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雑誌目次

雑誌文献

胃と腸19巻8号

1984年08月発行

雑誌目次

今月の主題 胃癌の内視鏡的治療 序説

胃癌,特に早期胃癌の内視鏡的治療

著者: 竹本忠良

ページ範囲:P.853 - P.854

 “コミュニケーションという観点に立つと世界は信号の海であり,われわれは自分に役立つ情報を求めてこの海で泳ぎまわっているようなものである”という表現の面白さで求めたのが,O. E. KlaPPの「情報エントロピー―開放化と閉鎖化の適応戦略」(小林宏一,他訳,新評論)である.

 この本に,“生のどのレベルをとっても,自然のパターンは開放化と閉鎖化の交替であり,あるシステムが生き生きしたものになればなるほどこの交替がより活発になるのである.閉鎖化は永続的でもなければ,ある人が考えるような進歩に対する単純な逆行でもなく,生のシャッターが選択的に作用していることの証左である.永続的に開いた社会は永続的に口を開けたままのはまぐりの運命をたどることになろう”という文章の引用をもって,この難しい主題の序説を書き始めることにしよう.

主題

胃癌の内視鏡的治療―内科の立場からの適応と問題点

著者: 小黒八七郎 ,   田尻久雄 ,   平嶋登志夫

ページ範囲:P.855 - P.863

要旨 胃癌の治療法は外科的手術を原則としているが,内視鏡的ポリペクトミーおよびレーザー内視鏡によって特定のタイプの早期胃癌に対しては内視鏡的根治的治療が期待できるようになった.かかる内視鏡的根治的治療の適応となる早期胃癌にはリンパ節転移がないことが原則であるが,個々の症例においてそれを診断することは不可能に近い.しかし,多数の早期胃癌の手術例において,深達度,大きさと肉眼型の因子から検討すると,リンパ節転移のないタイプが明らかとなった.すなわち,有茎性でのmのⅠ型,focal cancer,3cm以下のⅡa,2cm以下の胃炎類似早期胃癌である.高齢者,手術poor riskで早期胃癌のこれらのタイプの発見された患者は内視鏡的治療のよい対象となる.

胃癌の内視鏡的治療―外科の立場からの適応と問題点

著者: 渡辺豊 ,   神山正之 ,   長尾房大

ページ範囲:P.865 - P.871

要旨 内視鏡レーザーの導入以来,内視鏡による胃癌の治療は急速に発展したが,未だ日も浅く,その適応には多少の問題もある.そこでわれわれは内視鏡による胃癌治療の適応を,第1選択として内視鏡的治療を行う積極的治療適応と,何らかの理由で切除手術ができず,第2選択としての内視鏡的治療を行う消極的治療適応とに分類した.前者には,ほぼ公認されているポリープ型の早期癌のポリペクトミーのほか,Ⅰ,ⅡaおよびⅡc(Ul-)で1cm未満の早期癌ならこの適応に入れてもよいと推定される.後者では早期癌で根治的治療となるものも少なくないが,早期癌も進行癌も治療の難しいものが多く,いろいろ工夫しなければならない.特に進行癌では幾つもの治療法を併用することが望ましい.

早期胃癌の経内視鏡的レーザー治療―病理の立場からの適応と問題点

著者: 蔡承熹 ,   赤羽久昌 ,   中村恭一 ,   中原朗 ,   福富久之

ページ範囲:P.873 - P.883

要旨 過去4年間,本院で早期胃癌と診断され,レーザー照射治療がなされた22例28病巣について,生検材料および切除標本を用いてレーザー治療の適応および治療成績に及ぼす因子についての検討を行った.Ⅰ型およびⅡa型早期胃癌の治療成績が極めて良好であるのに対し,陥凹型未分化型癌のそれは不良であった.レーザー照射治療を積極的に早期胃癌の治療として用いる場合の癌の状態は,最大径2cm以下の粘膜内癌で,組織学的に胃体部の未分化型癌,および生検組織が粘液結節性腺癌,髄様癌,腺扁平上皮癌であるものを除外した癌であるとみなされた.

レーザー療法による胃癌の内視鏡的治療の現況

著者: 岡崎幸紀 ,   大下芳人 ,   大谷達夫 ,   田辺一郎 ,   有山重美 ,   相部剛 ,   竹本忠忠

ページ範囲:P.885 - P.894

要旨 内視鏡による胃癌病巣の治療の展開について,レーザー内視鏡法による治療を中心に,現状と問題点を述べた.現在のレーザー療法はNd-YAGレーザーを中心とする光凝固法と,腫瘍親和性光感受性物質とargonレーザーまたは色素レーザーのコンビネーションによる光化学療法がある.早期胃癌病巣に対しては,強力な光エネルギーを用いたNd-YAGレーザーによる光凝固法が有利で,粘膜下組織までの癌組織は凝固壊死に陥らせることができる,一方,進行胃癌病巣に対し,Nd-YAGレーザーでは深部までの照射は穿孔の危険性がある.光化学療法は,この点,癌細胞だけの破壊となり正常組織には影響がない.したがって理論的には筋層,漿膜下層への浸潤癌組織に対しても安全に治療が行われる.しかし長時間のレーザー照射を必要とすること,光感受性物質のヘマトポルフィリン誘導体による日光皮膚炎などの副作用の問題がある.レーザー療法による胃癌の治療は,始まったばかりと言えるし,その適応についても制限がある.しかし大切なことは,レーザー療法というのはレーザー内視鏡法でなければできない特異性を持った療法である,という認識である.レーザー療法の今後の展開は,内視鏡医のこの認識の如何によると考えている.

局注療法による胃癌の内視鏡的治療の現況

著者: 原田一道 ,   水島和雄 ,   並木正義

ページ範囲:P.895 - P.902

要旨 今日,内視鏡は診断面だけでなく治療の面でも大いに役立っているが,われわれは1965年以来,手術不能な胃癌,特に早期胃癌に対して各種の制癌剤による局注療法について検討してきた.実験および臨床的な検討から制癌剤の中でもブレオマイシンの局注が最も正常胃粘膜に対する障害作用が少なく,しかも腫瘍組織に対して壊死作用が確実で,かつ適度であることがわかり,今日まで27例の早期胃癌に本剤の局注療法を行ってきた.最長16年の間,再発がみられなかったⅡa型早期胃癌があり,(表面)隆起型早期胃癌が最もよい適応と思われた.そのほか,わが国ではマイトマイシン,OK-432,エタノールなどの局注療法も行われており,リンパ節転移病巣の治療を目的として制癌剤のエマルジョン化など種々工夫されている.今後,更に効果的で安全な薬剤の開発が期待される.しかし,局注療法は胃癌の手術にとって代わるものではなく,その対象は内科側,外科側の意見や本人・家族の意向も含めた総合的判断で手術不能としたものに限るべきと考えている.

座談会

胃癌の内視鏡的治療―その現況と問題点

著者: 長谷川利弘 ,   今西清 ,   古賀成昌 ,   井田和徳 ,   杉浦弘 ,   中原朗 ,   並木正義 ,   川井啓市

ページ範囲:P.904 - P.914

 並木(司会) 最近,胃癌の内視鏡的治療が関心を集めておりますが,今日はこれに関連して,その適応と限界,問題点などを御討議願いたいと思います.胃癌の内視鏡的治療法として,局注療法,高周波治療,レーザー療法などが行われておりますが,まず局注療法について長谷川先生の御経験をお話し願います.

局注療法の現況

 長谷川 私どもでは約1年半ほど前から胃癌の局注療法として純エタノールを使いはじめ,現在までに50例ほど試みております.

 方法は,病巣の大きさにもよりますが,1カ所に0.2~0.5mlぐらいの純エタノールを数カ所局注して,1回から7回までの治療で経過をみております.効果については,まだ日が浅いので結論を出せる段階ではありませんが,レーザーの局所治療とほぼ同じような結果が出るのではないかと考えております.

症例

空腸悪性リンパ腫の1例

著者: 八百坂透 ,   森合哲也 ,   宮川宏之 ,   目黒高志 ,   開田博之 ,   近間敏治 ,   坂井洋一 ,   堀田彰一 ,   塚越洋元 ,   須賀俊博 ,   三和公明 ,   村島義男 ,   長谷川紀光 ,   前田晃 ,   下田忠和

ページ範囲:P.915 - P.923

要旨 軽度腹部膨満感を主訴とする51歳男性の,Treitzより50cm肛側の空腸に発生した悪性リンパ腫症例を報告する.腫瘍は典型的な動脈瘤型で,上腸問膜動脈根部にまで及ぶ範囲にリンパ節転移を認めたが,他の部位・臓器には転移はみられなかった.本例はルーチンの胃X線検査に引き続いて行われた追跡腸検査にてチェックされたが,この検査の意義は大きいと考えられ強調したい.小腸悪性リンパ腫については形態学的検査のみならず,免疫学的および血液学的な検査も必要と思われ,今後これら各領域との密接な協力のもとに本疾患の解明および早期発見への努力が期待される.

腫瘍内Paneth細胞のみられた胃癌の4例

著者: 中上和彦 ,   松木啓 ,   弘野正司 ,   新本稔 ,   服部孝雄

ページ範囲:P.925 - P.931

要旨 腫瘍内にPaneth細胞の出現が認められた4例の胃癌症例について報告した.肉眼的には1例がBorrmann 2型進行癌で,他の3例はsm早期癌(Ⅲc+Ⅲ型,Ⅱa型,Ⅰ+Ⅱa型)であった.それらの占居部位はBorrmann 2型進行癌がcardiaに認められた以外は前庭部~胃角部にかけて認められた.病理組織学的には,管状腺癌を伴う膠様癌2例,異型上皮を合併する高分化型腺癌1例,高分化型腺癌のみが1例であった.Paneth細胞は比較的明瞭な管腔を有する癌腺管に出現し,かつその出現最深部は粘膜下組織に明らかに浸潤しているとみなされる癌腺管であった.更に〔症例1,2〕においては,所属リンパ節の転移巣内にもPaneth細胞の出現が認められた.腫瘍内に出現してみられたPaneth細胞の多くは,異型性の乏しい細胞であったが,その顆粒の大部分は正常小腸のPaneth細胞の穎粒に比し小さく,その染色態度は多様性を示した.〔症例1,4〕では,これらPaneth細胞に混じりPTAH染色,M-T染色で異染色性を示すimmature Paneth細胞が多数認められた.癌組織内のPaneth細胞は癌細胞の異分化の結果出現してきたと考えられた.

Case of the Month

Early Gastric Cancer, Type Ⅱc

著者: ,  

ページ範囲:P.849 - P.852

 A 41 year-old man visited Tokyo University Hospital with a complaint of epigastric pain after meals since September, 1981. Physical examination was normal. Blood count and blood chemistry were within normal limits. On endoscopic examination on November 19, 1981, there was a shallow depression and irregularreddish granularity with converging folds at the lesser curvature of the gastric body. Endoscopically the lesion was diagnosed as type Ⅱc early cancer. Biopsy comfirmed the presence of signetring cell carcinoma. On November 21, 1981, the detailed x-ray examination revealed a shallow depression and irregular granularity of the mucosa. The converging folds showed tapering and interrution at the maargin of the lesion. On November 26, 1981, subtotal gastrectomy was performed. On the resected specimen a shallow irregular depression, measuring 4.8×3.5 cm in size, was located at the lesser curvature of the gastric body. Histologic examination disclosed signet-ring cell carcinoma with minimal submucosal invasion. There was no lymph node metastasis.

Coffee Break

変な潰瘍性大腸炎

著者: 武藤徹一郎

ページ範囲:P.923 - P.923

 潰瘍性大腸炎はびまん性炎症が特徴ということになっている.直腸型潰瘍性大腸炎として治療していた患者さんがいた.2~3年前から再燃緩解を繰り返しており,組織学的にも潰瘍性大腸炎に間違いはない.最初はステロイド坐薬がよく効いた.しかし,次の再燃時には効果がなく,炎症が上行してきた.ところが,S状結腸の炎症は,びまん性でなく,斑状の発赤でaphthoid様なのである.タコイボ様に隆起して見える所もある.もしやアメーバ赤痢では…….組織学的には確証が得られなかったが,疑いが晴れないためステロイド使用をためらっている間に症状はどんどん悪化.サラゾピリンは全く無効である.患者からは,“治してくれる気があるのですか?”と問い詰められる始末.止むなく入院,IVHをし,やはり潰瘍性大腸炎と考えてステロイド60mgの静注療法を開始したが,1日数回の血便は一向によくならない.手術適応があるわけでもない.再々行った内視鏡検査でも炎症は残存しており,口側が斑状であることに変わりはない.何度検査しても組織学的にはアメーバは証明されない.ほかに手段もないので試しにとフラジール粉末250gの浣腸を行ったところ,下血は3日間で止まった!内視鏡的にも炎症は完全に消失,何とも不思議な潰瘍性大腸炎であった.血清反応は検索中であるが,全体の経過からみて,やはりこの例は潰瘍性大腸炎であると考えている.アメーバ赤痢を疑ったため治療が少々遅れて増悪を招いたと思われる.

学会印象記

第27回日本消化器内視鏡学会総会

著者: 小林世美

ページ範囲:P.931 - P.932

 旭川への旅はこれが2度目である.もう随分昔のことで,私が大学卒業を控えた昭和34年の夏休みのことであった.札幌で乗った特急ライラックが旭川に近づくまで,旭川の市街が国鉄駅の北にあるのか南にあるのかも思い出せないほど記憶が薄れてしまっていた.駅前に出ると,25年前に観光バスに乗った揚所を思い出した.ホテルへの道は,学会誌の案内図に徒歩15分と書いてあったので,楽しそうな買い物公園を歩いてみた.人々はそれぞれどこに住もうと,その地を住みやすく楽しくするものだと感心しつつ道の両側の店頭に目をやりながら歩いた.噴水あり,街路樹あり,所々に彫刻が飾られ,ベンチでは日中のひとときを老人や子供連れの若い女性が休んでいる.私もしばしベンチに腰をおろし,旭川の空気を味わってみた.それにしても旭川は暑い.道行く入はもう半袖のシャツではないか.昨日札幌で読んだ新聞によれば,今日本で一番暑いのが旭川だという.私の住む名古屋は夏暑くて有名だが,その名古屋の最高気温が24度で,旭川が28度以上とは,何という異常気象か.

 出発前は,遠い地での学会はいやだというのが合言葉であったが,いざ来てみると,この学会への参加者は約3,000名と言われていた.北海道でもめったに来られない旭川の魅力もあろう.

Refresher Course・7

この症例にみる診断過程のポイント

著者: 浅田修二 ,   大柴三郎

ページ範囲:P.933 - P.936

口患者:67歳男性.

口主訴:心窩部痛.

口既往歴:61歳時,胃潰瘍.

口現病歴:1982年9月初旬より心窩部痛が出現した.集団検診で異常を指摘され,近医での胃X線検査で胃潰瘍と診断された.精査のため9月28日当科受診し胃内視鏡検査を受けた.

〔初回X線所見〕他院での背臥位二重造影像である.胃体中部後壁に不整形のニッシェ様所見(矢印)が認められ,この病変をチェックされて内視鏡検査に回された.よく見るとその周りのarea模様は粗糙であり,小彎寄りにわずかな粘膜ひだの集中所見が認められる.しかし,明らかな悪性所見は読めず多発潰瘍としか診断できない(Fig. 1).

消化器診断入門

上部消化管―胃

著者: 大柴三郎 ,   岡崎幸紀 ,   岡田利邦 ,   多賀須幸男 ,   高見元敞 ,   中村恭一 ,   西俣寛人

ページ範囲:P.937 - P.942

胃 癌

質 問 日本でいま胃癌が減少しているということですが,実際の数字の上からでも,胃癌は本当に減っているんでしょうか.

 多賀須 私どもの電電公社の健康管理所で東京地区の人を調べてみました.私たち一所懸命やったから胃癌で死ぬ人は随分少なくなったかと思ったら,ちっとも少なくなっていないのでがっかりしたんです.そうは減っていないと思います.

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欧文目次

ページ範囲:P.847 - P.847

海外文献紹介「小児におけるBarrett食道:慢性胃食道逆流ゆえの結果」

著者: 伊藤克昭

ページ範囲:P.871 - P.871

 Barrett's esophagus in children: A consequence of chronic gastroesophageal refiux. BB Dahms, FC Rothstein(Gastroenterology 86: 318-323, 1984)

 成人におけるBarrett食道が胃食道逆流(以下GER)に起因する後天性疾患であることは周知のごとくであるが,パレット食道が小児に存在した場合は,小児期にもGERがしばしば認められるという事実にもかかわらず,むしろ先天性の異常とみなされている.著者らは19歳以下の患者で,GERが疑われ検査が施行された103例のうち13例(13%)にBarrett食道を認めたと報告し,その成因は先天性でなくGERによると示唆している.

書評「Geriatric Nuclear Medicine」

著者: 鳥塚莞爾

ページ範囲:P.884 - P.884

 本書は東大放射線科・飯尾正宏教授と米国Johns Hopkins大学核医学部門・Wagner教授の編集により,33名の専門家の分担執筆によるものである.

 総論として,はじめに加齢による細胞学,病理学,生化学,および生理学的変化を述べ,次いで核医学測定機器,放射性医薬品とその被曝量,RI検査における高齢者の特殊性,および他の諸検査法との比較などが述べられ,それから臓器別に各論が述べられている.

書評「新臨床内科学 改訂第4版」

著者: 高橋昭

ページ範囲:P.903 - P.903

 「新臨床内科学」の初版が刊行されたのは今から10年前の1974年であった.その当時は,やっと大学紛争も終わり,講義や臨床実習が軌道に乗り始めた頃で,言わば,本書は大学紛争収拾後に発行された最初の内科学教科書であった.従来日本で発行されていた医学の教科書が比較的少人数の大成された高名な方によって執筆されたものであったのに対し,この本では,数人からなる編集責任者のもとに大家と新進気鋭の専門家が数多く参集し,それぞれの専門分野ごとに分担執筆するという画期的な教科書として登場した.この初版は,医学生に高い評価をもって迎えられ,当時の学生は内科実習の際にはほとんど本書を教科書として携帯していたし,また,その後に発行された医学教科書のあり方にも1つの新しい方向を示すものとして先鞭をつけたのである.

 内科学には,基礎医学を基盤として臨床医学への道を拓く過程が要求されている.このことは,内科学教科書は病態との関連を考慮せずに単に臨床症候や検査所見の羅列に終わることが許されず,個々の疾患の記述に当たっては病因病態から臨床像,臨床検査,治療,経過,予後に至るまでが有機的に系統立ったものでなければならないことを意味する.一方,これらを簡潔,明瞭に,しかも要領よくまとめ上げ,多人数分担執筆にありがちな不統一性や連係の欠如に陥らぬようにしなければならない.また,日進月歩と言われる近年の内科学の進歩の跡も的確に取り入れておらねばならない.

書評「食道腫瘍の臨床病理」

著者: 掛川暉夫

ページ範囲:P.924 - P.924

 本書は1,000例という多数の症例をもとに,常に第一線で活躍し続けてきた学者らが,長年研鑚してきた努力の結晶を集大成したものである.すなわち本邦における内視鏡のパイオニアである遠藤光夫教授と,食道腫瘍の臨床病理学的研究をlife workとして多岐にわたる詳細な業績をあげ,われら食道仲間に常に刺激を与え続けてくれている井手博子助教授が中心となり,豊富な切除標本をもとに悪性疾患ばかりでなく,良性疾患も含めあらゆる食道疾患を網羅し,これらの臨床病理像を余すところなく紹介した書である.

 食道疾患の治療に従事するものにとって,直ちに明日への臨床に役立つ臨床病理学の本の出現はかなり以前より熱望されていたところである.しかし,かかる本は実際に手術して手術所見を熟知し,更に切除標本および組織学的所見を自ら検索しうる立場の人でなければできるものでなく,またいくら努力しても材料に恵まれている施設でなければ企画できるものではない.かかる意味で適切な人材を抱え,恵まれた施設である東京女子医大消化器病センターにおいてのみ成しえたことで,当然出るべくして出た本であると思われる.

編集後記

著者: 川井啓市

ページ範囲:P.944 - P.944

 今月の主題の“胃癌の内視鏡的治療”は,surgical endoscopyの,またはtherapeutic endoscopyの当然の1つの帰結として位置づけられるものである.

 しかし,今回の企画は,あえて胃癌の内視鏡的治療を有効な1つの方法として主張しようとしているのではない.内視鏡に携わる者として,今まで少しずつ蓄積してきた胃癌の内視鏡的治療例,その多くはあまり学会という表面には出なかったものの過去の実情にスポットを当ててみたところである.

基本情報

胃と腸

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1219

印刷版ISSN 0536-2180

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