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文献詳細

雑誌文献

胃と腸2巻10号

1967年10月発行

文献概要

今月の主題 慢性胃炎1 綜説

胃のReactive Lymphoreticular Hyperplasiaの病理

著者: 中村恭一1

所属機関: 1癌研究所病理部

ページ範囲:P.1293 - P.1301

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Ⅰ.はじめに

 胃の非上皮性の組織学的病変の一つとして,限局性またはびまん性のlymphoreticular tissueの増生がある.この組織所見は,切除胃を精査した場合には,局所的に必ずといってよい程に認めることのできる所見であるが,病変の程度が著しくなると胃粘膜に肉眼的水準の変化として投影されてくる.この病変を,1928年Konjetzny4)は組織学的に“Lymphatisch-hyperplastischer Gastritis”と慢性胃炎の一型として記載し,さらに,1938年には臨床的ならびにX線学的に癌腫と間違いやすい慢性胃炎の特殊型“Chronisch-lymphatischer Gastritis”5)として3症例を報告した.Schindler(1937)12)は,内視鏡的方面から,腫瘍性病変と間違いやすい胃炎のうちの一型“chronic atrophic lymphoblastomoid gastritis”を記載した.

 このように,lymphoreticular tissueの増生が著しい場合には,X線診断および内視鏡的に,胃の腫瘍性病変とまぎらわしい所見を呈することからこの病変が注目されはじめた.

 その後,久しくかえりみられなかったこの病変が,外科病理の進歩とあいまって,胃原発性悪性腫瘍のうち,癌腫に次いで頻度の多い悪性リンパ腫との組織学的鑑別が問題となってきた.Smith and Helwig(1958)13)は,胃原発性リンパ腫の予後が,他臓器原発のそれに比べて統計的に良好であるといった事実は,胃悪性リンパ腫と診断したなかには,臨床的ならびに病理組織学的に悪性リンパ腫との鑑別が困難な良性病変をも包含しているためであると見做した.その良性病変をreactive lymphoid hyperplasiaとし,それと悪性リンパ腫との組織学的鑑別について述べている.

 ここに至って,胃のlymphoreticular tissueの著しい増生を示す病変に関する臨床的ならびに病理組織学的の統括的な概念が固まってきたが,本病変は臨床的(X線,内視鏡)には悪性腫瘍と診断される場合が多く,また,病理組織学的には悪性リンパ腫との鑑別が困難な揚合があるといった二つの大きな問題が残されている.

 その後,これらの問題に関する論文はTable1に示すように若干見られるのであるが,本病変は一単位としての疾病ではないので名称は統一されず,病変そのものの名称をもって呼ばれている.著者ら9)は,本病変はlymphocytic hyperplasiaのみに限らず,reticulum cell hyperplasiaをも伴うこと,および,malignant lymphomaとの鑑別が問題となることの2点から,reactive lymphoreticular hyperplasiaとして1966年に6症例を報告した.

 現在,その後の症例追加により1ymphoreticular hyperplasiaを呈する症例は合計14例となったので,それらの症例を中心として胃のlymphoreticular hyperplasiaの臨床病理組織学の紹介とその考察を試みてみたい.

 なお,lymphoreticular hyperplasiaは胃固有の病変ではなく,Castleman et al.(1956)1),Lattes and Pacher(1962)7),およびSaltzstein(1963)14)らによって報告されているように,胃以外の臓器にも,特に,虫垂においてはよく見られる病変であることを付記しておく.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1219

印刷版ISSN:0536-2180

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