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雑誌目次

雑誌文献

胃と腸22巻2号

1987年02月発行

雑誌目次

今月の主題 陥凹型早期胃癌の深達度診断 序説

陥凹型早期胃癌の深達度診断―研究の足どりを振り返って

著者: 多賀須幸男

ページ範囲:P.127 - P.128

 癌浸潤が粘膜下層以内にとどまるものを早期の胃癌と呼ぶと定義されたことにより,癌の深達度は胃癌の臨床にとって最も肝要なことになった.この定義を決める中心的な役割を果たされた村上忠重先生の慧眼には驚くほかないが,それを決めるに当たっては,佐伯重治先生(元東京女子医科大学教授,外科学)の論文を引用したと回想しておられる(早期胃癌の10年,胃と腸 7: 434-437, 1972).この佐伯先生の論文とは,「胃癌ノ悪性度ニ就テ,特ニ其組織学的所見ト遠隔成績トノ関係ニ就テ」(東京医学会雑誌 52: 191-230, 1938)である.既に古典と称してもよいこの重要な論文は,あまり知られていないが,今日の目でみても興味深いものであり,内容を紹介してみよう.

 この論文は,大正11年から昭和6年までに東大塩田外科で胃癌根治手術を受けて治癒退院した237症例中202例の5年生存率を,細胞分化度,癌細胞の形態など20の組織学的特徴と対比して検討したもので,以下のように結論している.“上記諸特徴中遠隔成績ニ対シテ最密接ナル関係ヲ有スルハ深部発育ニシテ,全症例ヲ癌発育ガ粘膜下組織ニ止マリシモノ,筋層ヲ侵犯セルモノ,漿膜ニ達セシモノニ分類スル時ハ,夫々91%-36%-4%ノ永久治癒ヲ示セリ.即チ深部発育ノ状況ハ單独ニテ予後ヲ支配スルコトヲ証明セリ.一般ニ行ハルル分類ニヨル癌諸種ノ悪性度ヲ攻究シテ,予後判定上此ノ分類法ノ価値少キコトヲ認メタリ.”ちなみに粘膜下組織までにとどまったものは,202例中23例(11.4%)あり,上述のようにその5年生存率は91%であった.

主題

臨床病理学的にみた陥凹型胃癌の粘膜下組織浸潤

著者: 斎藤洋子 ,   石堂達也 ,   中村恭一

ページ範囲:P.129 - P.134

要旨 癌の状態像のうち,術前のX線・内視鏡検査により客観的に把握しうる4つの要素{存在部位,大きさ,肉眼型,組織型}から,sm浸潤の確率的推定について検討した.各要素をそれぞれ存在部位{F線外部領域,F線内部領域},肉眼型{陥凹型,隆起型},組織型{未分化型癌,分化型癌}とに分類した(胃癌の三角).更に,8通りの胃癌の三角に癌の大きさ{~2cm,2.1cm~}を組み合わせて個々の胃癌の三角のsm浸潤率をみることによって,次のような結論が得られた.すなわち,(1)F線内部領域における陥凹性病変は未分化型癌で,癌の大きさとは無関係に70%以上はsm浸潤がある,(2)F線内部領域における陥凹性病変では常にLinitis Plastica型癌を念頭に置くべきである,(3)F線外部領域の陥凹型を示す癌のsm浸潤率は癌組織型よりも癌の大きさと相関していて,大きさ2cm以下ではsm浸潤30~40%,2.1cm以上では70~80%である.

陥凹性早期胃癌と消化性病変の病理

著者: 望月孝規

ページ範囲:P.135 - P.141

 胃の消化性潰瘍と胃癌の関係については,相対する2つの考え方が常に存在する.具体的に述べると,今ここに,胃癌の初期像である早期胃癌があり,その中に潰瘍があるか,あるいはそれが線維性硬化のある胃壁の中にあるとしよう.約束に従って,Ⅲ,Ⅲ+Ⅱc,Ⅱc+Ul,Ⅱc+Ulsなどと肉眼的に分類され,次に組織学的に癌の性状,拡がり,深達度,更には胃壁の線維性硬化の拡がりと程度などについて調べられ,記載され,診断が下されよう.しかし,ここで終わってしまわずに,更に,このような病変がどのようにして成立したかと考える者には,既に存在していた消化性潰瘍を基盤としてこの癌が発生したのか,あるいは癌の発生・進展の問に消化性病変が生じたのかという2つの考えが生じるに違いない.また少し考え込む者は,消化性潰瘍と癌腫とは,物質欠存とその修復および増殖・進展というおのおの独立した異なった病変であり,いまの像はこれらが相互に作用して出来上がった形態に違いなく,こういう経過の1つの断面を観察するときには,どんな手掛かりによってこの2つの病変を解析してよいか,難しいとか,わからないと思うに違いない.この相互間係について,われわれの先人は,現在に比べると不完全な資料を解析し,おのおのの立場を明らかにしてきた.まず,その歴史を簡単に述べ,次いで早期胃癌症例の経過観察と形態学的検索によって,この相互関係についての考え方が変化し発展してきた次第を述べる.

陥凹型早期胃癌の内視鏡的深達度診断―X線検査との対比を含めて

著者: 早川和雄 ,   橋本光代 ,   吉田行哉 ,   星原芳雄 ,   山田直行 ,   伊藤喜一 ,   福地創太郎 ,   惣名司 ,   七海暁男 ,   海上雅光

ページ範囲:P.143 - P.160

要旨 陥凹型早期胃癌311病変,および陥凹型進行癌478病変について,術前のX線および内視鏡診断と病理組織学的診断を対比すると共に,X線および内視鏡フィルムの見直しを行い,胃癌の深達度診断の可能性と限界を追求した.また,内視鏡による深達度誤診例を病理組織学的に検索し,深達度診断に関与する諸因子につき検討した.陥凹型全胃癌に対する内視鏡の深達度誤診率は8.1%,X線の誤診率は8.7%で,著明な差はなく,早期癌と進行癌に分けても,両者に著明な差はなかった.内視鏡フィルムの見直しにより,全早期癌の約92%を,全進行癌の約96%を正診しうる可能性が推定された.内視鏡で進行癌を早期癌と誤診した病変の約25%は,X線検査が進行癌と正診し,内視鏡の誤診をカバーしうる可能性を示唆した.しかし,逆に内視鏡で正診し,X線が深達度を誤る例もあった.内視鏡で早期癌を進行癌と誤診した原因の85%は,潰瘍化に伴う強い線維化と,sm深層まで強く浸潤した癌によるものであった.他方,進行癌を早期癌と誤診した主な原因は,sm,pmに少量の癌細胞が散在性に浸潤することにあった.

陥凹型早期胃癌の深達度診断―超音波内視鏡の適応

著者: 相部剛 ,   野口隆義 ,   大谷達夫 ,   中田和孝 ,   藤村寛 ,   伊藤忠彦 ,   富士匡 ,   河村奨 ,   岡崎幸紀 ,   竹本忠良

ページ範囲:P.161 - P.167

要旨 早期胃癌の深達度診断を,X線,内視鏡,超音波内視鏡(EUS)とで比較検討した.32症例の早期癌において,正診率はX線で62%,内視鏡で63%,EUSで69%であった.32症例中16例が陥凹型早期癌で,この型における正診率は,X線,内視鏡ともに53%,EUSでは71%であった.陥凹型早期癌におけるEUSの誤診の唯一の理由は,超音波画像上で粘膜下層を中断させた,併存潰瘍による線維化に起因した.retrospectiveにみると,エコー上での中断した粘膜下層先端の形を検討することにより,線維化の存在はEUSで診断可能であることが明らかとされた.すなわち,中断した粘膜下層の先端における,粘膜側への“引きつけ”,“先細り”“凸状”などの形は,線維化を伴った症例に特徴的であった.更に,エコー上での筋層は,粘膜下層に線維化を持つ例では変化なく,筋層にまで到達した線維化例では,筋層の低エコー腫脹,粘膜側への引き上げなどの変化がみられた.線維化合併例におけるm癌とsm癌とのエコー上での鑑別は,腫瘍を疑わせるmass lesionが病変部の辺縁にみられるかどうかにあると思われた.

陥凹型早期胃癌の深達度診断―X線診断と超音波内視鏡との対比

著者: 芳野純治 ,   中澤三郎 ,   中村常哉 ,   山中敏広 ,   長谷智 ,   小島洋二

ページ範囲:P.169 - P.177

要旨 陥凹型早期胃癌および陥凹型早期胃癌類似進行癌に対してX線検査および超音波内視鏡検査(EUS)を行い,両者の深達度診断を検討した.66例に対して行ったX線検査の診断能はm癌73.0%,sm癌64.7%,進行癌75%,全体で71.2%であった.一方,EUSでは胃癌の超音波像をtypeⅠ・Ⅱ・Ⅲ・A・Bの5型に分類し,更にtypeⅡをtypeⅡ-1,Ⅱ-2,Ⅱ-3の3型に亜分類した.typeⅠ,typeⅡ-1,typeⅡ-2はm癌,typeⅡ-3,typeⅢはsm癌,typeA,Bは進行癌と判定し,41例に対して行ったEUSの診断能はm癌83.3%,sm癌71.4%,進行癌100%,全体で82.9%であった.また,従来X線検査により深達度がsm以下とされた例で,EUSによりsmとpm以下との鑑別ができる例がみられた.両者とも微小浸潤は診断困難であった.

陥凹型早期胃癌の深達度診断―粘膜ひだ集中を持つⅡcのX線診断

著者: 五十嵐勤 ,   小原勝敏 ,   鈴木秀 ,   三橋彦也 ,   岩崎勝利 ,   藤原和雄

ページ範囲:P.179 - P.184

要旨 胃のⅡc病変では,粘膜ひだ集中を持つか持たないかで深達度診断が大きく左右される.持つⅡcのほうがより難しい.更に,その面倒な粘膜ひだ集中を持つⅡcは,胃壁硬化の程度により深達度診断に難易差がある.筆者らは,胃壁硬化の程度から粘膜ひだ集中を持つⅡcを4型に分けて検討してきた.その4型別の深達度診断は,①病変全体の胃壁硬化例は,深達度診断が不能,②部分的胃壁硬化例では,その範囲が広いとsmかpm,③瘢痕局所の限局性胃壁硬化例はmかsm,ただしsmであっても少量浸潤のsm,④病変内にmass形成がある例では,粘膜下層にmassを作っているのでmのことはなく,その深達度はsmかpm,という成績であった.

陥凹型早期胃癌の深達度診断―部位によるX線診断の問題点

著者: 細井董三 ,   西澤護 ,   野本一夫 ,   岡田利邦 ,   山田耕三 ,   牧野哲也 ,   志賀俊明 ,   古澤英紀 ,   泉正治 ,   渕上正弘 ,   尾辻真人 ,   前田一郎

ページ範囲:P.185 - P.197

要旨 X線による陥凹型胃癌の深達度診断の現状を分析し,その問題点と対策について,部位別,粘膜領域別に検討した.深達度診断の的中率はm癌では63.2%,sm癌では49.2%,早期癌類似進行癌では79.9%であった.m癌では前壁の病変,胃底腺粘膜領域の病変,未分化型癌,Ulを合併した病変は陥凹の境界が鮮明で,陥凹底の凹凸が著明なものが多く,ひだの先端の変化も著明なため,sm癌または進行癌と誤診される傾向がみられた.sm癌では噴門部と幽門部は解剖学的,X線学的に特殊な部位であり,従来の診断法が当てはめにくいため,的中率は特に悪く,前者では組織所見よりも浅く,後者では深く読み過ぎる傾向がみられた.しかし,sm癌全体についてみると,進行癌と診断された例は少なく,sm癌の約半数はm癌と誤診されていた.このことは,従来の診断法には,m癌とsm癌の鑑別に問題が残されていることを物語るものであり,今後,sm浸潤に対する,より精度の高い指標の開発と同時に,従来の診断指標をより有効に活用するための対策の検討が必要である.

座談会

陥凹型早期胃癌の深達度診断

著者: 浅木茂 ,   西俣寛人 ,   浜田勉 ,   斉藤建 ,   武藤徹一郎 ,   山中桓夫 ,   八尾恒良 ,   望月孝規

ページ範囲:P.198 - P.210

 望月(司会) 本日の主題は“陥凹型早期胃癌の深達度診断”ですが,深達度いかんによっては早期胃癌ではなくなってしまうわけで,あまり早期胃癌ということにこだわらずにお話しいただいたほうがいいような気がします.いつも言うことですが,病理は例えば戦争でも一番後ろからくっついて行く役割ですから,臨床の先生方からどうぞお話しください.

 八尾(司会) 陥凹型早期胃癌の深達度診断がテーマですが,実際に所見会に行くと,深達度はどうですかという話が必ず出るんですね.そうすると,mです,smですという話をしないとどうも具合が悪い.わかりませんというと軽蔑されそうな気がするのですが,深達度診断の根拠が科学的でないように私は感じています.そういうことも含めてご出席の先生方がどのようにお考えなのか,一言ずつお聞きしたいと思います.

症例

生検診断が困難であった胃の高分化型腺癌の1例

著者: 佐藤治 ,   鎌田満

ページ範囲:P.211 - P.218

要旨 患者は65歳,男性.体重減少を主訴とし某医院を訪れ,当院を紹介された.胃X線,内視鏡検査にて,体上部前壁になだらかな立ち上がりを示し,黄白色の白苔が点状に付着する隆起病変を認め,Borrmann 1型胃癌と診断した.しかし計3回の生検組織検査では,腺管の細胞,構造異型が乏しく,悪性と診断できなかった.臨床的に悪性を否定しきれないため,胃全摘術を施行した.切除胃肉眼所見では体上部前壁に大きさ4×3×0.5cmの全体に幾分発赤した病巣を認めた.病巣範囲は不明瞭であるが,発赤した範囲と考えられた.組織学的にも癌と診断するのに苦慮したが,腺管周囲の炎症性細胞浸潤が著明なこと,固有筋層まで浸潤していることより,高分化型腺癌(tub1,INF β,pm,ly0,v0,n(-))と診断した.本病巣は中間帯領域に存在していた.病巣周囲粘膜にはPAS-AB染色での定型的腸上皮化生が主体をなし,また,病巣内増生腺管にもPaneth顆粒を有する腸上皮化生を多数認めた.所々に幽門腺または粘液腺より成る粘膜下異所腺を認めた.この異所腺にも腸上皮化生が認められ,異所腺からの癌化も否定しえない問題と考えられた.

胃リンパ管腫の1例

著者: 三上泰徳 ,   羽田隆吉 ,   小澤正則 ,   杉山譲 ,   遠藤正章 ,   志田正一 ,   百田行雅 ,   仲地広美智 ,   福勢智 ,   朝倉靖夫 ,   林健一 ,   今充 ,   小野慶一 ,   馬場滝夫

ページ範囲:P.219 - P.224

要旨 患者は57歳,女性.胃集検にて異常を指摘され,当院内科で精検.胃ポリープ,胃粘膜下膿瘍の診断で定期的に検査を受けていた.しかし,患者が手術を希望したため当科転科となった.胃透視では胃角の開大,小彎側の隆起性病変を認めた.内視鏡検査では胃角前壁にポリープとその口側小彎に表面平滑な隆起性病変を認め,鉗子で圧迫すると著明に陥凹し胃囊腫が疑われた.超音波内視鏡検査,CTなどで多囊胞性の巨大粘膜下腫瘍と術前診断し,その中でも胃海綿状リンパ管腫が最も疑われた.手術は腫瘤を含めて胃全摘術を施行.腫瘤は粘膜下から漿膜下まで存在し,大きさは17×9cmで組織学的には海綿状リンパ管腫と診断され,悪性所見は認めなかった.

今月の症例

広範なリンパ管侵襲を来したⅡc型胃癌

著者: 清水宏 ,   馬場保昌

ページ範囲:P.124 - P.126

〔症例〕53歳,女性.主訴:上腹部不快感.

家族歴:父,兄,姉が胃癌,母が胆管癌,弟が肺癌.現病歴:1980年より近医で毎年胃X線検査を受けていたが,1984年まで特に異常所見は指摘されていない.1985年9月,同医で胃X線検査の結果,精密検査を勧められ,当院を受診した.

病理学講座 消化器疾患の切除標本―取り扱い方から組織診断まで(2)

新鮮切除標本の取り扱い方―リンパ節検索法を含む

著者: 高木国夫 ,   関誠

ページ範囲:P.225 - P.230

 消化器疾患の切除標本の取り扱いについては,食道,胃,大腸,肝,胆,膵など,それぞれの臓器の特異性があって,まとめて述べることは簡単でない.それぞれの臓器において,貴重な症例の手術によって得られた切除標本の処理が不適切であったために,詳細な組織検査が不確実となり,臨床で苦労して発見した症例の価値が半減してしまうことがある.最も重要なことは,切除された標本の組織切片が十分病理検査に耐えうるもので,臨床所見と組織所見との対比を十分行いうることである.

 消化器疾患のなかで癌に関しては,種々の臓器において取り扱い規約が作られて,それぞれの取り扱い方が記載され,胃については,切除標本の取り扱い方が報告されている.胃を中心に新鮮切除標本の取り扱い方と共に,リンパ節検索法についても述べる.

初心者講座 大腸検査法・2

肛門・直腸病変の診方(2)

著者: 岩垂純一

ページ範囲:P.231 - P.234

 肛門・直腸病変の診察を行う際に注意しなければならないのは,患者は,われわれが想像する以上に差恥心や,何か痛いことをされるのではないかといった恐怖心を抱いているということである.そして,差恥心や恐怖心を強く感じさせると,体に力が入ってしまい,肛門括約筋の緊張は強くなり,その結果として肛門・直腸部の十分な診察は不可能となってしまう.したがって肛門・直腸部の診察に際しては,患者に余計な差恥心,恐怖心を感じさせないような配慮がまずは必要となる,つまり,リラックスさせるため患者にはよく話しかけるようにし,職員間の私語はなるべく控え,診察,検査がいかに行われるかを十分に説明したうえで行ってゆくようにする.

 さて,肛門・直腸病変の診察は,問診を前もって行い,いかなる疾患かのおおよその見当をつけたうえで,①肛門周囲の視診,触診,②肛門・直腸内の指診,③肛門鏡診,④直腸鏡診の順で行われるが,以下,その各々について,いかに肛門・直腸病変を診るかを述べる.

Coffee Break

損は十分覚悟のうえで.その究極は?

著者: 青山大三

ページ範囲:P.224 - P.224

 これは実際にあったことで,Dr. Xから聞いた話である.

 61歳のナースQは大学病院でナースになり,結婚したが御主人が戦死.その後,付添婦として大学病院で働いていた.Qは肝っ玉かあさん風で体格は骨太で肥えていて戦時中でも同様で野菜好き少食であった.気質は建前と本音とがいつも同じ.ずばりと言う.

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欧文目次

ページ範囲:P.123 - P.123

書評「食道静脈瘤の診かたと治療」

著者: 岡本英三

ページ範囲:P.141 - P.141

 ここ10年間で最も目覚ましい治療成績の向上をみた身近な疾患と言えば,肝癌と食道静脈瘤が双壁である.両方とも肝硬変症という難病の経過中に発生する難症中の難症であり,それまでの治療成績が悪過ぎたと言えばそれまでであるが,それにしても最近の両疾患の治療成績の向上は一昔前に比べると驚くべきものがある.私は長年肝癌と取り組んできたが,硬変症治療の両輪の他方である食道静脈瘤の治療法の発達は,静脈瘤合併肝癌の治療成績向上となって,われわれも大いにその恩恵に浴している.

 食道静脈瘤に対するこの治療成績の向上の根底には,関連各科の協力による集学的治療の成果に負うところが大きい.すなわち,内視鏡の積極的導入,経皮経肝門脈造影法とその応用,更には内視鏡的硬化療法の開発など,それまでの手術一本の時代から,数多くの治療手段を患者の容態に応じて組み合わせたり選択したりできるようになったことにあると思う.しかし反面,食道静脈瘤の治療にたずさわる施設は,これらの多様化した治療手段のすべてに習熟していることが今や必須の条件である.この意味において,このたび医学書院から,徹底した技術指導書とも言うべき「食道静脈瘤の診かたと治療」が刊行されたのは誠に時宜を得たものと言える.

書評「Harrison's Principles of Internal Medicine, 11th Edition」

著者: 北原光夫

ページ範囲:P.142 - P.142

 ハリソン内科書の改訂11版が発売された.誰でも一度は手にするべき内科書であり,セシル内科書と同様に内科書のprototypeとして,高い評価を得てきている.最近,スタインやハーストをeditorial chiefにした内科教科書も発売されているが,やはりハリソンとセシルが最も信頼を得ているようである.米国では医学生の頃より使用し始め,一人前の医師となった時点でもレファレンス・ブックとして使用している.ハリソン,セシルを代表とする教科書を自国語ですらすら読んで自分のものにしてゆくことが可能である米国の医学生はうらやましいと,厚い米国の医学書を手にするたびに思う.事実,ボストンで一緒に働いた米国人の内科レジデントはハリソンを学生時代に読破したと聞き,彼らの勉強ぶりと語学力の差を痛切に感じた.

 11版のハリソンの編集はやはりハーバード大学系統の人々の手によってなされており,10版と変わりない編者である.ページ数は今回は2,248ページ(本文2,118ページ)に抑えられており,前版より8ページ増加しているだけである.

書評「消化器疾患のダイナミックCT診断」

著者: 打田日出夫

ページ範囲:P.167 - P.167

 CTは消化器疾患の診断にとって非常に有用な検索法であることが定着し,CTなくしては医学の進歩に即応した診療が不可能になったと言っても過言ではない.しかし,CTも検査方法が不適切で,精度の低い診断で終われば,病変の拾い上げ診断のみでなく,質的診断と進展度診断における誤診の増加が危惧される.CTの特徴を最大限に発揮してCT診断の精度を高めるには,造影剤をいかに有効に使用して検査を行うかがポイントになり,ダイナミックCTの活用が必須である.

 著者の竜崇正博士は,消化器の画像診断に情熱を持ち,特にCTに関する新しい知見を盛り込んだ研究を続けてきた新進気鋭の外科医である.本書は日常診療の中から得られたCTに関する臨床研究成果の集大成であると共に,消化器疾患CT診断の実際的な指針となる成書でもあり,著者の熱意が伝わってくる力作である.序文の中で“CTは消化器疾患において,一般的検査法として広く定着した感がある.しかし,CTの能力を十分生かした診断がなされているとは言えないのが現状である.単純CTのみでは診断上の限界があり,……ダイナミックスキャンの機能をよく理解し,目的に応じた造影剤の投与法を組み合わせることにより,CTの非侵襲性の特徴を生かした詳細な診断が可能になる”と述べられているが,本書の意図と特色を端的に表した言葉である.

編集後記

著者: 中澤三郎

ページ範囲:P.236 - P.236

 胃癌の深達度診断は予後の推定,手術法の決定などに有用な情報を与えるため本誌でも数回取り上げ,詳細に検討してきた.しかも,最近では内視鏡的治療が積極的に行われるようになり,その適応を定めるうえでも深達度診断の重要性は更に増加してきたと考えている.また,従来のX線・内視鏡診断に加え,新しい検査法として超音波内視鏡が用いられるようになった.胃壁断面の画像が目で見えるので深達度診断の新しい展開がみられるものと大いに期待されるところである.

 本号では陥凹型早期胃癌を特に取り上げた.陥凹型癌は癌巣内に潰瘍または潰瘍瘢痕を有するなど,隆起型癌に比べると,その像が多彩なため,確認が困難である.そこで病理組織像,X線検査,内視鏡検査,超音波内視鏡検査を相互に対比させた.今後の診断を行ううえで幾つかの重要な所見が少しでも明確になったかと考えている.

基本情報

胃と腸

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1219

印刷版ISSN 0536-2180

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