症例
生検診断が困難であった胃の高分化型腺癌の1例
著者:
佐藤治1
鎌田満2
所属機関:
1岩手県立中央病院消化器科
2岩手県立中央病院病理科
ページ範囲:P.211 - P.218
文献購入ページに移動
要旨 患者は65歳,男性.体重減少を主訴とし某医院を訪れ,当院を紹介された.胃X線,内視鏡検査にて,体上部前壁になだらかな立ち上がりを示し,黄白色の白苔が点状に付着する隆起病変を認め,Borrmann 1型胃癌と診断した.しかし計3回の生検組織検査では,腺管の細胞,構造異型が乏しく,悪性と診断できなかった.臨床的に悪性を否定しきれないため,胃全摘術を施行した.切除胃肉眼所見では体上部前壁に大きさ4×3×0.5cmの全体に幾分発赤した病巣を認めた.病巣範囲は不明瞭であるが,発赤した範囲と考えられた.組織学的にも癌と診断するのに苦慮したが,腺管周囲の炎症性細胞浸潤が著明なこと,固有筋層まで浸潤していることより,高分化型腺癌(tub1,INF β,pm,ly0,v0,n(-))と診断した.本病巣は中間帯領域に存在していた.病巣周囲粘膜にはPAS-AB染色での定型的腸上皮化生が主体をなし,また,病巣内増生腺管にもPaneth顆粒を有する腸上皮化生を多数認めた.所々に幽門腺または粘液腺より成る粘膜下異所腺を認めた.この異所腺にも腸上皮化生が認められ,異所腺からの癌化も否定しえない問題と考えられた.