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雑誌目次

雑誌文献

胃と腸14巻6号

1979年06月発行

雑誌目次

今月の主題 回盲弁近傍潰瘍(1)―いわゆる“Simple Ulcer”を中心に 序説

回盲弁近傍潰瘍 特集に当って

著者: 望月孝規

ページ範囲:P.737 - P.737

 回盲部の潰瘍性病変のうち,結核症とか,クローン病のごとく,その原因や病変の形態的特徴がはっきりしているものを除くと,従来まで除外診断的に一括されていた,いわゆるsimple ulcerと,Behçet病,或は症候群という全身性疾患に随伴して生じる潰瘍が,主な検討の対象として,浮び上ってくる.これらの潰瘍は,結核症などに認められる特異な肉芽組織を形成する病変でないという理由で,非特異性潰瘍などと名づけられることもあるが,この非特異的という表現は,むしろ潰瘍の形態や病理組織学的所見から,その病変の原因や特徴について,推定しがたい場合に用いられるに過ぎなく,病変の本質を明らかにする名称とはいえない.そこで,多くの手術症例についてこの様な潰瘍性病変の特徴や出来上り方,特にBehçet病という末だ原因の明らかでない病気に特有な変化の有無などを検討してみた.

主題

いわゆる“Simple Ulcer”とは

著者: 武藤徹一郎

ページ範囲:P.738 - P.748

 ‘Simple ulcer’,‘primary ulcer’,‘solitary ulcer’,‘idiopathic ulcer’,‘non-specific ulcer’,‘benign ulier’…etc.いわゆる“simple ulcer”と呼ばれる疾患に対する名称はこんなに多い.‘Non-specific simple ulcer’のように2つの形容詞を組み合わせて用いられることも少なくない.わが国ではこれらの翻訳名が用いられている.1つの疾患単位(?)にこれほど多種多様の名称が用いられているのは何故であろうか? われわれはいわゆる‘simple ulcer’という疾患に対してあるイメージを持っていたが,これを独立した疾患単位として認めていてもよいのだろうか.

 本稿ではいわゆる“simple ulcer”が歴史的にどのように記載され認識されてきたかを振り返ることによって,この原因不明で奇妙な疾患のentityをもう一度考えなおしてみようと思う.いわゆる“simple ulcer”は大腸にも小腸にも発生するが,文献的にも両者は別々に記載されていることが多いので,ここでも別に取り扱うことにする.

回盲弁近傍の単純性潰瘍の病理

著者: 渡辺英伸 ,   遠城寺宗知 ,   八尾恒良

ページ範囲:P.749 - P.767

 腸の単純性潰瘍(simple ulcer)とは,その原因(細菌,真菌,寄生虫,膠原病や,動脈硬化症など虚血性病変の起因となる基礎疾患,など)が明らかでなく,また潰瘍性大腸炎やクローン病とも異なり,肉眼的には円形ないし卵円形の下掘れで,打抜き様の深い潰瘍で(報告例の中には必ずしもこの肉眼形態でないものもある1)3)12)),組織学的には非特異性炎症像を示す潰瘍を一般に指している.

 単純性潰瘍には多数の同義語がある.既知の原因による疾患や既知確立疾患と異なり,しかも,組織像が非特異的であるという意味で,単純性非特異性潰瘍(simple nonspecific ulcer),単発性を強調した,孤立性(非特異性)潰瘍(solitary nonspecific ulcer),臨床的にも急性症状を呈するとのことで,急性孤立性(単純性)潰瘍(acute solitary or acute simple ulcer),他にsolitary ulcerやnonspecific ulcerなどである.後述するように,この潰瘍は多発する傾向がある.また,原因の明らかな潰瘍でも治癒傾向が強くなると,非特異性炎所見を呈することはよくある.このような理由から,本稿では「単純性潰瘍」という用語を用いることとする.

主題症例 回盲弁近傍潰瘍

①回盲部の非特異性多発性潰瘍の1例

著者: 徳留一博 ,   政信太郎 ,   西俣寛人 ,   西俣嘉人 ,   堀雅英 ,   肝付兼達

ページ範囲:P.769 - P.772

 回盲部は解剖学的にも特異な形態と機能を有し,しかも良性,悪性ともに病変の好発する部位である,殊に近年注目されてきたクローン病,腸結核など腸の潰瘍性病変の好発部位である.われわれは回腸終末部,バウヒン弁,上行結腸にわたって多発した一部潰瘍瘢痕を含む非特異性潰瘍の1例を経験したので報告する.

②回盲部単純性潰瘍の1例

著者: 小島進 ,   坂本清人 ,   渕上忠彦 ,   松井敏幸 ,   八尾恒良 ,   渡辺英伸

ページ範囲:P.773 - P.778

 最近,われわれは回盲部腫瘤を主訴とし,回盲部の非特異性潰瘍の1例を経験したので報告する.

症 例

 患 者:58歳 女性 主婦

 主 訴:回盲部腫瘤,全身倦怠感

 現病歴:1963年頃より時々口腔内,舌,咽頭部に有痛性アフタが出現していた.1964年九大耳鼻科で生検を行い非特異性慢性活動性炎症と診断された.1977年11月に,全身倦怠感,回盲部腫瘤に気付き某病院に入院した.回盲部に潰瘍を指摘され,精査,加療のため,九大第2内科に入院した.なお,外陰部潰瘍,眼症状,皮膚症状の既往はない.

③回腸末端における非特異性(単純性)孤立性潰瘍

著者: 友田博次 ,   古澤元之助 ,   林逸郎 ,   野辺奉文 ,   西山立義

ページ範囲:P.779 - P.782

 1年前に右下腹部痛のため開腹術を受け,回腸末端の急性炎症を指摘されたことがある非特異性(単純性)孤立性腸潰瘍を経験したので報告する.

症 例

 患 者:34歳 男性

 主 訴:右下腹部痛

 既往歴:1977年6月試験開腹術,1978年3月扁桃腺摘出術を受けた.

 現病歴:1977年4月ごろから時折右下腹部痛を訴え近医で急性虫垂炎の疑いで開腹されたが,その回腸末端に発赤,腫脹を指摘されただけで手術を終わった.同年8月ごろには疼痛は消失したが,1978年3月ごろから再び右下腹部痛をきたし,同年5月8日当科へ入院した.

④回盲部非特異性潰瘍の1例

著者: 中沢三郎 ,   可知常昭 ,   林繁和 ,   亀井秀雄

ページ範囲:P.783 - P.786

 腸における原因不明の潰瘍性病変として潰瘍性大腸炎,クローン病,いわゆる非特異性多発性小腸潰瘍などとともに単純性または非特異性潰瘍があげられるが,われわれは慢性の経過をとり,術前クローン病あるいは腸結核との鑑別が問題となった回盲部と回腸に3コの潰瘍が見られた非特異性潰瘍症例を経験したので報告する.

⑤X線検査で術前に診断しえた非特異性腸潰瘍の1例

著者: 佐々木喬敏 ,   丸山雅一 ,   舟田彰 ,   杉山憲義 ,   竹腰隆男 ,   馬場保昌 ,   二宮健 ,   田尻久男 ,   大橋計彦 ,   斉藤達雄 ,   高橋孝 ,   高木国夫 ,   中村恭一 ,   加藤洋

ページ範囲:P.787 - P.790

 癌研病院で1905年1月から1978年12月までに手術によって確認されたいわゆる単純性非特異性腸潰瘍は5例9病変である.そのうち術前にX線検査で非特異性潰瘍と診断できた1例を報告する.

症 例

 患 者:37歳 男性 建築業

 主 訴:右下腹部痛

 既往歴:35歳時虫垂切徐.36歳時腹壁ヘルニアの手術をうけ限局性腸炎の診断をうけている.

 現病歴:1976年7月25日午後より腹部膨満感が生じ,数日後より右下腹部に約5分間隔で数秒間の激痛を感ずるようになり,同時に同部位の鶏卵大の腫瘤に気付いた.8月4日鹿児島市立病院消化器内科受診.注腸X線険査の結果,盲腸に数コの憩室および回腸終末部の潰瘍性病変を指摘され入院した.

⑥盲腸の穿孔(魚骨)による膿瘍から波及した炎症により形成されたと思われる回腸終末部のビラン性病変の1例

著者: 西俣嘉人 ,   政信太郎 ,   西俣寛人 ,   徳留一博 ,   入佐俊明 ,   尾辻達志

ページ範囲:P.791 - P.794

 最近われわれは魚骨片が回盲部より穿通し,炎症性腫瘤を形成した症例を経験したので,若干の考察を加え報告する.

症 例

 患 者:中○ 渉 48歳 ジャーナリスト

 家族歴・既往歴:特記すベき事項なし

 現病歴:1976年7月25日午後より下腹部膨満感が生じ,数日後より右下腹部に約5分間隔で数秒間の激痛を感ずるようになり,同時に同部位の鶏卵大の腫瘤に気付いた.8月4日鹿児島市立病院消化器内科受診.注腸X線検査の結果,盲腸に数コの憩室および同腸終末部の潰瘍性病変を指摘され入院した.

⑦Behçet病不全型患者の寛解期に発生した回腸および回盲部の多発性潰瘍

著者: 富永浩平 ,   望月孝規 ,   荻原奉祐 ,   西沢護 ,   金子甫

ページ範囲:P.795 - P.801

 われわれは眼病変を欠くBehçet病不全型患者において,5年間の無症状期後に生じた回腸および回盲部多発性潰瘍(およびその瘢痕)の1手術症例を経験したので報告する.

症 例

 患 者:37歳 男 理容師

 主 訴:右下腹部痛

 家族歴:特記事項なし

 現病歴:1953年頃より主に両側前腕に職業柄,石けんによる水洗後によくアセモ様湿疹が出来,発赤腫脹を繰り返す.1960年,1965年,1972年に口内アフタ性潰瘍が出現し,1965年から1966年にかけて3回,亀頭および陰囊に潰瘍が生じた.1970年に数カ月の間隔で3回,右手首,両膝に関節痛があリデカドロン(総量12.0mg)を内服し症状は改善され以後健康であったところ,1975年6月頃から心窩部痛と下腹部痛が続き,8月20日頃から右下腹部痛が出現し8月22日に本院内科に入院した.発熱,下痢,下血はなく,全経過を通じて眼症状,神経症状は生じていない.

⑧回腸終末部に発生した非特異性多発性潰瘍の1例

著者: 多田正大 ,   松村一隆 ,   山口晃 ,   中西明 ,   奥田宗久 ,   島本和彦 ,   川井啓市

ページ範囲:P.803 - P.806

 臨床的に腸型Behçet病と思われる回腸終末部の非特異性多発性滑瘍を経験したので報告する.

症 例

 患 者:68歳 男性

 主 訴:下血

 家族歴:特記事項なし

 既往歴:22歳の時,虫垂切除術を受けた.また青年期より再発性の口腔アフタを認めており,数年前より肘,膝関節痛を訴えているほか,数力月前に陰囊部に難治性潰瘍を生じたことがある.

⑨Intestinal Behçetの1例

著者: 田沢浩 ,   若林芳敏 ,   秡川正嗣 ,   篠塚忠 ,   間山素行 ,   林学 ,   狩谷淳 ,   大久保春男 ,   西沢護

ページ範囲:P.807 - P.810

 完全型Behçet症候群と診断された女性の経過中に,右下腹部痛が出現し,X線検査にて回腸末端部に多発潰瘍を認め,手術を施行した,いわゆるIntestinal Behçetの症例を呈示するとともに,診断的立場から若干の考察を加えた.

研究

単発大腸進行癌,良性大腸疾患および家族性大腸ポリポージスにおける背景大腸粘膜の相違について

著者: 大原毅 ,   荻野彰人 ,   佐治弘毅 ,   藤間弘行

ページ範囲:P.811 - P.818

 大腸癌は大腸の腺腫(Adenoma)から発生するという説が有力であるが,なおde novoの発生の可能性も論じられている.しかるに,腺腫癌化説(Adenoma-carcinoma sequence)の重要な根拠の1つとなっている,家族性大腸ポリポージスにおける無数の腺腫の存在とは異なり,われわれが日常取り扱う単発の大腸癌の背景大腸粘膜には,腺腫癌化説の基盤となるべき腺腫の併存頻度およびその数が,いかにも少なすぎると常々考えていた.もしほとんどすべての大腸癌が,腺腫を経由して発生するとするならば,家族性大腸ポリポージスにあらざる大腸癌や良性大腸疾患においても,もっとずっと多数の腺腫が発見されてしかるべきではなかろうか.そこで今回われわれは,単発性大腸進行癌・良性大腸疾患および家族性大腸ポリポージスの切除標本を用いて,それらの背景大腸粘膜の状態について調べることとした.

症例

Intraluminal duodenal diverticula(IDD)の興味ある1例

著者: 小野彰範 ,   三島邦基 ,   原田英雄 ,   上村家門 ,   三戸敏正

ページ範囲:P.823 - P.826

 Intraluminal duodenal diverticula(以下IDD)の報告例は近年その数を増し,われわれの調べた範囲では現在までに欧米で49例が報告されている.本邦においても1970年木原ら1)が初めて報告して以来,成人例2例2),小児1例3)が報告されている.今回われわれはIDDに輪状膵,急性膵炎を合併した1例を経験したので報告する.

原発性十二指腸癌の1例

著者: 綿引元 ,   中野哲 ,   武田功 ,   飯沼幸雄 ,   中島伸夫

ページ範囲:P.827 - P.832

 原発性十二指腸癌は比較的稀な疾患であるが,最近その報告例は増加している.しかし,その大部分は乳頭部周囲癌で,乳頭上部,乳頭下部癌は少ない.また,組織学的には,他の部位の腸の癌と同様に円柱上皮細胞を主とする腺癌が大部分を占めている.

 われわれは,乳頭上部に発生し,carcinoidの疑われる組織像を呈した原発性十二指腸癌の症例を経験したので報告する.

胃体部前壁の胃迷入膵の1例

著者: 伊藤誠 ,   横地潔 ,   野口良樹 ,   勝見康平 ,   伊藤和幸 ,   八木英司 ,   鋤柄宏 ,   武内俊彦 ,   横山善文 ,   稲熊秀樹 ,   近藤芳正 ,   鈴木敏行

ページ範囲:P.833 - P.837

 最大径が3.5cmと大きく,X線,内視鏡所見から胃迷入膵と診断し,生検で確診した症例を報告する.

 症 例

 患 者:35歳 男性

 主 訴:胃部不快感

 既往歴・家族歴:特記すべきことはない.

 現病歴:1カ月程前から胃部不快感が持続.腹痛・悪心・嘔吐などの消化器症状はない.食欲および睡眠は良好で,便通は1日1行.

回盲部腸結核症の2例―特に肉眼所見を中心にして

著者: 寺田紘一 ,   近藤慶二 ,   雨宮慎二 ,   内多嘉具 ,   依光幸夫 ,   町田健一 ,   岩田克美

ページ範囲:P.839 - P.843

 最近,本邦における腸結核所見のとらえ方として,潰瘍の形状を中心とした従来の黒丸分類だけでなく,瘢痕帯を含めての潰瘍の分布,走行,配列をとらえること1)が,他の腸管炎症性疾患との鑑別上の眼目2)3)であると考えられるようになってきた.そこで著者は,回盲部本症の2切除症例について,それらの切除標本の肉眼像を再検討したので報告する.

一冊の本

Gastrointestinal Tract Cancer

著者: 武藤徹一郎

ページ範囲:P.768 - P.768

 消化管の悪性疾患は悪性疾患全体の中で最も頻度が高く,その方面の基礎的,臨床的な進歩は日進月歩といってもよい程である.各臓器別の専門書は少なくないが,この分野の全体をカバーしてある本は,需要が多いに違いないにも拘らず意外に少ないようである.

 消化管悪性疾患の疫学,免疫,病因,実験,診断,治療などの最新の問題点のほとんどすべてを網羅して1冊の本にまとめることは,ほとんど不可能に近いように思われるのであるが,この本はそれを可能にしてしまった.編者のLipkin,Goodが米国の癌専門の研究所であるSloan-Kettering研究所のスタッフであるためか,41人の共同執筆者のうち14人が同研究所の人で占められている.

胃と腸ノート

食道静脈瘤の内視鏡的栓塞療法―栓塞剤について

著者: 吉野清高 ,   高瀬靖広

ページ範囲:P.802 - P.802

 末梢静脈瘤の薬剤による栓塞療法は多数の臨床例によって検討されてきた.近年,食道静脈瘤の内視鏡的栓塞療法が試みられるに及んで,より安全で確実な栓塞作用をもつ薬剤の選択の問題が提起されている.末梢静脈瘤の栓塞剤として,過去,種々の薬剤が検討されてきたが,代表的なものとしてSodium Tetradecyl Sulfate(SOTRADECOL Inj.)タラ肝油脂肪酸のアルカリ塩(MORRHUATE SODIUM Inj.)Ethanolamine Oleate Inj.(B.P. Codex)があげられる.前二者は長鎖飽和脂肪酸のアルカリ塩であり,後者は長鎖不飽和脂肪酸のアルカリ塩である.静脈における血栓形成の初期段階では,血漿中に含まれる接触因子(第ⅩⅡ因子)の活性化と,血流の停滞とが,重要な役割をもつといわれる1).脂肪酸の血液凝固系への関与について,W.E. Connerら2)の実験により,脂肪酸が血液の凝固に影響を及ぼし,なかでも長鎖の飽和脂肪酸がより確実な血栓を形成させうることが証明され,その作用機序として,松岡ら3)は,脂肪と血液凝固に関する論文で,動物性脂肪(飽和脂肪酸で代表される)に血液凝固を亢進させる作用のあることを発表し,P. Didisheimら4)は,長鎖の飽和脂肪酸が,接触因子(第ⅩⅡ因子)を活性化し,その作用は鎖の長さに比例すると発表している.またW.K. Blenkinsopp5)は飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の血栓形成能について比較し,飽和脂肪酸が明らかに優位であるとし,その注入は静脈内のみ有効であり,静脈周囲への注入は無効であるばかりか,多くに潰瘍がみられたとしている.不飽和脂肪酸が飽和脂肪酸のように確実性が期待できない理由は血中アルブミンとのすみやかな結合による接触因子(第ⅩⅡ因子)活性化作用の失活といわれる6).しかし,結合以前に接触因子(第ⅩⅢ因子)の活性化がなされた場合,充分血栓にまで発展するものと思われる.

ディスカッション

本号811頁掲載:「単発大腸進行癌,良性大腸疾患および家族性大腸ポリポージスにおける背景大腸粘膜の相違について」(大原 毅・他)への疑問

著者: 武藤徹一郎

ページ範囲:P.819 - P.819

 本論文は,‘腺腫の芽’を非ポリポージス群にも見出したことはadenoma-carcinoma sequenceを考えるうえで非常に興味ある報告である.

 本論文の主旨に対しては以下の疑問を投じたい.

学会印象記

第65回日本消化器病学会総会印象記

著者: 竹本忠良

ページ範囲:P.820 - P.821

 辞書によれば,偏西風とは赤道地方から極地方に向かって吹く風が地球の自転のため東に向きを変えるために生ずるとある,この偏酉風が弱まって,ジェット機のゆれも少なくなってくると,1万米の大空にも春の訪れを感ずる.もちろん地上には桜花が咲き誇っていることは承知しているが,春の学会シーズンとなると,桜花の下で美酒に酔う経験はほとんどないのがわれわれの強いられた生活なのだから,わざと書かないのである.

 第65回日本消化器病学会総会は,虎の門の教育会館を中心に6会場で,3,000名をこえる会員を集めて盛会であった.幸い天候にも恵まれた.交通ストもなかった.ただ,1万名をこえたこの学会としては国立教育会館は大ホールは別としても,あとの小会場がギッシリでどうにもならないように感じた.

入門講座 胃癌診断の考え方・進め方・6

③質的診断をめぐって―その2

著者: 市川平三郎 ,   城所仂 ,   八尾恒良 ,   多賀須幸男 ,   中村恭一

ページ範囲:P.844 - P.846

●内視鏡検査の前後のケア

 城所 内視鏡検査のあと,背中を叩いて空気を出すということを必ず励行しろ,ということでやりますけれども,空気が入っていると入っていないでは,患者の楽さかげんというのはうんと違うようですね.

 市川 それは終わったあとのアフターケアですけれども,検査の前についてはどうですか.

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欧文目次

ページ範囲:P.735 - P.736

書評「The Kidney in Liver Disease」

著者: 武内重五郎

ページ範囲:P.822 - P.822

 本書は1976年11月,マイアミで開催された国際ワークショップ“The Kidney in Live Disease”の記録であり,生理学・薬理学・腎臓学・消化器学・内科学・外科学など,バックグラウンドの異なる分野の専門家が集まり,この興味ある課題を主として病態生理的な面から論じたものである.

書評「医療と教育の刷新を求めて」

著者: 谷荘吉

ページ範囲:P.838 - P.838

 あれから20年という歳月が流れた.日野原先生から内科学の手ほどきを受けたのは,私が当時医学部を卒業したての,何ごとも自分の血肉に吸収しようとしていたインターン時代のことである.それは,日本でのプライマリー・ケア教育の発端ともいえる有意義な1年間であった.私が臨床医学の修練に第一歩を踏み出したときに,先生から直接に教えを受けることができたことは大変有難いことだと考えている.先生はあの頃,すでに優れた臨床家であり,また熱心な教育者でもあった.内科病棟への配置は僅か3カ月間に過ぎなかったが,その頃,病棟廊下のロビーで毎朝行われていたワードカンファランスやベッドサイドで先生からおききした教訓は,20年たった今日でもなお忘れることなく,私の脳裏にあざやかに焼きついているのである.内科診療における基本的な考え方,臨床医学の研究のあり方,その実践方法,臨床医のとるべき態度などについて,先生の説かれる根本精神を私はこの20年間,自分なりに実行してきたつもりでいる.

編集後記

著者: 八尾恒良

ページ範囲:P.847 - P.847

 腸の潰瘍性病変の特集号として腸結核(12巻11,12号),クローン病(13巻3,4号)およびこれら疾患の疑診例(13巻9,12号)がとり上げられ,その病期も含めた病態が形態学の面から追求されたことは周知の通りである.これらの特集号は,腸結核,クローン病に関する諸問題を解明しようとする意図だけでなく,もっと大きな,腸の炎症性疾患を再整理しようとする目的があったわけである.

 本号で取り上げられた“いわゆる回盲部近傍の単純性潰瘍”は,形態学の面からいえば一つのentityを有する一群の炎症性疾患と考えられる.本号の主題論文中で,渡辺英伸氏は従来単純性潰瘍の中に憩室炎が含まれていたことを指摘し,その鑑別点を病理学的に詳述している.また単純性潰瘍または非特異性潰瘍と呼称される腸の炎症性疾患の中に,種々雑多な病態が含まれていることは,武藤徹一郎氏の指摘する通りである.

基本情報

胃と腸

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1219

印刷版ISSN 0536-2180

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