主題
膵癌診断の現況―小膵癌発見のために
著者:
高木国夫
,
霞富士雄
,
太田博俊
,
大橋一郎
,
竹腰隆男
,
大橋計彦
,
丸山雅一
,
田尻久雄
,
権藤守男
,
加藤洋
,
中村恭一
ページ範囲:P.595 - P.610
膵疾患の中で最も重要で,かつ,診断が困難であった膵癌に対して,近年各種の検査法が開発されてきている.なかんずく,十二指腸内視鏡による逆行性膵・胆管造影法(略してERCP)が1969年初めて臨床的に用いられ1)2),ERCPにより直接的に主膵管から膵実質の造影が行われるようになって膵癌の早期診断の可能性が期待された.しかしながらERCPの方法論が確立され,10年以上を経ているが,発見された膵癌は進行したものが多くて,切除例が少なく,膵癌の早期発見に関する手掛りさえ困難であって,ERCPによる膵癌の早期発見に関して,この検査法をもってしても不可能だという諦めと同時に,なぜ早期発見ができないかといった疑問をERCPの導入後も持ちつづけてきたものであった.
他方,膵臓をめぐる血管造影法が発達し,選択的動脈造影法により,微小膵血管の変化にもとつく膵癌の診断,癌の浸潤範囲にもとつく切除の可否の診断が可能になっている3)4).しかしERCPならびに血管造影の発達にかかわらず,診断された膵癌は,主として進行した切除不能な症例が大部分で,根治切除が可能で長期生存が期待しうる小膵癌の報告は稀であって,ERCPが開発されて10年以上を経た今日でもわずかな報告があるにすぎない5)~7).近年,超音波診断8),CTスキャン9)による診断法が加わってきているが,現実にかかる進歩した各種診断法を用いても現在では,直径2cm以内の小膵癌の診断の報告は少ないものである.膵癌が膵被膜内に限局しているものとしては,腫瘍の大きさが2cm以内に止まっているものが考えられ,われわれもERCPを開発して小膵癌の診断につとめたが,10年近くを経て初めて膵内に限局した直径2cmの小膵癌を報告した5).このような小膵癌の診断に関しては,有山ら6),安部ら7)の報告があるにすぎないが,小膵癌の発見に関していかにアプローチをなしうるかについて,癌研病院において,1978年および1979年の2年間に開腹手術を行った膵癌25例を中心に報告し,膵癌診断の現況と共に膵癌の早期発見への手掛りを考えてみたい.