生検にて術前診断しえた胃体部Ⅱb型早期胃癌(印環細胞癌)の1例
著者:
吉田茂昭
,
山口肇
,
田尻久雄
,
吉森正喜
,
石川勉
,
牛尾恭輔
,
笹川道三
,
山田達哉
,
廣田映五
ページ範囲:P.197 - P.205
要旨 患者は51歳,男性.多発性胃潰瘍にて経過観察中,胃体部後壁にやや腫大したfoldを認めadenomaを疑って生検施行.Group Ⅳの診断を得たため,X線,内視鏡検査にて精査.前者では胃体部後壁のfoldの間隙に一致して領域性を有する粗い粘膜像を認め,存在診断,質的診断が可能であったが,後者では数度にわたる各種精査にもかかわらず,存在診断は生検による確認(印環細胞癌)のみに終始し,積極的な異常所見が得られないまま胃切除術(穹窿部にRLHを伴っていたため全摘術)が施行された.術後の検査では切除標本上肉眼的に悪性を疑いうる病変は指摘できず,多発性の潰瘍瘢痕像,xanthomaなどを認めるのみであった.5mm stepの全割切片にて組織学的な検索を行ったところ,体中部後壁の大彎側より20×4mm大の範囲に深達度mの印環細胞癌が認められ,これらはfoldの間隙に一致した領域に相当した.この領域を含む切片上では癌巣部と非癌部との境界に段差を認めず,肉眼的にも組織学的にもにⅡbに相当すると診断された.本症例は当院にて初めて経験された未分化型腺癌の単発性Ⅱbであるが,その術前診断,殊に内視鏡診断は極めて困難であった.この診断の困難性はスキルス胃癌の早期診断の困難性にも通じるものであるが,このようなⅡbが広く印環細胞癌の初期病変であるならば,実際にはかなり高頻度に存在しているはずと思われる.極めてわずかな変化に対する生検スクリーニングの有用性,微細な粘膜面の変化に対する診断指標の重要性が示唆された.