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雑誌目次

雑誌文献

胃と腸22巻1号

1987年01月発行

雑誌目次

今月の主題 電子スコープの現況 序説

電子スコープの現況

著者: 大柴三郎

ページ範囲:P.11 - P.12

 消化器内視鏡学の歴史は長く,時代の変遷と共に幾つかの新機軸を経て今日に至っている.第1期はレンズ光学系を用いた上部消化管を中心とした内視鏡の時代で,1世紀以上にわたったが研究の域を脱しえず,少数の熟練者によって支えられてきた.第2期は日本における胃カメラ時代である.この期間は約10年強にすぎないが,内視鏡学の歴史の中で華々しく開花し,診断学への顕著な功績,各疾患に対する形態学的研究に資したことは万人の認めるところである.第3期はHirschowitzによるfiberopticsの開発に始まるファイバースコープの画期的進歩であり,今日の内視鏡学が確立された.ほぼ完成されたファイバースコープは当然のことながら,全消化管,腹腔鏡をはじめ消化器領域以外の内視鏡学にも応用され,内視鏡学に終止符が打たれた感があった.しかし,この精巧緻密なスコープですら小腸の診断に関しては最大の努力にもかかわらず,いまだ完成された機種,手技は必ずしも得られていない.

 1984年,米国Welch-Allyn社から全く新しいスコープが提出された.このスコープは先端に小型のTVカメラを装着したもので,従来のimage fiberに代わって画像をモニターに描出する機構である.ここに内視鏡学の歴史の中で画期的第4期を迎えたわけである.このことを耳にしたとき頭をかすめたことは,まず第1に内視鏡の暗黒大陸であった小腸鏡の可能性と,ちょうどこのころ,教室で画像解析による胃上皮細胞内粘液の測定を行っていたことに関連して,このスコープを用いれば画像のコンピューター処理ができるのではないかということであった.実際,既に幾つかの画像解析による境界強調に関する研究が報告されている.しかし,Welch-Allyn社のスコープ,その後日本で開発されたオリンパス社製,東芝・町田社製,富士光学社製の電子スコープのわずかな使用経験を通して,小腸鏡への応用はまだまだ夢の段階であることに気付いた.

なぜ電子スコープなのか

著者: 竹本忠良

ページ範囲:P.13 - P.16

 はじめに

 たいへん失礼な書き出しと受け取られるかもしれないが,わが「胃と腸」の編集委員会にも,ごくごく世間並みなところがある.その1つの例として,毎年,新年号の企画となると,『「胃と腸」の新年号』にこそふさわしい主題を選択するため,ひときわ会議が白熱することが挙げられよう.

 ところが,第22巻の第1号のテーマは,八尾恒良先生の提案理由の説明がたくみであったせいもあるが,例外と言ってよかった.つまり,あまり異論も出ないまま,至極すんなりと決定してしまったように記憶している.

主題

電子スコープの特性と問題点

著者: 八尾恒良 ,   岡田光男 ,   今村健三郎 ,   前田和弘 ,   中村正一 ,   有馬純孝

ページ範囲:P.17 - P.25

要旨 電子スコープは固体撮像素子(CCD)を先端に装着した内視鏡である.その原理は映像をCCDにて電気信号に変換し,映像コントローラーで処理してモニターテレビ上に映像を作製するという機構より成り立っている.したがって,種々の画像処理など従来のファイバースコープでは考えられなかったことが可能となっている.現在の電子スコープには画素数,ラティチュードの狭さなど,いまだ多くの問題があるが,それでも画像はファイバースコープのそれよりも鮮鋭である.今後CCDやテレビモニターの改良に伴って,限りない診断能の進歩が予測される.上記の事柄について解説し症例を呈示した.

電子スコープの微細診断能―胃

著者: 福地創太郎 ,   星原芳雄 ,   早川和雄 ,   吉田行哉 ,   橋本光代

ページ範囲:P.27 - P.34

要旨 消化器内視鏡の発達の歴史的過程における,新しい世代の内視鏡の登場として,電子スコープの誕生の意義を考察した.電子スコープの数ある特性の中で,高解像力,高画質の画像を重視する立場から,TV-endoscopeによる胃病変の微細診断能について検討した.本内視鏡はまだprototypeのものであるため,操作性に改良すべき点があるが,その画像は極めて鮮明で,胃小窩レベルの粘膜表面微細構造を観察することが可能である.電子スコープによる内視鏡診断は,病変の肉眼形態を全体像として把握するばかりでなく,胃小区から胃小窩に至る表面微細構造の識別に基づく,鑑別診断となるであろう.また,電子スコープの応用として期待される種々の画像処理や画像解析も,取り込まれる画像の精度によって左右されるであろう.

電子スコープの微細診断能―大腸

著者: 岡田利邦 ,   西澤護 ,   牧野哲也

ページ範囲:P.35 - P.44

要旨 電子スコープ(TCE-50M)を用いて臨床例および固定標本の大腸粘膜を観察し,その存在診断能および質的診断能を検討した.EES-50Aプロセッサー本体のVTRに病変を録画し,VTRから必要な1画面ずつを1M byteのフロッピーディスクに取り込み,それを原画とした.画像処理の診断学的有効性を知るため,高速画像処理装置(TOSPIX-U)で原画を処理した.画素数10万で極めて鮮明かつ解像力の良い画像が得られ,存在診断能は極めて高いと評価できた.一方,質的診断能を評価するため,大腸の微細な網目模様mucosal detailの,また,5mm前後の微小隆起が示す異常腺口模様像abnormal pit patternsの認識が可能かどうかを検討した.網目模様については,肉眼でそれと認識しにくい固定標本を電子スコープで観察すると辛うじて認識でき,更に画像強調によって一層明瞭となる.しかし,臨床での安定した網目模様の観察は現時点では,好条件下でのみ可能である.異常腺口模様像については良性のパターンか癌を疑うべきか判断を下せるだけの解像力は今はない.この原画を画像処理すると,模様像の特徴が描出され,質的診断がしやすくなる.しかし,現在の画素数では画素単位のノイズが腺口模様像に重なるため,微細診断を困難にすることが多い.この微細構造は原理的に認識可能な範囲にある.CCDはまだ揺藍期にあり,しかもその改良は日進月歩である.近い将来,画素の高集積性と画像処理の技術がリアルタイムの微細診断を可能にするであろう.更にコンピューターのICとして活躍してきた同じシリコンチップが,今度はイメージ・センサーとして実用化されたものの1つ電子スコープが,その物理学的特性によってファイバー内視鏡と置き換わる可能性を筆者は確信している.

電子スコープの現状と将来―画像処理の観点から

著者: 山口肇 ,   小黒八七郎 ,   吉田茂昭 ,   大山永昭 ,   辻内順平

ページ範囲:P.45 - P.50

要旨 電子スコープによる画像は,図形歪がなく,デジタル信号として取り扱える特性を利用して,画像処理を試みた.すなわち“画像の強調”では色の強調,構造(凹凸,立体)の強調をすることにより,実際の症例において,病変の存在診断と質的診断を行ううえで非常に有用であることを示した.また,“画像の計測”においては画像から得られたデジタル信号を数量的に扱うことによって,色の計測,すなわちR,G,Bに分けた数値で表示することにより,異常粘膜と正常粘膜が定量性をもって区別できた.構造(凹凸)の計測においてはステレオ撮影によって得られた像を立体計測および表示ができることを固定標本を用いて,その可能性を示した.このようなコンピューターを利用した画像処理の将来性をも展望した.

電子スコープ画像のファイリングと電送システム

著者: 桑山肇

ページ範囲:P.51 - P.56

要旨 マイクロコンピューターと光ディスク併用による電子スコープデータのファイリングシステムの実際について述べると共に電話回線を応用した画像転送についても紹介した.われわれの行っているファイリングシステムは磁気カードを使用することによって,従来のキーボードからのデータ入力を簡略化し,使用を容易にしてある点に特徴がある.また,電話回線による内視鏡画像の転送は画質に改良すべき点があるもののコスト的にも安価であり臨床応用が大いに期待できる方法であると考えられた.

座談会

電子スコープの現況と展望

著者: 木村健 ,   丸山雅一 ,   佐藤信紘 ,   山口勝通 ,   芳野純治 ,   川井啓市 ,   岡崎幸紀

ページ範囲:P.58 - P.71

 川井(司会) 電子スコープが最初に世の中に出たのは1983年ですが,これはニューヨークで開かれましたDigestive Disease Weekのときに発表されたものだと思います.それから日本で開発・発表されたのが1985年になってからです.しかしCCDというチップを使って内視鏡に応用できるという可能性が指摘されたのは,1980年前から既にあったようです.

 この開発の歴史をみますと,ファイバースコープの開発の歴史に非常に似てます.ファイバースコープが開発されたのは1957年だったと思いますが,アメリカのHirschowitzと一緒に物理学者であるカパニーが,ワシントンの第1回世界内視鏡学会のとき出品されたと聞いています.

研究

胃の肝様腺癌―疾患単位の提唱とその臨床病理学的特性

著者: 石倉浩 ,   水野一也 ,   社本幹博 ,   桐本孝次 ,   塚田裕 ,   伊藤哲夫 ,   横山欽一 ,   宮本祐一 ,   山際裕史 ,   小笠原和宏 ,   深沢雄一郎 ,   名取孝 ,   相沢幹

ページ範囲:P.75 - P.83

要旨 原発性胃癌で血清AFPの高値を伴う症例のうち,組織学的に肝細胞に類似する腫瘍細胞を含む症例9例を検討した.腫瘍細胞の産生するAFPのConA結合性やAFP以外の種々の肝細胞マーカーの検索から,腫瘍細胞は単に組織学的類似性にとどまらず,機能的にも肝細胞への分化を呈することが示された.われわれはこのような原発性胃癌を胃の肝様腺癌hepatoid adenocarcinoma of the stomachと呼ぶことを提唱し,併せて臨床病理学的特性を解析した.それによれば,本腫瘍は腸上皮型の高分化腺癌と密な関係を有する,予後不良な腫瘍である.

症例

直腸のⅡa型早期癌の1例

著者: 阿部荘一 ,   白形彰宏 ,   吉田邦夫 ,   卜部健 ,   中川高志 ,   ニツ木浩一 ,   石井勝 ,   関根毅 ,   須田雍夫 ,   田久保海誉 ,   高山昇二郎

ページ範囲:P.85 - P.89

要旨 症例は77歳の女性.25年前,子宮頸癌にて放射線治療を受けている.主訴は下痢.大腸内視鏡検査で肛門縁より15cmの部位に発赤した扁平隆起性病変を認め,生検で癌が証明された.その後に行った注腸検査でも,直腸S状部に9mm大の扁平な病変を認めた.新鮮切除標本上では,8×5×0.2mmの,高さの極めて低い発赤した病変であった.完全連続切片の組織学的検討では,深達度mの高分化腺癌で,腺腫性腺管は認められなかった.そこでこのⅡa型早期癌は,denovo発生と考えられた.また本例は,良い注腸検査をすれば,このような規模の小さな癌でも拾い上げ可能なことを示唆したものと思われた.

術前診断ができた胃glomus腫瘍の1例

著者: 佐藤治 ,   石崎敬 ,   後藤昌司 ,   石川洋子 ,   小岡文志 ,   鈴木昇 ,   小野満 ,   村田栄治

ページ範囲:P.91 - P.97

要旨 患者は33歳,女性.現病歴は1984年1月ごろから部位不定の不快感を覚えるようになり,某院受診し胃X線検査にて前庭部の変形を指摘され,2月20日当科紹介となる.胃X線および内視鏡検査にて前庭部大彎側に,表面中央にびらん形成のある半球状隆起病巣を認めた.病巣の高周波切開,hot biopsyによる生検組織検査施行.大小種々の拡張した血管周囲に,明胞体を有する円形の腫瘍細胞が好銀線維に数個ずつ取り囲まれるように配列しておりglomus腫瘍と診断した.われわれの検索しえた範囲では,本症例は本邦で41例目に当たり,術前に性状診断ができたのは本邦最初の症例と思われる.患者の希望にて胃切除術施行,病巣は前庭部大彎にあり,大きさ27×24×10mm,粘膜下層から筋層にかけて存在していた.電顕所見では細胞間にdesmosomはなく基底膜で隔てられ,明るい細胞質にはmitochondriaが多数存在し,核周囲にはmyofilamentがあり,その中にdence bodyを認めた.

Behçet病患者に認められた腸管の炎症性病変

著者: 林繁和 ,   江崎正則 ,   礒田憲夫 ,   小島洋二 ,   山田昌弘 ,   佐竹立成

ページ範囲:P.98 - P.104

要旨 患者は29歳,男性.右下腹部痛と粘血便を主訴として入院,現症で顔面躯幹の毛囊炎様皮疹,下口唇のアフタ性潰瘍,陰囊部有痛性潰瘍,両膝関節痛,左第4指膿皮症を認めた.臨床検査所見ではWBC14,900/mm3,血沈1時間値100mm,CRP6(+)以外に著変なく,ツ反,血清アメーバ抗体は陰性であった.X線所見では直腸に辺縁不整,全体に凹凸があり,横行結腸中央部に2個のニッシェが,そして,横行結腸口側1/3から盲腸までは直腸と同様の変化がみられた.内視鏡検査でもX線所見と一致した部位に潰瘍性病変を認め,下掘れの強い潰瘍やmucosal bridgeも認めた.病変部の生検組織には陰窩膿瘍や肉芽腫を認めなかった.salazopyrinの内服で臨床症状は改善し,X線・内視鏡所見でも潰瘍は消失し,炎症性ポリープの出現をみた.本例は不全型のBehçet病を有し,腸病変は潰瘍性大腸炎やCrohn病とは一致せず,Behçet病患者に認められた本邦ではまれな型の腸管の炎症性病変と考えられた.

今月の症例

Ⅲ型早期胃癌―微小sm癌

著者: 清水宏 ,   加来幸生

ページ範囲:P.8 - P.10

〔症例〕56歳男性.体上部の接吻潰瘍に対して経過観察を行っていた症例である.体上部前壁の潰瘍から2回目の生検で癌が証明された.また,この潰瘍病変とは別に体中部前壁小彎寄りにⅡcが発見されている.ところが体上部前壁の病変に対する入院後のX線・内視鏡検査では悪性所見が乏しく,しかも同病変に対してその後3回の生検を行ったがいずれも癌は陰性であった.

病理学講座 消化器疾患の切除標本―取り扱い方から組織診断まで(1)

この講座を始めるに当たって

著者: 望月孝規

ページ範囲:P.107 - P.109

 毎月第3水曜日18時から,東京のエーザイ本社の大ホールで開かれる早期胃癌研究会では,日本全国の医師から寄せられた消化管疾患が6例発表される.それら症例の検査成績,すなわち,臨床経過,X線と内視鏡検査,生検組織学的所見,手術的切除臓器の肉眼的および組織学的所見のスライドが拡大投射され,各々の検査の詳しい所見について自由かつ忌憚のない討論が行われている.当初は早期胃癌やその他の胃の症例が大多数であったが,次第に食道,腸など他の消化管部位の症例が加わるようになった.発表された症例の中で,各検査成績が完備している重要あるいは興味ある症例について,「胃と腸」編集委員会で再検討したうえ,「胃と腸」への執筆をお願いしている.

 村上忠重先生を中心として,胃癌を早期に診断するために,新進気鋭な医師たちが症例を持って集まった小さな会合から,この早期胃癌研究会が発展した.当時のわが国の病理学専攻医師には,胃粘膜固有層の中に増殖している癌細胞の知識と経験が乏しかったゆえに,これらの医師たちが非常に努力して診断し,苦労して切除してもらった症例について必ずしも適切な組織学的診断が下されなかった.この会合に提示されたそのような症例を癌か否かを確定せよという要請が村上先生をはじめとして,われわれ病理医師に求められ,その正しい診断について努力すると共に,多くの貴重な症例の検査成績を勉強させていただいた.次第に病理組織学的診断のみにとどまらず,X線,内視鏡,切除臓器における病変の肉眼的および組織学的所見の対比同定が厳密に行われるようになり,診断学の進歩に寄与するようになった.その対比同定の作業の間に,臨床的検査の技術と判断が進歩し全体的な水準が高まるのに比べて,切除臓器の肉眼的および組織学的標本の作製法や取り扱い方法が,同じ水準にないことがわかってきた.例えば,せっかくの貴重な検査所見の裏づけが不足しているというような症例も生じてくる.この講座の目的は,できうる限り同じ水準での仕事をしていただき,臨床的診断との正確な対比同定にとどまらず,病理学的な立場から病変の成り立ち方や本態について探究するためである.

初心者講座 大腸検査法・序

本講座を始めるに当たって

著者: 武藤徹一郎

ページ範囲:P.110 - P.111

 1年間の連続講座として,本号から大腸検査法が取り上げられることになった.胃検査法の場合と同様に,主として初心者を対象にした企画であり,実地に役立つよう実際的な立場から各検査の要点,コツを要領よくまとめてもちうように配慮したつもりである.1回ごとに日常診療に役立つ検査のコツが理解されるに違いない.

 ところで,最近の大腸疾患の増加ぶりは著しいものがある.その中でも注目されているのは大腸癌の増加であり,厚生省の死亡統計によれば過去30年間に約3倍も増加している.ということは,実際の大腸癌罹患率の増加はそれ以上であることを意味している.統計には表れてこないが,大腸癌増加の背景にはポリープ(腺腫)の著しい増加があるはずであり,そのほかに様々な炎症性疾患,憩室症などの増加もあることは間違いない.更に単純性潰瘍,孤立性直腸潰瘍,angiodysplasiaなど,従来は臨床的にほとんど問題にされることのなかった疾患が,決してまれならず存在することもわかってきた.要するに大腸に発生する疾患は多種多様であり,癌の診断がその大部分を占める食道・胃とは異なって,その対象となる疾患が著しく幅広いことを,まず第1に認識しておく必要があると思われる.

大腸検査法・1

肛門・直腸病変の診方

著者: 武藤徹一郎

ページ範囲:P.112 - P.114

 1.肛門・直腸病変の診察を行う前に

 肛門・直腸は人体の中では特殊な場所である.正直なところ診察を受ける方にも診察する方にも,肛門・直腸の診察は決して好まれてはいない.肛門・直腸診察に際してはまずこの点をよく配慮しておかなければならない.診察の必要なことをよく患者に説明することも他の検査と同様に,いやそれ以上に大切である.

 もう1つ大切なことは,肛門・直腸の解剖ならびにその各部位に発生しうる疾患をよく理解しておくことである(Fig. 1).診察前の詳しい問診によって,疑わしい疾患名・鑑別疾患名と,それに応じて特に注意深く観察すべき部位が診察時に頭の中に整理されて浮かんでいなければならない.Fig. 1に示すように,肛門・直腸部は,肛門周囲皮膚,肛門管,直腸に分けられる.肛門周囲皮膚・直腸には通常の皮膚・直腸に発生するのと同じ種類の疾患が発生する.一方,肛門管は,この部位のみに特有な構造を有しており,それに伴う特殊な疾患が発生する.肛門管とは肛門縁から恥骨直腸筋上縁(肛門を閉じさせるときに筋肉収縮を感じる部位)を指し,上部の直腸粘膜と下部の皮膚付属器を欠く扁平上皮粘膜の間に1~5mmの幅を有する移行上皮部が存在する.この部位に歯状線があり,肛門腺が開口している.肛門管の上部からは直腸疾患と同じ疾患が,下部からは皮膚疾患と同じ疾患が発生する.両者の境界部の移行上皮部からは類基底細胞癌,肛門腺由来の癌,痔瘻に合併した癌など,この部に特有な癌が発生する.

学会印象記

International Symposium on Recent Topics of Digestive Endoscopy Ube-Kyoto, July 10-12, 1986

著者: 市岡四象

ページ範囲:P.73 - P.74

 “全日空693便,7時50分発で山口宇部に御出発の皆様にお知らせいたします,現在宇部空港周辺は雨が降っており,目下天候調査中ですが,もし同空港が天候不良の場合は,福岡空港か,大阪国際空港に着陸する予定です.あらかじめ御了承下さい.”東京国際空港(羽田)で,搭乗手続きを済ませ,バス出発ラウンジで待っていると,このようなアナウンスがあった.

 最近9年間の日記帳を取り出してみると,7月10日の天候は晴4日,曇4日,雨1日で,天候の良い確率が高いが,梅雨明けの前の西日本は局地的集中豪雨に見舞われることが多く,もし飛行機が飛ばない場合は新幹線で……と二段構えにして,時間的に余裕がある第1便を選んだわけである.

第32回日本消化器内視鏡学会総会

著者: 丸山正隆

ページ範囲:P.105 - P.106

 国立がんセンター内科,小黒八七郎先生の会長のもとに10月13日から15日の3日間にわたって,東京の日本都市センターを中心に開催された,小黒先生は直後に国際レーザー医学会の会長も控えて,大変御多忙な時期であられたはずであるが,5つのビルに分散した8会場にもわたるプログラムを,何らの滞りもなく終えられた手際はさすがと感服せざるを得なかった.今回は特別講演2題,教育講演4題,3つのシンポジウム,3つのワークショップ,各1つずつのパネルディスカッションとイブニングカンファレンス,3つの実技ワークショップ,ジェネラルセッション28題,ポスターセッション32題,一般講演335題と盛り沢山で(特別発言を含む総演題数524),これだけみてもこの学会にかけた小黒会長の並々ならぬ意気込みが理解できる.これに応えるごとく,各会場では連日熱気溢れる討論が行われていた.どのセクション,どの演題を取り上げても,興味尽きないものが感じられたが,シンポジウム,ワークショップ,パネルディスカッションは多くの方々が聴いていると思われるので,今回はなるべく一般演題の会場を駆け巡ってみた.しかし,どう頑張ってみても体は1つで,回れる会場は限られてしまい,偏ったものになってしまうが,私の印象を述べてみたい.

 第1日目の一般講演は下部消化管出血,大腸炎症性疾患およびアミロイドーシス,大腸隆起性病変および大腸癌の下部消化管に関するセクションのほか,内視鏡の新しい分野である超音波内視鏡と電子内視鏡に関するセクションがあった.

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欧文目次

ページ範囲:P.7 - P.7

書評「炎症性大腸疾患のスペクトル」

著者: 大柴三郎

ページ範囲:P.72 - P.72

 日常診療の場で便通異常,特に下痢,糞便中への血液の混入,血便を主訴とする患者は多い.これらの疾患では初診時の病歴,殊に発症時の状況を詳しく聴取することは極めて重要で,ある程度診断の疾患群を絞れる.また,直腸指診による所見,便の性常,潜血反応,細菌学的検索,可能な限り早期のsigmoidscopy,生検,更に注腸X線検査,必要に応じた小腸造影など,一連の診療によって確定診断に至ることが多いが,診断を確定できない場合も決して少なくない.それぞれの疾患に特徴的な典型的病歴および検査成績,殊に内視鏡所見,X線所見,生検組織所見が得られれば診断は容易であるが,それらの所見がそれぞれのパターンを逸脱している場合,診断は難しい.実際,UC,Crohn病,結核などでも数%は鑑別困難症例がある.内視鏡検査で直腸,S状結腸などに発赤,びらん,出血,アフタ様潰瘍,不整形潰瘍などをみる場合,単位疾患と考えるべきか,所見群としておくべきか困感することが多い.この病変が急性の一過性病変か,慢性に経過するのか,また慢性疾患の初期像なのか,決定しかねることがある.疾患にはそれぞれ特異的パターンがあると同時に,時相による多くのspectrumがあることを十分知らなくてはならない.

 著者は自序で述べているように,1970年,ロンドン・St. Mark病院へ留学し,病理学者Morsonについて,日本では少ない疾患とされていたIBDの病理を多数経験している.現在,東大第1外科教室の助教授として,また,早期胃癌研究会や「胃と腸」の編集などで活躍している.今や,消化器領域においては,特にIBDの病理,内視鏡の権威として脂の乗り切った壮年医師である.

書評「X線診断へのアプローチ5 腹部実質臓器―肝胆膵腎副腎他」

著者: 打田日出夫

ページ範囲:P.84 - P.84

 好評を得ているX線診断へのアプローチシリーズ第5巻「腹部実質臓器一肝胆膵腎副腎他」が,腹部血管撮影の大御所であられる平松京一先生と腹部単純X線とCT診断の大家である平松慶博先生ご兄弟の共著により上梓されたことは誠にうれしいことである.本シリーズは画像診断のプロセスにおける単純X線写真の役割と重要性を理解させながら,確定診断に到達するまでのステップと思考過程のトレーニングを目的としたものである.

 本書もこの方針を貫いて腹部単純X線診断のポイントと最終診断への過程が実例から解説されており,腹部単純像からどの程度の情報が得られ,これを正しく読影することが確定診断と次の診断法の選択にいかに大切であるかを教示している.超音波,CT,血管造影などの各種のmodalityが発達・普及した今日,腹部単純X線写真は診断的価値が低くなったように錯覚され軽視されるきらいがするが,これは非常に誤った危険な考え方であり,腹単が確定診断や診断の手掛かりとして重大な役割を持つ場合があることを銘記しておくべきである.腹単は胸部や骨に比べれば診断的置位づけが低いことがあるにしても,これを疎かにすることにより確定診断を遅らせたり誤った方向へ進んだりすることも少なくない.腹単は他の画像では得ることができない情報を提供し,1枚の写真で確定診断に結びつくこともあるし,診断を進めるうえでの指標として役立つことも多い.もちろん,疾患の種類と拡がりにより腹単の役割は異なり,各臓器内に限局する小病変の診断には無力であるが,異常ガスや石灰化像の発見,肝・腎・腰筋などの辺縁や側腹線などの異常を腹単からチェックすることは種々の疾患を診断するうえに非常に大切である.何といっても1枚の単純X線写真で腹部全域の骨格,軽部陰影,ガス像,石灰化像などを同時に捉えることができる強みがあり,これらの異常を相互に関連させながら診断を進めることができる絶妙さがある.更に超音波やCTで得られた情報を腹部単純X線診断にフィードバックさせることにより,腹部単純写真の論理的読影による深さと妙味が倍加して一層理解しやすくなる.たとえば,flank stripe,hepatic angle,腎や腰筋辺縁などの明確な同定と,これらの不鮮明性の病態が従来よりも論理的に具象化されて理解できる.

書評「大腸肛門疾患の診療指針」

著者: 吉田豊

ページ範囲:P.90 - P.90

 本書の編・著者である武藤徹一郎助教授とは欧米の腸疾患研究施設への訪問団で三たび長期間旅行を共にした.したがって同助教授の大腸肛門疾患にかける情熱と学識の深さについては誰よりもよく知っているつもりでいる.先生の豊富な学識経験をもとにした解説書が欲しいものだとかねがね思っていた次第である.

 本書を一読して,さすがに武藤助教授の著書だとまず思った.一言では言い表しにくいが,スマートであり,非常によく整理された本であるということである.内容も重厚であるが,それを要領よくわかりやすく纏めてあるところが,さすがなのである.大腸肛門病を学ぼうとする若手研究者,臨床家には,まず本書を勧めたい.

編集後記

著者: 福地創太郎

ページ範囲:P.116 - P.116

 かつてファイバースコープが米国のHirschowitzによって開発された当初,それまで胃内視鏡のメッカとして君臨した,ドイツの誇り高き胃鏡専門家たちはファイバースコープの将来性を見通す目を持っていなかった.胃鏡に代わる新しい内視鏡として,先見性を以て,その開発に取り組んだわが国が,その後の消化器内視鏡診断学の発達の指導的立場に立ったことは記憶に新しい.電子スコープの誕生は,またしてもその最初の成功は1983年米国のWelch-Allyn社によってもたらされたが,これに注目したわが国のその後の開発のテンポは目覚ましい.いささか鳴り物入りで,はしゃぎ過ぎのきらいはないではないが,これがファイバースコープに代わる,新しい世代の内視鏡として発達する可能性は大きく,展望は開けている.

 電子スコープの特性は高解像力,高画質の優れた画像と共に,光信号を電気信号に変換しアナログ画像をデジタル化しうることにある.

基本情報

胃と腸

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1219

印刷版ISSN 0536-2180

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