今月の主題 小腸診断学の進歩―実際から最先端まで
主題研究
蛋白漏出性腸症の小腸内視鏡像
著者:
田中三千雄1
竹本忠良2
所属機関:
1富山医科薬科大学第3内科
2山口大学医学部第1内科
ページ範囲:P.759 - P.772
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要旨 蛋白漏出性腸症の小腸内視鏡検査所見が,初めて報告されたのは1974年(田中,竹本ら2))のことであった.わが国では,その後本症に対して21例に小腸の内視鏡検査が施行され報告されている.この内視鏡検査例数は,わが国で小腸鏡が開発された1970年以降今日までに報告された本症の中で,その病変が小腸に存在していることが記載されている症例総数113例(われわれの集計による)のうちの約1/5にすぎない.そして,十二指腸,空腸,更には回腸が,同一例において内視鏡的に検索された症例は自験例以外にはない.自験例6例の内訳は,①腸リンパ管拡張症(2例)とその疑診例(1例),②回腸の多発性びらん(1例),③Crohn病(1例),④悪性リンパ腫(1例)である.これらの症例においては様々な形態の病変が小腸の様々な部位に内視鏡で観察された.しかしながら,蛋白漏出性腸症としての共通の内視鏡所見を見いだすことはできないばかりか,異常な蛋白の漏出現象が小腸で発生している事実を内視鏡所見から推測することも困難な症例(腸リンパ管拡張症の疑診例と悪性リンパ腫の例)もあった.小腸内視鏡は今日でもなお本症の一部の腸管粘膜形態を垣間見ているにすぎない.今後,本症に対しては積極的に小腸全域を内視鏡で検索する努力を惜しんではならないことと,蛋白漏出という腸管の機能変化そのものを直接視覚化し,それを内視鏡で定量的に把握するような新しい内視鏡技術の開発も望まれる.