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雑誌目次

雑誌文献

胃と腸17巻7号

1982年07月発行

雑誌目次

今月の主題 胃・十二指腸潰瘍の病態生理 序説

胃・十二指腸潰瘍の病態生理

著者: 川井啓市

ページ範囲:P.719 - P.719

 本号の主題である“胃・十二指腸潰瘍の病態生理”は消化器病の領域のなかでは,周知のように最も古いテーマの1つでありながら,それでもいつも何か新しさを持つ主題である.

 それだけ病因は複雑であることを意味しているし,同じ消化性潰瘍といっても病期,再発などそのnatural historyに関係する要因は異なった重さで関係していることにもなろう.したがって日常の臨床での重要性と共に,毎年,幾つかのかつ何らかの新しい知見が加えられることが,毎年の学会のテーマに取り上げられている理由であると思われる.

主題

消化管ホルモンからみた胃潰瘍の病態生理・十二指腸潰瘍の病態生理

著者: 藤本荘太郎 ,   木本邦彦 ,   井口秀人 ,   中島正継 ,   菅原侠治 ,   川井啓市

ページ範囲:P.721 - P.732

 消化性潰瘍の成因に,胃液分泌を介して消化管ホルモンが重要な役割を演ずることは,古くより指摘され,多くの研究がなされてきた.そして,既に10種を越える消化管ホルモンが発見され,その多くが生理的胃液分泌調節に何らかの関与をしていることも知られているが,消化性潰瘍の病態生理に及ぼす役割については,ガストリン,セクレチンを除いてはほとんど知られていないのが現状である.

 一方,消化性潰瘍という名称の中に総合される胃潰瘍および十二指腸潰瘍は,それぞれ胃液分泌動態をめぐって著明な相違が認められることは周知の事実である1)~4).本稿では,胃液分泌,ガストリン分泌を中心としたわれわれの形態学的研究を紹介することにより,胃潰瘍と十二指腸潰瘍の病態の相違を述べることより始めて,消化性潰瘍の病態生理に及ぼす消化管ホルモンの意義について話を展開していきたい.

胃潰瘍と自律神経異常

著者: 織田正也 ,   中村正彦 ,   渡辺勲史 ,   塚田信広 ,   米井嘉一 ,   土屋雅春

ページ範囲:P.733 - P.746

 自律神経異常と胃潰瘍,特にストレス潰瘍発生との関係については古くから注目され,究明されてきたが,まだ未解決な問題が多く,現在なお新しい課題と言える.

 一般に,胃は生体への過剰なストレスに対して最も鋭敏に反応する臓器として知られるが,そのストレスが胃に伝達される経路として前部視床下部から副交感(迷走)神経系あるいは交感神経系を介するものと後部視床下部から下垂体一副腎系の液性伝達物質を介する2つのルートが想定されている1)2),前者はReilly現象3)として,後者はSelye症候群の一部分症4)としても理解できる.従来の実験成績から判断すると,このいずれの伝達経路においてもストレスにおける迷走神経系の興奮あるいはACTH-cortisoneのホルモン過剰による胃酸とペプシン過剰分泌がストレス潰瘍の成因として重視されてきた2)

胃・十二指腸潰瘍の病態生理からみた粘膜血流と防御因子

著者: 北島政樹 ,   上田光久 ,   相馬智

ページ範囲:P.747 - P.756

 現在までに胃・十二指腸潰瘍の発生に関する病態生理の研究は,本邦,欧米を問わず多くの報告がある.特にShay1)の攻撃因子および防御因子の不均衡説は多くの人々により認められ,引用されているのが現状である.著者も実験を通じ両因子の不均衡の重要性は肯定しえたが,特に防御因子の中でも粘膜血流量の関与が多大であることを確認した.すなわち粘膜血流量と他の防御因子の関係は植物の根と葉の関係に類似し,根からの栄養吸収の障害はあたかも胃粘膜の血流遮断に例えることができると考えられた(第23回日本消化器内視鏡学会総会シンポジウム).更に粘膜防御因子の破綻は,胃内に存在する水素イオンの逆透過性亢進を惹起し,潰瘍の発生を導くと想定された.

 今回,筆者に与えられた命題は“粘膜血流と防御因子”であり,実験成績を中心に,両者の相互関係がいかに潰瘍発生に関与しているかについて論じてみたい.

胃酸分泌能と胃排出能からみた胃・十二指腸潰瘍の病態生理

著者: 原沢茂

ページ範囲:P.757 - P.764

 消化性潰瘍の成因を論ずる場合,no acid no ulcerで語られるごとく,胃酸分泌を無視できないことは言うまでもない.しかし胃液酸度のみに原因を負わせることは不可能である.

 胃および十二指腸潰瘍の2つの潰瘍は全く異なった病態であることは,現在では常識的である.日本人と欧米人の消化性潰瘍を疫学的にみると,食生活や社会的環境などが欧米化したことにより胃潰瘍と十二指腸潰瘍の占める割合が逆転し,十二指腸潰瘍の比率が増加していることなどから考えて,攻撃因子としての胃酸分泌能の意義は重要である.

座談会

胃・十二指腸潰瘍の病態生理

著者: 三崎文夫 ,   早川滉 ,   矢花剛 ,   三輪剛 ,   青木照明 ,   渡部洋三 ,   岡部治彌 ,   古賀成昌

ページ範囲:P.786 - P.799

 岡部(司会) 胃・十二指腸潰瘍の成因論に有名なShayの“balance theory”があります.約20年前の第2版のBockusの本のあの秤の絵を日本の雑誌に私が初めて紹介したのではなかったかと思っているのですが,初めてあの絵をみた時にうまいtheoryだなと思いました.ところが,実は最近必要があって古い文献を読んでおりましたら,明治の中ごろに日本の文献に既に攻撃因子,防御因子に類する言葉が使われているのを知って非常にびっくりしました.言うなれば,Shayは昔から言われている概念に学問の進歩によって新しくわかってきた諸因子を組み込んだにすぎないわけです.

 本日の話題である病態生理についても,運動と分泌機能に関してかなり詳しいことが昔からわかっています.ただ,そういう生理機能の異常を来す原因となる自律神経系や各種消化管ホルモンに関する知識また粘膜血流や粘液成分に関する研究も最近急速に進歩してきました.

研究

疫学からみた胃潰瘍発生の背景

著者: 五ノ井哲朗

ページ範囲:P.765 - P.771

 種々な場合に観察された胃潰瘍の頻度を,そのまま発生率に短絡したようなものは別として,胃潰瘍の発生自体が疫学的考察の対象となったことは極めてまれである.筆者は先に胃潰瘍の疫学について若干の私見を報告したが1)~3),その中でも発生の問題についてはほとんど触れるところがなかった.この小論文は,いわば,その追加報告である.

 胃潰瘍の治癒と治癒率

 胃潰瘍の自然発生率を観察することは不可能事で,当然ながら直接的な資料はない.観察しうる種々な“場合の頻度”を援用して推論を試みるほかはないと思われる.

十二指腸潰瘍のnatural history

著者: 山田直行 ,   早川和雄 ,   福地創太郎 ,   秋山洋 ,   中島幹夫

ページ範囲:P.773 - P.784

 十二指腸ファイバースコープが開発されてから十二指腸潰瘍の臨床経過がかなり的確に把握されるようになってきたが,長期経過については胃潰瘍1)2)に比較して不明な点も多い.われわれは内科的に経過観察中の症例について,長期経過に伴う再発の実態を調査し,臨床症状や潰瘍の形態,X線的球部変形の推移,胃潰瘍の合併などについて検討すると共に,手術症例における手術に至った経過を解析し,十二指腸潰瘍のnatural historyについて考察を加えた.

 内科的経過観察中の十二指腸潰蕩の経過 

 内視鏡にて十二指腸潰瘍の存在を確認した症例のうち,初発と推定される時点から3年以上の経過が明らかな症例を対象として,十二指腸潰瘍の長期経過について検討した.

症例

噴門部胃悪性リンパ腫の1例

著者: 伊東正一郎 ,   望月福治 ,   池田卓 ,   松本恭一 ,   藤田直孝 ,   小野康夫 ,   金子靖征 ,   林哲明 ,   高橋良延 ,   沢井高志 ,   山家泰 ,   菅原信之 ,   白根明男

ページ範囲:P.801 - P.805

 症例

 患 者:58歳,女.

 主 訴:食物摂取時の心窩部のしみる痛み.

 家族歴:特記すべきことなし.

 既往歴:20歳虫垂切除術.53歳胃炎,自律神経失調症.

 現病歴:1979年夏ごろからおくびが出るようになった.同年11月胃集団検診を受け,異常を指摘され,精査をすすめられた.1980年1月ごろから食物摂取時に心窩部のしみるような痛みを感じるようになり,2月18日,宮城県対癌協会より当科へ紹介され,入院した.

回腸脂肪腫に起因する腸重積症の1例

著者: 仁尾義則 ,   市川利洋 ,   新田直樹 ,   田中明 ,   辺見公雄

ページ範囲:P.806 - P.810

 消化管の脂肪腫はまれな疾患で,特異的症状を欠くため,術前に診断を下すことは非常に難しく,開腹により発見されることが多いとされている.最近,著者らは,回腸脂肪腫に起因する回盲部腸重積症を経験したので,若干の文献的考察と併せて報告する.

十二指腸生検にて壊死性血管炎の所見を得たSchoenlein-Henoch紫斑病の1例

著者: 宮本祐一 ,   森松稔 ,   山口恭宏 ,   松永章

ページ範囲:P.811 - P.814

 Schoenlein-Henoch紫斑病は関節症状,腎症状と共に,腹部症状を高頻度に伴う紫斑病であるが,小児に多く比較的予後良好であるために,皮膚あるいは腎以外の病変が病理組織学的に検討されることはまれである.われわれは,腹部症状で発症した本症に,十二指腸生検にて特異的病変と考えられる所見を得たので,文献的考察を加えて報告する.

Case of the Month

Early Gastric Cancer, Type Ⅱc

著者: ,   ,  

ページ範囲:P.715 - P.718

 A50-year-old woman patient visited Toranomon Hospital with the chief complaint of epigastric pain since January, 1981. X-ray examination of the stomach done on May 5, 1981 revealed a depressed lesion suspected of malignancy on the posterior wall of the incisura region.

 She had a past history of acute hepatitis at the age of 24. Physical examination was normal. Blood count and blood chemistry were within normal limits. Chest and abdominal plain film were normal.

学会印象記

第24回日本消化器内視鏡学会

著者: 大柴三郎

ページ範囲:P.799 - P.800

 消化器関連学会が横浜市で開催されたのは初めてであろう.北里大学岡部教授が再三“文明開花の入口,青い瞳をした外国人が来日し,赤い靴を履いた女の子が外国へ,その門戸であった横浜港の幻の桟橋を抱く山下公園を目の前にした会場……”と言われていた,横浜と書くよりヨコハマと書くほうがぴったりするような雰囲気の中で,学会は開催された.

 学会前夜,「胃と腸」全国大会は開会時には参加者が少なく,はらはらしていたが,やがて会場もほぼ埋め尽くされ,難解な症例の提示に神奈川県の同好の先生方の努力と熱意にうたれた.

入門講座 大腸疾患診断の考え方・進め方・7

診断・偶発症その他

著者: 市川平三郎 ,   中嶋義麿 ,   武藤徹一郎 ,   牛尾恭輔 ,   渡辺英伸

ページ範囲:P.815 - P.821

存在診断(チェック)

 <質問>存在診断で,X線上,異常を指摘する基準はどんな点ですか.

 牛尾 まず管腔が狭くなっているかどうか?からみます.これも腸管の外からの影響をまず考え,次に両側性の狭窄の有無と片側性の狭窄の有無をみ,最後に粘膜面の異常をみるといった一定の読影基準を持つことが必要なんですね.

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欧文目次

ページ範囲:P.713 - P.713

書評「標準外科学 改訂第3版」

著者: 古味信彦

ページ範囲:P.756 - P.756

 この「標準外科学」という本は初版から読ませていただいている.この書物ほどその目的がはっきりと示された外科学の教科書は少ないと思う.いわく“医師国家試験に合格して研修医に至るまでの手引書”というのである.

 さて,この外科学の標準とは何か?.これに簡単に答えられる外科医は標準に意を払っている外科医ではないのかもしれない.専門が深くなり過ぎても,間口が広くなり過ぎても,標準を見失って,そう簡単に標準がこれだと言えるものではない,誠に標準という書物を著わすことは難しいのである.

書評「COLONOSCOPY」

著者: 相馬智

ページ範囲:P.785 - P.785

 本書はDr.新谷の自験例45,000例に及ぶ大腸ファイバースコピー,10,000例のポリペクトミーの集大成である.200枚のカラー写真を使用した,19章からなる膨大な大腸ファイバーのすべてを網羅した入門書であり,参考書である.

 構成が極めて明快で一気呵成に読ませてしまう.歴史的叙述もわかりやすく,器械の説明は,現在世界で広く使用されているものをすべて取り上げ極めて公平である.内視鏡室の項ではいかにもアメリカ的とらえ方で,病院におけるあるいはオフィスにおけるレイアウトを述べ,人的配置については,その業務内容まで明確に述べており,新しく始められる人には参考になろう.

海外文献紹介「食道癌患者の術前におけるTPNと胃瘻栄養の比較」

著者: 小林世美

ページ範囲:P.764 - P.764

 Total parenteral nutrition versus gastrostomy in the preoperative preparation of patients with carcinoma of the oesophagus: S. T. K. Lim, R. G. Choa, K. H. Lam, J. Wong, B. Ong(Br J Surg 68:69~72, 1981)

 食道癌の発見は通常遅く,患者は嚥下障害ゆえに栄養状態が不良である.入院時は多くの場合,Nバランスが(-)である.そして栄養障害は免疫反応を抑制するので,手術死亡率や合併症の発生率が高くなる.したがって,術前の栄養補給でNバランスを正にし,手術を安全にすべく努めねばならない.

編集後記

著者: 古賀成昌

ページ範囲:P.822 - P.822

 消化管ホルモンをはじめとする消化管生理における新しい知見と共に,胃・十二指腸潰瘍の病態生理の研究にも著しい進歩がみられている.元来,胃と十二指腸は解剖学的にも生理学的にも異なった臓器である以上,潰瘍という同じ病変であっても,両疾患の背景には当然異なった病態があるであろうし,潰瘍という同じ病変であるからには,また共通の病態もあるであろう.更には同一臓器の潰瘍でも各患者の病態は必ずしも同一ではないであろう.したがって,胃・十二指腸潰瘍の病態生理は複雑で,その解明にはなおほど遠いものがあるというのが実状である.

 本特集では,疫学をはじめ消化管ホルモン,粘膜血行動態,神経性因子など各方面からの研究成果が述べられており,読者にそれぞれの方面の新しい知見を与えてくれるものと思われるが,同時にそれぞれの研究が広汎複雑な胃・十二指腸潰瘍の病態生理の中で,いかに位置づけられ,いかに関連しているかを念頭に置いて読んでいただければ本特集の意義は更に大きくなるものと考える.

基本情報

胃と腸

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1219

印刷版ISSN 0536-2180

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