今月の主題 臨床経過からみた胃生検の問題点
主題
臨床経過からみた胃生検診断の問題点―陥凹性病変を中心に
著者:
吉田茂昭1
辻靖1
斉藤大三1
山口肇1
朴成和1
小黒八七郎1
廣田映五2
所属機関:
1国立がんセンター内科
2国立がんセンター病理
ページ範囲:P.959 - P.969
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要旨 胃癌経過観察例,GroupⅢ,Ⅳ病変の臨床経過を中心に,主として陥凹性病変に対する胃生検診断の問題点を検討した.胃癌経過観察例のうち,27例は経過中癌巣と同一部位から採取した生検でGroupⅡ以下と診断された.これらの生検が良性となった要因としては生検手技上の失敗も考えられたが,その大部分(22/27)を占める表層陥凹型(Ⅱc,Ⅱc類似進行癌など)では内視鏡的には潰瘍性病変,生検組織学的には再生粘膜像を示すものが多く認められ,5例では癌巣内と思われる領域から生検したことを示す内視鏡写真も得られていた.これらの成績から潰瘍性病変に共存する胃癌の生検診断には一定程度の限界が存在すると考えられた.当院でGroupⅢとした592病変のうち,Ⅱc類似のものは37病変(6%)と極めて少なかった.しかし,GroupⅢと診断した後に癌と確診した病変の頻度をみると,Ⅱc類似のものでは14%と他群(5-8%)に比し高率であり,臨床的に十分な注意が必要と思われた.また,悪性と診断された各例は組織学的に極めて分化した腺癌とみなされるものであり,これらに対する組織診断の問題点も指摘され.GroupⅣと診断した後,切除された174病変の中には,低率(8%)ながら良悪性境界領域病変や腺腫あるいは良性非腫瘍性病変なども含まれていた.また,非切除となった104病変のうち33病変(32%)は悪性と確診されたが,53病変はその後の経過観察によっても確診が得られなかった.この非確診例は内視鏡的に良性の潰瘍像とみられる症例に高かった.以上のように胃生検診断には明らかに不確実性が存在している.したがって,質的診断を全面的に生検診断に委ねることは臨床的取り扱いを誤る危険性が高い.これを克服するには肉眼所見と生検組織所見との対比,疑問例に対する積極的な経過観察が不可欠と思われた.