今月の主題 胃癌の深達度診断mとsmの鑑別―内視鏡的治療のために
主題
早期胃癌におけるm・sm鑑別診断の現状
著者:
白尾国昭1
斉藤大三1
山口肇1
城戸正開1
福田治彦1
吉田茂昭2
所属機関:
1国立がんセンター中央病院内科
2国立がんセンター東病院内科
ページ範囲:P.1175 - P.1184
文献購入ページに移動
要旨 1986年から1990年までに当院で切除された長径2cm以下の単発性早期胃癌276例のうち,術前カンファレンスにおける最終診断の内容,および術後の病理記録が残されていた250例を対象として術前深達度診断の精度を検討した.全対象例の正診率は73%(182/250)であったが,術前診断別にみると,mと診断した189例の正診率は81%であったのに対し,smと診断した54例の正診率は54%と有意に不良であった(p<0.01).また,粘膜下層を均等に3分割し,sm浸潤の先進部の深さをsm1からsm3までの3段階に亜分類すると,mと誤診した36例のsm浸潤の程度は,sm1 12例,sm2 16例,sm3 8例であり,浅いものよりむしろ中間程度から深部に及ぶもののほうが多数を占めた,肉眼型別に正診率を比較すると,Ⅲあるいはその複合型(陥凹型)で極めて不良であったが,隆起型(ⅠおよびⅡa),表面陥凹型(Ⅱc,Ⅱbおよびその複合型),表面複合型(Ⅱa+Ⅱc,Ⅱc+Ⅱa)では,術前にmと診断した場合の正診率は80~90%と比較的良好であった.また,当院にて内視鏡的切除を行った45例の術前診断をみると,mとした41例中3例(7%)に予想外のsm浸潤を認めた.術前mとした誤診例25例について見直し診断を試みたが,sm浸潤を疑えたものは7例(28%)にすぎず,また見直し診断成績とsm浸潤量には特定の関連性を指摘しえなかった.以上により,2cm以下の早期胃癌に対する深達度診断を完壁に行うことはまず不可能と結論せざるを得なかった.しかし,術前にmと診断した隆起型,表面陥凹型,表面複合型の3者については80~90%の正診率が得られており,更に,わずかではあるが見直し診断で正診率を上乗せしえたことを考え合わせれば,現状の診断成績は内視鏡治療の適応を考えるうえでは十分に信頼に足りうると評価できる.