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文献詳細

雑誌文献

胃と腸21巻10号

1986年10月発行

今月の主題 受容体拮抗薬のもたらした諸問題

序説

H2受容体拮抗薬療法の課題

著者: 竹本忠良1

所属機関: 1山口大学医学部第1内科

ページ範囲:P.1053 - P.1058

文献概要

はじめに

 ヒスタミンH2受容体拮抗薬(以下H2ブロッカー)は,roxatidine acetate(Altat)の参加をもって,完全に競合時代に突入した.

 この時期に,「H2ブロッカー療法が当面している諸問題」という仮題でもって,いま,この序説を書き始めたわけであるが,題がどうもしっくりしない.あれだけ数多くの著書と論文とを書いている哲学者の中村雄二郎さえ,“……自分の書きたいと思っていること,また潜在的にそう感じていることにぴったりした表題が探りあてられないと,文章や本の全体がどうしてもぎくしゃくして,緊密な有機性が形づくられない”(哲学的断章,P343,青土社,1986)と書いているのだから,筆者ごときが同じような思いをするのは格別不思議なことではあるまい.

 そこで,苦しまぎれに,ヒトサマの文章の引用をするが,神川正彦は「歴史叙述と歴史認識」という論文において,“だが周知のように,日本の学問の在り方は,今日まであまりにもヨーロッパの学問的問題状況に即応し,その都度の〈外来〉の移植に依拠するあまり,自らの〈内発的〉な展開を忘却しつづけてきたのではなかろうか.当のヨーロッパという〈外〉の方はまさしく〈内発的〉に,はっきりした学問の連続的な展開を描き出しているのに,日本という〈内〉の方はいつもそのく外〉からの刺激を,それぞれの若い世代の人達が〈内発性〉とはかかわりなくうけとめるという形でしか展開させることが出来なかった.その意味では,日本の学問の展開は,あたかもずたずたな断層によって描き出される模様のようなものである.だが,また別言すれば,〈接木的〉な学問状況というものを,日本の学問もそろそろのりこえていくことがもとめられているのではなかろうか”(新岩波講座哲学,11巻,「社会と歴史」,P246,1986)と述べているが,この種の提言,またかというような指摘であり,耳にも眼にも分厚いタコができているが,痛い指摘である.H2ブロッカー療法の問題点もその多くは〈外〉からの刺激とも言えようが,物ごとの本質を認識すれば,〈内〉からも必然的に提起されることがらであるとも言えよう.

 それに,潰瘍治療にしても,1つの療法の問題点が完全に解決されて,それにとって替わるように,新しい療法が出現するというように,ことは順序だてて進行しない.

 私は,H2ブロッカー療法のより一層の展開と並行して,gastric proton pump inhibitor(omeprazole,AG 1749)による新しい治療法が競合的に成長するのだと考えたい.もしかすると,この序説が印刷される頃には,Campylobacter pyloridisと潰瘍との関係ももっと盛んに論議されて,例えばmetronidazoleによる治療の意義なども論議されるようになるかもしれない1)2)

 いずれにしても,ある時期には,いろいろな治療法が同時に発展し検討されるものなので,ちょっとかじっただけで早々に結論を出して次に移行するというような性質のものではない.治療の評価には長い時間が必要なのである.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1219

印刷版ISSN:0536-2180

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