(Dr. P. B. Cotton)で,ERCPにより診断された膵malfusionは29症例であり,その頻度は4%であった.ERCPで腹側膵のみ造影されたもの24例,同時に副乳頭口からのカニュレーションにより背側膵も造影できたものの4症例,背側膵のみ造影されたもの1症例であった.副乳頭口を介する背側膵の造影成功率は33%であった.

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欧文目次

ページ範囲:P.603 - P.603

編集後記

著者: 川井啓市

ページ範囲:P.708 - P.708

 『胃と腸』が送られてきた時の私の読み方にはひとつの型がある.まず主題,次に目次を見て,編集会議での討論を思い出す.そして,掲載されているなら,座談会の記事をまず読む.そこで,座談会に対する司会者の意図,出席者との討論のアウトラインを流し読みしながら,問題点を整理して,主題を読むようにしている.もちろんこのような読み方をしている人は多いだろうし,特集号をもつ医学雑誌は私は一般にこのようにしている.座談会の対話がスムーズに流れ,討論が整理されている時もあれば,出発点からなかなか出られず司会者が苦労しておられる時もあり,それなりに読むのもまた楽しく,主題の展開の難かしさが想像され,つい司会者の立場で同情したりする.

 今回の主題「消化管粘膜拡大観察と病態生理」は,その意味で座談会から,主題,また研究までの展開が非常によく整理されていて,X線,内視鏡および臨床病理の現況から将来にも話が進み,新しい織物が企画通りに作られているような感じである.

基本情報

胃と腸

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1219

印刷版ISSN 0536-2180

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