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雑誌目次

雑誌文献

胃と腸24巻7号

1989年07月発行

雑誌目次

今月の主題 胆道疾患の非手術的治療の進歩 序説

胆道疾患の非手術的治療の進歩

著者: 有山襄

ページ範囲:P.733 - P.738

 はじめに

 胆道疾患の非手術的治療の主なものは閉塞性黄疸に対する減黄と結石除去である.非手術的治療を行う経路として,経皮経肝的,経十二指腸的および外科的に挿入されたTチューブなど人工的瘻孔を利用するものの3つがあるが,これらの経路を使わない胆道癌に対する体外照射治療,衝撃波による胆石除去も行われている.

 最近は経皮経肝胆道ドレナージ(PTBD)や内視鏡的乳頭括約筋切開術(EST)を応用したいろいろな治療法が行われるようになり,胆道疾患の非手術的治療は著しく進歩した.

主題

PTCDを応用したRALS胆管腔内照射法

著者: 竜崇正 ,   佐藤滋宏 ,   渡辺一男 ,   藤田昌宏 ,   本田一郎 ,   坂本薫 ,   渡辺敏 ,   川上義弘 ,   篠原靖志 ,   竹内修

ページ範囲:P.739 - P.746

要旨 PTCDの手技を応用して内瘻化を図り,このルートを利用したRALS胆管腔内照射療法について述べた.RALSは単独で胆管癌の根治線量が照射可能なため,肝や腸管などの正常臓器への影響や副作用もなく局所制御が可能な利点を有している.14例の胆道癌に対しRALS胆管腔内照射を施行した.切除不能7例では全例生検で癌細胞は消失し,胆管狭窄は改善し,PTCDチューブの抜去が可能であった.そして最長2年6か月をはじめ3例が生存中である.また,非治癒切除後の癌遺残部治療を行った4例でも遺残部胆管の癌はRALSによって消失し,最長2年を経て健在中をはじめ3例が生存中である.根治切除後の再発予防などにも有用である.

経口内視鏡による胆石症の治療

著者: 藤田安幸 ,   藤田力也 ,   平田信人 ,   菅田文夫

ページ範囲:P.747 - P.754

要旨 胆道結石症に対する経乳頭的な治療法の分野における経口胆道鏡の適応,有効性,限界について自験例を中心に分析を行い,臨床的評価を試みた.経口胆道鏡に十分な操作性,処置能を行使させうる適応範囲は胆道結石症54例における検討から,総胆管,総肝管,左右肝管までであった.治療手技はバスケットカテーテルを用いての結石摘出術を総胆管結石症4例,胆囊結石症1例の計5例に,電気水圧衝撃波法による砕石術を総胆管結石症3例,肝内結石症1例の計4例に,そしてレーザー照射による砕石術を総胆管結石症の2例に試み,全例において成功した.経口胆道鏡下の截石術は,安全で確実な治療手段として,その臨床的有用性は高い.

ピエゾ効果方式衝撃波破砕療法―胆囊胆石に対する有効性と安全性の検討

著者: 土屋幸浩 ,   埴谷一夫 ,   高梨秀樹 ,   西新井宏美 ,   大藤正雄

ページ範囲:P.755 - P.761

要旨 ピエゾ効果方式装置(EDAP LT-01)を用いて胆囊胆石73症例を対象に体外衝撃波療法を行い,有効性と安全性について検討した結果,次の成績を得た.①胆石数1個,径30mm以下でX線透過性,Ⅰ型エコーパターンを示す胆石群の破砕率は100%,完全消失率は53%であり,この胆石群は良い適応と考えられた.②石灰化胆石群の破砕率は62%,完全消失率は25%であり,胆石の選別を行うことで適応となりうることが判明した.③とう痛対策を必要とせず,外来通院で,繰り返し治療が簡便に行えた.④完全消失23例のうち74%(胆汁酸服用4例,非服用13例)は2か月以内の早期に消失した.これは,早期消失に関する胆汁酸溶解療法の併用の意義は少ないと考えられると共に繰り返し治療により胆石の一層の細片化が行えるピエゾ効果方式ESWLの特徴に基づくものと考えられた.⑤衝撃波照射による臓器への影響は軽微かつ低頻度であり,安全性は高いと考えられた.

座談会

胆道疾患の非手術的治療の進歩

著者: 小越和栄 ,   小野美貴子 ,   安田健治朗 ,   木村健 ,   池田靖洋 ,   岡村毅与志 ,   武内俊彦 ,   中澤三郎

ページ範囲:P.774 - P.790

 武内(司会) 本日のテーマは“胆道疾患の非手術的治療の進歩”ということですが,実際にこの治療法がどの程度進歩したかということについてお話をしていただきたいと思います.

 ご存じのように,超音波検査の非常な進歩と普及によって,胆道疾患の診断は非常に進歩しましたし,胆道,特に胆囊病変はチェックもしやすくなってきました.それに伴って,非手術的な治療法も相当に進んできたと思います.

Topics

切除不能悪性胆管狭窄に対するPTBEと抗癌剤局注療法

著者: 須山正文 ,   有山襄 ,   小川薫 ,   長岩治郎 ,   藤井大吾

ページ範囲:P.762 - P.763

 はじめに

 閉塞性黄疸の診断および治療に経皮経肝胆管ドレナージ(以下PTCD)は必要である.しかし,PTCDは外瘻であるためチューブ逸脱の可能性があり体動は制限されていた.したがって,一度PTCDを行うと切除するかあるいは手術的に内瘻化しなければ家庭復帰することは困難であった.われわれは切除不能と診断した悪性胆管狭窄例にPTCDを利用して完全内瘻化(以下PTBE)を行ってきた.また,胆道癌にPTCDチューブを利用して抗癌剤の局注療法を行った.成績と問題点について述べる.

経皮経肝胆道ドレナージ(PTBD)を応用した局所温熱療法

著者: 中山和道 ,   嘉村好峰 ,   才津秀樹

ページ範囲:P.764 - P.765

 はじめに

 胆管癌の予後は,今日においてもまだあまり向上しておらず,手術のみでは予後の向上には限界があり,集学的治療が注目を浴びている.われわれは温熱療法の行えるPTBDチューブを開発し,実験を行い安全性と有用性を確認後,臨床応用を行い癌治療に有効と思われる病理所見を得たのでここに紹介する.

 温熱療法は,現在RF(radio-frequency)波,マイクロ波などによって各種臓器に行われているが,体外から加温を行うものが多く,腹腔内深部臓器に発生した癌の部位のみを42~43℃に加温することは容易ではない.そこでわれわれは閉塞性黄疸でPTBDが行われた胆管癌に対し,このPTBDルートを利用し胆管癌を直接に加温し温熱効果を期待することのできる温熱併用ドレナージ・チューブを開発した.

内視鏡的胆囊ドレナージ法―ERGBD

著者: 佐藤一弘 ,   矢野明

ページ範囲:P.766 - P.767

 はじめに

 胆囊炎は様々な原因により生ずることは知られている.臨床的に診断可能な胆囊炎の多くは,胆囊管の通過障害に起因するいわゆるobstructive cholecystopathyである.胆囊炎の治療の原則は抗生物質の投与であるが,治療に難渋する例やあるいは症状の繰り返す胆囊炎には抗生物質投与に加えて胆囊管通過障害の改善を図る必要がある.それらの例に対し,われわれは内視鏡的な胆囊ドレナージ法を試みてみた.本稿ではわれわれの行っている内視鏡的胆囊ドレナージ法(以下ERGBD)の手技を紹介し,更にERGBD施行例に関し,若干の臨床検討を行ったので報告する.

経皮経肝胆囊鏡下截石法

著者: 関秀一 ,   木村健

ページ範囲:P.768 - P.769

 はじめに

 胆囊結石の手術療法は確立されている.しかし,心,肺,腎,肝などの重要臓器障害により手術不能な症例に遭遇することがある.また,右症状例でも症状のない間歇期では,手術に了解が得られない場合もある.このような胆囊結石に対し,われわれは経皮経肝胆囊鏡下截石(percutaneous transhepatic cholecystoscopic lithotomy; PTCCSL)を施行し良好な結果を得ている.本稿では自験例に基づきPTCCSLの手技,適応,治療成績,合併症などについて紹介し,その有用性について述べる.

高周波による悪性胆道狭窄の拡張

著者: 児島辰也 ,   斉藤利彦

ページ範囲:P.770 - P.771

 はじめに

 切除不能の悪性胆道閉塞患者の生存期間は経皮経肝的胆道ドレナージ(PTCD)の器具・手技の改良や集学的治療の進歩により著しく延長している.この結果,PTCDの長期施行例が増加し,より生理的で患者の負担も少ない内瘻法が切望され,安全かつ確実な内瘻化のための種々の試みが行われている.筆者らも1984年以来,高周波電気ナイフによる経皮経肝的な内瘻化(percutaneous transhepatic cholangioplasty; PTCP)を行い,良好な成績を得ているので,本法の詳細を述べる.

内視鏡的膵石除去ならびに膵管ドレナージ法

著者: 富士匡 ,   大村良介 ,   天野秀雄 ,   佐々木敏行 ,   播磨健三 ,   田中慎也 ,   竹本忠良

ページ範囲:P.772 - P.773

 はじめに

 慢性膵炎の治療は,本来,頑固なとう痛をはじめとする症状の改善に加えて,低下した膵機能の維持あるいは改善を目指したものでなければならない.しかしながら,これまでの内科的保存療法は食餌療法に加えて,鎮痙剤,トリプシン・インヒビターや消化酵素剤の投与と,糖尿病のコントロールといった対症的で消極的な治療法が中心となっている.筆者らは本症のnatural historyを受け入れた治療法ではなく,積極的に膵液のドレナージを図る内視鏡的治療法の開発を手掛けている.

症例

早期髄外性胃形質細胞腫の1例

著者: 渕上正弘 ,   石堂達也 ,   細井董三 ,   牧野哲也 ,   岡田利邦 ,   西沢護 ,   中村恭一 ,   森尚義 ,   大倉康男 ,   斉藤慶一 ,   高橋寿久

ページ範囲:P.795 - P.801

要旨 患者は50歳,男性.特に自覚症状なく胃集検を受診し,胃角変形を指摘されて当センターを受診する.胃内視鏡検査で胃角大彎に小退色帯,および軽度の凹凸不整が認められた.生検組織所見では,小退色帯の部分よりIgA/λでmonoclonalに陽性の針状結晶物質が,粘膜固有層にほぼびまん性にわたり認められ,形質細胞腫と診断された.切除標本では,粘膜固有層にびまん性に腫瘍性の形質細胞が認められた.胃形質細胞腫は,現在までに欧米で約100例,本邦では自験例を含め41例報告されているが,進行例が多い.本例は病変が粘膜内に限局し,肉眼的にも軽微な変化で,早期の段階のものと思われる.

酵素抗体法により胃生検組織中にTreponema pallidumを証明した胃梅毒の1例

著者: 辰己靖 ,   細川治 ,   山道昇

ページ範囲:P.803 - P.808

要旨 38歳,男性.心窩部痛にて受診し,胃X線検査,胃内視鏡検査により胃体部から前庭部まで広範な網目状のびらんとその間に胃粘膜が大小不同の類円形を呈して島状に残存する所見を得た.X線所見では前庭部の伸展不良,内視鏡ではびらん面の苔が白色が強く,また送気により出血することが特徴的であった.血清梅毒反応が陽性で,抗潰瘍療法に抵抗し,胃生検で形質細胞浸潤が激しかった.胃生検のパラフィン包埋材料を用いて酵素抗体法を施行し,胃粘膜内にTreponema pallidumを証明し,胃梅毒の確診を得ることができた.胃梅毒の確定診断には感度が高く,容易である本法は広く推奨される.

胃サルコイドの1例

著者: 岩間芳生 ,   浅井俊夫 ,   岡村正造 ,   山口初宏 ,   越知敬善

ページ範囲:P.809 - P.814

要旨 患者は45歳,女性,人間ドックで胃の異常を指摘され当院受診.皮膚,眼病変なく,胸腹部理学的所見に異常なし.一般血液生化学検査に異常なく,ツ反疑陽性.血沈,梅毒反応,ACEともに正常.胃X線,内視鏡検査で穹窿部に3か所の皺襞集中部を認め,その中央はわずかに陥凹し大小の結節もみられた.体部には粘膜下腫瘍様の小隆起を,また幽門部には胃潰瘍瘢痕様のひきつれ部を認めた.生検で各病変の粘膜固有層内に中心乾酪壊死を伴わない,類上皮細胞肉芽腫を多数認めた.注腸X線検査で回腸終末部まで異常なし.両側肺門リンパ節腫脹なく,経気管支肺生検も異常なかった.以上より胃に限局したサルコイドと診断した.cimetidine 400mg/日で経過観察中であるが,胃部症状なく,8か月後の胃X線検査では初回検査時と変化なかった.

胃原発の胃カンジダ症の1例

著者: 高山哲夫 ,   吉江研一 ,   曽我洋一

ページ範囲:P.815 - P.818

要旨 患者は76歳,女性.食欲不振を主訴として来院.上部消化管造影で胃石様の可動性のある隆起性病変と,胃体上部に散在あるいは集簇した小豆大の小隆起性病変を認めた.内視鏡検査による観察ではこの可動性のある隆起は黄白色,酒粕様,脆弱な集塊物であった.また,胃体部の小隆起は地図状あるいは塊状となった黄白色付着物であった.この付着物および酒粕様集塊の培養でCandida albicans Aの発育が認められ胃カンジダ症と診断した.抗真菌剤の投与により自覚症状は消失し,消化管造影での異常所見も消失した.本例は重篤な合併症はなく,抗生剤,ステロイド剤などの使用の既往もなく胃カンジダ症発生要因の面で興味ある症例と思われた.

術前に診断できた膵somatostatinomaの1切除例

著者: 関誠 ,   高木國夫 ,   堀雅晴 ,   太田博俊 ,   西満正 ,   梶谷鐶 ,   大橋計彦 ,   村上義史 ,   竹腰隆男 ,   加藤洋 ,   柳澤昭夫 ,   藤島捷年

ページ範囲:P.819 - P.826

要旨 患者は51歳の男性で膵頭部のhypervascularな腫瘍として紹介された.糖尿病と胆石症が合併していることから,somatostatinomaを疑い,末梢血中および門脈血中のソマトスタチン濃度を測定し,その上昇より,術前に膵somatostatinomaと診断した.腫瘍は40×42×35mmの大きさで膵頭部に限局し,灰白色の被膜に包まれ,赤紫色ゼラチン様であった.組織学的には,索状あるいは腺房状配列を示すラ氏島腫瘍で,免疫組織学的にはソマトスタチン抗体陽性であった.電顕では細胞質に径200~300nmの顆粒像がみられた.

今月の症例

Lemmel症候群の1例

著者: 小越和栄 ,   丹羽正之

ページ範囲:P.730 - P.732

 十二指腸傍乳頭憩室が原因で,機能的または機械的に閉塞性黄疸を来す疾患をLemmelが1934年に報告し,以来Lemmel症候群の呼び名が付いている.本症例は胆囊結石を合併していたが,十二指腸憩室炎で発症した症例で,Lemmel症候群と考えられる例である.

 〔患者〕66歳,女性.1979年に胆石で1か月入院の既往あり.

初心者講座 座談会 消化器疾患とUS・CT・11

Ⅳ.胃 >その3<

著者: 木村健 ,   富士匡 ,   中村常哉 ,   吉田行雄 ,   福地創太郎 ,   渡辺英伸

ページ範囲:P.829 - P.835

粘膜下腫瘍におけるEUSの有用性

 木村(司会) 次に,粘膜下腫瘍におけるEUSの有用性と限界を少しディスカッションしていただきたいのです.中村先生,口火を切っていただけますか.

 中村 粘膜下腫瘍の診断でEUSがどのように有用かということですが,診断する順序としては,腫瘍がどこにあるか,粘膜下層にあるのか,固有筋層と連続しているのか,あるいはそれにまたがって両方にあるのか,あるいは漿膜側にあるのかという,そういう腫瘍の存在部位の問題が1つと,それから内部エコーがどういう像を呈しているか,この2点で粘膜下腫瘍がどういう性質のものかということがある程度推測できると思います.

食道検査法・19

生検組織の読み方(2)悪性病変

著者: 板橋正幸

ページ範囲:P.837 - P.840

 はじめに

 前回の本講座(1)良性病変に引き続き,(2)悪性病変について,生検組織を読む際の心構えや注意点について述べる.

 良性病変の場合と同様に,病理医は臨床情報・内視鏡所見を十分理解して生検組織の検索に臨むことが大切である.また“戦に勝つには敵を知る”ことが大事であると同様に,食道には,どのような病変(癌)があるのか?また,どのような性格(進展の仕方,生物学的態度)の病変・癌があるのかを知っておくことが生検標本を読む第1歩である.X線・内視鏡所見から,どのような生検組織所見がありうるのかを推測しながら―ある意味では結果を知る楽しみを持ちながら―組織検索に当たるぐらいであってほしい.癌の肉眼形態・組織所見は症例により千差万別ではあるが,肉眼所見とは組織学的現象の集積(integration)されたものであるから,両者間には密接な関係があるはずである.その意味で,臨床医も病理医も食道癌の肉眼形態および内視鏡所見と組織学的所見の関連性をよく把握することが重要であり,そうすれば,自ずから,内視鏡所見の読み方,診断,生検の採取部位,更には生検組織所見を読む際の注意点などがわかってくるはずである.

早期胃癌研究会

第31回「胃と腸」大会から

著者: 丸山雅一

ページ範囲:P.801 - P.802

 1989年5月度の例会は,第31回「胃と腸」大会として,第37回日本消化器内視鏡学会総会が開催された名古屋市で,学会2日目の夜,12日6時より今池ガスホールにおいて開催された.開会に先立って,まず,同学会の中澤三郎会長(藤田学園保健衛生大教授)の挨拶があり,続いて,本「胃と腸」大会の総合司会を務めた春日井達造愛知県がんセンター名誉院長の挨拶,白壁彦夫早期胃癌研究会代表幹事の紹介の後,症例討論に入った.

 症例討論の司会は芳野純治(藤田学園保健衛生大内科)が行った.当初,5症例が検討される予定であったが,中澤会長の挨拶にもあったように,質の良い症例が厳選されていたために,討論に熱が入りすぎ,4例の検討を終えた時点で予定時間を越えたため,最後の1例を討論することができなかった.

胃と腸ノート

大腸癌および大腸ポリープ患者における糞便中トランスフェリン測定の臨床的意義

著者: 三好博文 ,   内田壱夫 ,   島本史夫 ,   齊藤治 ,   浅田修二 ,   平田一郎 ,   天津孝 ,   岩越一彦 ,   津本清次 ,   大柴三郎

ページ範囲:P.827 - P.828

 はじめに

 内田らは抗ヒトHbAo抗体を用いる現行の免疫学的便潜血反応における偽陰性反応の主な要因として,腸内細菌と大腸粘膜産生ムコ物質であることを報告し便潜血検査におけるHb測定の限界を示した.更に彼らはHb以外の血液由来成分を対象に消化管出血に特異的な成分を検索した結果,トランスフェリン(以下Tfと略す)が特異性,細菌安定性の両面で有用であることを示した.そこで筆者らは大腸癌および大腸ポリープ患者より得られた糞便中のTfを測定し,その臨床的意義について検討した.

学会印象記

香港第3回国際Therapeutic Endoscopyワークショップ・シンポジウム

著者: 藤田直孝

ページ範囲:P.808 - P.808

 Third International Workshop & Symposium on Therapeutic Endoscopy,Hong Kongが1988年12月14日から17日まで,香港において開催された.この会は香港中文大学と香港消化器内視鏡学会の共催で,第1回は1985年,第2回は1987年に開催されている.会場は香港九龍半島北部の沙田(シャティン)にあるPrince of Wales Hospitalで,香港の繁華街の中心であるネーザンロードから車でおよそ30分の所にある.参加者は約110名で,東南アジアの各国に加えオーストラリア,アメリカ,イギリスなどからも参加者があった.facultyにはProfessor Cotton(USA)や川井教授(京都府立医大)も参加されており,丹羽教授(防衛医大),信田教授(獨協医大)もシンポジウムの座長を担当された.はじめの3日間はワークショップでlive demonstrationも織り込んだプロブラム構成であった.最終日にはfree paperの発表と,3 sessionがシンポジウムとして取り上げられた.

 初日はregistrationに引き続きERCPおよびこれに関連した内視鏡的乳頭括約筋切開術(EST),nose-biliary drainage(NBD),截石術,内視鏡的胆管ドレナージ法(EBD),胆道狭窄のバルーン拡張術に関する講演があった.この後,Dr.LeungとProfessor CottonによるEST,截石,NBD,EBDなどのlive demonstrationが非常に手際よく行われた.coworkerである看護婦のトレーニングがよく行き届いていたのが印象的であった.川井教授が主催された第36回日本消化器内視鏡学会総会のlive demonstrationのイメージがオーバーラップして思い起こされた.

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欧文目次

ページ範囲:P.729 - P.729

海外文献紹介「Turcot症候群」

著者: 山崎忠男

ページ範囲:P.738 - P.738

 Turcot's syndrome: Jarvis L, et al (Dis Colon Rectum 31: 907-914, 1988)

 Turcot症候群は家族性多発大腸ポリポーシス(FCP)と脳腫瘍が合併する疾患で,遺伝の存在が示唆されている.1949年Crailらが脳腫瘍と大腸ポリポーシスの合併を初めて報告しているが,1959年のTurcotらの脳の神経膠腫瘍を合併した兄弟2例の報告からTurcot症候群もしくはglioma-polyposis症候群と呼ばれるようになった.その後,現在まで49例の報告(1949~87)がなされている.本症候群の脳腫瘍は若年に発症するので,大腸病変の発現前に死亡している例の存在も考えられる.

海外文献紹介「体外衝撃波による結石破砕前後の胆囊の収縮能」

著者: 中村常哉

ページ範囲:P.761 - P.761

 Gallbladder motility before and after extracorporeal shock-wave lithotripsy: Spengler U, et al (Gastroenterology 96: 860-863, 1989)

 胆囊結石に対する体外衝撃波結石破砕(Extracorporeal Shock-Wave Lithotripsy; ESWL)により胆囊の収縮能に変化が生じるか否かを知るために,経静脈的に投与したcholecystokininに対する胆囊の収縮能を超音波を用いて検討した.有症状の胆囊結石を持った21人の患者がESWLの前後で検査され,うち12人は胆石溶解剤(UDCA,CDCA)の内服を行い(A群),9人は行わなかった(B群).胆囊の収縮能の評価は胆囊の空腹時容量,CCK静注後の最大収縮時容量(residual volume)およびhalf contraction timeで行った.胆囊の収縮能はESWLの前では両群とも対象群に比べて有意に低下し不完全であった(A群:residual volume 51%±10%,half contraction time 40±5分,B群:residual volume 51%±10%,half contraction time 46±7分,対象群:residual volume 15%±4%,half contraction time 18±2分).

海外文献紹介「Peutz-Jeghers症候群(PJS):49年間のハリスバーグ家系の臨床病理学的観察」

著者: 栗原修司

ページ範囲:P.826 - P.826

 Peutz-Jeghers syndrome: A clinicopathologic survey of the “Harrisburg Family” with a 49-year fo1low-up. Foley TR, et al (Gastroenterology 95: 1535-1540, 1988)

 Jeghersにより報告されたPJSの家系であるハリスバーグ家系を6世代にわたり詳細に49年間追跡し,遺伝的な影響を受けたものが家系構成員中12人も含まれ,報告された中では最も大きなPJS家系である.他の家系に比べ特徴的なのは,ハリスバーグ家の遺伝的影響を受けたメンバー全員が,粘膜色素斑と小腸過誤腫の両方を有していたことである.全患者は若年期より治療を受けており,主症状は腹痛と出血であった.

海外文献紹介「無症状者にS状結腸内視鏡検査で発見される小ポリープ」

著者: 種広健治

ページ範囲:P.828 - P.828

 Small polyps found during fiberoptic sigmoidoscopy in asymptomatic patients: Achkar E, Carrey W (Ann Int Med 109: 880-883, 1988)

 S状結腸内視鏡検査がルーチンに行われるようになり,ポリープが発見された場合,その取り扱いをどうするかが重要な問題となってきた.今まで,小ポリープは非腫瘍性で悪性化することはなく口側大腸に腫瘍性ポリープが存在する可能性を示すものでもないので,治療や全大腸内視鏡検査は不必要と考えられてきたが,最近小ポリープは過形成性ばかりではなく,しばしば腫瘍性であり,過形成性ポリープの場合でも高頻度に口側大腸の腫瘍性ポリープを合併することが報告されるようになった.そこで,無症状者の直腸S状結腸の小ポリープと口側の同時性の腫瘍性ポリープの発生頻度を検討するため,S状結腸に大きさ9mm以下のポリープが発見された場合,大腸内視鏡検査を行い全大腸のポリープを除去した.3,923名のうち258名(7%)に9mm以下のポリープが発見され,189名(平均年齢56歳)が大腸内視鏡検査を受けた.このうち179名に大腸内視鏡検査でもS状結腸の病変が確認された.

書評「大腸疾患診断の実際」―Ⅰ.検査法・炎症性疾患・虫垂疾患 Ⅱ.腫瘍性疾患・消化管ポリポーシス

著者: 白壁彦夫

ページ範囲:P.791 - P.794

 本書を読んで,まず思った.各項は丁寧,かつ,簡潔な文章だなぁと思った.読者の心を一気に走らせる.読みやすい.これが,病変を理解しやすくしているし,臨床的な心組みを,まず,用意させてから写真を読めるようにしていることに加重的に効果をあげている.

 多くの研究協力者を得ている.大世帯の施設でないと,高いレベルで貫き通す出版,こんな本はできないのである.出版ブームのさなかにあっての快挙である.まさに臨床研究の大工場で製作された感がある.仕事をするからには,普通は,施設のみんなに有形無形に世話になる.それなのに,自分独りで作ったようにしたがるものだ.一方,仕事もしないのに,一緒にいたというだけで,協同研究者のように,にじり寄るのもいる.改めて本書を手にして,全く著者の人徳だなあと思う.人柄がわかる思いである.

編集後記

著者: 小越和栄

ページ範囲:P.842 - P.842

 胆道疾患に対しての非手術的な治療は近年種々な試みがなされている.それには内視鏡的な治療,体外式衝撃波(ESWL),RALS照射などがある.これらの試みのうち評価が固まったものもあり,まだ改良しなければいけないものも含まれている.

 本号で主題としたのは,その普及とは別に将来に向けて,われわれが十分に知識を得ておかなければいけないものを取り上げた.

基本情報

胃と腸

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1219

印刷版ISSN 0536-2180

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