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文献詳細

雑誌文献

胃と腸20巻5号

1985年05月発行

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書評「人間の死と脳幹死」 フリーアクセス

著者: 岩田誠1

所属機関: 1東京大学

ページ範囲:P.488 - P.488

文献概要

 ある時釈尊のもとへわが児に与える薬を求めに来た女があった.女は腕の中の幼児が既に死んでいるのに気づいていなかった.釈尊は女に,“昔より,かつて一度も死者を出したことのない家からケシ粒をもらってきて児に与えよ”と教えられた.女は死んだわが児を抱いて家々を訪ね歩き,ついに死とはいかなるものかを悟るに至って,初めて愛児が死んでいるということに気がついたという.釈尊が愛児の死んでいることを直接告げられなかったのは,女に対する憐憫の情からということもあろうが,それ以上に,死を理解するに至る過程を重視されたために違いあるまい.かように,“死”は人間の事象のうちでも最も普遍的かつ日常的なものでありながら,それを本当に理解することは容易なことではない.目前に繰り返される死を何度となく経験することによって初めて死を真に理解するに至る,という時間的経過が必要なことは,現代においてもなんら変わることがない.

 近年,わが国でも脳死に対する論議がしばしば大きく取り上げられているが,その多くは,臓器移植との関連においてか,または,いわゆる尊厳死をめぐる問題として取り上げられるかである.しかしこれらの視点から論ぜられるとき,脳死の認識とその判定の問題は,しばしば“死を認識すること”ではなく,“死なせること”についての議論となってしまう.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1219

印刷版ISSN:0536-2180

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