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今月の主題 早期胃癌の鑑別診断 綜説
早期胃癌の鑑別診断—(細胞診,主として直視下洗浄法例について)
著者: 春日井達造1 加藤久1 安藤昭寛1 八木幹郎1 坪内実1 山岡康孝1 吉井由利1 服部外志之1 内藤靖夫1 小林航三1
所属機関: 1愛知県がんセンター第一内科
ページ範囲:P.635 - P.642
文献購入ページに移動X線,内視鏡検査による胃癌診断技術の最近の進歩は,早期胃癌の診断を現実のものとし,その量と質において諸外国でも例をみないほどに発展してきた.
しかしながら定型的な早期胃癌はX線および内視鏡による診断で充分であっても,非定型的な,あるいはより早期の,より微細な胃癌の診断には限界があることが次第に明らかとなってきた.ここに手技が比較的簡単で,より適確な診断法の出現が切望されるようになった.
剥離した細胞の形態より癌を診断する細胞診はprehistologicalな方法とは言うものの,他領域でのすぐれた成績から胃癌診断に対しても有力な手段として期待されていた.しかし,古くはPollard1)が指摘したごとく,癌としての諸特徴を明瞭に示す新鮮な細胞を採取するのに,胃はもっとも不適当な条件を備えているところから,幾多の改良,進歩にもかかわらず,臨床的に充分満足しうる段階にまで達し得なかった.
胃内を洗滌して癌細胞を採取する胃洗滌法を始め,癌細胞を擦過採取するAbrasiveBalloon法,内視鏡を用いての直視下擦過法などが臨床的に広く使用されてきたが,胃癌診断が進行胃癌から早期胃癌とその焦点が移り,X線,内視鏡もこれに対応して進歩発展したのに比し,細胞診はこの方面でやや出遅れの感があった.しかるに,1964年,私どもはHirschowitzのファイバースコープに鼻管カテーテルを装着して胃内を観察しながら目的の病巣部を選択的に強力に洗滌するファイバースコープによる直視下洗滌細胞診のアイデアと装置を初めて報告した2)3).その後に各種の細胞診用のファイバースコープが開発され,これらを用いさらに優秀な成績が報告された4〜8).今日,本法によって初めて細胞診がX線,内視鏡,生検と比肩して早期胃癌診断の四大武器の一つとなったと言っても過言ではなく,さらに本法開発により一般の細胞診への関心が急激に高まってきたことも否定できない.
直視下洗滌細胞診は細胞剥離力が極めて強力で命中すれば当然細胞は脱落することを前提として考案開発された.したがって胃細胞採取法としては極めて優れているが,その後の鏡検を含めての操作は従来の細胞診となんら異なるところがない.私どもも最近症例の増加に伴って偽陰性例,偽陽性例も2,3経験した.今これらの誤診例を検討して,その原因を追求することこそ本細胞診法をさらに発展させる上にもっとも肝要であると思う.したがって本稿においては偽陽性例の検討が主眼ではあるが,比較関連において偽陰性例も含め一括し,誤診例として検討する.なお私どもは疑陽性を癌の場合は陰性,非癌の場合は陽性成直視洗滌細胞診の診断例は第1表のごとくであるがそのうち偽陰性および偽陰性各1例について詳述する.
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