症例
Achalasia術後のBarrett型食道に発生した悪性絨毛上皮腫の1剖検例
著者:
青沼孝徳1
若山宏1
高橋敦1
斎藤建1
宮田道夫2
所属機関:
1自治医科大学医学部病理
2自治医科大学医学部一般外科
ページ範囲:P.83 - P.89
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要旨 患者は45歳の男性.生来健康であったが,1964年achalasiaの診断で下部食道胃噴門部切除術が施行された.1977年吻合部付近に腺癌が発生し ,再び食道胃部分切除術が施行された.組織学的には,粘膜内にとどまる未分化腺癌であったが,その癌は前回手術の食道胃吻合部より口側にあった.しかもその周囲は円柱上皮によって被われていたため,Barrett型食道に発生した早期腺癌と診断された.このとき悪性絨毛上皮腫の所見は認められなかった.1982年7月ごろより悪心,嘔吐が出現.精査の結果,癌の再発と診断され同年11月全食道および残胃切除術が施行された.組織学的に腫瘍の大半は食道にあり,その一部,リンパ節転移巣に腺癌と共存して,悪性絨毛上皮腫類似の組織像が認められた.この部分はPAP法でHCG陽性であった.1983年2月ごろより咳漱が出現.胸部X線写真上,多数の結節状腫瘤影が認められた.またこのころより睾丸の萎縮と女性化乳房が出現し,血中HCG値も12,000mIU/mlと高値を示した.MFC療法が無効であったため,ACT-D,MTX,Vinblastinに変更したところ肺転移巣の縮小と血中HCG値の減少が認められ,同年6,月には280mIU/mlまで低下した.しかし同年9月肺炎の合併と全身転移のために死亡した.剖検検索では壊死性,出血性の転移結節が肺,肝,腎およびリンパ節広範に多数認められた.組織学的にはすべて悪性絨毛上皮腫であった.