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文献詳細

雑誌文献

胃と腸2巻3号

1967年03月発行

今月の主題 胃液分泌の基礎と臨床

綜説

胃液検査の診断的意義

著者: 岡部治弥1 為近義夫1 小田辺茂雄2

所属機関: 1九州大学医学部勝木内科 2九州中央病院内科

ページ範囲:P.357 - P.362

文献概要

Ⅰ.はじめに

 胃液中における塩酸の発見はすでにふるく,1824年Proutにさかのぼるが,胃液検査の創始者は1876年Leubeであるとされる.以来90年の長きにわたって胃液検査は胃分泌機能および胃疾患の診断に応用されてきたわけである.現在もっとも多く用いられている分割採取法の考案は1914年Rehfussが最初でこれにより胃運動のおおまかな分析もできるようになった.それ以来,分泌機構や胃分泌の生理に関する知識は非常に進歩し,より正確に胃機能を評価しようとする多くの方法が登場してきたわけである.すなわちEwaldの食餌試験,カフェイン試験,インスリン試験,ヒスタミン試験,ヒスタミン最大刺激試験,さらに最近のガストリン抽出により近い将来ガストリン試験法の出現が予想される.本邦においてはKatschu. Kalkのカフェイン法による分割採取法が従来もっとも多く用いられているし,最近はヒスタミンを使用するところも増えてきている.またその誘導体であるヒスタログの使用経験もボツボツあらわれ初めている.さらに最近はエレクトロニクスの進歩により日本製の優秀なpH-telemeterも出現し,pH-telemeteringによる研究も段々と盛んになりはじめている.そこで本稿ではこれら各種の方法について主としてその検査法の特徴を中心にし,またその診断的意義について以下述べてみたい.

 さて,最近の胃疾患に関する形態学的診断学の進歩,微細診断化への発展は胃液検査の診断的意義については明らかにその価値を低くしてきたが,なお補助診断としての意義および疾患にともなうまたは疾患を伴なう胃の異常機能を探る上には不可欠の検査法であることは従来と全く変りはないといえる.

 いかなる臨床検査法もそれを施行するにあたっては,その検査は3つの批判に耐えるものでなければならない(lvy & Roth).

 1.先ず医師は何を知らんとしてその検査を行なうのかという点をはっきり知っておかねばならない.一般に胃液検査を行なう場合多くの医師は次の答を知らんとして行なうといえる.

 ⅰ)この患者はある刺激に応じて遊離塩酸を分泌するか,分泌するとしてそれは過酸か,正酸か,低酸か?

 ⅱ)その検査で無酸となった場合,その胃にはたして塩酸およびペプシンを分泌することができるか?ということである.

 しかし消化器の専門医は各種胃液検査をくりかえす場合はさらにより多くの情報がえられることを知らねばならない.各種胃液検査法によってわれわれはなにを知りうるのかについては後述する.

 2.次に施行せんとする検査法の限界を知っておかねばならない.このことを常に考慮していないと,その成績解釈に混乱をおこし,誤まった結論に導く可能性がある.例えば胃液検査の場合,ゴム管嚥下に伴う悪心,吐き気がつよいと,分泌抑制機構が発生するが,短時間の検査結果では時に無酸として誤まった結論を与えることになる.この抑制の影響を打ち消す程の充分な時間(例えば2時間)検査が行なわれるといわゆる遅延分泌曲線とされる成績がえられることになる.

 3.最後に目的とするものに対し,使用する方法の信頼度を知っておかねばならない.すなわちその検査でえられる成績はどの程度に偽陽性ないし偽陰性をしめすかということ.例えば後述するごとく胃液の酸度にしても,塩酸量にしても正常者,潰瘍,胃炎,胃癌患者にてその成績には相当の重なりがあるのでその値から鑑別診断を行なおうとするのは明らかに無意味である.しかしある揚合にはその成績は診断上重要な情報を呈供することになる.例えばZollinger-EIIison症候群,悪性貧血(日本には少ないが),さらに潰瘍の良性悪性の鑑別など.その他胃液検査は診断の目的ではなく,胃の正常機能を知り,かつそれにおよぼす疾患の影響すなわち病態生理を知るために行なわれる意義がある.胃液検査成績の正しい解釈には分泌刺激機構,抑制機構および胃排泄の調節因子についての充分な知識を必要とするものである.この点に関しては本誌中他の方が詳述されると思うので簡単にふれるにとどめたい.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1219

印刷版ISSN:0536-2180

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