進行胃癌を伴ったOsler病の1例
著者:
長野一雄
,
山英昭
,
佐野博之
,
佐々木寧
,
山城雅明
,
高桑雄一
,
田村康史
,
田原信一
,
町田荘一郎
,
田村堅吾
,
前田裕二
ページ範囲:P.1123 - P.1132
皮膚症状がある疾患の部分的現象であることは日常診療上しばしば経験するところであり,その皮膚症状の把握は基礎疾患を知る上にきわめて重要である.毛細血管拡張症も,高齢者にみられる単純な特発性のものを除いて,全身疾患の一症状として現われることが多く,Reed1)らはその形態より,①肝疾患などにみられるvascular spider型,②膠原病などでみられる網状型,③Osler病にみられる限局性・小結節型,の3群に分類している.単にOsler病とも呼ばれるが,1896年Rendu2),1901年Osler3),1907年Weber4)らによってそれぞれ報告されたので,Rendu-Osler-Weber病と呼称された1つのclinical entityで,遺伝性出血性末梢血管拡張症5)なる名称も提唱されている.すでに欧米では数百家系の報告があり,消化管出血時には鑑別診断上考慮すべき疾患とされているが,本邦での報告は比較的少なく,森岡ら6)7)によると約70家系といわれている.今回筆者らは,胃癌を合併し,諸種の臓器に毛細血管拡張を確認しえた本症の1例を経験したので,若干の文献的考察を加え,その概要を報告する.
症 例
患 者:54歳 男
主 訴:心窩部痛
既往歴:特記すべきことなし
現病歴:1952年30歳頃より鼻を強くかんだり,感冒をひいた時,あるいは鼻孔をいじったりした時などに鼻出血があり,タンポンにて容易に止血していた.この頃より口唇の恒常性の赤い点状の発疹に気づいている.1958年36歳の時,格別の誘因なく右眼視野に雲のようなものが見え,網膜硝子体出血と診断された.1975年1月および5月にも同様の右網膜硝子体出血を繰返したが,いずれも数週の加療で痕跡なく吸収された.1976年5月初旬より不定の心窩部痛が出現したが,悪心,食思不振,吐または下血,体重減少などはなかった.7月6日当科を受診し,精査のため入院した.