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雑誌目次

雑誌文献

胃と腸19巻9号

1984年09月発行

雑誌目次

今月の主題 胃潰瘍の治癒判定 序説

“胃潰瘍の治癒判定”特集に当たって

著者: 大柴三郎

ページ範囲:P.957 - P.958

 潰瘍の治癒判定は潰瘍治癒経過の一時点の表現にほかならず,時相分類のS期の判定に相当する.崎田・三輪による時相分類は少なくとも胃潰瘍に関しては多少の異論はあるもののほぼ定着した分類で,潰瘍の治癒経過の判定に際し分類記号を述べるだけで,その潰瘍のイメージが各医師に理解できる極めて有用な分類である.しかし,分類は一連の動的経過をそれぞれの時期の特徴で捉えてゆくので,境界領域が常に存在するという宿命がある.

 さて,胃潰瘍の治癒判定は以前よりX線学的,内視鏡学的,病理学的に検討されてきているが,臨床では内視鏡判定が容易かつ正確であることは言を待たない.しかし,前述の境界領域をどう判断するかにについては難しい問題点が残されている.殊にH2stageとS1stageの境界は臨床的立場から重要であろう.定義によれば白苔の完全消失をSstageとするが,針で突いたような点状の白苔付着は,ときに見逃されることがあり,短い線様瘢痕はH2かSかの問題も提起されよう.これをH2とすればH1に近いH2との間の幅がありすぎる.このことは新しく開発されてくる消化性潰瘍剤の治験に際し,治癒成績を左右する重要な因子となり,また再発率の検討でもそれぞれの成績のばらつきの一因となるであろう.

主題

胃潰瘍の治癒判定―X線と病理を対比して

著者: 五十嵐勤 ,   栗原陽一 ,   小原勝敏 ,   猪狩弘之 ,   和田敏正 ,   白土雅美 ,   鈴木秀 ,   岩崎勝利

ページ範囲:P.959 - P.970

要旨 胃潰瘍・瘢痕は円形,線状,帯状の3型に分けられる.円形が基本型で,その隣接再発の反復により線状,帯状が形成される.〔治癒判定〕X線所見上,潰瘍ニッシェがなくなり,瘢痕X線像が認められた時点で,潰瘍は治癒と判定する.それで臨床的に不都合はない.なにしろ,瘢痕そのものが再び潰瘍化するという再発はないからである.〔潰瘍の治癒過程と瘢痕の経過および再生粘膜のX線像〕胃潰瘍の治癒機転には,胃壁収縮と組織補塡とがあり,とりわけ胃壁収縮の役割は大きい.潰瘍面積の98%以上が収縮により縮小する.瘢痕の経過においても収縮がみられ,瘢痕区域はなおも小さくなる.再生粘膜のX線像とその経時的変化を呈示し,組織所見と対比検討した.〔胃潰瘍取り扱い基準設定の提案〕円形潰瘍と線状,帯状潰瘍とは病態が違う.前者は単純,後者は複雑である.例えば,いわゆる胃潰瘍症とは形態的には線状,帯状潰瘍を指す.病態に差があるものは区別しなければならない.胃潰瘍の病態検討に当たり,基礎的な形態的事項の取り扱い基準が必要と考える.特に線状例の取り扱いに注目したい.そういう基準の設定を提案した.

胃潰瘍の治癒判定―X線の経過観察による再発の立場から

著者: 西沢護 ,   野本一夫

ページ範囲:P.971 - P.978

要旨 健康人中から発見された胃潰瘍689例のうち5年以上観察を行った321例の胃潰瘍の自然史から次のような結果を得た.(1)再発の立場からみれば,X線の瘢痕像の所見から完全治癒という判定はできない.(2)瘢痕像の所見のはっきりしているものほど再発の可能性は強い.(3)痕跡を残さず治癒したものの再発は少ない.(4)内科的に治療し,長期間経過を観察した結果,再発の頻度が少ないものほど,また瘢痕状態の長く続いているものほど完全治癒の可能性が強い.

拡大内視鏡観察による胃潰瘍の治癒判定

著者: 榊信広 ,   原田元 ,   竹内憲 ,   多田正弘 ,   斉藤満 ,   飯田洋三 ,   岡崎幸紀 ,   竹本忠良

ページ範囲:P.979 - P.986

要旨 筆者らは30倍拡大が可能な内視鏡を用い,胃小窩により形成される胃粘膜微細模様を診断単位とする拡大内視鏡診断を行ってきたが,その知見に基づき,胃潰瘍の治癒過程にみられる微細再生模様の変化を観察し,病態との関連を検討した.胃潰瘍の経過に伴って,白苔の存在する再生期(R)と白苔消失の上皮化期(E)に分け,それぞれR0,R1,R2,E1,E2,E3,E4と分類した.典型的な症例は発生から治癒までR0→E4と,1つのサイクルとして変化していくと考えた.一般に崎田らの分類のA1はR0,A2はR1,H1,2はR2,S1はE1,2,S2はE3,4を示した.次に白苔の消失の有無は,インジゴカルミン・コントラスト法を併用した通常および拡大観察で,容易に識別可能であった.白苔消失後,中心に斑状の粘膜陥凹の残存するE1は短期間で再発する症例もあり,組織学的にも未熟な再生上皮を示した.拡大内視鏡的な潰瘍治癒は,E2(放射線状模様)およびE3(顆粒状模様)の時期と考えた。加えて,周囲と同様の模様を示すE4は,完全な治癒状態と考えた.なお,通常内視鏡でも,近接視にコントラスト法を併用することにより,R0からE4までの分類が可能であり,約1/3の症例で微細再生模様が識別できた.

色素内視鏡による胃潰瘍の治癒判定

著者: 田中三千雄 ,   斎藤清二

ページ範囲:P.987 - P.992

要旨 消化性潰瘍の治癒判定における色素内視鏡(その中の“染色法”)の有用性について検討した.イヌを用いた実験において潰瘍面を覆う白苔は“染色法”によって青染するが,瘢痕中心部は同法によっても青染しないことを確認した.この方法を臨床例に応用してみると,通常の内視鏡では存在の識別が困難な微小白苔(計測では直径200~300μm前後)は青染されることによってその存在は明瞭化する.他方,微小白苔と類似形態を持つ瘢痕部の中心褪色陥凹部は青染されない.したがって,この方法によって両者の鑑別が容易となることが明らかになった.本法は技術的にも簡単なものであり,消化性潰瘍の治癒判定一とりわけ白苔消失の有無の判定―に有用であると考えられた.

胃潰瘍の治癒判定―病理の立場から

著者: 西巻正 ,   渡辺英伸 ,   武藤輝一

ページ範囲:P.993 - P.999

要旨 111症例145病変の円形潰瘍および円形瘢痕を対象として,胃潰瘍の組織学的治癒過程,内視鏡的ステージ分類の組織学的背景および治癒判定について述べた.胃潰瘍が開放性であるうちは,再生上皮の先進部は一層平坦な幼若再生上皮を呈し,剝脱像を認めることが多かった.一方,潰瘍底が再生上皮により完全に覆われるころには,再生上皮も成熟し,再生腺管(偽幽門腺)が出現しはじめ,剝脱像も比較的まれであった.以上より潰瘍底が再生上皮により完全に覆われ,しかも瘢痕中心部の再生上皮に再生腺管が出現しはじめた時期をもって,胃潰瘍の治癒判定を行うべきであると考えられた.

病態生理の立場からみた胃潰瘍の治癒判定

著者: 三宅健夫

ページ範囲:P.1001 - P.1009

要旨 胃潰瘍の内視鏡的治癒判定は従来,白苔が消失した時期をもってなされてきた.その多くは赤色瘢痕がこれに相当する.われわれは多年ヒト胃潰瘍の切除胃について,内視鏡像,実体拡大像,走査・透過電顕像および組織像などの相関を求めて,胃潰瘍の治癒過程を観察してきた.実体拡大像では,初期(A1~A2),成長期(H1~H2),柵状瘢痕期(S1)および敷石状瘢痕期(S2,一部S1)に分類される.柵状瘢痕期は敷石状瘢痕期に比べると,再生上皮の性状は形態的機能的両面において未成熟の段階にあり,分化の途上にある幼若細胞が単に潰瘍面を覆いつくしたにすぎない.また,赤色瘢痕における再発頻度も高い.したがって潰瘍の治癒判定にはS1またはS2と明記すべきである.

胃潰瘍の経過と胃液分泌機能―心理的背景との関連も含めて

著者: 川井啓市 ,   藤田きみえ ,   三崎文夫 ,   井ノ口秀人 ,   白川和夫 ,   藤本荘太郎

ページ範囲:P.1011 - P.1017

要旨 酸分泌およびその背景としての心理的側面をMMPI,MASを応用して胃潰瘍の経過を十二指腸潰瘍の経過と比較のうえで明らかにした.その結果非再発性胃潰瘍では酸分泌,殊にMAOが治療によって低下するのに対して再発性胃潰瘍では変化せず,この群のMMPI,MASは対照群と比較して異常値を示すものが多くみられることを明らかにした.

座談会

胃潰瘍の治癒判定とstage分類

著者: 三輪剛 ,   中野浩 ,   小野時雄 ,   西元寺克礼 ,   岡崎幸紀 ,   渡辺英伸 ,   並木正義 ,   福地創太郎

ページ範囲:P.1018 - P.1028

 並木(司会) 胃潰瘍のstage分類,またそれを踏まえた潰瘍の治癒判定に関しては,これまで,崎田・三輪分類が広く利用されてきましたが,時代と共に潰瘍の内視鏡的観察もきめ細かくなり,またH2-blocker(以下H2-Bと略)のような新しい潰瘍治療剤の出現により潰瘍の治癒過程において従来にみられなかった特異的所見が指摘されたりするに及んで,この分類では飽き足りないという意見も出てきました.そのへん果たしてどうなのか,今日はひとつ御討議願いたいと思います.

 いま1つ,潰瘍の再発という問題を考えるにしても,治癒の判定基準というものが,しっかりしていなければなりません.この場合,どういう病理組織学的所見が治癒像として理想的なのか,また,それが内視鏡にどんな所見として反映され,実際にどのようにしてそれをとらえることができるか,などいろいろ論ずべき問題があろうかと思います.そこでまず,これまで活用されてきた胃潰瘍のstage分類ができた経緯や基本的な考え方を三輪先生にお話し願いたいと思います.

症例

特異な“蛇の抜けがら状”注腸像を示した大腸未分化癌の1例

著者: 池内駿之 ,   有森正樹 ,   窪地淳 ,   春山克郎 ,   岡本哲彦 ,   松本重喜 ,   竹内広

ページ範囲:P.1029 - P.1034

要旨 患者は66歳,男性で,腹満感,便秘を主訴として入院した.注腸造影にて直腸上部から下行結腸上部に至るまで管腔狭小化,変形があり,比較的柔らかい壁,外圧性の偏位・固定,直腸上部に原発巣を疑わせる陰影欠損,潰瘍などが認められた.二重造影では粘膜面は浮腫状,平滑で,襞は縦走状,網状,多発小隆起をなし,壁は棘状,鋸歯状を呈した.全体として“蛇の抜けがら状”所見であった.内視鏡所見は直腸に潰瘍性病変,その上方に粘膜下浸潤を思わせる襞の多発小隆起,縦走であった.開腹所見は,正常外観構造を保持した巨大なピンクのソーセージ状のS状結腸を認めた.組織所見では無構造充実性増殖で異型性の強いPAS Alcian-blue染色陰性の未分化癌であった.

酸素療法が著効を示したpneumatosis coliの1例

著者: 妹尾恭一 ,   大久保卓次 ,   長谷川晴喜 ,   青木阪 ,   高田育明 ,   鈴木武雄

ページ範囲:P.1035 - P.1040

要旨 喘息の既往を持ち肺結核にて入院した60歳男性.右側腹部痛,下痢のため腹部X線,注腸造影,大腸内視鏡検査を行い,上行結腸に空気囊胞を認めたので,鼻孔カニューレを用いて酸素療法を行い軽快した症例を報告した.酸素療法は空気囊胞には非常に有効な方法で,1973年のForgacsの報告以来,酸素テント,マスク,高圧酸素療法など種々の方法が用いられてきたが,PaO2が200~300mmHgに維持できるような方法で少なくとも7日問投与されれば,どのような方法によっても空気囊胞は消失するものと老えられた.しかし酸素療法によっても26%に再発がみられるので長期経過観察が必要である.

Peutz-Jeghers症候群にCrohn病を合併した1例

著者: 篠原敏弘 ,   相馬隆 ,   羽田忠紘 ,   関根輝夫 ,   姉崎静記 ,   小山善基 ,   根本啓一 ,   木村格平

ページ範囲:P.1041 - P.1046

要旨 1982年4月18日,41歳男性が下痢を訴えて当科に2回目の入院をした.患者は約2年前に他院にて口唇,手足の色素沈着と胃・大腸ポリポーシスからP-J症候群の診断を受けていた.また,その1年後当科に入院し,終末回腸のCrohn病と診断され,3カ月間内科的に治療を受けた後,1981年6月29日回盲部切除術を施行されていた.下部消化管検査でS状結腸から横行結腸に典型的なcobble stoneappearanceと吻合部回腸に多発性の小潰瘍がみられた.また上部消化管検査で十二指腸球部にたこいぼびらん様隆起がみられた.また患者の左前腕に皮静脈に沿うように3個の小皮下結節がみられ,うち1個を切除したが他の2個は自然に消失した.組織学的に回盲部切除標本,十二指腸球部たこいぼびらん様隆起,左前腕皮下結節から非乾酪性肉芽腫を証明した.

Case of the Month

Early Gastric Cancer, Type Ⅱc

著者:

ページ範囲:P.953 - P.956

 A 52 year-old woman visited Niigata University Hospital in 1981 for detailed examination of gastric abnormality which had been suspected of malignancy by mass survey.

 X-ray examination of the stomach was done on November 30, 1981 and endoscopy (GTF B 100) on December 2, 1981. Both examinations revealed a shallow irregular depression with several nodules and the converging folds at the anterior wall of the gastric angle. The diagnosis of Ⅱc type early cancer associated with healed ulcer was made. Biopsy taken from the lesion showed signet-ring cell carcinoma (Group Ⅴ).

Coffee Break

診断能の比較は難しい

著者: 中澤三郎

ページ範囲:P.970 - P.970

 以前からみられることであるが,研究発表で“各種検査法の診断能の検討”というのがよくある.血液検査,腫瘍マーカー,X線,ERCP,US,CT,Angiographyなどにっいて,ある疾患がどの程度正診できるかを競い合わせるのである.その結果,大変おもしろい成績が得られる.すなわち,同じ疾患でも発表者によって第1位を占める検査法が異なってくるのである.しかし,発表した結果について絶対信じているのではなく,質問されると“今回私の調べた限りではこうなりました”という返答が意外に多いことに気付く.

 しかし,ときには,この疾患についてはこの検査法が最も良いと断言し,ほかから何と言われようと妥協しない人や,相手の立場を考えず非難する人もいる.よく観察していると検査能力の上手,下手というよりも発表者の性格に由来することが多いのに気付いて,心理学上大変興味深い.

手術をもっと早く!

著者: 武藤徹一郎

ページ範囲:P.986 - P.986

 病室に呼ばれたとき,彼女は子供のように細い手足に,顔だけ丸々とした異様な状態でベッドに横たわっていた.筋萎縮のために寝返りもままにならない様子である.潰瘍性大腸炎のために2年半の間プレドニン10~60mgを投与し続けた結果の副作用のためである.このままでは社会復帰のチャンスはない.手術しかそのチャンスは与えられないでしょうと大見得を切ったのは若気の至り.外科へ転科しても開腹術に耐えられる状態ではなかった.結局,上行結腸瘻を造設しステロイドを漸減した後に全結腸切除,回腸直腸吻合を行い社会復帰を果たすことができた.この間約3年を要した.その後も何例かステロイド漬けになった例,再燃緩解を繰り返して満足な社会生活ができない例に遭遇し,その生活状況をみる度にこのような例にはもっと早い時期に手術を行うほうが良いと考えるようになってきた.潰瘍性大腸炎は内科的にコントロールできる疾患であることに異論はないが,一度コントロールし難くなって,入退院を繰り返すようになり,正常な社会生活ができなくなった場合には,内科医と外科医が早い時期に手術適応について相談し合って欲しいものである.本人のquality of lifeを考えてあげて欲しい.排便回数が多少増えても様々な仕事に就いて,支障はなく生活できる回腸直腸吻合術がある.わが国ではこの手術の術後成績は極めて良い.再燃しても入院の必要はなく,ステロイド服用の必要もないので,手術を受けた患者は皆もっと早く手術をしてもらえば良かったと述べている.潰瘍性大腸炎の手術適応の決め方とタイミングは確かに難しいが,専門の内科医と外科医とが患者を初めから診るようにすれば,急性期,慢性期を問わずtoo lateということは少なくなるのではないだろうか.彼女は最近,見違えるほど美しくなって結婚した.結婚式で祝辞を述べることができたのは大変嬉しかった.この朗報は同病でdepressiveな患者を励ます種に利用させてもらっている.彼女が赤ん坊を抱いて現れるのはいつのことかと期待しているところである.

Refresher Course・8

この症例にみる診断過程のポイント

著者: 小林茂雄 ,   長浜微

ページ範囲:P.1047 - P.1050

口患 者:22歳,女性

口主 訴:下痢,腹痛,やせ.

〔術前X線所見〕Fig. 1aでは下部回腸に強い変形と一部狭窄がみられる.タッシェ形成と長い一側性の壁硬化像があり,縦走潰瘍の存在を示している.Fig. 1bで縦走潰瘍が描出されている.回腸末端部の粘膜は凹凸していて,盲腸変形も著明である.Fig. 1cは縦走潰瘍部の口側端を示している.Fig. ldでは,矢印に示すような小潰瘍性病変が主病変部からskipして認められる.

消化器診断入門

上部消化管―胃

著者: 大柴三郎 ,   岡崎幸紀 ,   岡田利邦 ,   多賀須幸男 ,   高見元敞 ,   中村恭一 ,   西俣寛人

ページ範囲:P.1051 - P.1054

胃・十二指腸潰瘍

質 問 胃潰瘍と十二指腸潰瘍では症状に違いがありますか.

 岡崎 絶対的なものとは言えないでしょうが,やはり空腹時痛というのが十二指腸潰瘍の1つの特徴ですし,特に早朝のはそうですね.胃潰瘍の場合はそれほど固定したものはない.食後痛も一部の人は言われますが,必ずしもそれはないと思います.

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欧文目次

ページ範囲:P.951 - P.951

書評「Liver Transplantation」

著者: 水戸廸郎

ページ範囲:P.958 - P.958

 1960年代は,臓器の入れ替え,すなわち腎臓,肝臓,膵臓などの移植が臨床に適用されだした,医療にとっては画期的な年代であった.しかし,臓器の機能不全に対する根治的治療法として確立し,普及したものは腎移植のみであり,肝臓移植は1963年3月既にコロラド大学のDr. Starzlによって最初の臨床が行われたにもかかわらず,今日まで限られた施設で臨床実験が積み重ねられているにすぎなかった.限られた肝臓移植の臨床家のたゆまざる研究成果は,手技上の改良とサイクロスポリンAなどの新しい免疫抑制剤の導入へとつながり,1980年以降は肝臓移植の症例も急速に増加し,昨年の6月の4施設の集計によると540例に達し,また1年生存率も60%を超えるに及んだ.

 このように,肝臓移植を“治療”のレベルにすることに貢献した専門家は,米国の雄,Starzl教授であり,他方は欧州の雄である本書の編集者Calne教授であろう.

書評「食道腫瘍の臨床病理」

著者: 中村恭一

ページ範囲:P.1010 - P.1010

 本書は,食道癌を中心とした食道腫瘍の外科病理の成書である.大きくは食道腫瘍の基礎的な外科病理の項と症例との2つの部分から成り立っている.

 基礎的な外科病理の項では,最新の統計を十分に駆使した解説がなされているので,読む者にとっては理解しやすいとともに説得力があり,食道腫瘍の全般的な知識を容易に習得することができる.また,多くの文献が引用されているので,これから食道腫瘍に関する研究を行う者にとっては便利である.

海外文献紹介「直腸結腸癌の肝転移に対する肝動脈結紮術」

著者: 伊藤克昭

ページ範囲:P.978 - P.978

 Hepatic artery ligation for liver metastasis in colorectal carcinoma: NJ Petrelli, PA Barcewicz, JT Evans, et al(Cancer 53: 1347-1353, 1984)

 大腸癌の肝転移をどのように治療するのが最善かという問いに対する解答は出されていない.数多くの治療法が提唱されてきたが,まだprospective randomized trialでの報告がないばかりか,豊富な症例数での検討すら報告されていない.著者らは,Roswell Park Memorial Instituteで97例に行った肝動脈結紮術の成績を報告している.検討対象は,開腹時に肝臓の50%以上が転移巣で占められていると判断された結腸癌65例と直腸癌32例で,6つのカテゴリーに分けて治療効果を50%生存期間で評価した.

海外文献紹介「十二指腸潰瘍の治癒と再発における喫煙の影響」

著者: 鳥山和彦

ページ範囲:P.1010 - P.1010

 Influence of cigarette smoking and relapse in duodenal ulcer disease: MG Korman, J Hansdy, ER Eaves, GT Schmidt(Gastroenterology 85: 871-874, 1983)

 十二指腸潰瘍における喫煙の影響は様々に言われている.今回,著者らは内視鏡で確認された活動性十二指腸潰瘍患者135人にH2-レセプターアンタゴニスト:シメチジン(90例),ラニチジン(25例),オキシメチジン(20例)を投与し,喫煙者および非喫煙者に分けて,短期間での治癒,長期間での再発について調査した.短期間では投薬後1,2,4週で経過観察し,4週間後に内視鏡で治癒したかどうかを調べた.長期研究では治癒後,投薬を中止し,1カ月間隔で1年間経過観察した.症状が再燃しない限り,内視鏡検査は6,12カ月後に施行された.潰瘍が完全に消失するか,あるいは粘膜で覆われた瘢痕がみられたときを治癒とした.また,この間,患者には喫煙習慣を変更しないように求めた.

編集後記

著者: 福地創太郎

ページ範囲:P.1056 - P.1056

 胃潰瘍の治癒判定とステージ分類に関しては,昨年の春と秋の日本消化器内視鏡学会のパネル討論のテーマとして取り上げられ,多数の演者によって論じられた問題であるが,今回更にその集大成とも言うべき形で,本誌の特集号としてまとめられたわけである.

 病理組織学的な潰瘍の修復度分類としては,古くから村上の分類があり,一方,胃潰瘍の内視鏡的ステージ分類としては,崎田・三輪分類が広く利用されている.最近の内視鏡検査技術の発達はこれらの問題を新しい角度から見直すことを可能にした.

基本情報

胃と腸

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1219

印刷版ISSN 0536-2180

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