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雑誌目次

雑誌文献

胃と腸15巻7号

1980年07月発行

雑誌目次

今月の主題 消化管出血と非手術的止血 序説

消化管出血とその対策の歴史

著者: 岡部治彌 ,   三橋利温

ページ範囲:P.705 - P.709

 消化管出血には顕出血と潜出血とがあり,共に重大な意味を持つが,潜出血は肉眼的には気づかぬ症状であり,また,その診断と治療に寸刻を争う程の緊急性はない.一方,顕出血は,その出血が急激かつ大量の場合には,短時間内にショック状態におちいって生命の危険にさらされることにもなりかねない.したがって,かかる顕出血患者に対しては,患者の全身状態に対する正確な判断と適切な治療が迅速に行われることが不可欠である.

 ところでその対策であるが,従来,急性大量出血に対しては緊急手術療法が,唯一の積極的止血法であり,また現在でも,あるいはもっとも確実な止血法であるが,いろいろの原因疾患や合併疾患をもった出血患者すべてに対して安全に施行される程に侵襲の少ない治療法ではない.止血さえ可能ならば助けうる患者を手術が不可能であるために,みすみす失うくやしさを経験する例は必ずしも少なくない.それが近年,緊急内視鏡検査法の確立,腹部動脈選択的造影法の発展と共に,これら診断手技を通じての積極的止血法が,つぎつぎに考案発明されて,非観血的積極的止血法に対する関心は,今や国の内外を問わず,とみに高まっている.特にファイバースコープ診断が広く普及しているわが国においては,内視鏡検査にもとづく正確な診断と,経内視鏡的止血法に関心を寄せる人々が急速に増加しつつある.またその止血法も,いくつかの方法が工夫され,試みられているが,まだ必ずしも十分効果的であり,かつ操作も容易であるというわけにはいかない.また,動脈造影を用いての血管栓塞止血法は高度の技術と忍耐を必要とするものであるが,これは従来,予想することもできなかったほどの好結果を得始めている.

主題

上部消化管出血の非観血的止血法の現状と展望

著者: 竹本忠良 ,   河原清博 ,   宮崎誠司 ,   大下芳人 ,   榊信広 ,   岡崎幸紀

ページ範囲:P.711 - P.720

 『思考と行動における言語』の著者として有名なS.I.ハヤカワは近著『ことばと人間』(池上嘉彦・池上恵子訳,紀伊国屋書店)に,「私たちは情報が爆発的にあふれている時代に生きていることも,知っている.しかし私たちは同時に,誤った情報が流出する真只中にいる.……毎日,印刷物や電子工学的媒体のおびただしいことばに爆撃されている私たちは,誰を,何を,どの程度信じるかを決めるのに用いるある種の批判的方法を持たねばならない.」と述べている,同様なことはすでに多くの人が指摘し,強調しつづけていることであって,なにもハヤカワ氏の著書を,教育勅語でも引用するように,ぎょうぎょうしく持ちだす必要はないかもしれない.

 とはいうものの,この主題論文の「非観血的止血法の現状と展望」というテーマはたいへんむずかしい.とくに,展望といわれると,もしかすると,とんでもない誤った情報を読者にあたえることになるかもしれないと,少々気にしている.したがって,そこらあたりの記述は,十分眉につばをぬって,お読みいただきたい.

外科からみた非手術的止血法への批判

著者: 武藤輝一

ページ範囲:P.721 - P.725

 表題のような内容について記載するようにと編集室から御連絡をいただいたが,私にはとても“非手術的止血法の批判”などを書く資格はなさそうである.むしろ,最近はいろいろと工夫して非手術的止血法が積極的に検討されつつあることに敬服の念をいだいているからである.もし外科からみて申し上げたいことがあるとすれば,非手術的止血法に専念するあまり,その間の循環管理などを中心とした全身管理が不十分となり,手術適応として外科へ送られて来たときにはショック状態となっていて,手術により止血しえたものの腎不全の状態になったとか,hypoxiaが続いたために術後縫合不全を起こしたとか,大量輸血のために血清肝炎を併発したというような症例があることである.状態が不良のまま手術せざるを得なかったとしても,死亡の原因や合併症発生の原因はすべて外科医の責任となる.結局は,非手術的止血法そのものについての批判というものは少なく,手術適応の判定時期や全身的な管理・治療に問題があることになる.したがって,必ずしも表題に合致した内容ではないかもしれないが,思うところを述べさせていただきたい.

止血法の実際

高周波電流による焼灼止血法

著者: 平塚秀雄 ,   長谷川充輝 ,   檜山護 ,   上田治 ,   斎藤節

ページ範囲:P.727 - P.731

 消化管出血は常にショックから死の転帰をはらんでおり,その止血対策は臨床上極めて重要な課題である.近年,消化管出血に対する緊急内視鏡検査法の概念が定着し,急性胃出血の対策(Fig. 1)1)2)の体系下において,出血巣の観察所見をもとに内視鏡的止血法を実施することは極めて意義深いものと考える.内視鏡下の止血法としては,はじめて筆者の考案した高周波電流による露出血管焼灼法3),林の止血クリップ4)などがあるが,ただ止血できる出血にも限界があり,近年,レーザーによる光凝固止血5)が画期的な方法として脚光を浴びるようになった.しかしわが国においては,まだレーザー内視鏡は臨床実験の段階であり,また非常に高価ということもあって,その臨床上の普及にはなお日時を要するものと考えられる.そこで,一般に普及されている高周波電流による焼灼止血法を,より完壁なものを目指して改良していかねばならない.

消化管出血に対するレーザー止血法

著者: 水島和雄 ,   原田一道 ,   岡村毅与志 ,   柴田好 ,   林憲雄 ,   並木正義

ページ範囲:P.733 - P.738

 消化管出血に対するレーザー光線による内視鏡的止血法については,1970年頃より西ドイツやアメリカなどから報告されている1)~7).遅ればせながら,最近わが国においてもこれについての関心が高まり,限られた施設ではあるが検討されつつある.

 われわれも,1978年から西独MBB社のYAGレーザー(Medilas)を用い,消化管出血に対する止血効果をみてきたので,これまでの経験をもとに見解を述べてみたい.

血管造影による消化管出血の診断と治療

著者: 草野正一 ,   小林剛 ,   真玉寿美生 ,   鎗水民生 ,   中英男

ページ範囲:P.739 - P.750

 消化管出血の診断に血管造影が役立つことを明らかにしたのは,1960年Margulisら1)が最初で,その後NusbaumやBaumらによって精力的な研究が続けられ,1960年代の後半からは,血管造影の手技が消化管出血の治療に積極的に応用されてきた2)~6).しかしながら,わが国における消化管出血に対する血管造影の臨床応用は,いまだ十分とはいい難く,その報告も極めて少ない7)~9).そこで,消化管出血の診断と治療に血管造影を積極的に行ってきたわれわれの施設での成績を検討し,血管造影の手技を応用した消化管出血の治療の実際を中心に報告する.

高張Na-Epinephrine液(HS-E)局注療法

著者: 平尾雅紀 ,   山崎裕之 ,   升田和比古 ,   小林多加志 ,   山口修史 ,   河内秀希 ,   佐藤冨士夫

ページ範囲:P.751 - P.755

 消化管出血,特に上部消化管の大量出血例に対して,緊急内視鏡検査を行い,出血源の正確かつ迅速なる診断を行うことは,その病態の把握および治療に大きく寄与することは,よく知られている.上部消化管出血のうちで胃および十二指腸からの出血は91%を占める1).これらに対する内視鏡的止血法の確立は極めて重要である.出血性潰瘍に対する治療指針ないし重症度判定規準は,長尾1),川井2)3)らが一般的である.しかし最近,特にこの10年間の内視鏡技術のめざましい進歩は,消化管出血に対する概念を一変させつつある.診断学にとどまらず,大きく治療の面にも比重を加えつつある.クリッピング法,高周波電気焼灼法,エピネフリン撒布法など,種々考案され試みられている5)8)15).特に内視鏡的レーザー止血法は注目を集め14),日本においても精力的に開発が進められている16).実際に消化管出血時の内視鏡検査では,出血という条件下で,迅速性,手技の簡便性が要求される4)

 われわれの開発した内視鏡下,高張Na-Epi-nephrine液(HS-E)局注療法はその問題点を満足してくれるものと思われる.出血血管の止血は理論的には,血管内の血栓形成と同血管壁の器質的変化による閉塞を起こし,永久止血効果を得ることが望ましい.HS-E局注療法は,エピネフリンの強力な薬理作用である血管収縮作用と高張液の物理化学的性質を組み合わせることにより得られる止血方法である.その作用機序は高張Na液によるエピネフリンの作用持続時間の延長,周囲組織の膨化,血管壁のフィブリノイド変性,血栓形成という一連の変化によるものであり,そのような器質的変化をきたすことは基礎的検討により判明した6).また,実際に臨床的にも満足すべき成績をあげてきたといえる7)

紹介

上部消化管出血対策に関する諸外国の現況

著者: 川井啓市 ,   郡大裕

ページ範囲:P.756 - P.757

 昨年5月,西独ErlangenでDemling教授主催のもとに開かれたInternational Symposium “Operative Endoscopy”において,上部消化管出血に対する非手術的止血法がテーマの1つとしてとりあげられたが,その際,出血源を食道静脈瘤とその他の上部消化管出血巣,殊に出血性消化性潰瘍とに大別して,それぞれに対する止血対応策が論議された.このSymposiumには西独のほか,米国,英国,フランス,オーストリア,日本からの専門医が招待されて論議をたたかわしているので,このSymposiumの概要をまとめて,外国の現況紹介としたい.

 まず食道静脈瘤対策であるが,Kiefhaberらはピトレッシン注射療法,バルーン圧迫療法,あるいは壁硬化剤注入療法など他の止血療法が無効であった127例の急性食道・胃静脈瘤出血に対してneodymium(Nd)―YAGレーザー光凝固療法を試み,116例(91.3%)の止血に成功し,成功例では以後緊急手術やバルーン圧迫療法は必要としなかったと述べ,さらに消化性潰瘍の顕出血例にも外科医と協力しながら本法を応用すれば,出血による死亡率を下げられる可能性があると述べた.また,食道・胃静脈瘤出血例のうち本法による止血成功例116例中75例は顕出血例であったし,軽度出血例は41例に過ぎなかったと述べ,顕出血に対する本法の有用性を強調した.Denckらは858例の食道静脈瘤出血例に対して様々の止血対策を試みた結果,バルーン圧迫療法では31例中15例(50%)が死亡し,10例(30%)に再出血をみ,バルーン圧迫療法の成績が最も悪かったが,内視鏡的壁硬化剤注入療法では647例中死亡例109例(16.8%),再出血例101例(15.5%)とその成績は著しく改善されたと報告した.したがって,本法は食道静脈瘤出血,殊に軽度の限局性の出血に対しては有用であり,また,余り大きくない食道静脈瘤に対しては,あらかじめ本法を施せば出血予防療法としての意義もあると強調したが,同時に,胃静脈瘤や非常に進行した食道静脈瘤からの出血に対しては本法は余り有効でなく,また出血予防療法としての意義も少なかった.そこで最近1年半程の間に,本法に加えてLunderquistに準じて経肝的壁硬化剤注入療法を併用しているが,29例中21例の食道静脈瘤の止血に成功したものの,5例は後日肝昏睡を来たして死亡し,2例に重篤な再出血を認めた.したがって,この併用療法にはいまだ論議の余地があり,肝不全の予測される場合には,この併用療法は勧められず,内視鏡的な壁硬化剤注入療法をくり返し行うほうがよいと結論した.

座談会

消化管出血と非手術的止血

著者: 中島正継 ,   真玉寿美生 ,   大下芳人 ,   渡部洋三 ,   高瀬靖広 ,   打田日出夫 ,   並木正義 ,   川井啓市

ページ範囲:P.758 - P.771

 並木(司会) 今日はお忙しいところお集まりくださいましてありがとうございます.消化管出血とその止血対策は,いつの時代でも臨床の実際において重要な課題です.1969年の“胃と腸”4巻2号で一度「上部消化管出血」というテーマを取り上げ,座談会も行われていますが,それから10年経ちました.時代とともに消化管出血の様相も変わってきましたし,とくに止血対策については,内視鏡を駆使したいろいろな方法が試みられており,進歩の跡が見られます.

 ここにお集まりくださいました先生方は,そうした新しい止血法の工夫に自ら苦労され,実際にその道の先端的な仕事をしておられる方ばかりですが,今日はその苦労話を含めて,消化管出血の止血法のわが国における現状,また問題点といったことを語り合っていただきたいと思います.

症例

4年間経過観察しえた広範なⅡb型早期胃癌の1例

著者: 上地六男 ,   松野堅 ,   前田淳 ,   赤上晃 ,   山下克子 ,   横山泉 ,   市岡四象 ,   丸山ユキ子 ,   山田明義 ,   鈴木博孝 ,   鈴木茂 ,   遠藤光夫

ページ範囲:P.773 - P.778

 胃X線診断や内視鏡診断の技術が向上し,Ⅱcや微小胃癌が術前に診断できるようになってきた.最近では,とくに色素を応用した内視鏡検査や生検の併用により,Ⅱb型早期胃癌が術前診断例がふえつつある.今回,われわれは,胃X線診断でⅡb型早期胃癌を疑い,内視鏡および生検で術前診断しえた7×10cmの広範囲Ⅱb型早期胃癌の1例を経験したので報告する.

 症例

 患 者:今○水○ひ○ 52歳 女

 主 訴:心窩部痛

 現病歴:1972年に東京女子医大消化器病センタ一定期検診部入会,その後東京女子医大成人医学センター成人病定期検診を年2回受診し,1978年4月に胃X線検査で胃角上部小彎の壁硬化像を指摘され,精査の結果広範なⅡb型早期胃癌と診断された.

下血を主訴とし小腸X線検査にて診断された回腸悪性リンパ腫の1例

著者: 西田達郎 ,   冬野誠助 ,   渕上忠彦 ,   八尾恒良 ,   尾前照雄 ,   古山正人 ,   渡辺英伸 ,   沼口雄治

ページ範囲:P.779 - P.784

 小腸悪性腫瘍は比較的稀であり1),近年の小腸X線診断学の著しい進歩にもかかわらず,その性状診断は必ずしも容易とはいえない.

 われわれは最近,下血を主訴とし限局性腫瘤の表面に潰瘍を伴った回腸悪性リンパ腫の1例を経験したので症例を報告し,主として診断学的な立場から若干の考察を加えてみたい.

 症 例

 患者:27歳,男性,会社員

 主訴:下血・下痢

 既往歴・生活歴:特記すべきことなし

 現病歴:1978年9月13日下痢出現し,はじめて下血に気づいた.腹痛なし.その後も下痢・下血が持続したため,精査を目的として9月22日九州大学第2内科へ入院した.

学会印象記

アルゼンチンの2学会に参加して

著者: 武藤徹一郎

ページ範囲:P.732 - P.732

 第4回アルゼンチン連合地方学会(Congress of Argentine Federation of Gastroenterology)と第5回アルゼンチン内視鏡学会とが,Cordobaで4月28日~5月2日の5日間開催され,これに参加する機会をえたのでその印象を報告したい.前者は,アルゼンチン消化器学会がBuenos Airesを中心に2年に1度開かれるのに対して,Buenos Aires以外の地域が連合して,それに対抗して結成された会で,やはり2年に1度の割合で開かれている.Cordobaはアルゼンチンでも最も古い都市の1つで100万の人口を有し,ジェスイット派が建てた教会を中心にした静かな都市であるが,日本ではマルコ少年が“母を尋ねて三千里”の旅をした目的地として以外にはあまり知られていないであろう.

 会場は大学内の2つの講堂と9つの教室が使われ,600~700人の参加で華やかさはないが,西⇔英,西⇔独の同時通訳が行われているのには驚かされた.これはアルゼンチンの学会では欧米からの招待参加者が少なくないためで,今回も日本からの4人(遠藤,堺,大藤,武藤)の他に,英,米,独,仏からの参加者があったので,一見国際学会のようであった.Classenは予定変更で来られなかったが,Elster,Marstonらの大物の顔もみえた.8.00~8.50がfree paperで,その後は大講堂では特別講演,シンポジウム,ラウンドテーブルディスカッションなどが,教室ではワークショップや専門家を囲んでの質疑応答(tea with professor)などのプログラムが組まれており,p.m.8.30が終了時間である.シンポジウムにはやたらに多数の名前が載っているが,キャンセルする人が少なくなく,演者の数よりPresident,Director,Coordinator,Secretaryなどのお偉方の数の方が多かったりするのは,いかにもラテン系,ヨーロッパ風であるが,こういう学会では余りそのようなことを気にせず,臨機応変にスライドの枚数を加減できないととても務まらない.

第22回日本消化器内視鏡学会印象記

著者: 多賀須幸男 ,   桜井幸弘

ページ範囲:P.790 - P.791

 第22回日本消化器内視鏡学会総会は昭和55年5月14・15・16日に,春日井達造会長のもとで,名古屋市民会館を中心として3会場で開催された.会長講演,特別講演2題,シンポジウム3題,パネル1題,一般193題と,例年通りの盛り沢山な総会であった.参会者はおよそ2,00O名と聞いているが,一時は減少気味のような印象もあった若い会員の姿が多くみられ,講演に討論に活躍していたのは喜ばしいことである.一般演題を主題別にみると,食道25(13%),胃59(31%),小腸12(6%),大腸46(24%),胆膵管系28(15%),腹腔鏡23(12%)であった.昨年の総会に比較すると,大腸関係の演題の比率が増加している.

 春日井会長のライフワークであるERCPは,この総会のメインテーマで,会長講演のほかに,特別講演,シンポジウムでも取り上げられ,さらに一般演題とERCP研究会で合計46題の発表があった.

入門講座 胃癌診断の考え方・進め方・19

⑧内視鏡読影法

著者: 市川平三郎 ,   城所仂 ,   八尾恒良 ,   多賀須幸男 ,   中村恭一

ページ範囲:P.786 - P.789

 市川 いよいよこの入門講座も最終回を迎えました.今度は内視鏡による異常の発見からお願いします.

●内視鏡による異常の発見

 <質問74>いわゆる乗っかりか,陥凹性病変か,判別困難なことがしばしばありますが,この点について教えてください.

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欧文目次

ページ範囲:P.703 - P.703

書評「消化管の病理と生検組織診断」

著者: 長与健夫

ページ範囲:P.720 - P.720

 消化管疾患の診断にとって,生検組織診が必要欠くべからざるものになってから既に相当の年月が経つ.わが国のみならず世界中のどの国においても,この方法が日常の診療に際していかに有用なものであるかを誰でも良く知っているし,この方面の診療に携わる人々はそのことを肌身に感じ取っている.

 しかし,物事には常に表と裏の二面性があるように,生検についてもそのプラスの面だけを強調するのは事実を正確に伝えることにはならない.それが有効,適切であるためには,診断を下すのに必要と思われる所から最小限の組織片が採取されなければならないことは勿論であるが,その条件が満たされていたとしても,肝心の生検標本をみる人の目が曇っていたり,やぶにらみであったりすると,かえってX線や内視鏡で正しくみていたものを誤診に導く因にもなりかねないマイナスの面をもっていることも忘れてはなるまい.また,この方法が有効でない消化管疾患も少なくないし,技術的な問題が介在する場合もある.

海外文献紹介「部分的胃切除15~27年後の胃粘膜の組織学的所見」

著者: 小林世美

ページ範囲:P.726 - P.726

Histological appearances of the gastric mucosa 15~27 years after partial gastrectomy: Ann Savage, S. Jones(J Clin Path 32: 179~186, 1979)

 良性疾患による胃切除後の晩期合併症としての残胃癌については周知の如くである.この研究は,部分的胃切除後15~27年を経た患者を内視鏡的に観察し,残胃癌の頻度を調べるとともに,その高危険群を同定し,残胃粘膜の組織学的変化の把握を目的として行った.

海外文献紹介「大腸癌における局所照射の効果」

著者: 小林世美

ページ範囲:P.785 - P.785

Effectiveness of Local Radiotherapy in Colorectal Carcinoma: A.R. Rao, A.R. Kagan, P.Y.M. Chan, H.A. Gilbert, H. Nussbaum(Cancer 42: 1082~1086, 1978)

 大腸癌に対する照射療法は,手術不能の再発例あるいは転移性癌に用いられてきた.最近では,手術前照射または手術の補助療法として行われ好成績が報告されているが,術後照射の報告は少ない.

編集後記

著者: 竹本忠良

ページ範囲:P.792 - P.792

 私も,原稿を書くのは比較的早いほうである.そうたびたびは,出版社の編集部員を泣かせた記憶はない.そう勝手にうぬぼれているので,それこそシアワセものである.どうも,最近の傾向として,「胃と腸」の刊行が多少おくれがちなのではないか.たいへん気になることである.いつも,たいへんな力作が寄せられているので,執筆にてまどられるのは重々理解できる.この号の,私が書いたような総説のような,はいてすてるほどある論文はほとんどないので,データの集計,整理に時間がかかってしまうことはわかる.しかし,もうすこし早く,手もとに雑誌がとどくよう御協力して頂けないだろうか.これは,編集部から聞いたわけではない.私が,勝手に,そう思いこんで書いているだけである.

基本情報

胃と腸

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1219

印刷版ISSN 0536-2180

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