胃・十二指腸潰瘍の病態生理―主として術後の胃内外分泌細胞の消長について
著者:
渡部洋三
,
城所仂
,
沢田芳昭
,
加藤弘一
,
宮上寛之
,
近藤慶一郎
ページ範囲:P.773 - P.784
従来,わが国では胃潰瘍も十二指腸潰瘍も同一の術式,すなわち広範囲胃切除術が行われてきた.この術式は1919年Finstererによって発表されたが,それまでの再発の多い小範囲胃切除術や胃空腸吻合術に代って広く世界に普及した.わが国でも宮城(1921),青山(1923)によって紹介され,大井1)によって理論的に裏付けられ,潰瘍再発の少ない術式として高く評価された.しかし術後の長期追跡例が多くなるにつれて,消化吸収障害,胃切除貧血,骨軟化症などの代謝異常例や小胃症状,ダンピング症候群などの術後愁訴が問題となってきた.このため充分な減酸効果が得られ,しかも胃が大きく残る小範囲胃切除術に対する関心が高まってきた.
Edkins(1905)2),Ivy & Grossman(1950)3),Dragstedt(1951~4)4)~6),Gregory(1961)7),Mc Guigan(1968)8)らの努力により胃液分泌の生理機構が解明されるにつれて,手術術式は大きな影響をうけた.すなわち胃液分泌は頭相,胃相,腸相によってコントロールされており3),頭相の除去がDragstedt9)によって広められた迷切術であり,冑相の除去ないし減弱が各々幽門洞切除術(以下幽切術),幽門成形術(以下幽成術)である.このような頭相あるいは胃相を除去する術式は,その組み合わせにより胃が大きく残りかつ減酸効果も大きく,壁細胞領域も一部切除する広範囲胃切除術に代る術式として普及しつつある.しかし幽切術のみや迷切兼幽成術のように壁細胞領域やガストリン産生の場である幽門腺領域が完全に残った場合,術後十分な減酸が得られるだろうかという疑問が残る.