研究
N-propyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine(PNNG)によるラット微小胃癌
著者:
松倉則夫1
河内卓1
所属機関:
1国立がんセンター研究所生化学部
ページ範囲:P.1105 - P.1110
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N-methyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine(MNNG)の経口投与でラット腺胃に癌が高率に発生するという杉村らの1967年の報告1)があってから12年を経過した.初期には実験胃癌が本当に癌であるかどうかが論議されたが,その病変が隣接臓器に直接浸潤し,さらに転移を起こすという事実で問題は解決された2).次にどこまで浸潤した病変を癌とするかが議論となった.Stewartらは漿膜まで浸潤した病変のみを癌とするという考え方であった3).この定義は厳格ではあるが,ヒト胃癌のモデルとしてラット胃癌を考える場合には必ずしも適切ではない.MNNGによる実験胃癌で,藤村らは筋層以下に浸潤したものを癌とし4),斉藤らは粘膜下層以下に浸潤し,細胞異型,構造異型の強いものを癌とした5).現在でもこれらの定義を用いるのが一般的である.しかし胃癌の発生点は粘膜に存在する.ラットにおいても粘膜内癌の1,2の記載はあるが5),これまで粘膜内癌が取り上げられなかった理由は2つある.第1に実験胃癌が粘膜内癌を論ずるまでまだ研究が進んでいなかったことであり,第2にMNNG投与によりラット腺胃粘膜には広汎な糜爛が生じ,その再生腺管の異型との鑑別が困難であったことである.実験的に粘膜内癌,特に本稿の主題である微小胃癌を検索するには,粘膜に糜爛,潰瘍や再生腺管を生じにくい条件で胃癌を発生させる必要がある.それには弱い発癌物質を投与する,または強い発癌物質を低濃度で投与するという方法が考えられる.本稿では,MNNGより発癌性が弱い6)7),N-propyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine(PNNG)をラットに投与したときに粘膜内に生じる微小胃癌について記述する.