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文献詳細

雑誌文献

胃と腸24巻3号

1989年03月発行

文献概要

今月の主題 大腸腺腫と癌(2) 主題

大腸腺腫と癌の関係―私の診断基準より―大腸癌組織診断基準の客観化:異型度の数値変換とその視座を変えての検討

著者: 大倉康男1 中村恭一1 伴慎一1 石堂達也1 尾辻真人1

所属機関: 1筑波大学基礎医学系病理

ページ範囲:P.241 - P.251

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はじめに

 大腸腺腫と癌は異型性,腫瘍性を有する点で同質であることから大腸上皮性腫瘍という1つの系に入れられ,その系の中で両者の関係が種々検討されている.世界的に広く知られている“大腸癌の大部分は腺腫由来である”という組織発生説(adenoma-carcinoma sequence)を導いた数多くの検討もそのような系の中でなされている1)~4).しかし,それらの検討は異型度の分類に主眼が置かれるために,異型性のみられない正常粘膜の存在は忘れられがちである。正常粘膜に発癌しにくいという大腸の癌組織発生は,腫瘍総論的には特異である.大腸粘膜の細胞新生は腺腫を含め,正常の粘膜にも認められており,癌は細胞新生の行われるところであればいずこからも発生しうるからである5).大腸癌が腺腫を母地としなければ発生しえない理由もなく,Bauhin弁を越えた途端に癌発生の仕組みが変わる解析もなされてはいない.もし全身臓器の中において整合性を持たない癌組織発生を導いたのであれば,腺腫と癌との因果関係だけでなく,大腸腺腫が腺腫の中でも特殊なことを証明しなければならない.更に,腺腫や癌の発生母地である異型性を持たない正常粘膜には発癌が起こりにくいことも明らかにする必要がある.

 adenoma-carcinoma sequenceを導き出したMorsonらの癌組織診断基準は高度異型腺管の粘膜下組織浸潤をもって定義されており,粘膜内癌をsevere dysplasiaという腺腫と同類項の表現系に入れたものである6)7).その基準は組織異型度に基づいて良性悪性の判別を行う病理組織診断からは外れたものであり,定義された用語から類推される病態は病理組織学的には曖昧である.粘膜内癌は癌であり,癌と明確に記載することが組織診断の本質である.用語はその定義が明らかであり,それぞれの意志疎通がうまくなされていれば,いかなる表現も自由であろうが,科学の場においてはその本質を十分に表すべきである.severe dysplasiaが高度異型“腺腫”と訳されたり,カッコ付きでm癌とされるような自由度のある表現を有するdysplasia分類は捨て去らねばならない7).また,Morsonがその曖昧な癌組織診断基準のもとで記述した“Tubular adenoma showing invasion into the stalk of polyp by well differentiated adenocarcinoma of low grade of malignancy”という表現も奇妙である8).彼らがdysplasia分類を定義した際に,その大きな理由とした手術侵襲の問題も現代では小さくなりつつある.臨床上の問題を踏まえたdysplasia分類は癌組織診断基準としては病理組織診断の本質を離れたものであり,粘膜内癌を早期に診断しないことは結果的には非臨床的である.

 曖昧と言わざるを得ない癌組織診断から導き出された大腸癌の体系に大きな矛盾がみられるとき,局所的な解釈の変更を加えるだけでなく,その根底となる診断基準から見直す必要がある.大腸上皮性腫瘍の組織診断基準を明らかにすると共に,その前提のもとで大腸癌組織発生ならびに発育進展過程を検討した.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1219

印刷版ISSN:0536-2180

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