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病理学講座 消化器疾患の切除標本―取り扱い方から組織診断まで(1)
この講座を始めるに当たって
著者: 望月孝規
所属機関:
ページ範囲:P.107 - P.109
文献購入ページに移動 毎月第3水曜日18時から,東京のエーザイ本社の大ホールで開かれる早期胃癌研究会では,日本全国の医師から寄せられた消化管疾患が6例発表される.それら症例の検査成績,すなわち,臨床経過,X線と内視鏡検査,生検組織学的所見,手術的切除臓器の肉眼的および組織学的所見のスライドが拡大投射され,各々の検査の詳しい所見について自由かつ忌憚のない討論が行われている.当初は早期胃癌やその他の胃の症例が大多数であったが,次第に食道,腸など他の消化管部位の症例が加わるようになった.発表された症例の中で,各検査成績が完備している重要あるいは興味ある症例について,「胃と腸」編集委員会で再検討したうえ,「胃と腸」への執筆をお願いしている.
村上忠重先生を中心として,胃癌を早期に診断するために,新進気鋭な医師たちが症例を持って集まった小さな会合から,この早期胃癌研究会が発展した.当時のわが国の病理学専攻医師には,胃粘膜固有層の中に増殖している癌細胞の知識と経験が乏しかったゆえに,これらの医師たちが非常に努力して診断し,苦労して切除してもらった症例について必ずしも適切な組織学的診断が下されなかった.この会合に提示されたそのような症例を癌か否かを確定せよという要請が村上先生をはじめとして,われわれ病理医師に求められ,その正しい診断について努力すると共に,多くの貴重な症例の検査成績を勉強させていただいた.次第に病理組織学的診断のみにとどまらず,X線,内視鏡,切除臓器における病変の肉眼的および組織学的所見の対比同定が厳密に行われるようになり,診断学の進歩に寄与するようになった.その対比同定の作業の間に,臨床的検査の技術と判断が進歩し全体的な水準が高まるのに比べて,切除臓器の肉眼的および組織学的標本の作製法や取り扱い方法が,同じ水準にないことがわかってきた.例えば,せっかくの貴重な検査所見の裏づけが不足しているというような症例も生じてくる.この講座の目的は,できうる限り同じ水準での仕事をしていただき,臨床的診断との正確な対比同定にとどまらず,病理学的な立場から病変の成り立ち方や本態について探究するためである.
村上忠重先生を中心として,胃癌を早期に診断するために,新進気鋭な医師たちが症例を持って集まった小さな会合から,この早期胃癌研究会が発展した.当時のわが国の病理学専攻医師には,胃粘膜固有層の中に増殖している癌細胞の知識と経験が乏しかったゆえに,これらの医師たちが非常に努力して診断し,苦労して切除してもらった症例について必ずしも適切な組織学的診断が下されなかった.この会合に提示されたそのような症例を癌か否かを確定せよという要請が村上先生をはじめとして,われわれ病理医師に求められ,その正しい診断について努力すると共に,多くの貴重な症例の検査成績を勉強させていただいた.次第に病理組織学的診断のみにとどまらず,X線,内視鏡,切除臓器における病変の肉眼的および組織学的所見の対比同定が厳密に行われるようになり,診断学の進歩に寄与するようになった.その対比同定の作業の間に,臨床的検査の技術と判断が進歩し全体的な水準が高まるのに比べて,切除臓器の肉眼的および組織学的標本の作製法や取り扱い方法が,同じ水準にないことがわかってきた.例えば,せっかくの貴重な検査所見の裏づけが不足しているというような症例も生じてくる.この講座の目的は,できうる限り同じ水準での仕事をしていただき,臨床的診断との正確な対比同定にとどまらず,病理学的な立場から病変の成り立ち方や本態について探究するためである.
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