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今月の主題 小さな大腸癌―早期診断のために 序説
今,なぜ小さな大腸癌を問題とするのか?
著者: 中村恭一1
所属機関: 1筑波大学基礎医学系病理
ページ範囲:P.371 - P.372
文献購入ページに移動 大腸癌組織発生の学説については,大腸癌の多くはde novo cancerである,あるいは腺腫由来である,との相反する2つの学説がある.そして現在,“大腸癌の大部分は腺腫の癌化したものである”との学説が一般的に受け入れられている.しかしながら,いったんこの学説を認め,そしてそれを大腸癌の構造(体系)の基底として大腸癌に関する種々の臨床病理学的な事象を眺めた場合,どうしても整合性をもってその構造に取り込むことのできない事象が幾つか浮き上がってくる.それでもよろしい,大腸癌の構造(体系)などは,所詮,日常の診断治療に不必要なことであり,個々のことを十分に経験することが重要である,とする考え方もあるかと思われる.われわれの日常の診療においては,それを意識するか意識しないかは人それぞれであるが,まず初めに体系化された知識という“ふるい”にかけて判断し,そして次には,人間は一様均一ではないから,豊かな経験を通じて個々の患者のあらゆる状態を考慮することによって最終的な結論に至る,という思考過程を踏襲している.したがって,“ふるい”が不完全である場合には,診療に当たって常に正しい判断ができるとは限らなくなる.体系化された知識ではなく,互いに関連のない個々に細切れの知識のみでよしとするならば,医学の基礎知識などは不要であり,始めから個々のことをより多く体験すればよいことになってしまう.しかしそのようにした場合には,未経験のことに直面したときには思考が停止してしまい弾力的に対処することができなくなる.このように,体系化された知識と豊かな経験とは,言うまでもないことだが,より良い診療を行うための必要かつ十分条件である.
なぜこのようなことをここで主張するかというと,臨床的そして病理学的研究とは互いに無関係ではなく,不可分のことであることを強調したいがためである.
なぜこのようなことをここで主張するかというと,臨床的そして病理学的研究とは互いに無関係ではなく,不可分のことであることを強調したいがためである.
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