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雑誌目次

雑誌文献

胃と腸19巻12号

1984年12月発行

雑誌目次

今月の主題 消化管癌の診断におけるUS・CTの役割 序説

超音波内視鏡診断への期待

著者: 竹本忠良

ページ範囲:P.1287 - P.1289

 この雑誌「胃と腸」を御愛読くださっている諸先生のなかには,ちらっと本号の主題だけをごらんになって,“とうとう「胃と腸」まで,USとCTとを取り上げるようになったのか.さてはだいぶん主題の選定に困っていて,種切れを起こしたのか”と,速断される方もあるかもしれない.

 それくらい,既にUSとCTの専門書,入門書,雑誌文献が氾濫していて,いささか食傷気味である.ついでに,悪口の1つも言わせていただくと,なぜこの著者がこんな本を刊行したのか,臨床研究者の生き方の“虚構”ぶりに,首をかしげるようなこともまったくないわけではない.それなら,お前の出している本はどうなのだと開き直られると,私の自信のほど,高が知れているのであるが.

主題

超音波内視鏡による食道癌診断

著者: 荻野幸伸 ,   神津照雄 ,   奥山和明 ,   山崎義和 ,   円山正博 ,   村島正泰 ,   磯野可一 ,   佐藤博

ページ範囲:P.1291 - P.1297

要旨 リニア電子走査式超音波内視鏡による食道癌の深達度およびリンパ節診断について検討した.基礎的検討では食道壁は7層に描出され,リンパ節は転移の有無によらずhypoechoicに描出された.臨床例での深達度診断は,通過例で83.3%の診断率であった.長径5mm以上のリンパ節の描出率は前期27.6%,後期57.9%であった.また長径5mm以上のリンパ節の領域別存在診断率は前期52.0%,後期79.1%であった.本法は食道癌の術前診断法として有用と思われた.

超音波内視鏡による胃癌深達度診断

著者: 相部剛 ,   大谷達夫 ,   吉田智治 ,   富士匡 ,   河村奨 ,   竹本忠良

ページ範囲:P.1299 - P.1304

要旨 超音波内視鏡で臨床的に早期胃癌深達度診断を行い,以下の結果を得ると共に,進行胃癌についても考察を行った.①Ⅱc型早期胃癌のうち,m癌では腫瘍像そのものは描出されず,粘膜欠損所見として描出される.sm癌では腫瘍像が描出されると共に,第3層の高エコーの狭窄所見を示す.②Ⅱa+Ⅱc型早期癌では,第3層の高エコーが,腫瘍により圧排偏位された所見を示す.③隆起型早期癌では,エコーゴーストが描出されることがあるので注意が必要である.④Ⅱb型早期癌では,粘膜(第1層,第2層)の肥厚所見として描出される可能性がある.⑤線維化を伴った早期癌では,進行癌と誤診されやすい.⑥早期癌10症例中の手術前の癌深達度正診率は,X線および内視鏡で60%,超音波内視鏡では70%であった.なお,摘出標本での超音波内視鏡正診率は78%であった.

大腸癌の超音波診断

著者: 中澤三郎 ,   木本英三 ,   森田敬一 ,   田中正人 ,   小池光正 ,   山本義樹

ページ範囲:P.1305 - P.1312

要旨 大腸癌の超音波診断について,通常の腹壁からの超音波検査,微温湯を注腸しての経腹壁的超音波検査,超音波内視鏡の3つの方法に検討を加えた.通常の超音波検査では大腸癌の診断率は低く,腫瘤を形成し上腹部に存在するものに限られる.微温湯を注入した注腸エコー法では,微温湯で充満しうる部位では最小2mmのポリープまで描出可能だが,ポリープ型癌の鑑別は困難であった.進行癌では大腸壁の層構造とその破壊の状態は観察可能であった.超音波内視鏡は未だ施行例数が少ないが,大腸壁の層構造あるいはその破壊所見はより鮮明に捉えることができた.しかし,本法についてはその診断能,診断学的意義,技術上あるいは装置上の問題点など解決すべき問題が山積しており,今後の精力的な検討が期待される.

CTによる胃癌のstage診断の試み

著者: 大熊潔 ,   久直史 ,   平松京一

ページ範囲:P.1313 - P.1319

要旨 胃癌症例88例のCT所見を再検討し,CTによる胃癌のstage診断につき検討した.漿膜面浸潤の程度に関しては全体での正診率77%(68/88)を得た.ただしS0とS1とは区別していない.誤診例の中ではS3の偽陽性例が多かった.腹膜播種性転移の検出率は20%(2/10)であり,肝転移の検出率は83%(5/6)であった.リンパ節転移の程度に関する全体での正診率は59%(47/80)であったが,リンパ節転移陽性例に限ると正診率は37%(17/46)であった.

CTによる結腸・直腸癌のstage診断

著者: 堀雅晴 ,   渡辺進 ,   松原敏樹 ,   池田孝明 ,   梶谷鐶

ページ範囲:P.1321 - P.1326

要旨 結腸・直腸癌患者の術前CT検査を80例に行った.腫瘍描出率は91.3%であった。結腸癌深達度の正診率は50%,直腸癌深達度の正診率は66.7%であった.直腸癌近接リンパ節では,その大きさが1~1.5cm未満では55.6%が,1.5cm以上では100%が組織学的にリンパ節転移陽性であった.側方リンパ節では転移陽性の80%が正診であった.

座談会

消化管癌の診断におけるUS・CTの役割

著者: 福田守道 ,   安田健治朗 ,   坂口正剛 ,   松江寛人 ,   兵頭春夫 ,   板井悠二 ,   中澤三郎 ,   丸山雅一

ページ範囲:P.1328 - P.1340

 中澤(司会) 御承知のように,US・CTは従来の消化器診断能を更に向上させましたが,それ以外に従来は不可能であったような病変,例えば膵尾部の小さい癌や胆囊の小ポリープ,あるいは肝臓の小さい癌も発見することができるようになりました.従来の検査法は1つの臓器の診断だったのですが,CTやUSは多臓器診断ということが特徴的で,それによって初めて腹部に対する全体的,総合的な診断法が可能となったと言っても過言ではないと思います.

 ただ,USは肝臓や膵臓に対しては非常に強い力を発揮したのですが,惜しむらくは,消化管はガスや腹壁の厚さに問題があり,CTについても,USと違って任意の断層面がなかなか撮りにくいという弱点があり,なかなか消化管に対するアプローチができなかった.それが最近になって上部消化管,あるいは下部消化管でもかなり良い診断法であり,特に癌の診断はかなりよろしいということになってきまして,従来の欠点がいつのまにかなくなってしまった感じさえするようになってきました.

研究

大腸上皮性腫瘍生検組織の異型度の客観化

著者: 渋谷進 ,   中村恭一 ,   池園洋 ,   東郷實元 ,   菊池正教

ページ範囲:P.1341 - P.1348

要旨 生検組織にみられる大腸上皮性腫瘍の異型度を客観的に表現するため,構造異型と細胞異型の形態計測を行い,その客観的数値と病変の異型度とを比較検討した.対象は大腸良性腺腫190病変,良性悪性境界領域46病変,癌59病変である.それら病変の組織標本を画像診断処理装置を用い,乱れ係数(一定倍率の顕微鏡像における腺管面積と間質面積の比),重複ドーナツ係数(一定倍率の顕微鏡像におけるマイナスオイラー標数腺管出現率),核腺管係数(一定倍率の顕微鏡像における核腺管面積比)を測定し,前2項を構造異型の尺度,最後の項を細胞異型の尺度とした.その結果,乱れ係数は良性腺腫2.34±0.82,良性悪性境界領域病変3.84±1.04,癌4.34±1.24で,重複ドーナツ係数は良性腺腫7.2±7.2,良性悪性境界領域病変12.6±9.6,癌42.6±31.4で,核腺管係数は良性腺腫0.37±0.07,良性悪性境界領域病変0.46±0.06,癌0.57±0.06であり,3係数とも重なり合いを示しながらも差がみられ,t検定にて有意差が認められた.以上のごとく,病変の異型度の順(良性―境界―癌)に3係数の数値は並び,客観的指標として適切であるとみなされた.更に,3係数を用い,良性悪性境界領域病変の振り分け診断を試み,16病変が良性とされ,7病変が癌と診断されたが,残りの23病変は依然として,良性悪性境界領域病変として残った.

大腸sm癌のsm浸潤の分析と治療方針―sm浸潤度分類について

著者: 工藤進英 ,   曽我淳 ,   下田聰 ,   山本睦生 ,   小山真 ,   武藤輝一

ページ範囲:P.1349 - P.1356

要旨 大腸sm癌のsm浸潤について,その深達度に従い粘膜筋板位置より固有筋層までを3等分してsm1,sm2,sm3とし,更に横の拡がりを加味して,sm領域の癌の横の拡がりが粘膜部の癌の面に対しごく一部のものをa,50%以上のものをc,中間型をbとして分類した.肉眼形態とsm浸潤度はかなり相関し,Ⅰpはすべてsm1cまでにとどまり,Ⅰpsはsm2まで,Ⅰs,Ⅱaはsm2,3が多い傾向があり,Ⅱa+Ⅱcはほとんどがsm3の深層浸潤を示した.n(+)例は18.2%に認められ,sm1bより出現し,ly(+)例も同様であった.深達度が浅くとも横の拡がりのあるsm1cではly(+)例が多く治療上注意を要すると思われた.sm1aでは予後悪性因子はなかった.

大腸の小さな扁平隆起性病変(small “flat elevation”)の臨床病理学的検討

著者: 武藤徹一郎 ,   上谷潤二郎 ,   沢田俊夫 ,   小西文雄 ,   杉原健一 ,   久保田芳郎 ,   安達実樹 ,   阿川千一郎 ,   斉藤幸夫 ,   T.Tanprayoon ,   森岡恭彦

ページ範囲:P.1359 - P.1364

要旨 外科的切除標本ならびに内視鏡的ポリープ摘除標本の中から,直径1cmまでの小さな扁平隆起性病変(“flat elevation”)36病変を選出して,その内視鏡的および組織学的特徴を明らかにした,病変の内訳は軽度異型腺腫14病変,中等度異型腺腫5病変,高度異型腺腫(focal carcinoma)14病変,粘膜下浸潤癌3病変であり,大きな病変ほど異型が強い傾向が認められた.小さいにもかかわらず腺腫内癌が多いことから,これらの病変が比較的短期間に進行癌へ進展する可能性が推察され,“flat elevation”が大腸のadenoma-carcinoma sequenceに重要な役割を果たしていると考えられた.日常診療において,“flat elevation”の存在を認識することの重要性を強調した.

症例

6年間経過観察中のCronkhite-Canada症候群の1例

著者: 村谷貢 ,   小川晃男 ,   笹本潔 ,   相沢勇 ,   中野眼一 ,   中村卓次

ページ範囲:P.1367 - P.1372

要旨 症例は54歳女性.生来健康であったが,1977年(49歳時),右下腹部痛を主訴として入院,回盲部の大腸ポリープによる腸重積症で結腸右半切除を施行した.また,胃・小腸にも多数のポリープを認めた.切除結腸に存在した大腸ポリープの1個に腺腫を認めたが,ほかはすべて異型のない腺管が過形成性の増生を示し大小の囊胞を形成していた.更に手足の爪甲の変形と異常色素沈着,低蛋白血症などの臨床所見よりCronkhite-Canada症候群と診断した.1979年には爪甲の変形は消失し,胃ポリープの数も著明に減少した.1980年には,低蛋白血症と貧血の増悪を認め輸血を施行したが,この時期には再び爪甲の変形が出現し,胃ポリープの数も増加した.1982年には胃ポリープの著明な増加を認め,これが蛋白漏出の一因と考え胃亜全摘を施行した.切除胃には,びまん性に無数のポリープが発生していたが,組織学的にはすべて過形成性のものであった.術後経過良好で,現在外来にてfollow-up中である.

十二指腸乳頭部癌が先に診断されたGardner症候群の1例

著者: 吉見富洋 ,   小泉澄彦 ,   石丸正寛 ,   州之内広紀 ,   藤枝邦昭 ,   佐藤宗勝 ,   武藤徹一郎 ,   和田祥之 ,   森岡恭彦

ページ範囲:P.1373 - P.1378

要旨 患者は46歳男子.1981年12月発熱と食欲不振を主訴に当科を受診した.灰白色便,可視的黄疸,全身掻痒感も認められたため1982年1月閉塞性黄疸の診断にて当科に入院した.入院後,上部消化管内視鏡検査にて,十二指腸乳頭部に一致して径約2cmの表面平滑な粘膜下腫瘤様の病変が認められ,生検組織診断により腺癌が認められたため,膵頭十二指腸切除術を施行した.標本にて癌は十二指腸乳頭部に一致し2.0×2.0×1.0cmの隆起性腫瘤であった.組織学的には乳頭腺癌.術後経過は順調にて外来通院中,約4カ月後に血便を主訴として来院.注腸造影,大腸内視鏡検査の結果,大腸全体にびまん性にポリープが認められた.家族歴も考慮し家族性大腸腺腫症の診断にて結腸全摘術を施行した.組織学的にはいずれも腺腫であり比較的大きいものは中等度異型性を示した.術後経過は順調であり,その後外来通院中に全身骨撮影にて右大腿および副鼻腔に骨腫が認められ,また幼児期に皮下腫瘤切除の既往も認められたため,Gardner症候群と診断された.

Coffee Break

ボロニア紀行

著者: 長与健夫

ページ範囲:P.1298 - P.1298

 イタリアの北部にあるボロニアは世界で一番古い大学のある所として知られている.病理解剖学の祖として有名なヴェサリウスやモルガニなど幾多の碩学は,ここで教鞭を取りつつ不朽の業績を残した.今を去る400年も前のことであるが,今でもその史蹟が,城壁都市の中心にある古い煉瓦づくりの大学の資料館に大切に保存されている.

 この歴史と伝統のあるボロニア大学から“胃の前癌病変”と“胃潰瘍と胃癌”についてシンポジウムを持ちたいとの招聘を受け,この6月中旬の数日に城所仇・春日井達造両先生と共に行ってきた.

見れども見えず

著者: 西沢護

ページ範囲:P.1319 - P.1319

 X線検査の上手・下手は撮られたフィルムを見れば,その熟練の程度は容易に判断できる.しかし,内視鏡の上手・下手は観察が重要であるため,いくら丁寧に写真を撮れといっても,なまじ見えるものだから,うぬぼれ屋が多く,よく観察したから写真など必要ないと言われると,腕のほどは全くわからない.ほとほと手を焼いていたが,最近5年間に8例の食道Ep癌が見つかった.Ep癌は所見が非常に軽度なため,よほど丁寧に観察し,なおかつタイミングよく撮影しなくては人に納得させることができないだけでなく,術者自身も半信半疑で撮られた写真やルゴール散布を行って初めて確診がつくほど難しい.内視鏡の上手・下手を決める基準にはもってこいの病変である.最近ではEp癌を見つけないうちは内視鏡のspecialistではないということにした.ところが,われわれのグループで11名の医師が毎年5,000例以上のパンエンドスコープを行っていながら,Ep癌を見つけたものは3人しかいない.X線検査にも,向き・不向きがあるが,内視鏡も全く同様である.しかし,よく調べてみるとX線検査の熟練したものがEp癌をみつけている.どうも内視鏡から入ったものは,雑な検査をする傾向がある.見えるものは見えるし,見えないものは見えないという安易な気持が,雑な検査をするようになる.X線検査は苦労しなければ良い写真が撮れない.もう1度X線検査から鍛え直さなければ,オートアナライザーのような医師ばかりでき,食道Ep癌は少しも見つかってこないことにもなりかねない.

 “見れども見えず”とはこのことだなと実感し,内視鏡の上手・下手を決めるよい基準ができたと思っている.生来,形態学に向いている人と数値的に優れた人とは別もののようである.

胃と腸ノート

新しいX線写真の技術(1)

著者: 山田達哉

ページ範囲:P.1327 - P.1327

 従来のX線写真と比較して,X線像が著しく鮮明になる.しかも,X線撮影時の被曝線量が,従来の1/20,1/30,極端な場合には1/100と大幅に低減できる.こんな夢のような方法が,国産技術によって開発された.Fuji Computed Radiography(FCR)である.われわれは,開発者である富士フイルムの技術陣に協力して臨床応用を試みた.この方法は,従来からのX線撮影にはすべて応用できる.まず特殊な受像板(イメージング・プレート)で撮影したX線画像情報をディジタル信号化し,コンピュータ処理する.したがって,従来通りのX線写真からゼログラフィー様の写真まで,任意の画像が得られる.また,従来のX線写真の白黒を反転した,骨黒の写真にすることもできる.Fig.3は,骨黒写真を印画紙に焼付けたものである.ここでは胃の例を3回にわたって示し,FCRについて略述しよう.

Crohn病におけるenteral home-hyperalimentation

著者: 松浦昭

ページ範囲:P.1358 - P.1358

 成分栄養Elemental Diet(以下ED)は1957年RoseやGreensteinの業績を基にBirnbaunとWinitzらが水溶性で低残渣の化学的に合成された食品を初めて報告して以来,種々の病態に応用され,現在ではED療法は経中心静脈高カロリー輸液法と並んで極めて重要な治療手段となっている.

 Crohn病は外科的療法を行っても高頻度に再発をみることから,高度狭窄などの外科的適応となる合併症がなければ,できるだけ内科的治療を続ける努力が必要と思われる.最近Crohn病におけるED療法を評価する報告が増加しているが,なかでもEDとプレドニンの比較対照試験の結果から,急性Crohn病に対してEDは安全かつ有効な治療であると述べたCó'moráinらの報告(Br Med J 288: 1859-1862, 1984)は興味深い.

ディスカッション

工藤論文への質問

著者: 武藤徹一郎 ,   工藤進英 ,   加藤洋

ページ範囲:P.1356 - P.1357

 sm癌についての詳細な組織学的分析で大変興味深く拝読しました.以下の点について少し詳しく御意見を伺わせてください.

 (1)内視鏡的摘除例と手術的切除例とを一緒にして分析されていますが,両者は形態が違いますので別々に分析したほうが良くはないでしょうか.

武藤徹一郎論文についてのコメントおよび質問

著者: 加藤洋 ,   武藤徹一郎 ,   佐々木喬敏 ,   渡辺英伸 ,   工藤進英

ページ範囲:P.1364 - P.1366

 (1)10mm以下の小さな扁平隆起性病変(small“flat elevation”)を集めて分析したと冒頭にありますが,小さな扁平隆起性病変の定義がはっきりしません.異型のある病変だけが扱われているが,異型を伴うことも条件に入るのでしょうか.すなわち,一般に小さな扁平隆起性病変,特に5mm以下の病変で最もポピュラーなものは,御存知のとおり,metaplastic polyp(MP)やhyperplastic nodule(HN)です.しかも,この大きさでは肉眼的に,これらの病変と腺腫あるいは癌の鑑別は容易ではありません.提出された名称の響から,MPやHNを除外する用語法に少々抵抗を感じます.一方,Table 1によると,6.1mm以上になると,一部あるいは全部が癌である率が極めて高くなりますが,このことから,大きさの要素(例えば5mmを越える病変であるとか,10mm前後の病変であるとか)を強調されたほうが著者の意図する点がより明確になるのではないかと考えます.

追悼

故 相馬 智 教授を偲んで

著者: 竹本忠良 ,   大柴三郎

ページ範囲:P.1379 - P.1379

 相馬智教授は,改めて述べるまでもなく,わが国の消化器外科学,消化器内視鏡学において,最も指導的な役割を果たしていた研究者であった.彼の油の乗り切った活躍は,常に多くの学究が注目するところであった.

 ところが,1984年9月26日,まだ54歳という働き盛りで,胃癌再発ということもあったが,肝硬変による食道静脈瘤の破裂のため,数多くの未完の業績を残したまま,急逝してしまった.彼の生涯はあまりにも短きに失した.彼の業績については,いずれ業績集もまとめられると思うので,ここでは省略するが,1986年春の日本消化器内視鏡学会会長に決定していた彼としては,おそらく,この総会をその人生の総決算とする覚悟をもって,ひそかに準備を進めていたに違いない.晴れの学会を迎えないまま病いで倒れてしまったことを,学会ならびに「胃と腸」関係者一同心から残念に思っている.

友の死を悼む

著者: 大柴三郎

ページ範囲:P.1379 - P.1379

 筆を執ると虚しい言葉が紙面に残り,何も言いたくない.親友を失った哀しみよりも先生を奪った病魔への憤りが胸に滾る.共に語り,歌い,喜び,哀しみ,笑った先生は不帰の人となってしまった.

 顧みれば昨年8月,突然吐血に倒れたとの報に接し病床を訪れた私を,先生は普段と変わらぬ笑顔で迎えてくれたが,“柴さん,小さいけれどBorrmannなんだよ”と知っていた.淋しい笑顔にあわてて話題をそらした記憶が生々しい.以前より肝障害のあった先生にはいつもこう言った.“先生がいなくとも医学はそんなに遅れない.先生がいなくてならないのは家庭と大介君だ.長生きしろよ.”なぜもっと長生きをしてくれなかったのか.

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欧文目次

ページ範囲:P.1285 - P.1285

書評「食道腫瘍の臨床病理」

著者: 鍋谷欣市

ページ範囲:P.1290 - P.1290

 2カ月ほど前に井手博子,遠藤光夫両先生の著書「食道腫瘍の臨床病理」の書評を求められ,1度目を通したところ,どうしても熟読しなければ書けない気持にさせられた.それは1頁もゆるがせにすることのできない充実した内容で,まさに食道腫瘍臨床病理の辞典とも言うべき内容でもあったからである.

 著者の2人は今さら紹介するまでもなく,東京女子医科大学消化器病センターにおいて中山恒明先生に師事し,本邦における食道癌の診断,治療の最先端をリードしている外科医である.

海外文献紹介「糖尿病患者における胃排出」

著者: 伊藤克昭

ページ範囲:P.1298 - P.1298

 Gastric emptying in the patients with diabetes mellitus: FD Loo, DW Palmer, KH Soeigel, et al(Gastroenterology 86: 485-494, 1984)

 糖尿病患者の胃運動や排出の異常は,diabetic gastroparesisあるいはdiabetic gastropathyと呼ばれ,その病態と消化器症状との関連が長年研究されてきているが,まだ一定の見解は得られていない.

海外文献紹介「胆石の大きさと胆囊癌の危険性」

著者: 鳥山和彦

ページ範囲:P.1304 - P.1304

 Gallstone size and the risk of gallbladder cancer: Diehl AK(JAMA 250: 2323-2326, 1983)

 胆囊癌では高率に胆石が合併していることから,胆石は胆囊癌の一大リスク・ファクターと言われている.しかし,胆石患者で癌の発生をみる経験は極めて少ない.この関連を調べるために,著者は1976年から1980年までの5年間に参加10施設に入院した81例の胆囊癌患者および同数の2っの対照群;1つは良性胆囊疾患群,他は胆囊以外の疾患群について,retrospectiveに調査した.その内容は年齢,性,人種,健康に関する慣習(酒,喫煙,常用薬),既往歴,手術所見(胆石の大きさ),病理所見などについてである.偏りを避けるため癌群および対照群についてそれぞれ同一病院より同数を抽出した.年齢は各群とも平均約70歳,男女比は1:2で同様である.結果はラテン・アメリカ人が,また未婚者が少し癌群に多いが有意差はなかった。酒,喫煙は差がなく,薬剤については降圧剤使用者が癌群に少なく,宗教についてはカソリックとプロテスタントの間に何ら差がなかった.また,胆石の数については,多発性,単発性,無石に分類され,癌群では,多発性69%,単発性27%,無石4%,良性胆嚢疾患群では多発性74%,単発性20%,無石6%であった.しかしながら,両群間に統計学上の有意差は認められなかった.次に胆囊癌例において,少なくとも必ず1個は大きな胆石が認められ,胆石の直径が1cm以下の場合に比較して,径が2cmから2.9cmまでの相対危険度(Odds ratio)は2.4倍,径が3cm以上は10.1倍であった.このことについて,サブグループ別にデータ分析を行ってみたが,やはり同様な結果が得られた.以上より胆石の大きさが無症候性胆石症の管理に密接な関連を示すことがわかった.つまり3cm以上の大きさの胆石を有する患者は無症状であっても,胆囊摘出術を選ぶべきであろう.

海外文献紹介「血清CEA値で発見された直・結腸癌再発に対する早期制癌治療の無作為化比較試験」

著者: 伊藤克昭

ページ範囲:P.1320 - P.1320

 Prospective randomised trial of early cytotoxic therapy for recurrent colorectal carcinoma detected by serum CEA: KR Hine, PW Dyrkes(Gut 25: 682-688, 1984)

 化学療法剤の殺細胞効果は大きな腫瘍塞栓に対するよりも微小転移巣に感受性が高い.したがって,CEAのみが上昇し,他の検査には再発所見がない早い時期に化学療法を開始すれば大きな効果が得られる可能性がある.

編集後記

著者: 丸山雅一

ページ範囲:P.1380 - P.1380

 1980年,Hamburgで行われた第4回ヨーロッパ消化器内視鏡学会でKlassenが超音波内視鏡を世界に先駆けて発表した日,深夜のバーでオリンパスの某氏に国賊と叫んで詰め寄ったのは,この9月に急逝された相馬智教授と筆者だった.少し皮肉のきいたジョークを会話の中に絶やすことのないいつもの相馬先生らしくなく悲憤慷慨されていた姿を憶い出させてくれたのは本号の竹本教授の序説である.

 超音波内視鏡が消化管の形態学的診断に一大変革をもたらした意義は大きい.大切に育てあげ,世界の内視鏡の歴史に残る息の長い仕事になって欲しいと念じることしきりである.相部氏には胃癌診断の先輩として注文がある.陥凹性早期胃癌で線維化を伴わないものはわずかである.線維化の程度と癌の組織型を加味した超音波像を深く掘り下げて追求してもらいたい.そして,X線・内視鏡診断は“胃の粘膜面の変化より深達度を推定する”といった皮相的見解を越え,それが創りあげた深遠な世界を知って欲しい.

基本情報

胃と腸

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1219

印刷版ISSN 0536-2180

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