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文献詳細

雑誌文献

胃と腸2巻6号

1967年06月発行

文献概要

今月の主題 胃のびらん 綜説

胃びらんに関する研究

著者: 浜口栄祐1 稲葉穣1 大島昌1 渡辺正道1 宮永忠彦1 松谷嘉夫1 田中知昭1 酒井忠金牙1 松峯敬夫1 豊田成1 三友善夫2

所属機関: 1東京医科歯科大学第2外科学教室 2東京医科歯科大学中央検査部病理

ページ範囲:P.785 - P.797

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Ⅰ.緒言

 胃のびらんの研究は剖検胃の粘膜表層に発見された組織欠損の研究から始まった.研究当初は消化管出血の剖検胃が対象となったために,生前の臨床所見が重要視され,特有な病像をもつ独立疾患であると考えられ,Einhornsche Krankheit(Einhorn:1895),Exulceratio ventriculi simplex(Dieulafoy:1900)等と名づけられた7)11)19).しかし剖検胃の検索が進むと,胃びらんは10歳以下の小児から90歳以上の老人にまで発見され,胃疾患以外でも中毒(重金属),尿毒症,子癇,火傷,外傷,脳疾患(Rokitansky)1),結核,虫垂炎,肝硬変,ヘルニア嵌頓等(Mintz)7)の剖検胃に発見される事実がわかって来たので,ElnhornやDleulafoyが提唱した独立疾患は歴史的な症候群にすぎなくなった.組織学的に胃びらんは粘膜層に限局する組織欠損であると定義され11),びらん部に限局性の梗塞をみとめ,胃壁の局所的な循環障害に由来するものであると考えた研究者が多かった(Rokitansky,Kundrat,Hauser等)7)11)19).しかし当時においてもびらんの成因に対して一致した見解はなく(Berger)7),循環障害説の他に細菌ないし細菌毒素の感染説(Dieulafoy,Frankel,Wurty),非特異性炎症説(Pariser,Nauwerk),鬱血と外傷の併存説(Ewald)等の諸説があった7)11)19).びらんの研究が進歩するとともに,自家融解の進行過程にある剖検胃では,粘膜表層の微細な検索を行なうのに不適当である事が明らかになって来たので10)12)13)14)17)20),一方においては剖検胃の自家融解を防ぐ目的で死直後,胃内にホルマリン液を注入する等の努力がはらわれたりしたが,大勢は今世紀初頭から盛んになった切除胃の研究に焦点が向けられるようになった.切除胃を対象とする研究であったから,この研究には従来の病理学者3)~6)7)10)11)21)37)41)に加えて外科医12)13)14)17)20)26)~30)33)~36)38)39)43)も参加するようになったし,胃診断技術の向上にともない,近年ではレントゲン24)25)・内科,内視鏡学者46が参加するようになった.このように多方面からびらんの研究が行なわれる理由は,粘膜に限局する組織欠損が,胃潰瘍においては潰瘍の初期像としてとらえられ3)~6)33~35)37),慢性胃炎においては多彩な胃炎組織像の解明の手がかりとして3)12)13)26),胃癌においては早期胃癌との鑑別診断36)と関連してとりあげられたからである.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1219

印刷版ISSN:0536-2180

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