5年6カ月以上の経過が考えられる胃スキルスの1例
著者:
笹川道三
,
山脇義晴
,
森山紀之
,
岡崎正敏
,
牛尾恭輔
,
松江寛人
,
山田達哉
,
北岡久三
,
海上雅光
,
板橋正幸
,
広田映五
,
市川平三郎
ページ範囲:P.1203 - P.1207
胃のスキルス10)14)はSkirrhus,diffuse Karzinom,Borrmann4型癌,carcinoma fibrosum,硬癌,scirrhous carcinoma,leather bottle stomach,linitis plastica型胃癌など,種々の名称でほぼ同義に呼ばれてきた.一方,スキルスを肉眼形態から“幽門狭窄型と胃体部型”“linitis plastica型とgiant fold型”“限局性びまん型とlinitis plastica型”“Skirrhusとcarcinoma fibrosum”などと大まかに2つに分ける見方があるが,私どもは,これらは原発部位の違いや,時相の違いによるものであって,本質的には変わるものでなく,胃スキルスとして総括できるものと考える.したがって,胃スキルスを論ずる際には混乱をさけるため,どの意味でスキルスの言葉を用いるかを明らかにしておく必要がある.私どもは胃スキルスを,肉眼的にはBorrmann4型またはlinitis plastica型と呼ばれる所見を呈し,組織学的には著明な間質増生を伴うびまん性浸潤型の胃癌とする立場をとっている.
スキルスの浸潤は,その大部分が粘膜下層以下の深部に広範かつびまん性に認められるのに対し,粘膜面に露出する粘膜内癌巣の拡がりが狭小であることが特徴の1つであり,これが早期発見を阻んでいる原因の1つでもある.この胃癌の中で最も予後の悪いスキルスを早期に発見する方法を模索して,種々の研究がなされているが,私どもも種々の検討10)14)16)から,スキルスの経過には5~6年に及ぶものがあること,また,粘膜面に露出するⅡc様の陥凹癌巣がスキルスの全経過にわたって存在するであろうと推論し,このⅡc様病変の早期発見の重要性を主張してきた.今回は,スキルスのX線像のretrospectiveな検討の中から1例を供覧し,若干の考察を加えた.