今月の主題 早期胃癌は変貌したか
主題
早期胃癌の病理形態的年代別推移―特に肉眼形態の最近の変貌
著者:
廣田映五1
海上雅光1
板橋正幸1
北岡久三2
平田克治2
大西徹哉2
小黒八七郎3
山田達哉4
笹川道三4
市川平三郎4
所属機関:
1国立がんセンター研究所病理部
2国立がんセンター研究所外科
3国立がんセンター研究所内科
4国立がんセンター研究所放射線診断部
ページ範囲:P.13 - P.26
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1962年の第4回日本内視鏡学会において早期胃癌の定義と分類法1)が提唱されてから,既に18年の歳月が経過している.初期の段階では,各施設とも早期胃癌例数も少なく,また分類法についてもその解釈と適用の仕方に統一性が不十分であり早期胃癌の型別頻度について一定の傾向というものを把握することが困難であった.しかし,その後のX線,内視鏡診断学,生検組織診断などの著しい進歩により,早期胃癌症例数が目覚ましく増加し早期胃癌についての統計的処理に十分な症例数となり,考察が可能となる時期に至っている.つまり,分類に呈示されている型のあらゆる型のものがそろい,しかもその頻度についてもまだ施設間での差があるという問題点を残してはいるが2),各施設とも診断法ならびに外科的治療法の程度に応じた一定の傾向が見られるようになってきている.同時に診断学の進歩により,より小さく,浅い胃癌,しかもわかりにくい早期の胃癌がかなり発見されるようになってきた.更に,1978年の日本消化器病消化器内視鏡合同学会のシンポジウム3)でも,微小胃癌について取り上げられ癌巣の最大径が5mmまでのものを微小癌として取り扱うことがほぼ定着し,臨床的に単発のものも発見され,胃癌の組織発生学的議論の対象とされるようになっている4)5).
胃癌に関する研究の歴史からみれば早期癌の歴史はまだ浅く,約20年間という短い期間ではあるが,この間診断用機器および診断学手法も大きく進歩を遂げた.一方,同時期の平均寿命の延長,環境要因,特に食生活の変化などと関連して胃癌の原因物質の差による質的変化および促進因子の差による癌の生物学的態度の変化が起きている可能性を推察するとき,過去にさかのぼって早期胃癌を振り返り,その形態学的変貌について言及してみることは臨床診断学ならびに組織発生学的見地から意義深いことであると思われる.