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雑誌目次

雑誌文献

胃と腸15巻5号

1980年05月発行

雑誌目次

今月の主題 胃のGiant Rugae 序説

胃のGiant Rugae

著者: 白壁彦夫

ページ範囲:P.469 - P.469

 Ménétrier以後,見た目と中身が違うというので揉め事が続いてきた.Ménétrierの論調を強いられてきた.われわれは感染してきたようだ.ありえぬ期待が長すぎたようにも思える.こんなイメージがぬぐえない.giant gastritisの呼び方で解放され,それで落ちつくかと思ったが,そうでもない.Ménétrierばなれが起こったには起こったが,gastritisの名前を使ってみてもスッキリしない.一方,Ménétrierの呼称のブームも,時にはおこる.臨床診断の側の取扱いもややこしくなるのでgiantrugaeというところで,一先ず,見方をきめ考えてみようという立場である.身近にあるようでもあり,遠くのもののようでもある実態を扱うのである.そこには巨大からミクロにわたる領域がある.ここに視野を変えた放恣な夢想を求めたいのだが,さてどうなるだろうか.綜説になるのか,正体を見させることになるのか,である.諸兄を歴史の流れの中に導入することができるか,これが特集の理由でもある.

 胃の隆起を,有茎,亜有茎,広基,平盤というとらえ方も,随分,古典的な手法である.現在,なお使われているにしても.原因のわかるもの,原因のわからぬもの,を対立させる手も使われてきた.慢性胃炎と胃癌を両極におき,その中間的存在としてみる,というのも古い.こんな経過をたどった挙げ句がgiant rugaeになったともいえる.

主題

胃の“Giant Rugae”―X線による所見のとらえ方

著者: 青山大三

ページ範囲:P.471 - P.488

 胃の“Giant rugae”という用語が,現在,日本ではかなり広く用いられている.この用語がそれなりに用いられている理由はあろうが,“Giant rugae”(以下GRと略す)をあまり厳密に考えることなく,文献的にみることも必要であるし,そこにかかげられてあるX線像やその描写法について特に注意深くみてみた.

内視鏡でGiant Rugaeをどう診断するか

著者: 竹本忠良 ,   飯田洋三 ,   岡崎幸紀 ,   榊信広 ,   斉藤満 ,   藤川佳範 ,   多田正弘 ,   天野秀雄 ,   竹内憲 ,   鈴木茂

ページ範囲:P.489 - P.494

 論文の書き出しというものは,何度書いてもむずかしいものだ.

 最近読んだウィリアム・ライターの『神話と文学』に,ロブグリエ(1972)の言葉が引用してある.“いずれにせよ,今この瞬間に私が生きている社会は神話の社会である.私を取り巻く要素はすべて神話的要素である.”という言である.

胃巨大皺襞のX線学的鑑別の検討

著者: 伊藤誠 ,   勝見康平 ,   横地潔 ,   武内俊彦

ページ範囲:P.495 - P.508

 胃X線所見のうちでも巨大皺襞像は特異な像のひとつで,その形成には粘膜層のみならず,粘膜下層以下の変化が要因となることが多いため,本所見を示す疾患の鑑別は困難なことが少なくない.

 私共は今回,巨大皺襞を呈した各種疾患のX線像に検討を加え,鑑別診断について若干の考察を加える.

巨大皺襞の内視鏡的鑑別診断

著者: 早川和雄 ,   竹内和男 ,   山田直行 ,   福地創太郎 ,   西蔭三郎

ページ範囲:P.509 - P.517

 胃内に巨大皺襞を形成する代表的な良性疾患として,メネトリエ病が広く知られている.しかしながらメネトリエ病の概念に関しては,病理学的にも臨床診断の上からも,少なからず混乱があり,未だ統一された見解が得られていない.1888年1),メネトリエは広汎な胃粘膜の腺腫様増殖を示す疾患を,polyadénomes polypeuxとpolyadénomes ennappeとに分類して記載した.polyadénomes polypeuxは,いわゆるびまん性のpolyposisと考えられ,polyadénomesennapPeとして記載された症例に類似したものを,後にメネトリエ病と呼称するようになった.彼の記載するpolyadénomes ennappeの要約2)は“胃腺の肥大による粘膜の肥厚により,粘膜鍛襲が,大脳の回転を思わせる程に非常に発達した良性の病変”ということである.しかしながら,胃腺の肥大に関する具体的な記載がないことより,その後のメネトリエ病の報告の中に,病理学的に種々の病変が含まれ,この病名の混乱が起こったものと思われる.胃腺が本来の構造を保ったまま厚くなった腺性肥厚性胃炎の一種とするもの3),腺窩上皮の過形成による萎縮性過形成性胃炎の一種とするもの,など種々の考え方がある.また臨床的に,低蛋白血症や低酸症がメネトリエ病に多く認められたためこれらの症状を同症の定義に含めるという考え4)もあったが,メネトリエの記載した症例では,腹水や浮腫を伴うが,低蛋白血症や低酸症について直接言及されておらず,また,これらの症状を伴わない症例の報告もあり,現在では特にメネトリエ病の診断に必須のものではないとされている5).他方,巨大皺襞を形成する疾患として,Borrmann 4型胃癌,悪性リンパ腫などの悪性疾患があるほか,ある種の粘膜下腫瘤,胃静脈瘤,Cronkhite-Canada症候群などが,時に良性の巨大皺襞と紛わしい所見を呈することがある.

 本稿では,われわれの経験した典型的なメネトリエ病を含む,内視鏡的に巨大皺襞を示した良性の疾患について検討するとともに,他疾患の続発病変としての巨大皺襞との内視鏡的鑑別診断の要点について述べてみたい.

胃のGiant Rugae―病理形態面から

著者: 渡辺英伸 ,   岩下明徳 ,   坂口洋司

ページ範囲:P.519 - P.529

 巨大皺襞を呈する胃疾患には,原因不明のgiant rugal hypertrophyのほかに,Zollinger-Ellison症候群,吻合部ポリープ状肥厚性胃炎,癌,リンパ腫,消化性潰瘍など種々のものがある.したがって,巨大皺襞という目立つ所見をとらえた場合,その裏に秘められた本質疾患を術前に正しく把握することが大切であることはいうまでもない.

 そのためには,患者の臨床症状,臨床検査(X線,内視鏡,血管造影など),および胃生検は重要である.特に,巨大皺襞以外の所見,陥凹,びらん,潰瘍,胃壁の硬化度などをX線や内視鏡によって正しく描出することによって,また,これらからも胃生検を行うことによって,本質疾患を術前に正しく把握することはほとんどの例で可能である.

胃巨大皺襞の病態―メネトリエ病の場合

著者: 多賀須幸男 ,   土谷春仁

ページ範囲:P.531 - P.541

 胃の皺襞は,「筋層に比して面積が大きい粘膜層がたるんで作ったひだである」と説明されている,それが巨大となる原因として,1)胃腺の増殖または肥大による粘膜層のびまん性の肥厚,2)粘膜問質の浮腫や細胞浸潤による粘膜・粘膜下層の肥厚,3)粘膜下層や筋層の収縮,があげられる.これらのうち,1)の理由により粘膜ひだが著しく巨大になった病変がメネトリエ病である.胃のgiant rugaeの病態という大きな命題に答えることは筆者らの手にとうてい負えぬことであるので,良性巨大皺襞の最も典型的な姿であるメネトリエ病のそれについて,綜説的な考察を行って責に代える次第である.幅広いスペクトルを有する巨大皺襞の一方の端に位置する本症の輪郭をとらえることは,全体の理解にとって欠くべからざるものであろう.

 なんとしても稀な疾患であるので,メネトリエ病を「胃粘膜の著しい増殖により胃粘膜ひだが脳回転様にまで巨大となった病変」104),と定義して,1950年から78年までの期間の内外文献より上記に合致することが確認できた自験例2例を含む86)116)113例(日本31例,アメリカ44例,フランス24例,ドイツ5例,他9例)を対象とした注).メネトリエ病の名称で報告されながら,上記定義に合致しない症例が稀ではない.他方,giant hypertrophic gastritis(またはgastropathy),tumor forming gastritis,hypertrophic protein-losing gastropathy,cachectic chronic gastritis93)などの名称で報告されているものも少なくない,近年はメネトリエ病と称する報告が多いが,これは本疾患の独立性あるいは特異性が承認されてきたことのあらわれであろう.症例の蒐集にあたっては広範に及ぶタコイボ胃炎または集簇したポリポージスとみられるものは除外したが,いずれとも決めかね,疑問を残しながら加えた症例がある9)26)33)38)53).小児のメネトリエ病は,成人のそれと異なると思われるので,別に扱った.

主題症例

Giant Hypertrophic Gastritis(Ménétrier病)の1例―その蛋白漏出の機序を中心として

著者: 桜井俊弘 ,   山本勉 ,   飯田三雄 ,   淵上忠彦 ,   松井敏幸 ,   尾前照雄 ,   城戸英希 ,   岩下明徳 ,   萱島孝二 ,   許斐康煕

ページ範囲:P.543 - P.552

 Ménétrier病(giant hypertrophic gastritis,胃巨大皺襞症)は比較的まれな疾患であり,現在までに国内外合わせて約200例,本邦では約30例が報告されている1).しかし,その病理組織学的本態,あるいはそれと低蛋白血症との関連性については,多くの未解決の問題を残している.

 最近,著者らは著明な低蛋白血症を伴った本症の1例を経験し,種々の内科的治療や電顕による検索などを試み,低蛋白血症の成因に対して若干の知見を得たので報告する.

胃全摘出術によって低蛋白血症の著明な改善をみたMenetrier病

著者: 鈴木茂 ,   山田明義 ,   鈴木博孝 ,   遠藤光夫 ,   小林誠一郎

ページ範囲:P.553 - P.557

 著しい低蛋白血症と巨大皺襞を示したMenetrier病の1手術例を呈示し,合わせて巨大皺襞症の内視鏡診断について著者らの考え方を述べてみたい.

伸展良好であった巨大皺襞型進行胃癌の1例

著者: 村上隼夫 ,   渥美清 ,   永尾正男 ,   梶原建煕 ,   野木村昭平 ,   伊藤忠弘 ,   川口新平 ,   中沢三郎

ページ範囲:P.559 - P.565

症例

患 者:70歳女

主 訴:下肢の浮腫

家族歴:特記すべきものなし

既往歴:69歳で交通事故

現病歴:1977年4月頃より,両下肢の浮腫を訴え本院へ来院,低蛋白血症を指摘され,精査加療のため同年6月27日入院した.

座談会

胃のGiant Rugae

著者: 山田達哉 ,   熊倉賢二 ,   高木國夫 ,   福本四郎 ,   岡崎幸紀 ,   渡辺英伸 ,   望月孝規 ,   中沢三郎

ページ範囲:P.566 - P.579

 望月 胃の巨大皺襞については,1968年に同じ企画がありましたが,そのときから診断や病理組織などの分野で進歩がみられ,また他の病気との鑑別診断についても,症例が多く経験されるようになってきたと思います.今日は現在の標準的,あるいは一番進歩的な考え方をまとめるとともに,これからの勉強のための問題点をもはっきりしていくという方向で,座談会がまとまればいいと思っております.

 初めに,この号にも多賀須先生が歴史的に詳しくお書きになりますが,まずFalteが大きいということを一番客観的にきちんと描写し,また,問題として取り上げるのは,やはり,レントゲン診断の先生が一番適当だと思いますから,山田先生,熊倉先生から口火を切っていただきたいと思います.

一冊の本

Gastrointestinal Pathology 2nd Edition

著者: 武藤徹一郎

ページ範囲:P.530 - P.530

 Morson & Dawson共著によるGastrointestinal Pathologyの第2版が出版された.第1版が売切れてから,その出版が久しく待ち望まれていたが,約130頁の増頁で805頁の大著となるとともに,期待通りの改訂が行われていた.第1版より一廻り小さくなっているので,増頁はその分を割り引かなければならないが,内容はずっと豊富になっていることは確かであり,写真の数も多くなっている.

 1972年に本書の第1版が出版された頃は,あたかも,わが国でちょうど大腸疾患に興味が集まりだした時期であり,他に大腸疾患全般に関する優れた病理の教科書がなかったために,本書は非常な人気をもって迎えられたのだった.以来,大腸病理の教科書として,本書がわが国で果たした役割は計り知れないほど大きなものであったと思う.

入門講座 胃癌診断の考え方・進め方・17

⑦X線読影法―その1.異常の発見

著者: 市川平三郎 ,   城所仂 ,   八尾恒良 ,   多賀須幸男 ,   中村恭一

ページ範囲:P.580 - P.583

 市川 次は読影法に話を進めます.初めにX線による読影ですが,異常と正常の対比から入りましょうか.

●まず異常からとりつくのが実際的

 <質問65>異常とは正常の対比としていわれるものですが,正常胃といわれるものは,検者の頭の中に経験として積まれているものでしょうか.もう少し客観的に正常胃の形態構造について解説してください.

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欧文目次

ページ範囲:P.467 - P.467

海外文献紹介「高年者における下部腸管出血」

著者: 小林世美

ページ範囲:P.518 - P.518

Lower Intestinal Bleeding in the Elderly: S.J. Boley,A.D. Biase,L.J. Brandt,R.J. Sammartano(American Journal of Surgery 137: 57~63,1979)

 1960年Margulisが,大出血をおこした69歳の女性で,手術的血管造影で“Vascular malformation”(血管上の奇型)をみつけている.そこで著者らは,高年者で,盲腸のVascular ectasiaまたはAngiodysplasiaが,下部消化管出血の重要な原因であると述べている.65歳以上の人での下部消化管大出血を100例経験したが,その中に結腸憩室によるもの43例,それに次いでVascular ectasiaが20例あった.その診断根拠は,血管造影で右側結腸に病変を証明した.出血の再発は,憩室症よりectasiaの方が多かった.治療は,Vascularectasiaでは,自然止血はわずか2例で,一方,憩室症の31人が自然止血をみている.血管造影時にEpinephrineやVasopressinの注入が時に成果をあげる.憩室の11例とectasiaの18例で手術が行われた.憩室では,血管造影で出血部位を確認して部分切除をすれば,再発はない.ectasiaでは,16人が右半結腸切除術を受けた.

海外文献紹介「逆流性食道炎における食物過敏症」

著者: 小林世美

ページ範囲:P.518 - P.518

Food Sensitivityin Reflux Esophagitis: S.F. Price,K.W. Smithson,D.O. Castell(Gastroenterology 75: 240-243,1978)

 症状のある食道炎の患者は,しばしば胸やけとある種の食物例えばシトロンジュース,香料添加食品,コーヒー,チョコレート,脂肪食品らの摂取との間に関連を示す.食物と胸やけの関連は,それらの下部食道括約筋(LES)に対する効果を測定することによって多くの研究がある.脂肪,アルコール,チョコレートらの食品が,括約筋圧を下げて酸の逆流をおこすことにより胸やけをひきおこすといわれている.

編集後記

著者: 中沢三郎

ページ範囲:P.584 - P.584

 Giantrugae,Giantfolds,巨大皺襞,巨大皺襞症などと書き並べると頭が混乱してしまって,遂には症とは,病とは何ぞやと考え込み,あまり精巧でもない小生の頭は壊れそうになってしまいます.今月の主題では,これらの言葉を整理し,何とか共通の理解を得ようではないかという意味から各方面の先生方に多年の経験を生かし,豊富な知識と研究の成果を駆使して分かり易く執筆していただきました.

 言葉というものは一度作り出されると,勝手に歩き出して知識の積み重ねにより,新しい事柄が判明すると,最初の製作者の意図とは無関係に,とんでもない方向へ行ってしまうことがあるようです.従って時々は立ち止まって,皆で相談し合いながら合意に達するという作業が必要となりますが,その意味からいって,今月の主題は意義のあるものといえましょう.

基本情報

胃と腸

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1219

印刷版ISSN 0536-2180

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