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今月の主題 慢性胃炎2 綜説
慢性胃炎―主として胃癌との関連において
著者: 芦沢真六1 三谷山明1 金田英雄1 中野八郎1 石井信光1 麦倉信1
所属機関: 1東京医科大学内科
ページ範囲:P.1383 - P.1389
文献購入ページに移動慢性胃炎と胃癌との関連についてはすでに古くより論じられている.しかし現状は慢性胃炎そのものの解釈についてすらかなりの混乱があり,従来,臨床家と病理学者などの考えているイメージは必ずしも一致していたとはいえぬ.臨床家は一つの疾病単位としてのそれを解明しようとする立場をとり,病理学者は病変の組織学的究明の方に重点をおく以上やむを得ぬことであったともいえるが,最近の内視鏡の発達,普及および生検の応用などにより,とりあえず両者間に話し合う共通の場ができ始めたことは,慢性胃炎の研究にもやっと光明がさし始めたともいえよう.
一方胃癌は健常粘膜から発生するとは考えられない.しかもそれは多くの場合局在の病変である.最近の診断学の進歩は胃内のある揚所に限局した1cm前後の癌を発見することも可能にしようとしている.しからばそこに局在して癌を発生させる胃粘膜の状態は如何なるものであろうか.同じく局在の病変である潰瘍,ポリープなどを臨床的に長期間観察し,それが癌に変ったという客観的の材料を充分にそろえた症例の発表は未だほとんどない.臨床的に良性と確実に診断された潰瘍,ポリープはそう簡単には癌になるものではなさそうである.そうなると今までの診断学では診断が容易でなかった病変がなにか重大な役割をしているということも想像される,たとえばこの頃やっとかなり多くの人が診断できるようになってきた潰瘍瘢痕,びらんなどもその一つかもしれない.そしてそれらの病変はある意味では局在した胃炎と考えられ,しかもかなり多い病変なので胃炎と癌との結びつきに何か糸口となるかもしれない.
本年度の医学会総会において,慢性胃炎のシンポジウムに内視鏡の立場から参加するように命ぜられたとき,かなり進歩したとはいえ未だ弱点の少なくない内視鏡による胃粘膜像の所見のうち,その解釈についてもっとも普遍性をもっている萎縮像を示すものをとりあげ,先ずそれと胃癌との関連を考察しようと試みた.もちろん上述の瘢痕,びらんと癌との関係についても考慮に入れながらである.
さらに胃癌と胃炎との関連を見るもっとも直接的な方法として,胃癌を実験的につくり,その癌に変る以前の粘膜所見の特徴をつかめばよいわけであるが,未だ短期に確実に胃癌をつくる方法は発表されていない.そこでわれわれはとりあえず吉田肉腫をつかい,それがどのような粘膜の状態の時にもっとも胃に移植されやすいかの実験を行なった.もちろん肉腫細胞が移殖されやすい胃粘膜の場はどのようなものであるかを見ることで,発癌以前の胃粘膜状態如何との問題とはほど遠いものであるが,やっているうちに何か今後の新しい問題が出てくることを期待してのことである.
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