icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

胃と腸25巻11号

1990年11月発行

雑誌目次

今月の主題 直腸のいわゆる粘膜脱症候群 序説

直腸のいわゆる粘膜脱症候群

著者: 武藤徹一郎

ページ範囲:P.1265 - P.1266

 どんな人でも排便中は真面目な顔をしていると聞いたが,鏡で自分の顔を観察したこともないので真偽のほどはわからない.イヌ・ネコでも,その行為中は真剣な顔をしているから多分この話は本当なのだろう.ところで,排便時の顔の表情以上にわかっていないのが,そのときの直腸・肛門の運動であり機能なのである.下痢とか便秘という医学用語(?)はあっても,その定義は実に曖昧であるし,大体ほとんどの医師は便の性状など問診したりはしない.まして排便時の状態など詳しく聞く医師はまれであろう.排便がストップしてしまえば大問題であるが,排便があれば,そのときの様子がどうであれ気に掛ける必要はない,いずれ命には関係ないのだから,というのがこれまでわれわれ消化器専門家が取ってきた一般的な態度だと言ってよかろう.

 さて,今回の特集“いわゆる粘膜脱症候群”で取り上げられる病態は,正にこの排便機能に関係した変わった代物なのである.1930年代にロンドンのセントマーク病院の外科医Lloyd-Daviesが,1疾患単位として“solitary ulcer of the rectum”なる名称を用いた後,Madigan,Morsonらによって新しい報告がなされ,その病態が広く認知されることになったのが1969年のことであった.その後,本症には潰瘍性病変のみならず隆起性病変もみられること,様々な肛門機能異常,排便機能異常ならびに,それに伴う症状を呈することも明らかにな“solitary ulcer syndrome of the rectum”なる名称が提唱された.この肛門機能異常は主として直腸脱,粘膜脱を伴っており,脱出の程度は様々であるものの,本症の基礎的異常として排便時に粘膜脱が存在することが,defecographyなどの新しい排便機能検査によって明らかにされてきた.本症に特徴的とされる“fibromuscular obliteration”も粘膜脱による慢性刺激の結果生じたと考えると辻褄が合うのである.かくしてBoulayらによって“mucosal prolapse syndrome”という名称が提唱された.本症の研究の流れをみてくると,時代と共にその病態がより明らかにされ,広い範囲の異常をその中に包括しようとした結果,名称もより広い病態を包含するように変わってきたことがわかる.しかし,その中心をなす特徴は最初の名称“solitary ulcer of therectum”に余すところなく表されていると言ってよいだろう.どの名称が正しいかと言うより,各名称に伴う時代的背景を知っておくことが重要である.今後の研究によって,更に新しい名称が生じてくるかもしれないので,本特集では“いわゆる”が付けられている.

主題

X線診断の立場からみた直腸粘膜脱症候群

著者: 牛尾恭輔 ,   石川勉 ,   縄野繁 ,   水口安則 ,   若尾文彦 ,   大村卓味 ,   市川太郎 ,   山田達哉 ,   吉田茂昭 ,   横田敏弘 ,   藤井隆宏 ,   杉原健一 ,   森谷宜晧 ,   北條慶一 ,   板橋正幸 ,   廣田映五

ページ範囲:P.1267 - P.1281

要旨 直腸粘膜脱症候群(mucosal prolapse syndrome;MPS)は比較的最近になって認識されるようになった疾患である.本症候群は炎症性病変でありながら大腸の種々の腫瘍性病変と類似した形態を呈する傾向がある.ときに進行大腸癌と誤診され,誤った治療が行われることがあるので,注意を要する.これまで11例のMPSを経験した,本病変は隆起を主体とする型と,潰瘍を主体とする型とに大別される.しかし,通常は病変に多彩性,多発性がみられる.次に形態的に経過を追えた4例から,①病変は可逆的であること,②短期間で形態が変わることがある,という知見を得た.診断に際しては,臨床症状,X線像,内視鏡像および生検組織診断との比較検討を行い,総合的に診断することが重要である.形態的な特徴像,年余にわたる経過例から得られた知見を,主にX線診断の立場から述べた.

直腸粘膜脱症候群の内視鏡診断

著者: 長廻紘 ,   佐藤秀一 ,   村田洋子 ,   飯塚文瑛 ,   屋代庫人 ,   大原昇 ,   馬場理加 ,   長谷川かをり ,   金丸洋

ページ範囲:P.1283 - P.1294

要旨 11例の直腸粘膜脱症候群(MPS)を内視鏡的に検討した.症例は若い女性に多く,症状は直腸出血と便通異常であった.内視鏡像は潰瘍形成の明らかなものと,潰瘍のないものに2大別できた.潰瘍は浅くて平坦,境界は明瞭.潰瘍底は白苔に覆われ,白苔は薄くて底の一部が露出しているものと,比較的厚いものと,辺縁部は平坦なものと,盛り上がっているものとがあった.非潰瘍型のものは粘膜の発赤を主体にしたものであったが,限局性のものとやや拡がりのあるもの(全周性を含む)とがあった.発赤型のものでは経過中にびらんの出現・消褪がみられた.そのほかに隆起の集積したポリポイド型が1例あった.自験例には乏しいが,MPSとの関連で重要なcolitis cystica profunda(CCP)3例の内視鏡像を呈示してその特徴につき述べた.また,MPS,CCPと鑑別を要する疾患についても述べた.

mucosal prolapse syndromeの病態と治療

著者: 東光邦 ,   隅越幸男 ,   岩垂純一 ,   小野力三郎 ,   黄田正徳 ,   山本清人 ,   吉永栄一 ,   奥田哲也 ,   北村成大

ページ範囲:P.1295 - P.1300

要旨 mucosal prolapse syndrome(MPS)は孤立性潰瘍症候群や深在囊胞性大腸炎などと同じ範疇に入る疾患であり,直腸の粘膜が重積あるいは脱出することにより直腸の粘膜に潰瘍あるいは隆起性病変を形成する.病理組織学的には粘膜固有層にfibromuscular obliterationを認めることを特徴とする.defecographyを行うと,MPS群は正常群に比べ怒責時に肛門直腸角の開大が小さく,排便困難は骨盤底筋群の強い緊張のためと思われ,その結果,強い“息み”を引き起こし,粘膜脱を起こすことが想像された.治療は排便習慣の改善が第一で,隆起型の病変や著明な粘膜脱に対しては粘膜縫縮や切除が有効である.

直腸の粘膜脱症候群―病理の立場から

著者: 太田玉紀 ,   味岡洋一 ,   渡辺英伸

ページ範囲:P.1301 - P.1311

要旨 直腸の粘膜脱症候群(mucosal prolapse syndrome;MPS)99病変(腸切除例,病変部切除例,ポリペクトミー例,鉗子生検例を含む)を対象として,その肉眼型別(隆起型・平坦型・潰瘍型)に発生部位・組織学的病期・組織学的特徴を検討した.隆起型66病変は96.3%(26/27病変発生部位を明確にしえたもののみ)が歯状線と連続して口側3cm以内にみられ,低線維筋症期72.7%(48/66)・血管期273%(18/66)で,平坦型17病変は100.0%(16/16)が歯状線から口側2.3cm以内にみられ,81.3%(13/16)が歯状線と連続しており,低線維筋症期64.7%(11/17)・血管期29.4%(5/17)であった.一方,潰瘍型16病変は,68.8%(11/16)が歯状線と連続性を持たず口側3~17cmにみられ,高線維筋症期50.0%(8/16),低線維筋症期43.8%(7/16)であった.隆起型・潰瘍型では,粘膜下層にみられる動脈の内膜肥厚や硝子化が認められ,潰瘍型でその変化がより高度であった.MPSは平坦型を初期病変として,歯状線近傍では全壁性の直腸脱が起こらず,粘膜の反応性過形成が主体の隆起型に,歯状線遠位では全壁性の直腸脱のため高度の虚血を来し潰瘍型に移行すると考えられた.

主題研究

小児のmucosal prolapse syndrome―本邦若年者報告例の集計をもとに

著者: 北谷秀樹 ,   梶本照穂 ,   小沼邦男 ,   南部澄 ,   小西二三男

ページ範囲:P.1312 - P.1318

要旨 自験例2例を含む若年者(19歳以下)の直腸の粘膜脱症候群(mucosal prolapse syndrome;MPS)42例の本邦報告例の集計をもとに,臨床病理学的な検討を加えた.最年少例は7歳で15歳を頂点とする発症がみられた.性別は男31例女11例であった.主訴は血便が最も多く91%にみられ,次いで粘液便もしくは粘血便(31%)がみられた.息みは85%にみられたが,直腸の粘膜脱は記載があるもののうち31%のみであった.病変の肉眼形態は隆起型が85%,潰瘍型が15%であった.発生部位は前壁40%,全周性27%,前側壁18%,側壁,後壁の順であり,下部直腸に存在していた.発生病理を念頭に置いた治療が望まれる.

組織学的に粘膜脱症候群に類似する大腸ポリープの臨床病理学的検討―inflammatory myoglandular polypの提唱

著者: 中村真一 ,   喜納勇 ,   赤木忠厚

ページ範囲:P.1319 - P.1327

要旨 既存の分類には当てはまらない大腸の孤立性,有茎性ポリープ28例の臨床病理学的検索を行った.患者は15歳から78歳で平均年齢は53歳であった.男性に多く,左半結腸,特にS状結腸に発生する.症状は出血または潜血だが半数以ヒの患者では特別の症状はなかった.内視鏡では平滑で発赤のある孤立有茎性ポリープであった.組織学的には直腸下部・肛門部に発生する粘膜脱症候群(mucosal prolapse syndrome;MPS)に類似していた,このポリープの臨床病理学的特徴を明らかにすると共に,MPSや他の既存の大腸ポリープとの鑑別を行った.原因は不明であるが,慢性の刺激がこのポリープの成因に関与していることが推測された.粘膜固有層の肉芽性炎症,線維筋症および過形成性腺管が組織学的特徴で,したがってこのポリープの名称をinflammatory myoglandular polypとすることを提唱した.

主題症例

全周性の隆起を呈した直腸のmucosal prolapse syndromeの1例

著者: 櫻井俊弘 ,   王恒治 ,   八尾恒良 ,   岩下明徳 ,   山田豊

ページ範囲:P.1331 - P.1334

要旨 患者は22歳,男性.主訴は粘液便と肛門不快感である.大腸X線検査では直腸に粘膜の肥厚による管腔狭小化を認めた.大腸内視鏡検査では,肛門輪のすぐ口側の下部直腸に全周性の粘膜腫脹を認めた.色調は軽度発赤調で表面はほぼ平滑であった.病変は通常の順視では観察できず,直腸内反転操作でのみ観察可能であった.超音波内視鏡像では第2層,第3層の肥厚がみられた.生検で粘膜固有層の深部に線維筋症が認められ,mucosal prolapse syndrome(MPS)(隆起型)と診断した.隆起型MPSの場合,本例のように全周性の粘膜肥厚を呈するものはまれと考えられる.ただし,肉眼的な変化が軽微なために見逃されている可能性もあり,今後詳細な検索による症例の発見に期待したい.

誤診を免れた直腸のいわゆる粘膜脱症候群の1例

著者: 服部了司 ,   高橋慶一 ,   高橋孝 ,   滝澤登一郎 ,   田島強

ページ範囲:P.1335 - P.1338

要旨 患者は31歳の男性で,直腸前壁に注腸X線検査で中央陥凹を伴ったⅡa+Ⅱc様病変,およびその口側にⅡa様の微小隆起性病変数個を認めた.内視鏡検査によってX線像によく対応した所見があり,生検の結果,粘液産生の著しい分化型腺癌が強く考えられるとして,Group4の報告を受けた.手術目的で他病院に紹介したが,再検した内視鏡の生検病理組織診断の結果,solitary ulcer syndromeの範時に属する炎症性隆起性病変とされ,悪性が否定され手術が中止された.実地医家として,本疾患が臨床のpitfall(陥穽)であることを実感したので,報告する.

2型直腸癌と鑑別を要した直腸の粘膜脱症候群の1例

著者: 小山登 ,   小山洋 ,   伊藤晴夫 ,   松原長樹 ,   尾関豊 ,   下田忠和

ページ範囲:P.1339 - P.1342

要旨 患者は44歳,男性.主訴は粘血便,他院で直腸の2型癌と診断され来院.下部直腸前壁に1/3周に周堤形成を有する潰瘍性病変を認め,臨床像,病理組織像からmucosal prolapse syndromeと診断し経過観察中の症例について述べた.

mucosal prolapse syndromeの1例―超音波内視鏡所見を含めて

著者: 清水誠治 ,   大塚弘友 ,   岡村雅子 ,   磯彰格 ,   多田正大

ページ範囲:P.1343 - P.1346

要旨 27歳,女性.粘血便を主訴に来院した.注腸X線検査,大腸内視鏡検査で肛門から5cmの直腸前壁から右側壁にひだ集中と小結節状隆起の集簇が認められ,生検組織でfibromuscular obliterationがみられたことからmucosal prolapse syndromeと診断された.超音波内視鏡検査では病変部に一致して,粘膜・粘膜下層の層構造の消失,肥厚,エコーレベルの低下がみられた.また,固有筋層の限局性の肥厚および固有筋層を貫く高エコー像の存在が観察されたことから,固有筋層に及ぶ変化の存在が疑われた.

直腸の粘膜脱症候群の3例

著者: 斉藤裕輔 ,   岡村毅與志 ,   北守茂 ,   横田欽一 ,   小原剛 ,   柴田好 ,   並木正義

ページ範囲:P.1347 - P.1352

要旨 直腸の粘膜脱症候群(MPS)の潰瘍型2例,癌の併存をみた隆起型1例を報告した.潰瘍型の2例は共に排便時にstrainingの習慣があり,潰瘍性大腸炎として治療されていた.隆起型では排便習慣の異常はみられなかった.潰瘍型,隆起型いずれも病変は直腸下部前壁を中心に存在していた.EUSで潰瘍型は粘膜下層に及ぶ潰瘍エコーと粘膜下層内のmicrocystic lesionの所見を認めたが,隆起型MPSでは通常のポリープと同様の所見であった.また隆起型の例ではMPSと粘膜内癌の併存を認めた.日常診療において,常にMPSを念頭に置き,排便習慣についてよく聞きただすこと,また画像診断で病変が直腸前壁を中心に存在することが確かめられればMPSの診断に役立つと考える.

著明な隆起性変化を示した孤立性直腸潰瘍症候群の1例

著者: 小西文雄 ,   武藤徹一郎 ,   小林順弘 ,   香積京子

ページ範囲:P.1353 - P.1356

要旨 著明な隆起性変化を呈した孤立性直腸潰瘍症候群の1例を報告する.患者は24歳女性.主訴は血便,脱肛,排便困難である.注腸造影,大腸ファイバースコープ検査で下部直腸前壁中心に著明に隆起した病変を認め,腫瘍性病変が疑われた.生検組織標本で上皮に腫瘍性異型はなく粘膜固有層にfibromuscular obliterationが認められたため,孤立性直腸潰瘍症候群と診断された.出血や脱出などの症状を軽快させる目的で,病変の局所切除を施行した.本疾患において著明な隆起を呈する場合には内視鏡所見によって的確な診断を下すことは困難であり,生検組織標本の所見が正しい診断を下すうえに重要である.

今月の症例

微小癌を伴う小胃癌の1例

著者: 芦田潔 ,   鄭鳳鉉 ,   林勝吉 ,   浅田修二 ,   平田一郎 ,   大柴三郎

ページ範囲:P.1262 - P.1264

 〔患者〕58歳,男性.主訴:全身倦怠感.1978年に糖尿病を指摘されたが,食事制限および禁酒を励行できなかった.1982年に全身倦怠感,食欲不振を来し,このとき肝炎の合併を指摘された.その後もときに,多飲・多尿,全身倦怠感を覚えることはあったが,放置していた.1988年3月初旬より全身倦怠感が次第に増強するため5月に本院を受診した.糖尿病および肝硬変の診断のもとに,6月9日に入院となった.入院加療によって自覚症状は消失したが,6月21日に行われたルーチン内視鏡検査において胃前庭部前壁にわずかな粘膜集中を伴う病変がみられ,胃生検の結果,GroupVと診断された.

 〔胃X線所見〕立位充盈,腹臥位充盈ならびに背臥位二重造影において,異常は指摘できなかった.腹臥位二重造影(Fig. 1)において前庭部前壁にわずかな粘膜集中を伴う星芒状の浅い陥凹性病変が認められた.X線上,陥凹部の大きさは5×4mmであった.また,この陥凹部を取り囲むように結節状の隆起が存在した.圧迫法(Fig. 2)でも浅い陥凹性病変とそれを取り囲む結節が明瞭に描出された.

初心者講座 胃X線検査のポイント―私の検査法

11.私のルーチン撮影法(1)

著者: 加来幸生 ,   馬場保昌

ページ範囲:P.1358 - P.1359

 消化管癌の早期診断成績の向上は,内視鏡検査,特に直視下生検診断法の普及に負うところが大であるとの見方が一般的であろう.このような背景もあって通常のX線検査法の質的向上が望まれているところである.ところが,最近のルーチン検査の質はどうかと言うと,X線写真の質が著しく良くなったとは言えないのが現状である.ルーチン検査と言えども,初回検査で存在診断のみならず質的診断も可能であるようにするには精密検査の手技を積極的に導入して画質の向上を目指す必要がある.以上の観点から,ここでは最近われわれが日常行っている近接テレビ装置を用いたルーチン検査の手順を紹介することにした.

 1.X線装置

 近接カセッテレス透視撮影台(東芝DT-GCS),3相12パルスX線高電圧装置〔KXO-850(N)型〕を使用している.操作盤がスポット部に装置してあり扱いやすい.特に圧迫では複雑な操作に対応できる利点がある.

11.私のルーチン撮影法(1)

著者: 岡崎幸紀

ページ範囲:P.1360 - P.1361

 1.背景

 私の勤務する周東総合病院は,山口県東部の瀬戸内の商業を中心とする人口36,000人余の柳井市にある.診療の対象は周辺の郡部の10町を含む約10万人となる.しかし,このような環境は,御多聞にもれず,患者,被検者における65歳以上の高齢者の比率が極めて高い.

 病床数は450床,消化器医師は6名,いずれも卒後6年以上である.昨年の上部消化管X線検査数は3,500件で,このうちの約1/3が人間ドックおよび成人病予防検診であった.

11.私のルーチン撮影法(1)

著者: 牛尾恭輔

ページ範囲:P.1362 - P.1364

 ルーチン検査法は精密検査の場合と違って,病変があるか否かが不明なので,その目的はいかに病変の見逃しを防ぐかにある.そのためには検査の原則を重視して,あとは患者の体型や症状に合わせて撮影することが大切である.以下,筆者が日常の上部消化管のルーチン検査で留意していることと,ルーチン検査における撮影順序に関して述べる(Table 1).

 1.X線装置

 遠隔装置と近接装置とがあるが,私は近接のX線装置のほうが行いやすい.それは近接装置のほうが患者との意志交換が互いに行いやすいし,微妙な体位変換が可能であるからである.また,近接装置のほうがむだな動作が少なくなるため,時間的にも短くて済む.次にオーバーチューブ型とアンダーチューブ型とがあるが,後者のほうが患者の体とフィルム面とがより密着するので,写真はより鮮鋭となる.

入門講座・11

小腸X線検査の実際

著者: 八尾恒良

ページ範囲:P.1365 - P.1368

 ③その他の変形

 前回までに腸管の変形の代表として両側性変形と偏側性変形について述べた.しかし,変形には種々の程度のものがあり,変形がないから病変がないというものでもない,また,充盈像,特に経口法による充盈像では蠕動運動のために,丁度良い具合に伸展された充盈像が撮影できず病変のための変形か機械的な所見か判断ができないことがある.例えばFig. 1aでは(1)の部は明らかに両側からの彎入様所見と短い硬化像が見られ,呈示していないその他の写真と合わせて,Fig. 1b,cの病変1による変形と考えられる.しかし病変1から約2.5cm離れた短い線状陰影,病変2による所見はFig. 1aの上には指摘できない.むしろ,矢印?の部は何らかの病変のための所見と考えられるが,二重造影像の上には病変を指摘できない.恐らく矢印?部肛門側の充盈不良と機能的なものによって形作られた所見であろう.ま,Fig. 2aの経口法では,retrospectiveには棒線の部の辺縁にKerckring皺襞を認めることができず,いわゆる辺縁硬化像を示している.しかし,実際のルーチン検査ではこの所見は見逃された.現在の目でみて,もう一度このような所見に遭遇することがあっても,これを的確に拾い上げる自信はない.

早期胃癌研究会

1990年9月の例会から

著者: 斉藤利彦 ,   西俣寛人

ページ範囲:P.1328 - P.1329

 残暑の続く9月の早期胃癌研究会は斉藤(東京医科大学内科),西俣(鹿児島大学第2内科)の両名の司会で9月19日に開催された.あいにくの台風接近にもかかわらず活発な討論が行われた.

 〔第1例〕66歳,男性.食道癌(症例提供:東京医科歯科大学第1外科 河野).

学会印象記

“The British Society of Gastroenterology,Autumn Meeting,1990”に参加して

著者: 光島徹

ページ範囲:P.1282 - P.1282

 ロンドンから130kmほど離れたGreat Britain島の最南端,人口約30万人の港町SouthamptonにあるSouthampton Universityにおいて,9月26日から28日の3日間にわたって開催された,“The British Society of GastroenterologyのAutumn Meeting,1990”に出席する機会を得た.

 本学会は,年2回春と秋に行われ,わが国では消化器病学会総会に当たる学会で,約50年の歴史を誇る英国の代表的な学会の1つである.今回は英国全土から口演,ポスター合わせて314題の発表があり盛会であったが,特にわが国の消化管形態診断学の歴史においてまことに記念すべき会となった.

--------------------

欧文目次

ページ範囲:P.1261 - P.1261

書評「胆道・膵手術―血管処理と応用技術」

著者: 斎藤洋一

ページ範囲:P.1266 - P.1266

 本書は,Ⅰ.胆道外科手術の実際,Ⅱ.膵臓外科手術の実際,Ⅲ.門脈圧充進症状に対するシャント手術の実際,の3編から構成されているが,いずれもこの領域の手術に際しては脈管の処理が最重要との観点に立脚して,血管の走行と変異に触れている.しかも他の書物と異なり処理上の pitfall を1つ1つ挙げ,またその際の対処も含めて記載してあるため,ややもすれば通常は見過ごしてしまいがちなこの部分を熟読させるに十分な魅力を備えている.

 第1編では,良性胆道疾患の手術として,①胆囊摘出術,②総胆管結石症の手術,③膵管胆道合流異常の手術,④胆管狭窄に対する手術,⑤胆管損傷に対する手術などについてまず記載されているが,いずれも起こりうるpitfallおよびその対応策が細かい配慮で記されている.次いで上部胆管癌の手術に多くの頁を割いているが,著者が基本に血管外科の素養を持っておられることが遺憾なく発揮され,血管処理とその応用手技力群しく述べられている.

書評「大腸癌の構造」

著者: 丸山雅一

ページ範囲:P.1330 - P.1330

 この本の書評を時期はずれの今ごろになって書いたことにはそれなりの理由がある.1988年は私にとって心穏やかでない年だった,そのころまで,“大腸の無茎性で10mm台の隆起性病変の91%は早期癌である”という自説に修正が必要とは考えていなかった.そして,その自説は私が本書の著者である中村から受けた啓示みたいなものに支えられていたのである.

 ところが,その年,新しい資料で論文を書くべくポリペクトミー材料を整理し,肉眼形態と病理の診断をつき合わせてグラフを作成したところ,自説はほとんど崩壊の憂き目をみた.1973年から15年間のデータをインプットして作成したグラフは,無茎性で10mm台の早期癌の割合は53%と無残な数字をはじき出していた.

書評「消化器病マニュアル」

著者: 竹本忠良

ページ範囲:P.1357 - P.1357

 文化人類学の山口昌男教授の著書『気配の時代』(筑摩書房,1990)に,「飛びきり新しくやろうとしたらとてつもなく古くなるものだ」という題の短文がある.「……ロック,聞きかじりのポスト構造主義,それプラス遺伝子工学,この3つの部分から成るサイボーグ」が新人類であると同教授は言う.

 その新人類がわれわれの仲間に多くなったいま,いかにもタイプの古い日本人としての発想を文章に残すことはいささか気が滅入るのであるが,この本『消化器病マニュアル』を手にしての感想を正直に述べておこう.

海外文献紹介「Crohn病における肛門および大腸直腸周囲の瘻孔や膿瘍の内視鏡的超音波検査」

著者: 中村恒哉

ページ範囲:P.1342 - P.1342

Endosonography of peri-anal and pericolorectal fistulaand/or abscess in Crohn's disease: TL TIO, et al(Gastrointest Endosc 36: 331-336, 1990)

 経直腸的内視鏡超音波検査(ES)が臨床的に痩孔や膿瘍の疑われる36人のCrohn病患者に実施された.

 17人は外科的治療が,19人は内科的治療が実施された.ES所見で肛門直腸腔に隣接する低エコーもしくは無エコーの管腔様構造(癒孔)は,前者で15人に後者で17人,計32人に見つかった.また痩孔に隣接する,あるいは痩孔と交通した無エコーの腔(膿瘍腔)は前者で14人に,後者で15人に見つかった.膿瘍を認めない残りの患者では痩孔のみが認められた.痩孔造影は前者では5人,後者では4人に実施された.

海外文献紹介「シメチジンはランニングに起因した胃腸出血を減らす」

著者: 伊藤克昭

ページ範囲:P.1356 - P.1356

 消化管出血が持久走の際に起こることはよく知られており,その頻度はマラソン完走者の8~30%,100マイルウルトラマラソン完走者では85%と言われている.著者らは100マイルウルトラマラソンの1時間前と50マイル地点で投与されたシメチジン(1回量800mg)が消化管出血を抑制できるか否かを検討した.対象は1989年に行われたある100マイル耐久レース参加者82名のうちレース前後のアンケートと便潜血検査に協力した25名で,シメチジン投与群は9名,非投与対照群は16名であった.年齢構成,性別,トレーニング歴には有意の群間差はなかった.便潜血検査はヘモカルト法で,レースの1週間前の3回分とレース後最初の3回分の排便について施行された.

海外文献紹介「大腸病変を有するCrohn病の大腸癌発生の危険率増加」

著者: 南洋二

ページ範囲:P.1368 - P.1368

 潰瘍性大腸炎における大腸癌発生の危険率増加については以前から報告されている.一方,Crohn病と大腸癌との関連については,1960年後半までは関心が示されなかったが,最近,その関連についての関心についての関心が高まっている.

 著者らはスウェーデンのアプサラにおいて,1965年から1983年までに診断されたCrohn病患者1,655人を対象として,1984年末までにCrohn病に発生した大腸癌について検討した.12例の大腸癌が診断され,全体として2.5の危険率であり,危険率に性差はなく,経過観察期間も危険率に影響を与えなかったと報告している.また,Crohn病変の範囲が大腸癌発生のリスクに重要な要因であり,回盲部病変1.0,大腸回盲部病変3.2,大腸病変5.6の危険率を示し,診断時年齢30歳未満で大腸病変を有する群は最も高い相対危険率(20.9)を示したと報告している.

編集後記

著者: 廣田映五

ページ範囲:P.1370 - P.1370

 本号では直腸の孤立性潰瘍症候群や深在囊胞性大腸炎などとも言われている病変を“いわゆる粘膜脱症候群”として一括して掲載している.わが国では,癌と紛らわしく何か訳のわからない直腸の良性病変として扱われていた症例のうち,この範疇に入るものが相当多数あるものと推定される.

 主題の項では,比較的多数例での検討結果,その臨床ならびに病理学的な特徴的所見が豊富かつ鮮明な画像写真によって示されている.長期経過観察例では,びらん,潰瘍,治癒,隆起性増殖性病変までの経過,つまり自然史の一過程がより一層明確にされている.なかでも組織学的病期分類(血管期,低線維筋症期,高線維筋症期)がなされ,肉眼形態分類との対比がなされた論文に注目されたい.

基本情報

胃と腸

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1219

印刷版ISSN 0536-2180

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?