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文献詳細

雑誌文献

胃と腸20巻4号

1985年04月発行

Coffee Break

腺窩膿瘍のcrypt

著者: 竹本忠良1

所属機関: 1山口大学第1内科

ページ範囲:P.430 - P.430

文献概要

 既に御承知のことかもしれないが,私は日常,寸暇を惜しんで雑学にも精出している.そうなると,本の山に囲まれるわけであるが,辞書も必然的に集まってくる.英和辞典だけでも,一体何冊持っているだろう.最近では,26万語を誇る「リーダース英和辞典」(研究社)を2冊も持っている.

 さて,crypt abscessは腺窩膿瘍と訳されており,特に潰瘍性大腸炎で医学生もちゃんと知っている.「リーダース英和辞典」によると,cryptはn.あなぐら,地下室((特に寺院の納骨または礼拝用の));〔解〕陰窩(か),凹窩,腺窩;〔口〕暗号文(cryptogram)と説明してある.地下室の(( ))内がこの小文のみそである.宗教史学者の山折哲雄教授の「宗教民俗誌―聖と俗のトポロジー」(人文書院,1984)を読むと,ブルゴーニュ地方にある有名なシトー修道院の訪問記が載っている.そこにクリプト,地下札拝堂のことが書いてある.“司祭館と教会堂とは地下道によっても通じており,クリプトは教会堂の真下に作られている.私は,司祭館の一隅から穴倉にもぐり込むような恰好で,その修道士の後にくっついていった.真暗闇の隧道に小さな裸電球がともされると,かつての迫害時代に,そこに逃げ込んだかもしれないキリスト教徒の,うめくような激しい息づかいがきこえてくるようだ.シトーのクリプトの雰囲気は,いつのまにやら,ローマ教会やコプト教会の原始時代へと私の幻想を誘う.この地下礼拝堂は,確かに,あのローマやアレクサンドリアの地下墓場(カタコンベ)の陰惨な記憶をどこか彷彿させるのである”と述べてある.ここまで説明してあると,cryptの意味がよく理解できるし,crypt abscessという名前がうまくつけられていることに感心できるのである.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1219

印刷版ISSN:0536-2180

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